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[完] 第一話
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放課後。
生徒達が部活に行ったり家に帰ったりする中で、帰宅部員である女子生徒二人が教室の後ろのほうでまったりとお茶を飲んでいた。
帰宅部が帰宅していないので、つまりはサボりである。
背の高い方が牧野早苗。今回の語り手。
やや男勝りな性格で面倒見が良い。
この日も親友である小川日奈子の相談に乗っているところだった。
* * *
「うちの会社に取引先から縁談を勧められてるの」
「また?」
「そう、また」
「私に言わせりゃ、勝手にいいとこのお坊ちゃんと引き合わせてくれるなんてうらやまなんだけど」
「興味ナシ。父さんには申し訳ないけど心底行きたくない。今度はどうやって逃げようかな」
「あああ、この前は本当にごめん」
「ううん。早苗は悪くないよー。悪いのは高峰だよー」
机に突っ伏して悩む日奈子を見つめた。
日奈子の父が勤める金属加工メーカー・中野鉄工の取引先の多くは古い体質なのか、婚姻で縁を繋ぎたがる傾向にあり、今までに数度お見合い話が舞い込んできている。
日奈子はそんな見合いを躱すために彼氏がいることにしてやり過ごしたことがあった。
今の時代、流石に交際相手を引き離してまで婚約を強要するわけにもいかず、めでたく見合い自体がお流れになったのだが、数度見合い話が持ち上がる頃になると、父から「一度その男を連れてきなさい」と言われ、私達とはただの知り合いである高峰大という同級生の男子を彼氏として紹介することになった。
しかしその男、何を勘違いしたのか本物の彼氏のように振舞ってきて最後にはストーカーまがいの行為に及び始め、いよいよ身の危険を感じた日奈子は、私と一緒に色々と工作して縁を切ることに成功した。
だが、その代償として表向きにも別れたという形を取らざるを得なかった。偽装がバレなかったのは不幸中の幸いだけど、ともかくそのせいで今回新たに対策を練らなきゃいけなくなった。
「今度は問題なさそうな相手いないかなあ」
「問題なさそうな奴かー。偽装交際も難しいもんだよね」
高峰大という男がストーカー化するとは思わず、このときばかりは人を見る目の無さを痛感したものだった。
「あ、でも条件にあう人はいるの」
「なるほど、それで」
「勘違いしてストーカーになりそうにない人で」
「うん」
「勘違いされても問題なさそうな人で」
「うん?」
なんか怪しいな。
「というか私が好きな人なので問題ないというか」
「いるんかい!じゃあ普通に付き合えばよくない?」
「お付き合いできそうな気がしないから困ってるの」
あ、そういえばそうか、と早苗は納得する。
なんとなく、日奈子の告白を断る男なんていないような気がしてその可能性を無意識に除外していたのだった。
「とりあえず、いい相手がいるなら告白してこい」
「じゃあ早苗お願い」
「私も一緒に行けと?面倒だけどいいよ」
「じゃなくて早苗と付き合ってることにしたい」
「ああ、なるほど……ん?好きな人って私か!」
日奈子の真意に気づき、思わず動揺して……はいなかった。
「あっ。と、友達としてだからね!勘違いしないでよね」
「ツンデレしなくてもわかってるって。うーん、だけど、ちょっと無理があると思うよ。女の子同士で付き合ってるって言っても普通信じないでしょ」
「大丈夫だよ。いまどき珍しくもないし」
日奈子が自信たっぷりに言い放つので私は信じることにした……
「そうかなあ……?」
……信じたいと思った。
「えっと、だめかな……?」
私は即答できなかった。
やはり、女の子と付き合っていることを公言することにはどうしても二の足を踏んでしまう。本当に付き合ってるならまだしも……
「うーん、わかった、いいよ。恋人のフリする」
気づいたら私は、日奈子の望みをかなえたいという気持ちが強くなり、承諾してしまった。
「やった、ありがとう!じゃあ帰って作戦会議しよー」
日奈子が私の腰に手を回して歩き出そうとすると、途端に私はフリーズしてしまう。
(近い……)
