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第2章 契約と誓約
第84話 涼との誓い
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刀がぶつかり合う音が涼の拠点に響き渡る。
ガキン!
綾香が割って入る。
「ふふ。私はあなたと戦う気はありません。どうか通してくれませんか?」
黒瀬が、額に汗を滲ませながらも、丁寧に、身を低くして尋ねた。
「無理ってわかってて、聞いてる?」
綾香が短刀を体の前に構えると──次の瞬間、姿が掻き消えた。黒瀬との距離を一瞬で詰め、そのまま斬りかかる。黒瀬は、かろうじて身を捻り回避する。
「マリリー殿。涼の嬢はおそらく、あなたの攻撃で瀕死。ここは置いて、次へ向かいませんか?」
「ふん。黒瀬、弱気になりやがって」
「しかし、青田が瞬殺され、忍び狩りも全滅。赤池を倒すほどの護衛も控えています。……少々、分が悪い」
「我々がここでお前らを逃すとでも思うか!甘いわ!」涼の衛兵の一人が怒声を上げる。
「逃げる気なんて、ないさ。あの女は──先の戦で最も戦績を上げた。これはな、あいつを倒すための戦なんだよ。あいつが死ぬところを、この目で見届けるまで、どこにも行かない」
「なに……!?」周囲がざわめく。
「久しぶりだな。何しにここへ来た、黒瀬!」
背後から響いた声。涼の契りの相手、もとい、契約執行官の龍之介だった。椿たちと共に、ワイバーンに乗って現れたのだ。
「これはこれは、龍之介殿。ご無事でしたか。不意を突かれ、奴隷になったと聞いていましたが……」
黒瀬は意地悪く目を細め、にやりと笑う。
龍之介は豪快に笑い返した。
「おうよ!まったく情けねぇったらありゃしねぇ!だが、若い連中に助けられてな!」とガハハと笑う。
──だが、空気が一変した。
「……ところで、話はこの衛兵から聞いた。涼を刺したんだってな、お前ら?」
龍之介から、凄まじい殺気と魔力が噴き出す。その場にいた誰もが、直感する。
死ぬ。
「全員、下がれ。俺が、二人とも斬る」
龍之介が刀を抜いた。
その間、椿と玲子は涼のいるテントへと駆ける。
「涼様!!! 涼様!!! 私です、玲子です!申し訳ございません、私がいれば……! 私がそばにいれば!!!」
魔法使いたちが必死に治療を施すなか、涼はかすかに目を開け、玲子の頬に静かに手を伸ばした。
「……よくやった。さすがだ。龍之介を解放してくれたんだろう?ありがとう。お前たちは、私の誇りだ」
玲子は涙を堪えきれず、声を震わせた。
「龍之介様は、今も必死に戦っています。涼様の仇を討つために、憎き敵を、自らので……!」
涼はかすかに微笑む。
「そうか……嬉しいなあ……」
玲子は涙を噛み殺す。少しの間を置き、涼は玲子と医療魔法使いたちに頼む。椿と二人きりにしてくれ、と。
「……すまない。僕らが、もっと早く戻っていれば」
「いい。過去のことは話すな。未来のことを話したい」
「は、はい……」椿は不安にかられながら答える。
「お前が納得していないのはわかっている。でも──どうか玲子と、体の契りを交わしてくれ。……頼む」
「え……あの、それは、もう……」戸惑いながら答えようとした椿を、涼は遮る。
「玲子は、責任感のある女だ。我に最も忠誠を誓う者だ。だからこそ、私が命じれば、あいつはどんなことでも成し遂げようとする。お前の気持ちはわかる。でも、頼む。あいつしかいないんだ、私の後を継げるのは。女の軍師は、男になめられてはならない。兵に侮られてはならない。──お前がこの朝霧を救えば、朝霧を救った男と共にある玲子は、兵の支持を得るだろう。玲子のために、朝霧のために、そして私のために──体の契りを交わしてくれ」
椿は黙り込む。
その間にも、涼はなおも言葉を重ねる。
「ここにいる間だけでいい。あいつの夫でいてやってくれ。他の女たちがお前の元へと戻ってきたなら、自由にすればいいさ。もしも嫌なら、姫君が手を打つだろう。──外の世界では、好きにしろ。あいつも、きっとそれを望む」
「でも……」椿が言いかけたとき、涼は涙を流しながら、なおも頼む。
「お願いだ……」
椿は、小さく「……わかりました」と返事をした。
そして、涼は意識を失った。
医療魔法使いたちがすぐに駆け寄ったが、生きながらえるのは難しい──誰もがそう悟った。
外では、金属のぶつかり合う音と共に、罵声が飛び交った。玲子を抱きしめ、空を見上げると、魔法陣の中、二つの影が消えていくのが見えた。
足音に気づいて目を向けると、疲れた様子の龍之介さんが立っていた。彼はすぐさま涼のもとへ駆けよった。
──しばらくして、テントの中から嬉しそうな男女の声が微かに聞こえた。空耳だったのか、本当にそうだったのか、それはわからない。
僕らはこの日、今最も失ってはならない人を失った。
ガキン!
