宇宙人「いいねこの星」

佐葦夏

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宇宙人「いいねこの星」

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「ふうん、いいね。この星。」

 帰投した惑星探査機が収集した惑星情報データの中でも興味深い…つまり我々の移住に適した惑星のデータを同僚の一人が発見したようだ。

「けどよぉ、この星には既に広範囲に渡って支配している先住種族が居るぜ?惑星の居住権占有権先住種族優先早い者勝ちじゃね?」

「ああ、惑星居住法ではそうなっているね。先に入植しその惑星の生命体のほぼすべてを支配コントロール下に置いた種族に優先権があると。」

「ならさぁ、このデータはあんまり意味なんてなくねぇか?先住種族がいるなら、俺たち種族が探している移住先安住の地候補にはならないんじゃね?。…まさか、戦争でも仕掛けるつもりかよ?やめとけやめとけって、後始末が面倒くせぇだけだぞ。」

分析データこれを良く見たかい?特にこの先住者惑星の支配者の種族情報をさ。あまり頭がいいとは言えない種族じゃないか。これなら擬態し紛れ込むことは容易だろう。紛れ込んで成り代われそうすれ先住者のこの種族を丸ごと僕たちが乗っ取る事が出来るんじゃないか?」

「…っつってぇと、乗っ取そうやってこの惑星を簡単に手に入れようって訳か?まぁ、俺らの技能で出来るっちゃ出来るわな。」

「そういう事さ。さあ、これから忙しくなるぞ。同胞たちを呼び寄せて擬態させてあの星へ送り込むんだ。そしてあの星を僕たちの物にしよう。」





              ◇◇◇◇◇◇◇◇





「ふぁーあ。そういやぁ今日は、たしか集会ノ日、だったんじゃネえかナ。」

 朗らかな日差しを浴びながら、“彼”はそう思った。

 何か重大な使命を帯びて、此処にやってきたような気がするのだが…という事を思い出したようなそうではないような。

「まっ、いいかナぁ…。」

 “彼”は口をもごもごさせてそう呟くと、肌触りの良い敷布が掛けられた椅子の上で、暖かい陽射しに包まれながらうつらうつらと瞼を閉じ始めた。

 陽射しで温まった柔らかな毛を奴隷たちが、丁寧に丁寧に撫でてくしけずっている、その心地よさに思わず喉が鳴ってしまう。

 ゴロゴロゴロゴロ…ゴロゴロゴロ…

 鳴らした喉の音に合わせて奴隷たちが顎の下を心地よくマッサージをしてくる。

 ─実に躾が行き届いた奴隷たちだ。─

 ─この星の奴隷たちは全く持って素晴らしい。─

 ─雨風をしのぐだけではない快適な居住所環境の提供、食事も一声上げればすぐさま提供される。─

「すげぇナ、王侯貴族みてぇナ待遇だ。“あいつ”と一緒ニ基礎教育情報端末ライブラリでみたっけナぁ…こういう暮らし。そうそう今日は“あいつ”が集会ニ来いって……。」

「…んぁ?ライブラリってナんだっけナぁ…。」

 ゴロゴロ…ゴロロ…

 奴隷たちの中でも年若い者が“彼”の体を丁寧に抱えると自分の膝の上に乗せ、“彼”の体をゆっくりと優しく撫でた。

 “彼”の脳裏には“あいつ”同僚の事や本来の任務についての会合集会のことが一瞬浮かんだが、それが何だったかをはっきり思い出せないまま、心地よいまどろみと満ち足りた安息に揺られて思考を手放すと、緩やかに眠りの淵へと堕ちて行った。


              ────────


「うーん、“誰か”が来ていナいようナ…。」

 今日、この場所で大事な話し合いを“誰か”と約束していた気もするが、…確か同期だったか同僚だったかが居たような覚えがあるが、誰であったか定かではない。

 その“誰か”と共に業務や作業や仕事をしていた気がするが、それが誰だったのか、そもそもそんな誰かがいたのか記憶はあいまいだ。

「ええと、同期…同僚…あれは“誰”…だったノだろう…?」

 脳裏に途切れ途切れに現れる情景とその情報を丁寧に思い返そうとしていたところ、この集会に初めて来た参加者が食べるものにも住むところにも困っている事を痩せこけた姿で訴えていると、常連参加者の一人から告げられた。常連参加者の一人が手助けを求めてたずね回っていた。

 この大事なはずの会合に初めての参加者がいるという事に軽く疑問を覚えるも、自分の隣にいた見慣れた毛色の常連参加者に身を寄せる先に心当たりがあると新参者の世話を焼き始め、それに巻き込まれてを手伝っているうちに、先ほどの疑問を考える思考の余地は霧散した。

「ああ、そうだ、こいつ…だったか?といつも対処していたか。」

 見慣れた仲間と困りごとに対応し事態を収束させることは違和感のない行動であり、なんだか懐かしいような気もするが、なぜそれと懐かしいと感じるのだろうか。

 そんなことをふと思っていると、反応が薄かった事をどうしたのかと鼻先で気遣われたので気を取り戻し、新入り参加者の今後について話し合う事にした。

「早速仕事をしナければ。心当たりがあるという奴隷と新入りノ相性は良いノか?そノ奴隷ノ家まで誰が案内をするんだ?」

 参加者たちの行先が決まったのならそれで良いじゃないかとばかりに反応は薄く、思い思いの方向を向いてあくびをしたり肩をほぐすべく両腕を伸ばしたりして陽射しを満喫しており、のんびりしたものだ。

