目には滅を!歯には破を!

N旅人

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第1話 失われた記憶と闇の影

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目には滅を!歯には破を!
第1話 失われた記憶と闇の影
春の陽光がカーテンの隙間から差し込み、白い天井を淡く照らしていた。藤野はゆっくりと目を開けた。頭の奥に鈍い痛みが残り、視界がぼやけている。ベッドサイドのモニターが規則正しい音を立て、消毒液の匂いが鼻を突く。「……ここは?」掠れた声で呟くと、すぐに白衣の医師が近づいてきた。穏やかな目をした中年の男だ。「藤野君、目が覚めたね。よかった。高校の入学式の朝、君は突然倒れて意識を失ったんだ。検査の結果、脳に異常はない。でも……落ち着いて聞いてくれ。」医師は一瞬言葉を切り、カルテをめくった。「君は過去の記憶を失っている。中学時代のことが、ほぼ空白だ。そしてその代償として――いや、元から眠っていたのかもしれないが、君は能力者として覚醒した。相手の記憶を奪う力……それが君の能力だ。」能力者。藤野の胸に、その言葉が重く響いた。社会の1割ほどしか存在しないと言われる、超常の力を持つ者たち。生まれつきか、後天的に目覚めるか、人によって違うらしい。自分はどちらだろう。「記憶を……奪う?」「そうだ。まだコントロールは不安定だろうが、すでに軽く発動している兆候がある。君の過去の記憶が失われたのも、何らかの干渉による可能性が高い。ただ、今は安静に。退院は来週だ。」医師の言葉を聞き流しながら、藤野は窓の外を見た。桜の花びらが舞っている。高校入学――新しい人生の始まりのはずが、過去を失ってのスタート。退院後、紅葉高校での生活は意外に早く馴染めた。記憶がない分、過去のしがらみもない。クラスメイトは親切で、特に同じ能力者だとわかる者たちとはすぐに打ち解けた。理系の秀才、石本はいつも冷静に状況を分析する。眼鏡の奥の瞳が鋭く光り、相手の弱点を瞬時に見抜く能力を持つ。ただし慎重すぎて、分析に時間がかかるのが弱点だ。「藤野、君の能力は厄介だな。記憶を奪うなんて、相手の存在意義すら揺るがす可能性がある。」石本はそう言って微笑んだ。文系天才の浦澤は、暗記力が異常だ。直近7日間の出来事を完璧に記憶し、遡って調べる能力がある。「過去の情報は武器になるよ。でも7日以上前は忘れちゃうんだよね……まだまだだ。」陸上部の葉山は、五大欲求を操る変態だが、頭は切れる。ストッパー役の丹羽は予知能力者で、未来の断片をぼんやりと見る。「危ないよ、葉山! また女の子の尻見て鼻血出してる!」丹羽が呆れながら言うと、葉山は笑う。「だって芸術だろ? 人間の美しさって……」そしてムードメーカーの内田は、1日1回の奇跡を起こす。まだ運がいい程度だが、いつか運命すら操れるかもしれない。そんな仲間たちと過ごす日々は、穏やかで楽しかった。藤野はカメラを手に、校庭の桜を撮ったり、旅行の計画を立てたりした。記憶がない分、今を生きるのが心地よかった。しかし、その平和は長く続かなかった。ある放課後、校舎裏で異変が起きた。「おい、能力者ども。邪魔なんだよ。」突然、数人の生徒に囲まれた。リーダーは伊等。首席で入学しただけのことはあり、頭はいいが他人を見下す性格が顔に表れている。無能力者だというのに、拳を握りしめて睨んでくる。「特にてめえ、藤野。目障りだ。」後ろには岸能、抹田、鷹芝、村来。皆、無能力者の不良グループ――闇部と呼ばれる連中だ。なぜか執拗に能力者を狙う。伊等が一歩踏み出し、拳を振り上げる。