百万の契約

青いピアノ

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第2章 契約と誓約

第90話 朝霧の朝日

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多くのものを失った。軍師・涼、陽霧族の三人の副族長、各地の武将たち……それだけではない。民の命も数多奪われ、暮らしを支え、守り続けてきた山々の姿も崩れ去った。失われたものの重さは、胸を締め付けるほどだ。だが、それでもなお、我々は今朝もまた、朝日を拝することができた。それは、皆の犠牲と尽力の賜物である。

朝霧郷の姫君、霧花の声が、静かなる決意とともに広場に響いた。

朝霧郷は、幸いにも敵の占領を免れ、かろうじて現状を保った。霧ノ都を完全に退けることは、もはや遠い夢に近い。敵はなお、山の彼方に拠点を構え、刀を研いでいる。

それでも、敵が置き去りにした兵器や兵士たちは、新たな用途を見出す可能性を秘めていた。いつ、どの瞬間から軍師・涼を討つことが雷雨大名の最優先となったのかは定かでない。だが、彼の本来の目的——朝霧郷の陥落——は果たされなかった。それは我々にとって、誇るべき勝利の一つである。

戦いの嵐が一時収まり、椿はリナを求めて自警団の拠点へと足を運んだ。リナは椿を見つけるや、まるで風のように飛び込み、強く抱きしめた。

「よかった……椿!本当に心配してたんだから!何日も会えなくて、胸が張り裂けそうだった!」

リナの瞳から、静かに涙がこぼれ落ち、やがてそれは抑えきれぬ嗚咽へと変わった。長きにわたり張り詰めていた心の糸が、ようやく解けたかのようだった。自警団の損失はあまりに大きく、生き残った者はわずか。リナの守る地では、彼女を含め、たった三人しか命を繋ぐことができなかった。

「そばにいられなくて、ごめん」と、僕は静かに詫びた。

一方、元敵兵であった桃森は、かつての同胞リンドウを求めて、椿と共に拠点へやってきた。リンドウを見つけた桃森は、まるで恋人に再会したかのように喜び、彼女に抱きついた。

「本当にいいの?なんか悪いことしたな。管理官さん」

「ああ、霧花姫のご厚意だ。雷雨大名に関する情報を提供してくれたら、二人とも自由の身だ」

「はぁ~、リンドウ先輩!相変わらず素敵な香りですね~!恋しかったんですから~!」

桃森はリンドウに夢中だった。彼女の腕にしがみつき、瞳はまるで星のように輝いている。

「桃森!女同士なのに、まるで恋人みたいじゃない!」

「いいじゃないですか~!久しぶりなんだから~!」

元奴隷兵たちの処遇は未だ定まっていないが、隔離施設での一時収容を経て、協力者には朝霧の民か兵として留まる道が開かれる予定だ。スパイの懸念や、異邦人との文化の軋轢を避けるため、慎重な計画が進められている。

軍師・涼の夫であり、契約執行官の龍之介は、しばらく霧花姫のもとに留まり、兵たちに戦術を指南する役目を負う。

「ガハハ!俺は涼を誇りに思う!あいつほど戦士らしい戦士は他にいねえ!……立派な女だった。最高の女だ。もう少し、そばにいてほしかったがな……」

龍之介の豪快な笑い声には、どこか寂しさが滲んでいた。おそらく、彼は涼が愛した朝霧郷を、己の力で少しでも長く守ろうと決意したのだろう。

「レイチェル、椿!上には適当に誤魔化してくれよ!ガハハ!」

ワイバーンの群れは、故郷の巣へと戻ったが、朝霧の民から感謝され、時折餌を与えられることになった。霧花姫は、ワイバーンを使い魔とする壮大な夢を抱いているが、果たしてそれは叶うのか。個人的には、難しい挑戦だと感じている。

隣の地のウ族とエ族の戦いもひと段落し、今は戦闘は落ち着いている。朝霧への侵入者は皆捕まったようだ。


そして、椿のもとに、十三人の女性たちが訪れた。かつて一夜を共にした紫音と碧音の姉妹が、朝霧郷最強の魔法使いであったとは、この時まで知る由もなかった。

「ふふ、椿の身体は、なかなかしっかりしている。なあ、妹よ?」

「ええ、姉様。彼の手は繊細で……心を震わせるわ」

二人の声は、まるで夜の霧のように柔らかく、椿の心を絡め取った。紫音の指先が椿の肩を滑り、碧音の吐息が耳元で囁く。その一瞬ごとに、身体の奥底から熱が湧き上がり、魂が共鳴するかのようだった。

渚との時は、まるで天国。彼女の肌は滑らかで、触れるたびに椿の心は白く染まり、戦の疲れが溶け去った。彼女の吐息は、まるで波が岸を撫でるようなリズムで、椿の理性を優しく揺さぶった。

「お守り、ありがとう。渚のおかげで、生きて帰れた」

「椿様……無事で、本当に良かった……」

渚の声は、まるで春の泉のように澄んでいた。彼女の瞳には、椿への深い想いが宿り、その視線だけで心が満たされた。

他の女性たちは、それぞれの思惑を胸に、椿に寄り添う。ある者は名誉を、ある者は富を、ある者はただ彼の温もりを求めて。彼女たちの微笑みは、夜の花のように妖しく咲き、椿の周りを彩った。彼女たちの指先は、まるで風が木の葉をそっと揺らすように、椿の心をくすぐり、誘う。その一瞬一瞬が、戦の荒々しさとは対極の、甘やかな夢のようだった。

そして、玲子の部屋。

「入ってもいいかな?」

「もちろん。どうしたの、椿?」

「玲子と、もっと深い絆を結びたい」

「え……?」

「もちろん、玲子が望むならだ」

「わ、私は……ずっとそのつもりだったよ。でも、なんで急に?」

「玲子と一緒に、朝霧を守りたい。僕にできることがあるなら、どんなことでもしたい」

「……わかった。じゃあ……どうすればいい?」

椿は、頬を染める玲子の手をそっと握り、彼女の唇に自分の唇を重ねた。

二人は部屋の奥へと進み、布団の上にそっと身を沈めた。月光が窓から差し込み、玲子のなめらかな肌を、まるで絹の帳のように柔らかく照らし出した。服が解かれる音は、夜の川のせせらぎのように静かで、二人を深い静寂の中へと誘った。

椿の手は、玲子の小さな胸にそっと触れた。その控えめな膨らみは、まるで朝露を湛えたつぼみのようで、触れるたびに彼女の吐息がわずかに乱れた。彼女の瞳は、星屑を宿したように輝き、椿を見つめるその視線は、彼の心を深く縛りつけた。

二人の身体が寄り添う中、椿は彼女を優しく導き、まるで夜の海が波を寄せるように、ゆっくりと身を重ねた。その瞬間、玲子の吐息は一つの奏となり、椿の動きは、まるで舞うように、彼女の心と共鳴した。それは、言葉を超えた詩そのものだった。

その夜は、まるで永遠に続く夢のように美しかった。

翌朝、朝日の光と共に目覚める玲子。

「ん……」

玲子は、隣で眠る椿を見つめ、頬を染めた。

『やば……椿、こんな近くで寝てる……!可愛い!てか、私、ついに……男の人と!?ひゃー!……ん、ちょっと、トイレ行きたいかも。起こさないように……』

そっと布団を抜け出し、立ち上がると、太ももをつたってポタポタと白い液体が滴り落ちた。

『ぎゃー!これ、もしかして椿の…!?やばい!掃除しなきゃ!!』

一人慌てる玲子の心の声は、まるで朝露に濡れた花のようだった。
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