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(7) 言語と名前と文化
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「セリヌさん、ところでなんですが、なんで私たちって言葉が通じていると思いますか?」
自分の素朴な疑問を共有してみた。
「そういえばそうですね・・・なぜでしょうか。」
「もしかすると召喚の儀式の魔法には、意思疎通の魔法の高度なものが含まれていたのではないでしょうか。」マルセルが彼なりの推測を示した。
「なるほど、たしかに私たちの世界には意思疎通の魔法があります。普通は、簡単な内容しかやりとりできませんが、召喚の儀式に使われた大規模な魔法なら、言葉の違う人たちとの意思疎通を理解できるようになる高度な意思疎通魔法が付与されていたとしても、不思議ではありませんね。」
(なにそれ、超高度な同時通訳のAIが頭に入ってるみたい。)と、現代日本人っぽい解釈をしてみた。
「この世界の文字も読めるようになっているのかな・・・。」と私は小声でつぶやいた。
そしたらマルセルが、「ではこちらに本がございます。」と応接間の机の上にあった本を私に手渡した。
表紙を見ると、そこには「ミク王国法律全書」と書いてあった。というか読めてしまった。
そして、中身をぱらぱらとめくってみると、各法律についての定義が書いてあった。
「すごい、読めます。これはミク王国の法律に関する本ですよね?」とマルセルに聞くと、彼は「左様でございます。」と返答した。
「すばらしいです、三奈さん!私たちの世界の文字を読めるのなら、こちらの生活に慣れるための障壁が、一つなくなりますね。書く方はどうでしょうか?」
(書くほうは実際に手を動かすから、読めるけど書けない漢字みたいなことになるのかな・・・。)
とにかく試してみようと思い、「紙とペンをもらえますか?」とお願いした。
マルセルが、机の引き出しから紙一枚とペンを出し、渡してくれた。
「それでは、三奈さんの名前を書いてみてください。」とセリヌが提案した。
私は、机に紙を置き、日本語で名前を書くかのごとく、手を動かした。
すると自然に、今までしたことのない動きができ、今まで見たことのない文字を書いていた。
「清水(きよみず)三奈・・・」と私の書く過程を横で見ていたセリヌとマルセルが同時につぶやいた。それで、私は本当にこの世界の文字で自分の名前を書いたのだということが分かった。
「そうです、清水が姓で三奈が名です。」と私は説明した。
「ちなみになのですが・・・」セリヌが急にかしこまった顔で言った。
「三奈さんは、元の世界では王族か貴族の方でしたか?」
「えっ?いやいやいや、普通の一般人ですよ!」と、突拍子もない質問に、私はびっくりした。
「そうでしたか。実はミク王国では、自分自身の名前に付け加える形で別の名前を与えられるのは、王族や貴族だけなのです。それは、王族や貴族の一員であることを表すためのものです。なので、私もマルセルも、自分以外の名前はありません。」
と、セリヌが説明してくれた。同時に、セリヌもマルセルも王族や貴族ではないことが、セリヌの発言から分かった。
「なるほど、だから私が王族か貴族かなんて質問したんですね。私のいた国では名と姓両方持つのが一般的なんです。」
文化の違いとはこういうことかと、一つ身をもって体験した気がした。
「ちなみに、そうなると結構同じ名前の人が多そうですが、どうやって区別しているんですか?」と私は日本人の観点から素朴な疑問を口にした。
「そうですね、たいていは文脈で分かるのと、より明確にしたければ、その人の職業とか住んでいる地域に言及したりしますね。たとえば、マルセルだったら、宮廷魔導士のマルセル、といったように。」とセリヌが説明してくれた。
(なるほど、たしかにそれで事足りるのかも。)と私は納得した。
「それにしても、読み書き両方できるなんて、もう言葉の問題は解決ですね。」とセリヌが嬉しそうに言った。
たしかに読み書きができるとなれば、生活になじむうえでも、かなり楽になると私は思った。
「それでは三奈さん、このまま話を続けてもよいのですが、もし疲れているのなら、まずは客室に案内しますよ。」
セリヌの提案はありがたかった。いろいろと新しいことが目まぐるしく起こった気分で、正直すこし落ち着きたかったからだ。
「そうですね、じゃあお願いします。」と私は答えた。
「マルセルは、カリーナに三奈さんの身の回りのお手伝いをするよう、お願いしておいてくれますか?」
「承知いたしました。」そう答えると、マルセルは応接間を出た。
(カリーナさんというのは、お手伝いさんかな?なんか王宮っぽい。)と思っていると、セリヌが立ち上がって、「それでは三奈さん、いきましょうか。」と言った。
「はい」と返事をして、私も立ち上がり、セリヌと共に部屋を出た。
(そういえば、しばらく手洗ってないな・・・いろいろなものに触ったし、そろそろ手洗いたいな・・・。)
