僕の国際恋愛記

青いピアノ

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国際デート: 変わり者ロシア人

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アフリカで駐在していた頃、リフレッシュ休暇でスペインへ行けることになった。スペインには以前から気になっていた女友達がいて、会う約束をしていたのだが、彼女が忙しく、結局一日だけ顔を合わせることになった。それでもせっかくの旅行だから、残りの日は自分なりに楽しもうと思った。

そこで試してみたのが、友達作りのアプリだった。アフリカでは比較的よくマッチするが、欧米では反応が少ない。イギリスやアメリカではほとんど成果がなかったが、スペインでは意外にも多くの返事があり、スペイン人やコロンビア人、ロシアからの旅行者などと何人かやり取りをすることができた。

最初に会ったのはロシア人のナタリーだった。プロフィールに年齢は記載されていなかったが、写真を見る限りでは落ち着いた印象で、やや年上に見えた。小柄な人が好みの僕にはちょうどよく、華やかな美人というよりは、親しみやすい笑顔が似合う女性だった。メッセージでのやり取りが一番弾んだこともあり、観光客同士気軽に会うことにした。

二日目の夜、広場で待ち合わせた。観光が早く終わったので少し早めに到着し、花火で遊んでいる人々を眺めていた。ナタリーを見つけて声をかけたが、彼女は花火には興味を示さず、すぐに広場を後にした。三十歳前後だろうか、写真よりも落ち着いた雰囲気で、背は僕よりやや低い。メッセージでは流暢に見えた英語も、実際には単語を並べる程度で、翻訳アプリを頼りにしているようだった。それでも自己紹介を交わし、旅の話をするには十分だった。ナタリーは一人でヨーロッパ各地を巡っているところだという。彼女は聞き役に回ることが多く、僕が質問を重ねて会話をつないだ。

ひとつ妙な質問をされた。「ホテルに泊まっているの?」「ええ、ホテルに」「私はアパートに」――それだけのやり取りだったが、意図を測りかねた。とはいえ、その日は無難に会話を終えて別れた。

翌日、ナタリーから昼食の誘いが届いた。旅行中は一人で食事をすることが多い僕にとって、それはありがたい申し出だった。観光客向けのパエリア店に入ると、彼女は急に立ち上がり、「シェフがロシア人よ」と声を上げて、ロシア語で話しかけ始めた。抑えていた感情が一気にあふれ出したようで、陽気に笑う姿に驚かされた。普段は静かな彼女が、母語ではこんなに活発になるのかと感心した。その後は再び落ち着きを取り戻し、街を歩いて解散した。

その夜も食事に誘われたが、別の予定があり断った。翌日も昼に誘われたが都合が合わず、夜に会うことにした。軽く食事をした後、ナタリーが珍しく饒舌になり、話しながら歩き出した。僕もついていくと、観光地から外れた場所に出て、不安を覚えたが、彼女を一人にするのも心配でそのまま同行した。

やがてナタリーは一つの建物の前で立ち止まり、「ここが私のアパート」と微笑んだ。リノベーションされたであろう、お洒落な建物だった。

なぜここに連れてこられたのかわからずにいたものの、おそらくこれ以上会うことはないと僕は思った。なにしろ、話は続かないし、あまり好みでもなかった。

彼女とは、とりあえず記念にと一緒に写真を撮り、「おやすみ」とだけ言って別れた。その唐突さに戸惑ったが、不思議と印象に残る出来事になった。

最終日の夜、ナタリーから再び連絡があった。最後の晩は一人で過ごすよりも誰かと食事したいと思い、迷いつつも会うことにした。すると「私のアパートで手料理を食べない?」と誘われた。ロシアの家庭料理に興味を覚え、デザート用のケーキを買って訪ねた。

食卓にはサラダやスープなど、想像以上に本格的な料理が並んでいた。ナタリーの手際に感心しながら、楽しく食事をした。彼女は終始にこやかに僕を見つめ、その笑顔に少し照れを感じた。帰るつもりで時計を見れば、もう深夜に近い。帰路の治安を案じていると、彼女は「朝になってから帰ればいい」と言った。その提案に従い、僕らは旅行や故郷の話を続けた。

あるところで、彼女は僕に顔を近づけてきた。僕はこれはヤラないとダメか、と思い。口付けをした。

コンドームなんてお互い持っていなかったから、生でやることになった。

彼女は「大きすぎない?」と揶揄うようにして笑いながら、二回ほど求めてきた。

朝になりホテルへ戻る途中、初日に交わした「ホテル? アパート?」というやり取りを思い出した。あれは、彼女なりに「どこで会いたいのか」を探る問いかけだったのかもしれない。

その後、ナタリーとはしばらく連絡を取り合い、ビデオ通話でロシア語を教わったりもした。しかし僕の上達は遅く、やがて会話も途切れがちになった。英語もロシア語も中途半端では、深い関係を築くのは難しかったのだろう。

それでもナタリーとの日々は、スペイン滞在の中で特別な思い出として残っている。旅先での偶然の出会いは、駐在生活に新鮮な刺激をもたらしてくれたのだった。
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