百万の契約

青いピアノ

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第3章 契約と運命

第101話 百合の手合わせ

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「と、いうわけで!改めて、みんなのチームリーダーに任命されました、百合です。よろしくね!……とはいっても、椿さんと綾香さん以外は顔なじみだよね。
椿さん、綾香さん。もしよければ、あなたたちの実力を見せてもらえないかな?訓練所で、軽くでいいから」

「もちろんです。訓練所なら、ある程度は本気を出せますしね」

「うん、じゃあ早速行こうか」

訓練所は本部内にいくつかあり、予約不要で誰でも簡易契約さえ結べば自由に使える。室内施設では、魔力を込めることで仮想体が出現し、本物さながらに戦う仕組みになっている。
それらはすべて脳内イメージによって操作され、実際に身体を動かす必要はない。

椿は戦闘専門ではないため、百合にあっさりと敗北した。
光と風の魔法でうまく立ち回ったものの、怒りが必要な高位呪文「精霊の怒り」は発動できず、もう一つの高位呪文「蒼き光」も威力が中途半端で、百合には通じなかった。

「ありがとう、椿さん!管理官にしては、かなり強いよ!」

『真弓には劣るけど、ナナよりは上かな。精霊の怒りが出たら、真弓より火力あるかも。
はー、でもかっこいいなぁ……食べちゃいたいくらい!』

真弓とナナが、椿の戦いぶりを評価しながらも、目を輝かせていた。

「椿くん、大技はないけど棒術がうまいし、小技で相手を翻弄してたね」

「うん、私より全然戦えてた。すごいなー」

「次は綾香さんだね。沙耶香さんの妹なんだって?期待してるよ」

百合は獲物を狙うような鋭い目で綾香を見た。綾香は少し緊張した様子で、初めて触れる訓練装置の赤い球体に手を置いた。魔力を込めると、もやもやとした仮想体が現れる。

百合の仮想体が杖を構え、大きな胸がわずかに揺れた。

「来い、綾香さん!」

『彼女、椿さんのことが好きなんだろうな。でも、そうはいかないよ。椿さんは私のもの。
綾香さんに勝って、カッコいいところ見せてやるんだから』

綾香の目が本気になると、百合の視界から消えた。忍法・飛脚。最高速度で距離を詰め、掌底の構え。

「頭狼」

両の手を重ねて放つ、衝撃波を深く叩きつける掌底。綾香の奥義だ。

ブワッと風が舞う中、百合は瞬時に反応する。魔法の電気で身体能力を向上させ、綾香の飛脚並の速度で後方へ移動。綾香は奥義を外す。

「!?」

「ひゃー、危なかった。速いね…」ひたいに汗を垂らし、心臓の鼓動が早まる。油断はしていなかった。ただ、綾香が速すぎた。

百合は杖を構え、呪文を唱える。

「雷精の投げ槍」右手を大きく振りかぶり、巨大な雷の槍を投げる。

綾香は回避するも、追尾型の魔法に苦戦する。逃げられない。綾香は仕方なく、魔力膜を大きく広げてガードしながら槍をくらう。

「うう…!」バリバリという音とともに綾香が膝をつく。が、さほど効いていない。綾香は百合を見るとすかさず次の攻撃をくりだした。

「火遁・炎狼群」

七体の炎の狼。追尾し、一度食らいついた相手を離さない。大火観一族の得意忍術。その直後、百合の背後へ高速移動し、クナイで斬りかかる。

「電撃の球体、十五連」

百合はポポポと音を立てながら電気の玉を十五個、百合の背後に出す。大きなシャボン玉のように、ふわふわと浮かんでいる。綾香の攻撃を妨害するつもりだ。その間に、前方から襲いかかってくる炎の狼を対処する。

「雷撃の盾」

分厚く大きな雷の盾を出すと、狼たちが次々と電撃をくらい、消滅。

綾香は電気の玉などお構いなしに突っ込み、うまく交わしながら距離を詰め、百合に斬りかかる。百合は盾を綾香の方向へと向けると「盾よ、矛となれ」の一言とともに盾が矛へと変化、綾香を襲った。

ドドン!

「う!」

「どう?今のは効いたでしょ!?」

綾香はそのまま突っ込み、クナイで斬る。

ザン!

「かはっ…!」

クナイをそのまま百合に投げつけ、腹に刺さると回転蹴りを頬に叩き込んだ。その瞬間、その光景を見ていた椿、レイチェル、真弓、ナナが「すごい!」と驚く。

綾香の攻撃は止まらない。空中へ跳ぶと、今度は倒れ込んだ百合を目掛けて炎を吐く。

「火遁・焔吐柱蓋《おとしぶた》」

炎の柱の先を四角く厚みのある平らな炎にして、百合を叩きつける。まるで落とし蓋をされたかのように炎の圧力に苦しむ百合。

「ううっ…!」

頃合いを見て綾香は攻撃を中断。地面へと着地すると同時に百合はゆっくりと立ち上がる。

「はぁはぁ…。やるね。でも、勝つのは私」

「諦めの悪いリーダーだね」

「当たり前でしょ。リーダーなんだから。ハァ…諦めちゃダメでしょ…ハァ」

「次で決めるよ?綾香さん」
「いつでもどうぞ」

百合が杖を構えて詠唱を始める。

「穿《うが》て、一点!収束せし雷の奔流、その一点に破滅を刻め!雷槍・ガラティア!一点穿雷《いってんせんらい》」

一点を穿つ美しく綺麗な雷の槍が放たれる。それは雷精の投げ槍より細く、しかし綺麗にまとまった、雷のエネルギーが集約された槍。

ドン!と音と共に仮想の綾香の腹を貫いた。避ける余裕などなく、綾香はそのまま倒れた。

「ふー!綾香さん、強かった…!」

「…負けちゃった」

呆然と立ち尽くす綾香に、椿、レイチェル、真弓、ナナがワッ!と駆け寄った。

「すごい!綾香、すごい!」
「本当、素晴らしかったわ!」
「すごいよ!百合ちゃんをあそこまで追い込むなんて」
「綾香ちゃん、かっこよかった!」

「え…。あ、ありがとう…」と頬を赤くして照れる綾香。

「えー、勝ったの私なんだけど…」不満そうな百合だったが、小さく微笑んで、「まあ、いっか」とつぶやいた。

夜、六人はパブで厚切りポテトとベーコンを食べながらこの訓練の凄さを語り合った。

誰もが綾香を褒める中、百合は椿の横で頬を赤めて彼を眺めていた。

『まーだ、綾香さんのこと話してる。勝ったのは私なのに。ま、でも、恋愛は圧勝してやる』そう、心で彼女は呟いて、そっと左手を椿の太ももの上に置いた。
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