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第2章 契約と誓約
第42話 バロー港の動向
バロー港の夜は、潮風とランプの揺らめきが交錯する。リアムの家は港を見下ろす丘にあり、木造の窓から穏やかな灯りが漏れていた。室内では、契約調停官のリアムが椿たちを迎え入れ、堅い口調で話を進めている。
「屋毒の件は話としては聞いている。でも正式な任務契約としてはまだ来ていない。まあ、バロー港は機構に近いから、屋毒に限らず常に目を光らせてるけどな。港の役人も陽気な市民と違って常にピリピリしてる。この平和な港を利用しようとする悪どい奴らを入れないようにとな」
リアムは金色のポニーテールを揺らし、男勝りな笑みを浮かべる。30歳の彼女は、まるで嵐を切り裂く船の舵取りのような雰囲気で港町によく似合う女性だ。そんな彼女があれほど繊細な治療魔法を使うのだから、ギャップに驚く。
「週に一度は執行官が見回りに来るほどさ。港と機構の契約でね。問題が起きないよう、私らが駐在してるってわけ。屋毒の件はわかったけど、あんたらもここで目立って問題起こさないでくれよな」
椿はソファに座り、膝の上で手を組みながら聞いている。時計を気にする彼は、仲間が無事に朝霧郷に着けるか、頭の片隅で考えていた。
「僕たち、目立たないように動きますよ」
「目立たないって、椿くんは言うけどさ、綾香ちゃんは目立ってるよ」
ゾーイはすかさずツッコミを入れた。
綾香がテーブルに肘をつき、口を挟む。
「悪いけど、忍び装束、脱がないよ…。 やっぱりこれが私の着るべき服だと思うの」
彼女のポニーテールが揺れる。忍びとしての誇りが、彼女の強気な瞳に宿っている。
「でもさ、忍び狩りの連中はこの辺でも見かけるよ。気をつけなよ、綾香ちゃん」
ゾーイが紅茶を運びながら、軽やかな口調で言う。彼女の声はまるで春の風船のようだ。
レイチェルは窓辺に立ち、静かに港の灯りを眺めている。
「いずれにしろ、そろそろここを出ますので。情報提供感謝します」
凛々しく落ち着いた彼女は美しくもかっこよくもあった。
だが、紅茶のトレイを置くときに少しだけコップを傾けてしまい、お茶がこぼれると「あ……」と小さくつぶやいた。ドジな一面が垣間見えた。
「まぁ、夜だし、泊まっていってもいいよ?」
リアムが提案するが、椿は首を振る。
「ありがとうございます、リアムさん。でも、朝霧郷に急ぐんで」
レイチェルも静かに頷く。
「では、準備をいたしましょう」
夜のバロー港を出発する椿たちを、ケンタウロスの馬車が待っていた。ランプが馬車の側面で揺れ、闇を優しく照らす。二体のケンタウロスが堂々とした声で言う。
「道中、朝霧郷の手前までは危険はない。だが、念には念だ、!警戒を怠らないように気をつけなさい。我々も気をつける」
「ありがとう」と椿が礼を言うと、綾香が馬車に飛び乗り、「よし、行こう!」と声を上げる。レイチェルは少し遅れて乗り込み、座る際にスカートの裾を整える。
馬車が動き出すと、港の喧騒が遠ざかり、夜の静寂が広がる。ケンタウロスの蹄の音がリズミカルに響き、あっという間に港の光が見えなくなった。
椿は窓から外を眺める。かつて霜雪町から霧ノ都へ向かった時とは違う景色だ。貧しいながらも生活の息吹を感じる村々が、月明かりの下に点在している。
「なんか……変な感じ」
綾香がぽつりと呟く。
「霜雪町から霧ノ都の道は、荒廃していたのに…。こっちはそうでもないんだね…。ところどころ廃村みたいなところはあるけど」
レイチェルは彼女を気遣うように微笑む。
「そうね。でも、こういう場所を守るために、私たちは頑張ってるんだよね」
「……そう…ですね」
綾香が静かに答えた。
綾香は何かを言いたそうな様子で口を開いたが、しばらく考えた後、そっと閉じた。椿は何を言いかけたのか、綾香に問うことを考えたが、やめた。