「どうしたの?」
「……こんなにくっつかれたら勘違いしてしまうかも」
「え?……あっ、高峰にはこんなことしてないよ」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど……でも、私にはするの?」
「早苗は変なこと言うなー。いつもこんな感じじゃないの」
「そういえばそっか」
勘違いしないで私。
日奈子のこれは友達の距離だから……日奈子がこんなに近くにいるのに、かえって遠くに感じるのはどうしてだろう。
日曜日。
私はもう何度訪れたかわからない日奈子の家の玄関先にいた。
「こんにちは」
「あら早苗ちゃんいらっしゃい。日奈子、彼氏連れてくるんじゃなかったの?」
「彼氏……?」
結局、日奈子も私と付き合っていることを言えずに今日に至ったらしい。
日奈子は大丈夫だっていうけど、やっぱり変に思われるんじゃないかな?と内心では最後まで不安だった。だけど、それはどうやら杞憂だったみたいだ。
どうやら日奈子は、家でことあるごとに私の話ばかりしていたらしく、実は隠れて付き合っているんじゃないかと疑われていたらしい。うん、めっちゃ恥ずい。でも日奈子はもっと恥ずかしいだろうけどね。
そして私は日菜子のご両親と話し合って、お見合いは無事キャンセルされることになった……はずだった。
(後日談)
さらにしばらくして、日奈子は再び私に相談を持ち掛けてきた。
「早苗聞いて!この前のお見合い予定の人なんだけど」
「うん」
「女の子の恋人ならかまわないから会いたいって言うんだよー」
「日奈子、先方には女の子と付き合ってるって言ったの?」
「言ってない。父さんも言ってないって」
「なにそれこわい」
後でわかったことだけど、この縁談の相手は同じ学校の男子生徒だった。
あちらも釣書を突き返された後でそのことを知ったらしく、さらに日奈子が私と付き合っていることにも気づいて熱を上げたらしい。
「え、どういうことよそれ」
「あいつ筋金入りの百合厨だったのよ」
それじゃ恋人のふりをするために日奈子とイチャついてるところを見て萌えてたのかよ。
「そっか……お見合い行かなくてよかったな……」
生徒達が部活に行ったり家に帰ったりする中で、帰宅部員である女子生徒二人が教室の後ろのほうでまったりとお茶を飲んでいた。
帰宅部が帰宅していないので、つまりはサボりである。
背の高い方が牧野早苗。今回の語り手。
やや男勝りな性格で面倒見が良い。
この日も親友である小川日奈子の相談に乗っているところだった。
* * *
「うちの会社に取引先から縁談を勧められてるの」
「また?」
「そう、また」
「私に言わせりゃ、勝手にいいとこのお坊ちゃんと引き合わせてくれるなんてうらやまなんだけど」
「興味ナシ。父さんには申し訳ないけど心底行きたくない。今度はどうやって逃げようかな」
「あああ、この前は本当にごめん」
「ううん。早苗は悪くないよー。悪いのは高峰だよー」
机に突っ伏して悩む日奈子を見つめた。
日奈子の父が勤める金属加工メーカー・中野鉄工の取引先の多くは古い体質なのか、婚姻で縁を繋ぎたがる傾向にあり、今までに数度お見合い話が舞い込んできている。
日奈子はそんな見合いを躱すために彼氏がいることにしてやり過ごしたことがあった。
今の時代、流石に交際相手を引き離してまで婚約を強要するわけにもいかず、めでたく見合い自体がお流れになったのだが、数度見合い話が持ち上がる頃になると、父から「一度その男を連れてきなさい」と言われ、私達とはただの知り合いである高峰大という同級生の男子を彼氏として紹介することになった。
しかしその男、何を勘違いしたのか本物の彼氏のように振舞ってきて最後にはストーカーまがいの行為に及び始め、いよいよ身の危険を感じた日奈子は、私と一緒に色々と工作して縁を切ることに成功した。
だが、その代償として表向きにも別れたという形を取らざるを得なかった。偽装がバレなかったのは不幸中の幸いだけど、ともかくそのせいで今回新たに対策を練らなきゃいけなくなった。
「今度は問題なさそうな相手いないかなあ」
「問題なさそうな奴かー。偽装交際も難しいもんだよね」
