お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

大福金

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本編 燦聖教編

大賢者カスパールと弟子のグリモワール ⑥

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バタン!

「ただいまー! カリン。大急ぎで帰って来たんだぜ」

リィモが大きな音を立てて家の扉を開けてドタドタと中に入ってきた。

「こりゃリィモよ。バタバタするでない」

そんな姿をカスパールに注意されると、リィモは少し恥ずかしそうに鼻の頭をポリポリと掻きながら

「だって~早くカリンにこのお土産を渡したくて!……へへっ」

「………ったく」

カスパールはそんなリィモの姿を目を細め優しく笑う。

そう……いつもの光景だった。
ある事を除けば……。

「おいっカリン!隠れてないで出てこいよっ」

リィモが部屋中を探すもカリンの姿はない。

「……あれ?畑にいるのか?帰って来る時に畑もチラッと見たんだけどなぁ……」

そう言いながらリィモは家の扉を開け畑に向かった。

「……ちょっと待つのじゃリィモ!」

カスパールは何らかの異変に気づいた様だ。

「へ?」
「カリンの気配が…………今にも消えそうじゃ」

「なっ!?………本当だ!カリンっ!」

カスパールとリィモは慌ててカリンの気配を辿ってグテ村の方に走っていく。
そこで二人が目にしたのは………今にも消えそうな結界の中で倒れているカリンの姿だった。
その周りにはキラータイガーの群れが、結界を壊そうと体当たりをしている。

「カリンーーーー!!!」

リィモは真っ青になりながらキラーダイガーの群れに魔法を放つ。

《インパルス》

リィモが詠唱するとキラータイガー目掛けて雷が次々に落ちていく。
雷が当たったキラーダイガーは一瞬で消し炭となる。

「カリン!大丈夫か?カリン!ねぇ?」

リィモは慌ててカリンの所に走って行き倒れているカリンを抱きしめ必死に声をかける。

「どこか怪我をしてるの?大丈夫だよ!僕が回復してあげる」

《リザレクト》

「あれ?おかしいな何で目が覚めないの?」

《リザレクト》

《リザレクト》

《リザレクト》

《リザレクト》

リザレクトは一度で死にかけの者でも全回復する魔法。それをリィモは何回もカリンに唱える。

「カリン?ふざけてないで目を覚まして?ねえ?」

「…………っ」

リィモが抱きしめるカリンの姿を見て、カスパールは言葉を失う。
なぜならカリンの体は冷たくなり息をしていなかった。

「カスパール様。変なんだ全回復魔法リザレクトをカリンに唱えてるのに目を覚まさないんだ」

「…………リィモ」

そんなリィモの姿を見て、カスパールは目頭を必死に拭いながら答えようとするも、自分も声が震えて言葉にならない。

「カリン? ねぇ? 目を開けて。僕ね……隣国でカリンの大好きなチョコレートをいっぱい買って来たんだよ? 他にもカリンが好きそうな見たこともない異国の甘味をね買って来たんだ。全部カリンが好きそうなんだ。早く一緒に食べてカリンの感想を聞きたいな。ねぇカリン? いつまで寝たふりしてるんだよ! 何で僕の声に反応してくれないの? 僕ずっと抱きしめているのに……何でそんなに体が冷たいの? カスパール様………カリンが変なんだ……」

「リィモ……カリンはもう……」

カスパールはそれが精一杯の言葉だった。

「カスパール様? 何言ってるんだよ? カリンがもう何だって言うんだよ? カリンは寝てるだけなんだ! 早く起こしてあげないと! カリン早く起きて! カリンってば! 何でお兄ちゃんって言ってくれないんだよ! いつも見たいに言ってよ! お兄ちゃんうるさいって!………ねぇ? カリン………ふぅっううっ」

カスパールは、カリンを抱きしめたリィモごと一緒に包むようにギュッと抱きしめた。

「リィモよ……カリンはこの小さな子供を守って……その代わりに……カリンは天に召されたんじゃ」

カスパールはカリンの横で眠っている子供をちらりと見る。

「へ? カスパール様? 何言ってるの? それじゃあカリンが死んだみたいじゃないか! 寝てるだけなのに! カリン早く起きて! カスパール様が変な事言い出したよ? カリンが死ぬわけないのにね?カリンってば! お願いだよ……ううっ……」


