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遠征
しおりを挟む一か月というのはこんなに長かっただろうか。
エリーの出征は、僕たちが話し合ってすぐだった。
それからの生活は、朝晩の会話が無くなったことを除けば、変わりなく過ぎてゆく。
毎朝起きて、食事を取り、領地からの報告や使用人たちからの報告を受け、処理していく。
頭の片隅ではいつも彼女の心配をしていた。
最初はスチュアートも使用人たちも気を使ってくれか、そっとしてくれていたが、一度ボーっとして階段を踏み外してからは、常に誰かが付き添う厳戒態勢だ。
エリー、君が帰ってこないとそろそろ仕事が滞ってしまいそうだ。
そんな事を毎晩便箋に書き綴り、封をして、引き出しにしまう。
こんな個人的な手紙を軍に預けるわけにもいかず、出せない手紙が増えていく。
引き出しに手紙をしまった後、まだ眠る気にもなれず、そのまま肘をついた両手に頭を預ける。
庭園の花の季節が変わってしまった。君はダイアンサスの花も好きだろうか。
帰ってきたら好きな花を聞こう。彼女の好きなものを知ろう。
神に彼女の無事を祈って、寝台に入る。眠れるわけではない。エリーのためにも屋敷を回していかなければいけないのだから少しでも体を休めなければ。
「旦那様、奥様からの手紙でございます。」
「エリーから?」
「はい、先ほど使者の方がいらっしゃいまして。」
受け取った手紙には確かにエリーの文字が書かれている。
内容は、戦場ではあるがつつがなく過ごしていること、あと半月ほどで帰れる見込みであることが簡潔に書かれている。文末には短く、僕がいなくて寂しいとあった。
「スチュアート、この先二週間ほどの予定はどうなってる?」
「奥様が帰宅されるのですね、おそらくは帰国に併せて領地から大旦那様がいらっしゃるでしょう。それ以外の急ぎの仕事はございませんね……もうお出迎えの準備を始めてもよろしいかと。」
「わかった、ありがとう。食材などの手配はいつも通りに任せるよ。」
「かしこまりました。」
まず何から手を付けようか。
庭の手入れもしていない。
エリーのお気に入りの茶葉のストックを確認しなくては。
献立の相談もしたい。
リネンはどうだっただろう。
これはもう、メイド長に直接確認したほうが早いかもしれない。
そのあと厨房へ行って、それから庭園だ。
「スチュアート、少しメイド長のところに行ってくる!」
「また階段から落ちられては困りますからね、私も参りますよ。」
執務机になんて座っていられない。
スチュアートを伴って、僕はあわただしく部屋を出た。
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