藤野は咄嗟に身をかわすが、石本が肩を殴られ、丹羽が腹を蹴られた。「くそっ、何の恨みだよ!」葉山が叫ぶが、数の暴力は容赦ない。藤野の胸に怒りが湧いた。――試してみるか。伊等の目を見つめ、力を込める。「記憶を……奪う。」瞬間、伊等の動きが止まった。瞳が虚ろになり、拳を下ろす。「……何してたんだっけ?」攻撃の意図を忘れたのだ。藤野は驚きながらも、次々に記憶を奪う。岸能は今日の昼食を、抹田は昨日の喧嘩を。相手の戦意を削ぐ。だが、伊等はすぐに我に返った。「能力か……やるな。でも俺たちは無能力者だ。お前の力なんか――」その時、別の人物が現れた。砂野。寡黙で、少し気弱そうな優しい顔のネット民風の生徒だ。藤野にはなぜか見覚えがある気がした。「砂野……お前もか?」砂野は目を伏せ、渋々口を開く。「……藤原の命令だ。藤野、お前は潜在能力が大きい。成長したら組織の脅威になるって。だから狙えって……」その言葉を聞いた瞬間、背後から冷たい声が響いた。「おしゃべりはやめろ、砂野。」現れたのは冨士原。血液から金貨を生み出すB級能力者。闇部のボスで、金で刺客を雇う悪党だ。冷酷な目で砂野を見下ろす。「情報を漏らすとはな。処分だ。」冨士原の拳が砂野を襲う。強烈な一撃で、砂野は地面に倒れ、血を吐いた。大怪我だ。「砂野!」藤野の怒りが爆発した。記憶を奪う力で、冨士原の周囲――闇部全員の「藤原の存在」を一時的に奪う。皆が戸惑う。「誰だ……お前?」冨士原は突然、誰も自分を知らない世界に放り出された。孤独が彼を蝕む。一週間後、精神的に追い詰められ、リタイア。学校は退学を検討するが、藤野たちは条件を付けた。「砂野を生かすなら、チャンスをやる。」冨士原は反省せず、後日、再び仲間を連れて襲ってきたが、内輪もめで自滅。最終的に藤野の記憶奪取で、他人から存在を認知されなくなり、完全に孤独に陥って敗北した。伊等は力尽くで攻めてきた。主人公チームに多くのダメージを与えたが、藤野は中盤で目覚めた力――寿命を奪う――を発動。「攻撃した回数分、寿命をやるよ。」伊等は笑った。「馬鹿言うな。そんな能力が――」だが、構成員4人で試した結果、年単位で寿命が減っているのがわかり、伊等は顔を青ざめさせた。「……本物か。残りの短い人生、暗く過ごすしかないな。」恐怖に震えながらリタイア。岸能、抹田、鷹芝、村来も同じ運命を辿った。砂野は病院で回復し、藤野たちに頭を下げた。「ありがとう……俺、元は藤野の友人だったんだ。でも藤原に圧力をかけられて……組織の指示で動いてた。」「組織?」砂野は弱々しく頷く。「白誠中学校の……いや、まだ言えない。でも、藤野。お前は狙われてる。もっと大きな力が眠ってるって。」藤野は胸の奥に疼きを感じた。白誠中学校――なぜか、聞き覚えがあるような気がする。でも、記憶はない。仲間たちと校庭に集まった。桜が散る中、石本が静かに言った。「暴力じゃなく、奴らの自滅を誘う。それが俺たちの戦い方だ。」浦澤が頷く。「過去を調べるよ。きっと何かある。」丹羽がぼんやりと未来を覗く。「危ない影が……近づいてる。」内田が笑って拳を突き上げる。「でも奇跡は起こるさ!」葉山はいつもの調子で。「尻……じゃなくて、みんなで勝とうぜ!」藤野はカメラを構え、仲間たちを撮った。新しい家族のような絆。だが、心の奥底で、何かが疼いていた。失われた記憶の向こうに、黒い影が揺れている。白く誠実な名前の学校――白誠中学校。その実態は、黒く、誠実とは程遠い。復讐の炎は、まだ気づかぬうちに、静かに燃え始めていた。紅葉高校の春は、穏やかだった。しかし、それは嵐の前の静けりに過ぎなかった。
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