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2巻
2-2
しおりを挟む「ヒイロ!? この子たちどうしたの? これってコカトリスだよね? 石化されちゃうんじゃ!?」
コカトリスを連れて帰ると、外で畑作業をしていたルビィが一目散に走ってきた。
ルビィは石化の心配をしているみたい。
確かに、むやみやたらに石化されちゃ困る。
「コカトリス、ここにいる人たちは石化させちゃダメだよ? 僕の大切な人ばかりだから」
『『『コケッ!』』』
三匹は頭を大きく縦に揺らす。
わかってくれたのかな?
「えっ……ヒイロの言ってることわかってるみたい」
三匹の様子にルビィが驚く。
そうなんだよね。コカトリスって思ってるより賢いんだなぁ。
『それは当たり前。コイツらヒイロと獣魔契約してる』
ルリがとんでもないことを言い出した。獣魔契約って何!?
「ええと、どういうこと?」
『さっき契約してた。だからヒイロの言ってることわかる』
「ええ!? 契約!?」
僕いつの間に契約しちゃったの!?
だってさっき僕がしたのって、頭に羽つけて、「コケコッコォ!!!!!!!」って鳴いて、猫パンチして、頭撫でた……!? まさか!
「頭撫でたから!?」
『ん、そう』
ルリはそう言うけれど、獣魔契約ってそんな簡単にできるものなの?
「名前を付けたほうがいいの?」
『名前? わからん』
ルリが首を傾げる。えええっ……そんな。
『おやおや……また賑やかなのを連れてきたさね』
「ハク!」
ハクとモチ太が目を覚まして、洞窟から歩いてきた。
『わりぇはお腹がすいたっち、コイツを食べるっちか?』
モチ太がヨダレを垂らしながら、コカトリスを見る。
モチ太に見つめられ、ビクッと体を揺らすコカトリスたち。
怖がって卵を産んでくれなくなったら困るから、ちゃんとモチ太に説明しとかないと。
「モチ太、食べないよ。この子たちから卵をもらうんだよ」
『卵っち? わりぇはヌルヌルして嫌いっち』
モチ太が嫌そうな顔をする。
ハクはというと、ジーッとコカトリスたちを見ている。
どうしたのかな?
『ほう……コカトリスと獣魔契約したんだね。名前を付けておやり。契約が強固になるさね』
「そうなの?」
ハクがさらりと気になっていたことについて答えてくれた。
見ただけで獣魔契約してるのがわかるとか、ハクは本当にすごいなぁ。
「名前はどうやって付けたらいいの?」
『そうさね。目を見て名前を呼んだらいいさね』
なるほど……目を見てか。なんて名前にしようかな?
ニワトリみたいな見た目だし……う~ん。いい名前が浮かばない。単純でいいかな?
「決めた! 君はトサカの色が赤で、一番ニワトリっぽいからコッコ」
『コケッコ!』
「君はそうだな……他の二匹よりポヨンとしているからポミョ」
『コケェ!』
「最後の君は、羽の色が薄い黄色でヒヨコっぽいからピヨ」
『ケッコォ!』
名前を付けたコカトリスたちが擦り寄ってくる。
単純な名前だけれど、気に入ってくれたみたいだ。
このあとは、畑の近くにコカトリスたちが暮らす場所を作り、好物の草をいっぱい植えた。
まだ柵で仕切っただけだから、寝られる小屋とかも作ってあげたいけれど、それはお昼ご飯を食べたあとかな。
コカトリスたちが、作ったスペースで寛いでいる姿を見て、少し安心した。
さてと、お腹がすいたし、卵料理を作りますか!
作るものはもう決めてるんだ。ふわふわオムレツ!
レシピは、前世の本で読んだのが頭に入っている。あとは僕の腕次第。
最近、色んな料理を作ってみてわかったこと。
それは頭の中で考えてるのと、実践は全く違うということ。
そして、ふわふわオムレツみたいなシンプルなものほど、実は味の調整や上手に作るのが難しい。
でも、作ってみたいんだ。
生まれ変わってから、色んなことに挑戦できて本当に幸せだなぁ。
さてと、まずコカトリスの卵をアイテムボックスから取り出して、割って……ん?