綾香が割って入る。
「ふふ。私はあなたと戦う気はありません。どうか通してくれませんか?」
黒瀬が、額に汗を滲ませながらも、丁寧に、身を低くして尋ねた。
「無理ってわかってて、聞いてる?」
綾香が短刀を体の前に構えると──次の瞬間、姿が掻き消えた。黒瀬との距離を一瞬で詰め、そのまま斬りかかる。黒瀬は、かろうじて身を捻り回避する。
「マリリー殿。涼の嬢はおそらく、あなたの攻撃で瀕死。ここは置いて、次へ向かいませんか?」
「ふん。黒瀬、弱気になりやがって」
「しかし、青田が瞬殺され、忍び狩りも全滅。赤池を倒すほどの護衛も控えています。……少々、分が悪い」
「我々がここでお前らを逃すとでも思うか!甘いわ!」涼の衛兵の一人が怒声を上げる。
「逃げる気なんて、ないさ。あの女は──先の戦で最も戦績を上げた。これはな、あいつを倒すための戦なんだよ。あいつが死ぬところを、この目で見届けるまで、どこにも行かない」
「なに……!?」周囲がざわめく。
「久しぶりだな。何しにここへ来た、黒瀬!」
背後から響いた声。涼の契りの相手、もとい、契約執行官の龍之介だった。椿たちと共に、ワイバーンに乗って現れたのだ。
「これはこれは、龍之介殿。ご無事でしたか。不意を突かれ、奴隷になったと聞いていましたが……」
黒瀬は意地悪く目を細め、にやりと笑う。
龍之介は豪快に笑い返した。
「おうよ!まったく情けねぇったらありゃしねぇ!だが、若い連中に助けられてな!」とガハハと笑う。
──だが、空気が一変した。
「……ところで、話はこの衛兵から聞いた。涼を刺したんだってな、お前ら?」
龍之介から、凄まじい殺気と魔力が噴き出す。その場にいた誰もが、直感する。
死ぬ。
「全員、下がれ。俺が、二人とも斬る」
龍之介が刀を抜いた。
その間、椿と玲子は涼のいるテントへと駆ける。
「涼様!!! 涼様!!! 私です、玲子です!申し訳ございません、私がいれば……! 私がそばにいれば!!!」
魔法使いたちが必死に治療を施すなか、涼はかすかに目を開け、玲子の頬に静かに手を伸ばした。
「……よくやった。さすがだ。龍之介を解放してくれたんだろう?ありがとう。お前たちは、私の誇りだ」
玲子は涙を堪えきれず、声を震わせた。
「龍之介様は、今も必死に戦っています。涼様の仇を討つために、憎き敵を、自らので……!」
涼はかすかに微笑む。
「そうか……嬉しいなあ……」
玲子は涙を噛み殺す。少しの間を置き、涼は玲子と医療魔法使いたちに頼む。椿と二人きりにしてくれ、と。
「……すまない。僕らが、もっと早く戻っていれば」
「いい。過去のことは話すな。未来のことを話したい」
「は、はい……」椿は不安にかられながら答える。
「お前が納得していないのはわかっている。でも──どうか玲子と、体の契りを交わしてくれ。……頼む」
「え……あの、それは、もう……」戸惑いながら答えようとした椿を、涼は遮る。
「玲子は、責任感のある女だ。我に最も忠誠を誓う者だ。だからこそ、私が命じれば、あいつはどんなことでも成し遂げようとする。お前の気持ちはわかる。でも、頼む。あいつしかいないんだ、私の後を継げるのは。女の軍師は、男になめられてはならない。兵に侮られてはならない。──お前がこの朝霧を救えば、朝霧を救った男と共にある玲子は、兵の支持を得るだろう。玲子のために、朝霧のために、そして私のために──体の契りを交わしてくれ」
椿は黙り込む。
その間にも、涼はなおも言葉を重ねる。
「ここにいる間だけでいい。あいつの夫でいてやってくれ。他の女たちがお前の元へと戻ってきたなら、自由にすればいいさ。もしも嫌なら、姫君が手を打つだろう。──外の世界では、好きにしろ。あいつも、きっとそれを望む」
「でも……」椿が言いかけたとき、涼は涙を流しながら、なおも頼む。
「お願いだ……」
椿は、小さく「……わかりました」と返事をした。
そして、涼は意識を失った。
医療魔法使いたちがすぐに駆け寄ったが、生きながらえるのは難しい──誰もがそう悟った。
外では、金属のぶつかり合う音と共に、罵声が飛び交った。玲子を抱きしめ、空を見上げると、魔法陣の中、二つの影が消えていくのが見えた。
足音に気づいて目を向けると、疲れた様子の龍之介さんが立っていた。彼はすぐさま涼のもとへ駆けよった。
──しばらくして、テントの中から嬉しそうな男女の声が微かに聞こえた。空耳だったのか、本当にそうだったのか、それはわからない。
僕らはこの日、今最も失ってはならない人を失った。
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