百万の契約

青いピアノ

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第3章 契約と運命

第124話 ステファニーの合流

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機構本部の古広場は、穏やかでありながら威厳を湛えた佇まいを見せていた。滑らかに磨かれた石畳は幾何学模様を描きながら広がり、広場の中央では白大理石の噴水が優雅な水音を奏でている。その周囲を囲むようにして、満開の薄桃色の花を湛えた古木が整然と並び、曇り空の柔らかな光に照らされて花弁がひらひらと舞っていた。広場の四隅には精緻な彫刻が施された石柱が堂々と聳え、長き歴史の重みを語りかけてくる。遠くからは契約管理官や執行官たちの穏やかな笑い声が聞こえ、風がそよぐたびに花の香りが微かに漂い、広場を詩情と静謐《せいひつ》に満ちた空間へと変えていた。

椿、綾香、百合、レイチェル、真弓は、噴水の近くの石畳に集まっていた。レイチェルは白金の髪を指先でかき上げ、柔らかな笑みとともに皆に視線を向ける。

「これからしばらく、基地調査任務に入るわね」

綾香は晴れやかな表情で答える。

「基地かー、次はどこの街かな?」

百合は淡い茶色のロングヘアを指に絡めながら、軽やかな笑みを浮かべる。

「ロコさんたちはもう出発したみたいね。向こうは船で行ったみたいだよ」

椿は小さく首をかしげ、真弓に声をかけた。

「そういえば…真弓、ナナはどうしたの?」

真弓は顔を上げ、のんびりとした調子で応える。

「うん、ナナはねー……」

その言葉が終わる前に、広場の空気が突如として引き締まった。石畳の向こうから規律正しい足音が響き、二十人ほどの集団が姿を現す。黒のコートの下に、濃紺の詰襟の服は銀の装飾をまとい、腰にはそれぞれ異なる意匠のレイピア。白い仮面をつけた彼女たちの出現は、広場の穏やかさに緊張感をもたらした。

「へー……かっこいい……」

綾香が思わず呟く。レイチェルは小さく頷き、椿たちに耳打ちする。

「クリスティーナ総監補佐の直属部隊。契約執行官の長官候補たちよ」

椿は興味本意で視線を向けながらも、どこか警戒の色を隠さない。レイチェルは表情を変えず、静かに様子を見守っていた。

その集団の中から、一人前に進み出る。白い仮面を外した瞬間、周囲に微かなざわめきが広がった。整った顔立ちと、曇り空の下で鋭く輝く青白い瞳。黒のショートボブが風に揺れ、凛とした気品を纏っている。

「皆さま、初めまして。これよりあなた方のチームに加わることになりました、ステファニー・ハイアットと申します。よろしくお願いします」

その名を聞いて、椿の眉がわずかに動く。綾香は目を丸くし、百合は小さく口笛を吹く。レイチェルは静かに頷き、微笑を浮かべながら応じた。

「ステファニーさん、よろしくお願いしますわ」

ステファニーがクリスティーナ総監補佐の長女であると知れ渡った瞬間、広場の空気はさらに重みを帯びた。椿はステファニーの視線を受け止め、居心地悪そうにコートの襟を直す。

窓のない会議室は、相変わらず無機質な空間だった。そこへ、エレナ総監補佐の静かな声が空気を満たす。

「ナナの代わりに、ステファニーがチームに加わることになった。ナナは本部に残ってアラナのサポートに回ることを望んだ」

その口調は簡潔で、感情の抑制されたものだった。椿は肘を机につき、視線を落としている。綾香は隣でそわそわと落ち着かない様子を見せる。百合はそっと椿の耳元で囁いた。

「……とはいえ、椿。これ、上からの監視目的じゃない?」

椿は小さく苦笑し、黙って頷いた。ステファニーは部屋の隅に立ち、椿をじっと見つめている。その青白い瞳は、彼の内面を探ろうとするように深く静かだった。

エレナが淡々と続ける。

「任務は、朝霧郷の二つの基地を調査すること。現在行方不明となっている契約管理官四十三名、契約調停官二十七名の所在を確認し、機構職員が奴隷化されないように監視監督せよ」

ステファニーは静かに、一言だけ口を開いた。

「よろしくお願いします」

その声は澄んでいたが、どこか距離感のある響きを帯びていた。

会議が終わり、人々が部屋を出ていく中、エレナが椿を呼び止めた。

「椿、少しだけ」

椿が振り返ると、エレナは珍しく柔らかな表情を浮かべていた。

「今回の件……すまなかった。本当は、お前の力を制限したくはなかった。でも……」

「気にしないでください」

椿は穏やかに微笑み、軽くエレナの肩に手を置く。そのやり取りを、ステファニーが遠くから静かに見つめていた。

夕暮れが近づく頃、椿と綾香は部屋で荷物を整理していた。窓から射し込む曇天の光が、二人の輪郭を優しく照らしていた。

「綾香」

綾香は茶色いリュックを床に置き、振り返って椿に笑顔を向ける。

「また朝霧か、こんなに早く戻れるとはねー」

「本当だね!でもなんかすごく久しぶりな感じ!…あ……ねえ、ところで、私がいない間にいろいろあったみたいだね」

椿は苦笑しながら、言った。

「うん、でもまあ、これも運命なのかもね」

すると、綾香はほんのり頬を染めながら、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

「ねえ、椿。私、いつでもなんでも協力するからね」

椿は一瞬、言葉に詰まり、照れ隠しにコートの裾を指で弄ぶ。

「うん、ありがとう。綾香」

曇り空の下、二人の静かな会話が交わされる。新たな任務、新たな仲間、そして見えない監視の気配。それらすべてが未来に影を落としながらも、どこか確かな温もりを灯していた。
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