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第1章 契約と秩序
第5話 綾香を狙う者達
茂みから飛び出した三つの影が、土煙を巻き上げて小屋前の空気を一瞬で支配した。
風が唸り、殺意が渦巻く中、椿は魔法の杖を握り潰さんばかりに力を込める。
先頭の大柄な男は、肩幅が椿の二倍はある巨漢で、両手に持つ鎖鎌が地面を抉りながら不気味に揺れていた。
後ろに控えるくノ一は、全身忍び装束で身を隠し、綾香を睨む瞳に深い怨念のようなものが宿っていた。
そしてくノ一の横、細身で猫背の初老の男は、薄笑いを浮かべながら短剣を弄ぶように指先で回していた。
三人とも、異様な気配を纏っていた。
「見つけたぞ、大火観綾香!」
大柄な男が野太い声で吠え、鎖鎌を振り回して地面を叩く。
ドス黒い目が綾香の身体を上から下へと舐めるように見つめ、ニヤリと笑う。
「良い身体してやがるな、小娘が。契約なんて後回しだ。お前を捕まえて、まずはたっぷり遊んでやるか!」
その言葉に合わせ、鎖鎌が唸りを上げて綾香へと襲いかかった。
「綾香さん、さ、下がって!」
椿が叫び、杖を構えて前に出る。その声は少し震えていた。
魔障壁を出し、鎖鎌を弾いた。
「お前ら、綾香さんを狙ってるのか…」
くノ一が嘲るような声で遮る。
「黙れ、ガキ。なんなんだよ、テメェは!お前に用はない!失せろ!あの裏切り者一族に私は直接ケリをつけに来たんだよ!」
綾香に向けたその視線は、まるで過去の亡魂が宿ったかのように燃えていた。
「屋毒の手先か?何のために彼女を狙う?」
椿は魔障壁を出したまま恐怖を払拭するかのように大声で聞いた。
初老の男がケタケタと笑いながら口を開く。
「おやおや、可愛い小娘を捕まえるなんて、楽しい仕事だねぇ。…誰かに頼まれただけさ、俺たちは。まぁ、報酬よりこっちの方が面白そうだがな!」
この人も綾香の大きな胸の膨らみを舐めるように見てニヤリと笑った。短剣を宙に放り、キャッチする動きが軽やかだった。
綾香はクナイを握り直し、椿の横に立って無言で構える。その瞳に宿るのは、冷たい決意と――ほんの一瞬、戸惑いのようなものだった。
「誰なんだ、お前ら」と椿は再び三人組に聞いたものの、返事はない。
代わりに、大男が鎖鎌を振り回し、綾香を捕らえようと再び突進してきた。
「喋ってる暇はねぇ!」
大男の鎖鎌が風を切り、綾香の足元を狙う。彼女は跳躍してそれをかわし、間髪入れず初老の男へと向かう。
一閃――クナイが影のように閃き、初老の男の喉を切り裂く。
初老の男の笑顔が凍りつき、短剣が地面に落ちる前に鮮血が噴き出し、「グッ!」と喚いて細い体が崩れ落ちた。あまりに速く、あまりに鮮烈な一撃に、椿は息を呑む。
「てめぇ、小娘!」
大男が怒号を上げると、椿は魔法の杖を自分の身体の前に出し、目を閉じた。
魔法の準備だと悟ると大男は標的を椿に切り替える。
鎖鎌が地面を削り、猛烈な勢いで迫る。
「お前もついでに潰してやる!奴隷としての価値くらいあるだろうな!」
椿は咄嗟に呪文を叫んだ。
「光の精霊よ、妨害せよ!」
杖先から青白い光が放たれ、目のくらんだ男の鎌の軌道が逸れた。
大男が舌打ちし、次の攻撃を繰り出す前に、椿は距離を詰めた。
「動きがデカすぎるんだよ!」とつぶやいて杖を振り下ろす。
炎を纏った杖が大男の首に直撃すると、焼け焦げる臭いが広がった。
その瞬間、顔を覆い隠したくノ一が動く。手裏剣が雨のように降り注ぎ、綾香へと襲いかかる。
「お前の一族が私から全てを奪った!この恨み、今はらしてやる!」
