こちらが妻の姫将軍です

マトン

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姫将軍の夫

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「閣下の夫と聞いてどんな猛者が来るのかと思ったら意外に普通の方ですね...。」

中庭までの回廊を歩いている中、零したのはジョーカー様だった。
その言葉を聞いて僕とエリーは立ち止まり、互いに顔を見合わせた。

「僕は花のない平々凡々な男ですので……。」
「いえ!失礼しました!決してそういった意味ではございません!!」
「はぁ……。」

顔を青くしたジョーカー様は慌てた様子で、首を振った。
その様子を見て、エリーはくすくすと楽しげだ。

「だから言ったではないですか、グレン。わたくしの夫は大変つつましやかで家庭的な殿方だと。」
「ずっと婚約者も持たなかった将軍閣下が急に結婚されたので、剣で勝負して負けたとか、そういうのだと思ってたんですよね。」
「こら、旦那様の前ですよ。」

見かねたコールマン様の肘がジョーカー様の脇腹に入った。あれは痛そうだ。
どうやら軍の方々は武勇伝に欠くことがないエリー急な結婚に驚き、いろいろと憶測を張り巡らせたようだ。おそらく姫将軍の夫も武に長けた方だと考えたのだろう。
残念ながら、当の僕は手習い程度の剣の腕しかない。

「なるほど。残念ながら、僕は剣術などはさっぱりで。エリーとはお見合い結婚ですよ。」
「えぇ、その通りですわ。」

視線を向けると、エリーも大きくうなずいた。

「僕は剣術には覚えがありませんが、勘定事は得意です。いざとなれば手先は器用ですので、刺繍でもレース編みでもできますよ。目も利きますので鑑定なんかもできるかもしれないですねえ。」

裁縫は伊達に姉さまたちに鍛えられてはいない。
兄さまも何処に行ってもやっていけるようにと、僕に様々なことを教えてくれた。
目利き、勘定事もそのうちの一つだ。
自分にできることを指折り数えている僕を見て、エリーは面白そうにしている目を部下たちに向けた。

「とても家庭的で素敵な殿方でしょう?フィエンの協力がなければ、このようにわたくしが軍属でいることも難しかったかもしれません。」
「将軍閣下がそのように仰るのでしたら問題ありませんわね。グレンが申し訳ございません。第五師団の連中からよくよくよろしく頼むと、念を押されておりましたので。」
「いいえ、エリーは軍にとっても大切なひとだと思いますので、致し方ないかと。」

僕のようなぽっと出の男と、たった三か月の婚約期間で結婚式を執り行ったのだ。
周囲の心配する気持ちもすこしはわかるように思う。

「先ほどは不躾に申し訳ありませんでした。私とアレッサは将軍閣下とアルストロメリア侯爵をしっかり護衛いたします。何事もないと思いますが、『姫将軍の夫』はいい話のタネですので、どうかお気を付けください。」
「いえ!滅相もない!」

ジョーカー様は胸に手を当て敬礼すると、緩く頭を下げ謝罪した。
ぼくは慌てて、それを止める。

「見ての通り、僕は『普通の男』ですので大丈夫ですよ。パーティの隅で、中庭の花を見て大人しくしています。王宮の庭園に興味が有りましたし。」
「では、挨拶回りだけ先に済ませてしまいましょう。王妃殿下にもぜひフィエンを紹介してほしいと託られておりますから。」

そうと決まれば早く、とばかりにエリーは僕の手を引いて歩き始めた。 
護衛役を買って出てくれた副官二人を置き去りにして。

「……将軍閣下が、まるで、市井の少女のように……。」
「ぼうっとしていないで、早く追いかけますわよ!」

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