【本編完結】渡り人の世話役ですが、業務内容に性欲処理は含まれますか?!

はるみさ

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本編

22.話せない

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 翌朝、サーシャは温かい胸の中で目が覚めた。

 (あ…私、レイ様と…。)

 サーシャは恥ずかしさと嬉しさで目の前の胸に擦り寄った。トクトクと力強くレイの心臓が動いているのが聞こえる。

 (レイ様に出会えて良かった…。私にこんな幸せが訪れるなんて、夢みたい。レイ様が愛してくれるなら、この花の痣も悪くないかもね。)

 サーシャは微笑み、自分の胸元に目をやった。

 「……え?」

 サーシャの身体から痣が消え去っていた。

 「な、なんで?…なんでないの?」

 隣にレイが寝転んでいることも忘れて、サーシャは慌ててベッドから降りようとする。昨晩の影響で上手く立てず、ベッドから降りるとクシャとその場に座り込んでしまう。

 それでも何とか立ち上がり、昨晩交わっていた姿のまま、姿見の前に立つ。至る所にレイが付けたキスマークがあるが、今はそんなことよりも花の痣のほうが大事だった。

 サーシャは右胸の少し上…痣があった場所に触れる。そこには元々何もなかったかのように滑らかな肌があるだけだった。

 「本当に…ない。」

 サーシャは呆然とする。

 (無くなればいいといつも思っていたのに…無くなったら寂しいと思うなんて…。それにー)

 サーシャはレイがどのような反応をするのかが気になった。

 (レイ様はこの花の痣を愛おしいと言っていたから…残念がるかもしれない。)

 その時、ベッドがギシッと軋む音がした。
 サーシャが振り向こうとすると、後ろからフワッとシーツが掛けられ、ギュッと抱きしめられる。

 「レイ様!おはようございます…。」

 自分が裸で姿見の前に立っていたということが恥ずかしくて、サーシャは顔を赤くして俯く。

 レイはサーシャの頭の上でクスクスと笑う。

 「おはよう、サーシャ。」

 「す、すみません。朝からこんな、はしたなくて…」

 「いや、サーシャの後ろ姿が綺麗すぎて、思わず後ろから襲いかかるところだった。」

 そう言って、耳元にキスを落とす。
 サーシャはそのキスで昨日の熱を思い出し、身を捩った。

 「…ぁん。」

 「これから大事な話をしなきゃならないんだ。
 あんまり煽らないで。」

 そう言いながらも、レイはサーシャを後ろから抱きしめつつ、シーツ越しに身体を撫でていく。サーシャの股の間から昨日たっぷり注ぎ込まれた、レイの白濁がつーっと垂れてくる。

 「はっ…ん。だって、レイ様がぁ…。」

 「ごめん…。でも、離れ難くて…。
 サーシャの隅々まで覚えておきたいんだ…。」

 「ん…もぅ。昨日散々確かめたくせに。
 それにそんな離れちゃうような言い方しないで下さい。
 相性を確かめ合った私たちは、これで婚約者なんでしょう?」

 サーシャが振り返ってレイの顔を覗き込むと、レイは少し困ったように微笑んでいた。

 レイはベッドに戻り、服を拾っていく。
 サーシャは呆然とその背中を見つめる。

 「…レイ様?」

 その時、扉がノックされた。

 「サーシャ様、レイ様、お目覚めですか?」

 侍女長のアニーだ。アニーがレイの名前を呼んだことで、レイがここで一晩を過ごしたのは周知の事実なのかと思ったら、サーシャは再び布団の中に逃げ込みたくなった。

 レイはガウンを羽織り、サーシャがシーツで身体を巻き、ベッドに戻ったのを確認すると、扉を開けた。

 アニーがサーシャの姿にも動じず朝の挨拶をする。
 レイも軽く挨拶を返して、アニーに言った。

 「サーシャを綺麗にしてあげてくれるかな。
 私は隣室に戻るよ。すまないが、セオだけ呼んでくれるか?」

 それだけ言うと、レイはさっさと部屋に戻ってしまった。

 (先程の困ったような笑みはなんだったのかしら…)