思ってた数倍、殻が硬い。
「ん? あれ? 割れない」
そんな僕を見かねたルリが『こう』と卵を割ってくれた。
なるほど、ついニワトリの卵と同じ割り方をしちゃってたけれど、コカトリスの卵に合った割り方があるんだね。
卵の先端を殴ると、ピリリッと割れ目が入り、真っ二つに割れるみたいだ。
「僕にもできたー!」
二つ目の卵は自分で上手く割れた。
よっし。これに砂糖と塩を入れて、よくかき混ぜて、フライパンに卵液を流し込む。
あとは上手く丸めるだけなんだけれど……
「ああっ!」
想像していたより何倍も難しい。
初めて作ったオムレツは、スクランブルエッグになっちゃった。
完成した卵料理をお皿に盛り付けて洞窟で待っている皆のところに持っていく。
皆、召し上がれ!
『ううっうんまいっっち! 卵も好きになったっち!』
『そうさね。今まで食べた卵の中で一番美味しい』
『ん。うま』
「ふわふわで美味しい!」
皆がスクランブルエッグを美味しそうに食べてくれて、それはすごく嬉しいんだけれど、僕は絶対にオムレツを成功させてやると心に誓った。
食事のあと、僕たちは外に出て日向ぼっこをしていた。
「ふぅ~、お腹いっぱいだね」
『わりぇは卵が気に入ったっち。だからやつらは食わないっち』
ルビィが嬉しそうにほっぺたを触る。
モチ太はお腹をぽみゅぽみゅと叩きながら、チラッとコカトリスたちの巣のほうを見る。
すると、コカトリスたちがビクッと体を震わせる。
お願いだからこれ以上は脅かさないでね? ストレスで卵を産まなくなったら困るんだから。
それにさ、そのお腹を叩く仕草は何? モチ太ってば、あざとい。
『なんだっち、わりぇの美しい体毛を見てるっちか?』
じっと見ていたら、何を勘違いしたのか、モチ太がポーズを取り始めた。
プププ、可愛いなぁ。
『さてと……わりぇは寝てくるっち』
モチ太は尻尾を回転させなから、洞窟へ入っていった。
その姿をルビィと笑いながら見る。
「僕は畑仕事の続きをしてくるね。今日は色々と収穫できそうだよ!」
ルビィは嬉しそうにそう言いながら、畑に走って行った。何が収穫できるのかな? 楽しみだな。
『私はちょっと運動でもしてくるさね』
「運動?」
『ヒイロの手料理を食べたら、力が漲ってじっとしてられないのさ。ついでに食料も調達してくるさね』
「あ、そうだハク。運動の前に一つお願いがあるんだけど、料理をする時につける手袋みたいなものって作れないかな? 僕の手、毛むくじゃらだから、何かを混ぜたりこねたりするのが難しくって……」
『そんなの簡単さね。すぐに作ってあげるから、ヒイロはどこか散歩にでも行ってくるといいさね』
ハクはそう言って、洞窟に入っていった。
「さてと……」
僕は何をしようかな? お腹もいっぱいになったことだし……
あっ、そうだ、コカトリスたちに屋根がある家を作ってあげよう。
それと、洞窟のほうにも、テーブルと椅子が欲しいなぁ。
そのあとは……ログハウスの家具を作る続きをしようかな。今日はベッドを作ろう。
そして、新しいお家の部屋で寝てみたい。
「いしし……」
想像すると、すっごく楽しい。
よしっ! まずは木を切ってこなくちゃ。
「んん?」
歩こうとすると、前に進まない。
『ルリも行く!』
後ろを振り返ると、ルリが僕の尻尾を掴んでいた。
「木を切りに行くだけだよ?」
『うん。いい』
「そっか。じゃ、一緒に行こう」
僕はルリと森に入って、丁度いい大きさの木を切り、泉の洞窟に持って帰ってきた。
『この木、どうする?』
「僕が作ったログハウスのような家を、コカトリスたちにも作ってあげようと思って。それと、洞窟のほうにもテーブルを作るよ」
『ほう』
「作業の流れは前にログハウスを作った時と同じだよ」
僕はルリに笑顔で伝える。
『なら、簡単』
「うん。早速始めよ」
僕とルリは慣れた手付きで木を組み立てていく。
二回目だから、小屋とテーブルと椅子はすぐに完成した。
「できたー!」
『うん』
あとは小屋の中に、ふかふかの藁を敷いてっと……
藁を敷いてたら、コカトリスたちが小屋の中に入ってきた。
『コケェ♪』
『コケッコ!』
『コッコー♪♪』
なんだか嬉しそうに僕に擦り寄ってくる。どうやら気に入ってくれたみたい。
「コッコ、ポミョ、ピヨ。ここが君たちのお家だよ。自由に使ってね」
そう言って三匹の頭を撫でて、小屋を出た。
あんなに喜んでくれるなんて、ふふふ。作ってよかった。
そういえば……ダークエルフさんはまだ起きないのかな?