怨嗟の叫びに、綾香はクナイで手裏剣を弾きながら応じる。
『何のこと…!?』
二人の刃が火花を散らし、二人の術がぶつかり合うたび、金属音が大きく鳴り響いた。
背後で、おばあ様が呟いた。
「綾香……気をつけな」
その声は戦いの喧騒に消え、椿と綾香はそれぞれの敵と対峙していた。
戦場の空気がさらに熱を帯び、血と焦げた臭いが混じり合う中、くノ一の声が鋭く響き渡った。
「大火観一族――お前らこそが全ての忍びの敵だ!」
手裏剣を構えたまま、彼女の瞳は憎悪で燃え上がり、綾香を睨みつける。
「お前たちが、私の仲間を、私の家族を奪った!」
綾香はクナイを握り直し、一瞬だけ眉を寄せる。
「何のことだか分からない」
と低く返すが、その声には微かな動揺が混じる。
綾香とくノ一の戦いは激しさを増し、クナイと刀が火花を散らす。綾香の素早い動きにくノ一が翻弄されながらも、彼女は刀を振り回し、手裏剣を放ち、執拗に攻め立てる。
「遅い!」
綾香がくノ一の刀を弾き、距離を詰めようとするが、くノ一も負けじと忍術で幻影を展開し、綾香を惑わす。二人の戦いは膠着し、長引くにつれてくノ一の苛立ちが募っていく。
「ちっ!なんなんだこいつは…!ガキじゃねぇのかよ…!」
綾香の戦い方、戦闘力は並外れていた。
くノ一が舌打ちし、苛立ちを爆発させるように視線を泳がせた。
そして、おばあ様に目を留める。
「なら、こいつからだ!」
一瞬の隙を突き、手首を翻して手裏剣を投げる。鋭い金属が風を切り、おばあ様の胸を貫くと、彼女が膝をつく。鮮血が地面に滴り落ち、静かな山の空気を汚す。
「おばあ様!」
綾香が叫び、戦いを放棄して駆け寄ろうとする。その瞬間、くノ一がニヤリと笑い、懐から取り出した小さな爆弾を小屋へと投げつけた。轟音とともに炎が上がり、木々が砕け散り、小屋が一瞬にして崩壊する。綾香の背後で爆風が吹き荒れ、彼女の髪が激しく揺れた。
「くはははは!おいおい!あんまりいじめてやるなよ!」
大男は一連の出来事を見て大声で笑った。
「てめぇら!」
椿の怒りが爆発する。
「誰だか知らねえが、ガキよ、お前もくたばってろ!」
大男が鎖鎌を振り回し、再び椿に襲いかかってくるが、椿の我慢は限界を超えていた。
左手で杖を高く掲げ、右手を開いて前に出しながら叫んだ。
「蒼き光!」
手のひらから眩い青白い光線が放たれた。
「なに!?」
光に飲み込まれた大男は地面に崩れ落ちると、動かなくなった。蒼白い炎が大男の身体にまとわりついていた。焼け焦げた臭いと静寂が戦場に広がった。
綾香は爆発の衝撃から立ち上がり、おばあ様に駆け寄る。
「おばあ様、しっかりして!」
血に濡れた祖母の手を握り、声を震わせる。
おばあ様はかすかに微笑み、「綾香……気をつけな」と呟くが、その声は弱々しかった。
「貴様ぁ!」
くノ一が綾香に襲い掛かるが、綾香の怒りは頂点に達していた。綾香は立ち上がり、手にしていたクナイを全身を使って、勢いよく、くノ一へと投げつけた。
クナイはくノ一の左太ももに深く刺さる。
クナイを投げた瞬間、綾香は誰の目にも止まらぬ速さで動いていた。
くノ一が刀を天に向けたその時だった。綾香の両手が、くノ一の胸に掌底を叩き込む。それは投げたクナイがちょうどくノ一の太ももに刺さったのと同じ時だった。
「頭狼《とうろう》」
綾香が呟いた。
「ガハッ!」と息を吐いたくノ一は、後方数メートルほど飛ばされて、倒れ込んだ。
戦場に静寂が戻り、椿と綾香は息を切らして立ち尽くす。
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