ひと段落したところで、私のOCDが久しぶりに顔を出した気がした。
自分の素朴な疑問を共有してみた。
「そういえばそうですね・・・なぜでしょうか。」
「もしかすると召喚の儀式の魔法には、意思疎通の魔法の高度なものが含まれていたのではないでしょうか。」マルセルが彼なりの推測を示した。
「なるほど、たしかに私たちの世界には意思疎通の魔法があります。普通は、簡単な内容しかやりとりできませんが、召喚の儀式に使われた大規模な魔法なら、言葉の違う人たちとの意思疎通を理解できるようになる高度な意思疎通魔法が付与されていたとしても、不思議ではありませんね。」
(なにそれ、超高度な同時通訳のAIが頭に入ってるみたい。)と、現代日本人っぽい解釈をしてみた。
「この世界の文字も読めるようになっているのかな・・・。」と私は小声でつぶやいた。
そしたらマルセルが、「ではこちらに本がございます。」と応接間の机の上にあった本を私に手渡した。
表紙を見ると、そこには「ミク王国法律全書」と書いてあった。というか読めてしまった。
そして、中身をぱらぱらとめくってみると、各法律についての定義が書いてあった。
「すごい、読めます。これはミク王国の法律に関する本ですよね?」とマルセルに聞くと、彼は「左様でございます。」と返答した。
「すばらしいです、三奈さん!私たちの世界の文字を読めるのなら、こちらの生活に慣れるための障壁が、一つなくなりますね。書く方はどうでしょうか?」
(書くほうは実際に手を動かすから、読めるけど書けない漢字みたいなことになるのかな・・・。)
とにかく試してみようと思い、「紙とペンをもらえますか?」とお願いした。
マルセルが、机の引き出しから紙一枚とペンを出し、渡してくれた。
「それでは、三奈さんの名前を書いてみてください。」とセリヌが提案した。
私は、机に紙を置き、日本語で名前を書くかのごとく、手を動かした。
すると自然に、今までしたことのない動きができ、今まで見たことのない文字を書いていた。
「清水(きよみず)三奈・・・」と私の書く過程を横で見ていたセリヌとマルセルが同時につぶやいた。それで、私は本当にこの世界の文字で自分の名前を書いたのだということが分かった。
「そうです、清水が姓で三奈が名です。」と私は説明した。
「ちなみになのですが・・・」セリヌが急にかしこまった顔で言った。
「三奈さんは、元の世界では王族か貴族の方でしたか?」
「えっ?いやいやいや、普通の一般人ですよ!」と、突拍子もない質問に、私はびっくりした。
「そうでしたか。実はミク王国では、自分自身の名前に付け加える形で別の名前を与えられるのは、王族や貴族だけなのです。それは、王族や貴族の一員であることを表すためのものです。なので、私もマルセルも、自分以外の名前はありません。」
と、セリヌが説明してくれた。同時に、セリヌもマルセルも王族や貴族ではないことが、セリヌの発言から分かった。
「なるほど、だから私が王族か貴族かなんて質問したんですね。私のいた国では名と姓両方持つのが一般的なんです。」
文化の違いとはこういうことかと、一つ身をもって体験した気がした。
「ちなみに、そうなると結構同じ名前の人が多そうですが、どうやって区別しているんですか?」と私は日本人の観点から素朴な疑問を口にした。
「そうですね、たいていは文脈で分かるのと、より明確にしたければ、その人の職業とか住んでいる地域に言及したりしますね。たとえば、マルセルだったら、宮廷魔導士のマルセル、といったように。」とセリヌが説明してくれた。
(なるほど、たしかにそれで事足りるのかも。)と私は納得した。
「それにしても、読み書き両方できるなんて、もう言葉の問題は解決ですね。」とセリヌが嬉しそうに言った。
たしかに読み書きができるとなれば、生活になじむうえでも、かなり楽になると私は思った。
「それでは三奈さん、このまま話を続けてもよいのですが、もし疲れているのなら、まずは客室に案内しますよ。」
セリヌの提案はありがたかった。いろいろと新しいことが目まぐるしく起こった気分で、正直すこし落ち着きたかったからだ。
「そうですね、じゃあお願いします。」と私は答えた。
「マルセルは、カリーナに三奈さんの身の回りのお手伝いをするよう、お願いしておいてくれますか?」
「承知いたしました。」そう答えると、マルセルは応接間を出た。
(カリーナさんというのは、お手伝いさんかな?なんか王宮っぽい。)と思っていると、セリヌが立ち上がって、「それでは三奈さん、いきましょうか。」と言った。
「はい」と返事をして、私も立ち上がり、セリヌと共に部屋を出た。
(そういえば、しばらく手洗ってないな・・・いろいろなものに触ったし、そろそろ手洗いたいな・・・。)
ひと段落したところで、私のOCDが久しぶりに顔を出した気がした。
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