洞窟を覗き込み、様子をうかがう。
「う~ん……わからないや。中に入って見てみよう」
洞窟に入って近くまで行くと、ダークエルフさんはすやすやと寝息を立て、気持ちよさそうに眠っていた。
「よかった。ぐっすり寝てるみたい」
疲れてるんだろうなぁ。ゆっくり寝て、疲れを癒してね。
『もう食えないっち。おやつは別っち……むにゃ』
ダークエルフさんの横で、モチ太がヨダレを垂らし、お腹を出して寝ていた。
「プププ。もう……」
僕はモチ太に毛布をかける。
『あ、ヒイロ。頼まれてた手袋ができたさね。これもヒイロが今着ている服と同様に、私の鱗で作ったさね。ついでにエプロンも作っておいたから、これも着てみたらいいさね』
「わぁ! ハク、ありがとう! エプロンまで! これで一人でも色んなものが作れるよ」
僕はハクにお礼を言って、洞窟を出た。
さてと、次はログハウスのベッドを作るぞ!
「あれ? さっきまでルリがいたのに見当たらない」
あっ、ルビィのところに行ってる。相変わらず自由だなぁ。
じゃ、僕は一人でベッドを作ろうかな。
丸太を平たく削って、ベッドの寝る部分と脚を作り、頭の中にある形に組み立てていく。
木をくっつけるのには鉄粘土石が大活躍。
濡れると接着剤みたいになって、乾いたらそのまま鉄みたいに固まる便利な土。
積み木のように組み立てて、あっという間にお気に入りのベッドが完成した。
木を削って飾り模様も入れた。ここはお気に入りポイントだ。
今度はベッドの上に、乾燥したふかふかの草をたくさん敷いて、その上から布をかけた。
今は、これだけの単純なベッドだけど、いずれ前世で使っていたような、しっかりしたベッドを作りたい。
僕は病気だったから、友達と言っていいくらい、いつもベッドと一緒だった。
快適になるように研究し、色んな技術を用いて作られていたベッドを使っていたなぁ。
最高の寝心地だった。あの心地よさを、皆にも体感してもらいたいな。
『ヒイロ、顔変』
「わっ!?」
いつの間にかログハウスに入ってきていたルリが、僕の顔を見ながらニヤッと笑った。
僕はまた、ニマニマ笑っていたみたい。
「もうっ! 見ないで」
『これは?』
「ふふふ。僕が今日から寝るベッドだよ」
『ほう』
ルリはベッドにダイブした。
『ルリもここで寝る』
「ああっ! 僕も飛び込みたい!」
『にしし』
結局この日はルリと一緒にベッドで寝た。なぜかモチ太まで入ってきて、皆でくっついて眠った。
これじゃもう少し大きなベッドが必要だね。
第二章 二番目さん
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
翌日。まだ日が出る前の朝早くに、悲鳴が響き渡る。
その声を聞いて、僕は飛び起きた。
「ななっ!? 何!?」
『むにゃ……』
『……肉……っち』
ルリとモチ太はスヤスヤと眠っている。声は洞窟のほうから聞こえたような……
気になるし、行ってみよう。
僕はルリたちを起こさないように、そっとベッドから下りた。
一体なんの声かな?
小走りでハクが寝ている洞窟に向かう。
すると……
「え?」
ハクに土下座して、必死に謝っているダークエルフさんの姿があった。
「あの……ハクこれは?」
『ヒイロ……起きたのかい?』
ハクが困ったように、僕に向かって笑う。
「悲鳴が聞こえて……何かあったのかなと思って……」
僕がそう言うと、ダークエルフさんが泣きそうな顔で、必死に「私が悪いのです」と言ってきた。
「えっと……?」
何が悪いのかな? あの悲鳴はダークエルフさんの声だったのかな?
