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闇を忘れた街
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「送迎ありがとうございます...ええと...。」
新宿への送迎はキューテストの下部組織の者が担当した。シックな車を走らせる仮面の男性。
後部座席にはカイとタコ型生物の少女、それとサラが乗っていた。
「“使い”でいいです、サラ様。レイ・リン様や回廊の皆様のサポートが我々の生き方ですので。」
「それでも名前で呼ばせて欲しいよ。」
「そうですか...ではヨセフと名乗らせていただきます。」
「ヨセフさんか。今日はありがとう。」
「とんでもないです、サラ様...まもなく検問を通りますので学生証を。」
朝廷周辺は難民の居住は決して許されず。さらに商業区画である新宿の中心に立ち入るには、良質な市民であることを証明しなければならない。
その区画は企業の私有地であるため、それが許される。いわば経済の中枢を担うものたちのための保障された娯楽と安寧なのである。
検問には数人の警官が立っており、こちらを睨んでいる。身分を証明できるものの提示をサラたちに求める。
彼らはウィンドウを開けて三田奈学園の学生証を手に持って見せた。車内でアイスクリームを食べる少女のことは気にすることなく、警官は手振りで通過の許可を示す。
晴れた空の下、丁寧な塗装がされた商業ビルディングが立ち並ぶ。何とも輝かしく思えた。
交差点の脇で車は停車。
「ここで大丈夫でしょうか。」
運転手のヨセフは少女に問う。
「問題ない、運転助かった。」
サラとカイも同様に感謝を並べて、下車する。
「ご連絡いただけたら、いつでも迎えにあがります。あとサラ様...本日は楽しんで行ってください。」
---
目的の場所まで少々歩くこととなった。この街は若者で賑わっていた。多様なファッションに身を包んでいる。彼らを見ていると、まるで最初からこの世には暗い場所などないかのように思える。
サラたちも休日の衣服である。制服の黒とは対照的な全体的に明るい身なりであった。
「アイスだけではだめだ...カイ。冷気を頼む。」
「はいよ。」
カイの周りに冷気が漂った。まるで冷凍庫の中だ。凍て刺すほどに冷たい環境の中で、少女は風呂上がりのように気持ちよさそうな表情を見せる。
「うぇ...寒っ。」
すれ違う通行人たちが皆振り向くほどの冷気であった。その場に幽霊がいると確信ができるほどには冷たい。
カイはとくに周りを気にする様子はない、一方サラは自身の熱気で自分の体を包むのだった。
「なあタコ。ここから近いのか?」
...
「タコではない!」
少女はカイのスネに蹴りを入れる。彼は痛みに悶えた。
「痛った!お前、じゃあなんて呼べばいいんだよ!」
「個体名の話か?それは自分で決める。」
「面倒なやつだ、いつ決めるんだよ。」
「知らんな。それまでは“タコ以外”で好きに呼ぶと良い。」
「...氷だしアイシーと呼ばせていただくよ。」
「悪くはないな。」
活気のある商業区画を渡り、有名な家電量販店が歴史建造物として保存されているところの前にやってくる。
「よし、ここの上空だ。成層圏に私の船を停めたのだ。」
少女・アイシーは真上に両腕を振り上げた。手のひらを天に向けて、歯を食いしばる。
道のど真ん中でやるのだから、通行人にはガン見をされるのであった。
「カイ、もっと冷気を。」
「ああ。」
カイの体から放たれる冷気は場の季節を変えた。周りに植えられた観葉植物の葉は凍てつき出すのであった。
サラは腕を組んだまま様子を眺める。寒くなりつつあるので自身の周りに炎の膜を薄く形成した。
アイシーはひたすらに力んで、日のある場所に向かって手を伸ばした。
しかしあるところでその集中力が切れる。急にしょぼくれてしまった様子だ。
「アイシーちゃん、どうしたの?」
「届かない...私の今の力では通信が不可能だ。発見を恐れてより高いところに停めたのが運の尽き...。」
数秒間のネガティブを漏らしたのち、アイシーの顔面が突然キリッと冴える。
「おお?」
「よし、カロリー補給ができる場所はあるか!」
「喫茶店とかならいっぱいあると思うよ?」
「カロリーがある状態でなおかつ少し日が傾けばなんとかなりそうだ。」
呆れのようにカイは帰れないことを嘆く。
「了解、グルメ細胞を活性化させようぜ...。」