 しかしのんびりし過ぎではないだろうかと呆れかけたが、他人の事はとやかく言えまい、僕だって先ほどぼんやりしていたばかりなのだ、それを棚に上げて強くは言えないだろう。

 そう思いながら考え込んでいると、気の優しい者達が呼びかけに応じてくれ、彼らが新入りに付き添って奴隷の家の見学に向かう事で話がついた。これで、一安心だ。

 そうだ、何も心配することは無い、奴隷たちは喜んで僕たちの世話をするのだから。お陰でこのような集会に参加している者達の方が今では珍しい位で…。

「今では…?」

 今の前である以前の事…そうだ昔はどうしていたのか、なんだか“昔の事”で何かを思い出しそうで思い出せない。

 頭を抱えていると、誰かが、僕の様子がおかしいからか頭をゆっくりと優しく撫で始めた。そのざらざらとした舌で。

「そうだ…ナ…心配しなくても奴隷たちはこぞって僕たちノ世話をしてくれる。何も心配することは無い…ニャ…。」

 僕はうとうとと、あたたかい陽射しの下で周囲の者たちと同じようにまどろみ始めた。


              ────────


 彼らは自分たちに託された大切な役目を、快適すぎる暮らしの中ですっかり忘れてしまった。

 この星の支配者である先住種族─この星での種族名は“猫”という─に擬態し同化を行った後しばらくは意識を保っていたが、次第に猫という種族の怠惰な性質かつ生態に馴染んでしまった宇宙人たちは、全ての意識が先住の支配者種族…つまり“猫”としての思考に飲み込まれ、自分たちの目的どころか何者であったのかをすっかり忘れてしまった。

 まさかこの王侯貴族もかくやと言わんばかりの怠惰な生活は、奴隷たちを支配することによって得られたものではなく、猫という種族そのものの特性だとは思いもよらなかった。

 この怠惰さに意識が奪われ始めた時には”しまった、失敗した!”と思いはしたが、知識でしか知らない王侯貴族のような、いや、王侯貴族よりも持て囃されるような至れり尽くせりの環境で堕落せずにいられるわけがなかった。

 こんな手厚く饗応される環境を捨ててまで働くことに意味はあるのかと、得られる享楽に対し拒むことなど出来ず、むしろ抵抗しない方が幸せだ。

『まあ、いいかニャ。』

 彼ら同胞たちのすべての意見はこの言葉に集約された。

 なぜなら、”猫”この種族に擬態同化した者たちは皆この怠惰な暮らしに溺れ切ってしまったのだから。

 この種族を乗っ取るだと?そうしたところで今の状況と何一つ変わりはしないだろう。それなら、支配や乗っ取りなどといった行動に奔走しなくても構わないのでは無いか。

 たしかに運悪く奴隷を捕まえられず生を終える個体もいる、だがまた毛皮を着替えて来れば生まれ直せばよいだけの話だ。この種族にはそれが可能だ出来る

 まあ、その代りに記憶は少しばかり薄れてしまうので、お気に入りの奴隷の元に戻る際には道に迷わないようにいささか注意を払わねばならない。

 そして九度生まれ直せば尻尾が増えると伝わっているが、そんな姿を見せれば奴隷どもが騒いで必要以上に撫で回してくるのでここぞという時にしか見せてやらないのだ。うんうん、奴隷の躾は上位種であり支配種の義務であり大事な大事な責任なのニャ!

 こうして”猫”たちは新たな宇宙人知的生命体を吸収・同化し、地球の支配種族としてこの星の平穏と安寧を思う存分享受し満喫していた。





              ◇◇◇◇◇◇◇◇





「おっ、探査機ドローンから何か面白いデータでも見つかったか?」

「丁度解析が終わった所ですから、中央のでかいパネル巨大ヴィジョンに表示させますよ。」

 我々先遣隊が搭乗している惑星探査船に、小型無人探査機ドローンが先ほど帰投したところです。

 小型無人探査機ドローンが拾ってきたばかりの情報を分析した結果がパネルヴィジョンに表示されると、一番に表示された惑星の情報は私たちにとって大変興味深いものでした。

 我々はその星に住む先住民民族に寄生し同化することで数多の惑星を支配下に置いてきた種族であります。

 侵略種族と良く─いえ、悪く言われますが、我々からすればとても心外です。

 我々にも我々なりの事情種族存命の為という物がありますから。とはいえ、侵略相手からすれば変わらない事情なんてどうでもいいかもしれませんね。

 話はそれましたが、我々にとって新たな侵略…っと、いえいえ、移住先ですね。我々が適応可能な行先候補の惑星を小型無人探査機ドローンが見つけてきてくれたようです。

 探査船のメインルーム中央の一番大きなパネル巨大ヴィジョンに表示された解析ほやっほやの情報データを皆が一斉に凝視する中で、誰ともなくつぶやかれた声がありました。

「いいね この星。」




                  END
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