二人に詳しく話を聞くと、どうやらダークエルフさんは目を覚まして、ドラゴン姿のハクを見て、食べられちゃうと思ったらしく、驚いて悲鳴を上げたらしい。
そして、食べられると思ったことと、悲鳴を上げたことを、今必死に謝っていたんだとか。
『もう気にしてないから、顔を上げるさね』
「はいっ、はいっ、ありがとうございます」
ハクがそう言うと、やっと顔を上げたダークエルフさん。
とりあえず、少しでも緊張が和らぐように、僕はお茶でも淹れてこようかな。
ルビィに緑茶の茶葉を分けてもらおう。
リラックス効果がすごく高くて、飲むと気持ちが落ち着くんだよね。
「はい、どーぞ」
「あっ、ありがとうございます。いただきます」
『ヒイロ、ありがとう』
三人でのんびりとお茶を飲んでいると、何かに気付いたダークエルフさんが、自分の体を触って驚いている。
「私は死にかけていたのに……あの斑点が全くない。体も楽だし……どうして!?」
そんなダークエルフさんの様子を見て、ハクが笑う。
『はははっ。そりゃそうさね。そこにいるヒイロが治してくれたのさ』
「ええっ!? 治し……!?」
ダークエルフさんが、僕をキラキラした目で見てくる。
この瞳は獣人国で始祖様だって勘違いされた時と同じだ。
どうやら僕の見た目は、かつて獣人たちを救った始祖様にそっくりみたいなんだよね。
これは絶対、僕の能力を勘違いしてるやつ。
「ちょっ!? ハク? 何を言い出すの?」
『何って、本当のことさね』
ハクがいたずらな顔をして笑う。もう、楽しんでるね?
確かに僕が作った料理を食べてもらったけど……それはハクのアイデアだし……
奇跡のような偶然かもしれないわけで……
「あの……そんな目で見ないでください」
僕はそう言ったけど、ダークエルフさんはキラキラとした目でずっと僕を見ている。
「僕が作った料理が、偶然、死斑病に効果があったみたいなんです」
僕は作り置きしていたお吸い物を、アイテムボックスから取り出し、見せた。
「えっ……こっ、このスープで、あのっ……死にかけていたこの体が治ったんですか!?」
ダークエルフさんは不思議そうに、鍋に入ったお吸い物を覗き込む。
「精霊の泉の水を使って、作ったからだと思います……」
僕は外の泉を指さし、ダークエルフさんに説明した。
「ああああ! あの泉が精霊の泉なんですね。何度探しても辿り着けなかった、特別な泉! 私はやっと、やっと見つけたのだ!」
ダークエルフさんは涙を流した。
数分して落ちついたダークエルフさんが、ここに来た経緯を話してくれた。
「私はミーニャの森の集落で妖精たちと共に暮らしていました。しかし、ある日その生活は一変しました。里から妖精がいなくなったのです。その数日後に死斑病が流行りだしました」
『ほう……死斑病は理由もなく、突然流行る病だと思っていたけど……妖精か。何か原因があるのかもしれないねぇ』
ダークエルフさんの話を聞いたハクが、首を傾げながら考えている。
賢いハクのことだから、答えを見つけちゃいそう。
「そこで里の長である私は、どうにかみんなを助けたいと思い……伝説の精霊の泉を探すために、里を出たんです。ですが……もう手遅れでしょうね」
「えっ、どうして!?」
「ここから里に戻るとなると……一週間はかかります。この泉を見つけるのにかなり時間がかかってしまいました。今から戻っても……」
ダークエルフさんが悲しそうに目を伏せる。
どうにか……あっ! ハクなら、半日もかからずに飛んで行けるんじゃ……
「あの……ハク」
僕はハクを見つめる。
『はいはい、言いたいことはわかるさね。ヒイロは本当にお人好しだねぇ』
ハクがヤレヤレといった感じで、僕の頭を撫でる。
ちゃんと言ってないのにわかるとか、ハクはお母さんみたい!
「あの……?」
『背中に乗りな』
ハクは大きなドラゴンの姿になって、ダークエルフさんに言った。
「えっ?」
ダークエルフさんは状況が理解できず、固まっている。
『里まで飛んで行ってやる。それで、ヒイロが作ったスープを仲間たちに飲ませてやりな』
「えっ……あっ……あああああっ」
ダークエルフさんは再び泣き崩れてしまった。
『泣いてる暇はないさね? 一刻も早く飲ませてやらないとね』
「ああっ、はいっ、はいっ! ありがとうございます」
ダークエルフさんは、僕とハクに何度もお辞儀をしたあと、ハクの背中に飛び乗った。
『じゃあ、急ぐさね。夜までには森に帰ってくるさ』
「うん! 美味しいご飯をいっぱい作って待ってるねー!」
空高く舞い上がり、颯爽と飛んで行くハクとダークエルフさんに、僕はずっと手を振っていた。
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