「………リィモ」

カリンの体は必死の呼びかけも虚しく全く動かない。

「いやだっ! カリン! 目を開けて! 僕を置いて行かないで! いやだああああああ!」


カスパールは泣きじゃくるリィモを魔法で眠らせると、カリンとリィモを家に運びベットに寝かせた。
リィモが眠っている間に、カリンが助けた子供を村に連れて行き、自分達がいない間に一体何があったのかを村長たちから話を聞くことに。

「そうか……カリンは自ら助けに行ったのじゃな。この村をカリンが救ったのか……」

村長達はカリンが村や子供を守るために、自ら囮になった事を話したが、キラーダイガーにカリンが襲われている時に自分達は何もしなかった事は話さなかった。

だがカスパールは、魔法の力で村長達が言わなかった話も気づく。
村長達がカリンを助けに行かなかった事……見殺しにしたことを。

だがカスパールはその事で村長達を責めなかった。

カリンを助けに村人がキラータイガーに立ち向かった所で皆無駄死にするだけ、それが分かるからこそ責める事はしなかった。





★  ★  ★




「………んん? カスパール様? おはよ」

「おはようリィモ」

「カスパール様……僕ね怖い夢を見たんだ。カリンが死んじゃう夢。夢なのにすっごくリアルで怖くて……変だよねカリンが死ぬわけないのにね?」

「……………っ」

無邪気に笑うリィモにカスパールは何も言えず言葉に詰まってしまう。

「……え? カスパール様? 何?……! そうだっ僕は隣国から帰って来て! そして……ああああああっ」

「リィモ落ち着くのじゃ!」

「いやだあああああああっ!カリン!カリン!カリン!」

リィモが狂ったように泣き叫ぶ。

カスパールはそんなリィモを魔法で再び眠らせる事しか出来なかった。

そんな事が何度も起こり、カスパールはリィモの心が壊れてしまうのではと心配した。
……だがある日リィモは普通に目を覚まし、カリンの死を認めたのだ。

「リッリィモ! 大丈夫なのか?」

「ふふ。心配かけてごめんね。僕もう大丈夫だから。カリンは村人を守るために死んだんだよね。それがカリンがしたかった事なら僕はもう良い」

「………そうか」

「早くカリンを眠らせてあげたいけど、まだこのままでいい?僕……カリンと離れるのはまだ寂しいから」

「分かった。カリンの体を永遠に腐ることのないよう、浄化し体の時を止めよう」

「ありがとうカスパール様」

カスパールはリィモをギュッっと抱きしめた。
この日は、久しぶりに三人でカスパールのベットで眠った。

カリンの事でなかなか深い眠りにつけなかったカスパールもこの日は久しぶりに熟睡できた。

カスパールが目覚めると、リィモの姿それにカリンの姿までベッドから消えていた。

「な? リィモ?」

ふと部屋の机を見ると紙が一枚置かれていた。

「これは…….?」


【大好きなカスパール様】

カスパール様、毎日泣いて困らせてごめんなさい。
僕はカリンの死に向き合うことも、受け入れることも出来なかった。
こんな情けない僕でごめんなさい。

でもやっと、カリンが僕の前からいなくなった事を受け入れる事ができました。
だけど僕はいくらカリンが自ら望んだとは言え、カリンに助けて貰いながらのうのうと生きている村人、いや全ての自分勝手な者たちを許すことが出来なくなりました。
ごめんさない。
僕はもう人の為に生きる事をやめます。

大好きです
さようなら

リィモ


「なっ!? リィモ? 隠れておるんじゃろう? リィモ?」

カスパールが叫ぶも、リィモとカリンを見つけることは出来なかった。

そして次にカスパールが目にしたのは、グテ村があったであろう場所が綺麗さっぱりと無くなっていた。
ただ村があった場所には、焼け焦げた土地が広がっていた。


「何でじゃ!? リィモよ! ワシはソナタの悲痛な心の叫びに気付いてやれんかったのか? ワシはそんなにも頼りない師匠じゃったのか? なんでワシにその気持ちをぶつけてくれんかったんじゃ……」

カスパールは泣き叫びその場に崩れ落ちた。
そして焼け焦げた土地をただ茫然とずっと見ていた。





この後カスパールは、二度と弟子を取る事はなかった。




番外編はこれにて終了です。
次話からは燦聖教編のクライマックスへと向かいます。














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