高峰大という男がストーカー化するとは思わず、このときばかりは人を見る目の無さを痛感したものだった。
「あ、でも条件にあう人はいるの」
「なるほど、それで」
「勘違いしてストーカーになりそうにない人で」
「うん」
「勘違いされても問題なさそうな人で」
「うん?」
なんか怪しいな。
「というか私が好きな人なので問題ないというか」
「いるんかい!じゃあ普通に付き合えばよくない?」
「お付き合いできそうな気がしないから困ってるの」
あ、そういえばそうか、と早苗は納得する。
なんとなく、日奈子の告白を断る男なんていないような気がしてその可能性を無意識に除外していたのだった。
「とりあえず、いい相手がいるなら告白してこい」
「じゃあ早苗お願い」
「私も一緒に行けと?面倒だけどいいよ」
「じゃなくて早苗と付き合ってることにしたい」
「ああ、なるほど……ん?好きな人って私か!」
日奈子の真意に気づき、思わず動揺して……はいなかった。
「あっ。と、友達としてだからね!勘違いしないでよね」
「ツンデレしなくてもわかってるって。うーん、だけど、ちょっと無理があると思うよ。女の子同士で付き合ってるって言っても普通信じないでしょ」
「大丈夫だよ。いまどき珍しくもないし」
日奈子が自信たっぷりに言い放つので私は信じることにした……
「そうかなあ……?」
……信じたいと思った。
「えっと、だめかな……?」
私は即答できなかった。
やはり、女の子と付き合っていることを公言することにはどうしても二の足を踏んでしまう。本当に付き合ってるならまだしも……
「うーん、わかった、いいよ。恋人のフリする」
気づいたら私は、日奈子の望みをかなえたいという気持ちが強くなり、承諾してしまった。
「やった、ありがとう!じゃあ帰って作戦会議しよー」
日奈子が私の腰に手を回して歩き出そうとすると、途端に私はフリーズしてしまう。
(近い……)
「どうしたの?」
「……こんなにくっつかれたら勘違いしてしまうかも」
「え?……あっ、高峰にはこんなことしてないよ」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど……でも、私にはするの?」
「早苗は変なこと言うなー。いつもこんな感じじゃないの」
「そういえばそっか」
勘違いしないで私。
日奈子のこれは友達の距離だから……日奈子がこんなに近くにいるのに、かえって遠くに感じるのはどうしてだろう。
日曜日。
私はもう何度訪れたかわからない日奈子の家の玄関先にいた。
「こんにちは」
「あら早苗ちゃんいらっしゃい。日奈子、彼氏連れてくるんじゃなかったの?」
「彼氏……?」
結局、日奈子も私と付き合っていることを言えずに今日に至ったらしい。
日奈子は大丈夫だっていうけど、やっぱり変に思われるんじゃないかな?と内心では最後まで不安だった。だけど、それはどうやら杞憂だったみたいだ。
どうやら日奈子は、家でことあるごとに私の話ばかりしていたらしく、実は隠れて付き合っているんじゃないかと疑われていたらしい。うん、めっちゃ恥ずい。でも日奈子はもっと恥ずかしいだろうけどね。
そして私は日菜子のご両親と話し合って、お見合いは無事キャンセルされることになった……はずだった。
(後日談)
さらにしばらくして、日奈子は再び私に相談を持ち掛けてきた。
「早苗聞いて!この前のお見合い予定の人なんだけど」
「うん」
「女の子の恋人ならかまわないから会いたいって言うんだよー」
「日奈子、先方には女の子と付き合ってるって言ったの?」
「言ってない。父さんも言ってないって」
「なにそれこわい」
後でわかったことだけど、この縁談の相手は同じ学校の男子生徒だった。
あちらも釣書を突き返された後でそのことを知ったらしく、さらに日奈子が私と付き合っていることにも気づいて熱を上げたらしい。
「え、どういうことよそれ」
「あいつ筋金入りの百合厨だったのよ」
それじゃ恋人のふりをするために日奈子とイチャついてるところを見て萌えてたのかよ。
「そっか……お見合い行かなくてよかったな……」
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