世界の終焉

ぴんくじん

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「ねぇ今日も人間さんのお話聞かせてよ」

アーモンドの様なきれいな瞳の女の子が、髪を後ろで一つに束ねている赤い大きなリボンをピョンピョン跳ねさせながら近づいてくる。

「わかったよ。今日も人間の面白い話を聞かせてやろう」

木々に覆われた森の中で、世間の忘れ物の様に地べたに胡座をかいているアーモンドの様な固そうな瞳の老人が、コホンと一つ咳払いをして話始めた。


「いつからだろうか?

人間が空を飛ばなくなったのは。

大昔の人間は、立派な翼を広げて空を舞っていた。

本気で無邪気に太陽まで飛んでやろうと思っていたんだ。

もう少しだった。もう少し、眩しい、もう少し。

世界の始まりの様な神々しさで太陽が人間を心待ちにしている。もう少し。

だけどもね、人間は太陽に背を向けてしまった。

なぜかって?

怖くなったんだよ。想像を超える未知なモノを目の前にしてね。

人間は、この感情を理解できなかった。

太陽を目指してここまで来たはずが、目指していたモノを目の前にして、体が震える、呼吸のリズムが壊れる、どういうことだろう
。よく分からないが、己が無に帰す気がした、だから太陽に背を向けていた。

地上に降り立った人間の心に残ったのは、太陽の神々しさではなかった。初めて感じて、二度と感じたくないと思った、底の冷えた感情だった。

人間は空を飛ぶことをやめた。"アノ感情"を心に出現させたくないからね。

空を飛ぶことをやめたので、翼が邪魔になった。こんなモノはいらない。ただただ、"アノ感情"を出現させない生き方をしなくてはならないと心底思ったわけ、怖いという感情はそれほどに衝撃的だったんだね。

そこから人間は、空を飛ぶという過ちを二度と犯すべからず、翼を失くし、"アノ感情"を避ける生き方を心掛けてね、それが功を奏したのか、何十億年って長い間、地球を生き抜いたんだよ。終わり。」

いまは何時だろうか?いや時間なんて概念は人間のものだろう。

人間は絶滅した。太陽が地球との距離を埋めてしまったのだ。寸前で人間と逢うことが叶わなかった太陽が、我慢できずに人間に逢いに来てしまったんだ。

もしあの時に、"アノ感情"に負けず人間が太陽に逢っていたら、太陽が人間に逢うために地球に近づいてくることはなかったのではないだろうか。

いや、どっちみち同じことかもしれないな。怖いという感情を得たからこそ、人間は慎重に生きることを決心して、何十億年も生きられたのだから。

「そろそろ家に帰りなさい。遅くならないうちに」

「うん、わかった。お話面白かったよ。でも人間さんはなんでこんなに素晴らしいモノを手離しちゃったんだろう、不思議だなぁ」

女の子はアーモンドの様なきれいな瞳を宙に向けてから、立派な翼を広げ空を舞った。

赤い大きなリボンが徐々に見えなくなっていく。
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