新宿への送迎はキューテストの下部組織の者が担当した。シックな車を走らせる仮面の男性。
後部座席にはカイとタコ型生物の少女、それとサラが乗っていた。
「“使い”でいいです、サラ様。レイ・リン様や回廊の皆様のサポートが我々の生き方ですので。」
「それでも名前で呼ばせて欲しいよ。」
「そうですか...ではヨセフと名乗らせていただきます。」
「ヨセフさんか。今日はありがとう。」
「とんでもないです、サラ様...まもなく検問を通りますので学生証を。」
朝廷周辺は難民の居住は決して許されず。さらに商業区画である新宿の中心に立ち入るには、良質な市民であることを証明しなければならない。
その区画は企業の私有地であるため、それが許される。いわば経済の中枢を担うものたちのための保障された娯楽と安寧なのである。
検問には数人の警官が立っており、こちらを睨んでいる。身分を証明できるものの提示をサラたちに求める。
彼らはウィンドウを開けて三田奈学園の学生証を手に持って見せた。車内でアイスクリームを食べる少女のことは気にすることなく、警官は手振りで通過の許可を示す。
晴れた空の下、丁寧な塗装がされた商業ビルディングが立ち並ぶ。何とも輝かしく思えた。
交差点の脇で車は停車。
「ここで大丈夫でしょうか。」
運転手のヨセフは少女に問う。
「問題ない、運転助かった。」
サラとカイも同様に感謝を並べて、下車する。
「ご連絡いただけたら、いつでも迎えにあがります。あとサラ様...本日は楽しんで行ってください。」
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目的の場所まで少々歩くこととなった。この街は若者で賑わっていた。多様なファッションに身を包んでいる。彼らを見ていると、まるで最初からこの世には暗い場所などないかのように思える。
サラたちも休日の衣服である。制服の黒とは対照的な全体的に明るい身なりであった。
「アイスだけではだめだ...カイ。冷気を頼む。」
「はいよ。」
カイの周りに冷気が漂った。まるで冷凍庫の中だ。凍て刺すほどに冷たい環境の中で、少女は風呂上がりのように気持ちよさそうな表情を見せる。
「うぇ...寒っ。」
すれ違う通行人たちが皆振り向くほどの冷気であった。その場に幽霊がいると確信ができるほどには冷たい。
カイはとくに周りを気にする様子はない、一方サラは自身の熱気で自分の体を包むのだった。
「なあタコ。ここから近いのか?」
...
「タコではない!」
少女はカイのスネに蹴りを入れる。彼は痛みに悶えた。
「痛った!お前、じゃあなんて呼べばいいんだよ!」
「個体名の話か?それは自分で決める。」
「面倒なやつだ、いつ決めるんだよ。」
「知らんな。それまでは“タコ以外”で好きに呼ぶと良い。」
「...氷だしアイシーと呼ばせていただくよ。」
「悪くはないな。」
活気のある商業区画を渡り、有名な家電量販店が歴史建造物として保存されているところの前にやってくる。
「よし、ここの上空だ。成層圏に私の船を停めたのだ。」
少女・アイシーは真上に両腕を振り上げた。手のひらを天に向けて、歯を食いしばる。
道のど真ん中でやるのだから、通行人にはガン見をされるのであった。
「カイ、もっと冷気を。」
「ああ。」
カイの体から放たれる冷気は場の季節を変えた。周りに植えられた観葉植物の葉は凍てつき出すのであった。
サラは腕を組んだまま様子を眺める。寒くなりつつあるので自身の周りに炎の膜を薄く形成した。
アイシーはひたすらに力んで、日のある場所に向かって手を伸ばした。
しかしあるところでその集中力が切れる。急にしょぼくれてしまった様子だ。
「アイシーちゃん、どうしたの?」
「届かない...私の今の力では通信が不可能だ。発見を恐れてより高いところに停めたのが運の尽き...。」
数秒間のネガティブを漏らしたのち、アイシーの顔面が突然キリッと冴える。
「おお?」
「よし、カロリー補給ができる場所はあるか!」
「喫茶店とかならいっぱいあると思うよ?」
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呆れのようにカイは帰れないことを嘆く。
「了解、グルメ細胞を活性化させようぜ...。」
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