ケンタウロスの馬車は三日間走り続け、椿たちは朝霧郷へ向かう。夜の闇と戦争の影を背に、椿の微かな不安が小さなランプのように揺れていた。
「屋毒の件は話としては聞いている。でも正式な任務契約としてはまだ来ていない。まあ、バロー港は機構に近いから、屋毒に限らず常に目を光らせてるけどな。港の役人も陽気な市民と違って常にピリピリしてる。この平和な港を利用しようとする悪どい奴らを入れないようにとな」
リアムは金色のポニーテールを揺らし、男勝りな笑みを浮かべる。30歳の彼女は、まるで嵐を切り裂く船の舵取りのような雰囲気で港町によく似合う女性だ。そんな彼女があれほど繊細な治療魔法を使うのだから、ギャップに驚く。
「週に一度は執行官が見回りに来るほどさ。港と機構の契約でね。問題が起きないよう、私らが駐在してるってわけ。屋毒の件はわかったけど、あんたらもここで目立って問題起こさないでくれよな」
椿はソファに座り、膝の上で手を組みながら聞いている。時計を気にする彼は、仲間が無事に朝霧郷に着けるか、頭の片隅で考えていた。
「僕たち、目立たないように動きますよ」
「目立たないって、椿くんは言うけどさ、綾香ちゃんは目立ってるよ」
ゾーイはすかさずツッコミを入れた。
綾香がテーブルに肘をつき、口を挟む。
「悪いけど、忍び装束、脱がないよ…。 やっぱりこれが私の着るべき服だと思うの」
彼女のポニーテールが揺れる。忍びとしての誇りが、彼女の強気な瞳に宿っている。
「でもさ、忍び狩りの連中はこの辺でも見かけるよ。気をつけなよ、綾香ちゃん」
ゾーイが紅茶を運びながら、軽やかな口調で言う。彼女の声はまるで春の風船のようだ。
レイチェルは窓辺に立ち、静かに港の灯りを眺めている。
「いずれにしろ、そろそろここを出ますので。情報提供感謝します」
凛々しく落ち着いた彼女は美しくもかっこよくもあった。
だが、紅茶のトレイを置くときに少しだけコップを傾けてしまい、お茶がこぼれると「あ……」と小さくつぶやいた。ドジな一面が垣間見えた。
「まぁ、夜だし、泊まっていってもいいよ?」
リアムが提案するが、椿は首を振る。
「ありがとうございます、リアムさん。でも、朝霧郷に急ぐんで」
レイチェルも静かに頷く。
「では、準備をいたしましょう」
夜のバロー港を出発する椿たちを、ケンタウロスの馬車が待っていた。ランプが馬車の側面で揺れ、闇を優しく照らす。二体のケンタウロスが堂々とした声で言う。
「道中、朝霧郷の手前までは危険はない。だが、念には念だ、!警戒を怠らないように気をつけなさい。我々も気をつける」
「ありがとう」と椿が礼を言うと、綾香が馬車に飛び乗り、「よし、行こう!」と声を上げる。レイチェルは少し遅れて乗り込み、座る際にスカートの裾を整える。
馬車が動き出すと、港の喧騒が遠ざかり、夜の静寂が広がる。ケンタウロスの蹄の音がリズミカルに響き、あっという間に港の光が見えなくなった。
椿は窓から外を眺める。かつて霜雪町から霧ノ都へ向かった時とは違う景色だ。貧しいながらも生活の息吹を感じる村々が、月明かりの下に点在している。
「なんか……変な感じ」
綾香がぽつりと呟く。
「霜雪町から霧ノ都の道は、荒廃していたのに…。こっちはそうでもないんだね…。ところどころ廃村みたいなところはあるけど」
レイチェルは彼女を気遣うように微笑む。
「そうね。でも、こういう場所を守るために、私たちは頑張ってるんだよね」
「……そう…ですね」
綾香が静かに答えた。
綾香は何かを言いたそうな様子で口を開いたが、しばらく考えた後、そっと閉じた。椿は何を言いかけたのか、綾香に問うことを考えたが、やめた。
ケンタウロスの馬車は三日間走り続け、椿たちは朝霧郷へ向かう。夜の闇と戦争の影を背に、椿の微かな不安が小さなランプのように揺れていた。
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