 サーシャはぼんやりとレイが出ていった扉を見つめていた。


   ◆ ◇ ◆


 朝食の場にサーシャが現れた時には既に両親もレイも着席していた。和やかに皆で朝食をとり、食後のお茶を飲み終わったところで、レイが口を開いた。

 「サーシャ。
 ご両親にお伝えすることがあるんじゃない?」

 「…やっぱりレイ様は気付いてたんですね。」

 「そりゃあ、ね。」

 事情を知らないサーシャの母は、一人首を傾げている。

 「サーシャ、何かあったの?」

 「…消えたんです。花の痣が。」

 「まさか!」

 サーシャの母が立ち上がり、サーシャに近付く。
 サーシャはワンピースの襟元を少し引っ張り、母に痣があった場所を見せた。

 母が信じられないその光景に息を呑む。

 「…ない、わ。」

 「…本当に消えたのか…。」

 父がぼそっと呟く。
 母はサーシャを抱きしめて、泣いている。

 「グスッ…良かった…本当に良かったわね。
 サーシャ…っ!」

 「…ありがとう、お母様。」

 サーシャの隣に座るレイも微笑んでいる。レイがあからさまに残念そうな顔をしないことに、サーシャは安堵していた。

 サーシャの母はサーシャを愛おしそうに見つめ、その頭を撫でていた。

 「なんで消えたのか分からないけど、婚約のタイミングで消えるなんて、まさに奇跡だわ。サーシャが何かしたの?」

 「いいえ。今朝起きたら消えていたの。
 昨晩までは確実にあったわ。レイ様にも確認してもらってるから、間違い無いわ。

 …もしかしてレイ様が消してくれたんですか?」

 レイは唇をぐっと噛んだ後、その質問には答えずに話し出した。

 「サーシャ…聞いてくれ。
 君に謝らなきゃいけないことがある。」

 「謝らなきゃいけないこと、ですか?」

 「あぁ……。実は…

 その花の痣が出たのは俺のせいなんだ。」

 「…レイ様の、せい?」

 予想外の話にサーシャは呆然とする。
 声を荒げたのはサーシャの母だった。

 「それはどういうことですか?!

 内容によっては、私は貴方をサーシャの婚約者として認めることはできません!この痣でこの子がどれだけ苦しんできたか…。」

 レイはサーシャの母の責めにも目を逸らさず、真っ直ぐとその瞳を見つめる。

 「どういうことかと問われても、言葉の通りです。
 …ですが、詳しく話すことは出来ません。

 私が意図的に付けた物ではありませんが、結果としてサーシャさんを長年に渡り、深く傷付けることになりました。本当に申し訳ありませんでした。」

 レイは立ち上がり、頭を深く下げた。

 「……な、なんで、レイ様が?

 だって、この痣が出てきた七年前にはレイ様はこの世界にもいなかったじゃない…。なんで、私の痣がレイ様に関係あるの…?」

 声が震える。大好きなレイが、自分を苦しめてきたあの痣の原因だなんて、信じたくなかった。

 レイは目に涙を溜めたサーシャの視線から逃げるように目を逸らした。

 「……話せない。ごめん。」

 サーシャは声を荒げる。

 「だったら……
 だったら、最初から全部話さないでよ!

 痣のことも自分には関係ないフリしてたら良かったじゃない!!レイ様がそんなの黙っておいてくれたら、何も知らずに幸せだったのに!!」

 「……それは出来なかった。

 自分のせいだって分かってるのに、黙っていることなんて出来ない。たとえ許してもらえなくても、ちゃんと謝りたかったんだ。

 それに、痣は紛れもなく俺のせいだ。サーシャのせいでも、子爵夫人のせいでもない。他の人に責任をなすりつけるような卑怯な真似はしたくなかった。」

 サーシャは掌をギュッと握りしめる。

 「本当にレイ様のせいなの?
 ……どうしても真実を話せないの?」

 「ごめん。」

 レイのその返事を受けて、サーシャは諦めたように目を瞑った。その拍子に涙がこぼれ落ちる。

 「少し…一人にさせて。」

 サーシャは椅子から立ち上がり、扉に向かう。
 サーシャの母もキッとレイを睨みつけるようにしてから、サーシャに続いた。

 部屋にバタンと扉の閉まる音が響くと、レイは力尽きたように椅子に座った。

 サーシャの父が人払いをして、口を開いた。

 「レイ君…大丈夫かい?」

 「…はい。もうこれで、終わりです。

 子爵、どうかサーシャが良き伴侶と巡り会えるよう…宜しくお願い致します。」

 サーシャの父は首を横に振った。

 「…レイ君。昨日から一緒に過ごしてみて、私はやはり君がサーシャの隣にいるべきだと思った。君と共にいる時のサーシャは輝いている。

 サーシャは元々明るい子ではあったが、いつも無理をしているようだった。しかし、君といると、サーシャは心の底から笑えている気がするんだ。

 それにサーシャも君を愛しているんだろう。だからこそ、真実を教えてもらえなかったのが辛かったのだと思う。」

 レイはじっと話を聞いている。

 「大体……君は必要以上に自分を責め過ぎだ。痣のことだって、サーシャが君の番であっちの世界では当たり前のことで、君がやったわけじゃないだろう。」

 「でも…でも、私はサーシャの苦しみも知らずに、今までのうのうと生きて来ました。私の番じゃなければ、あの痣がなければ…サーシャはもっと辛い思いをせずに生きて来れたはずです。」

 レイは、痛いくらいに拳を握った。

 「……果たして辛い思いをせずに生きていくことが幸せなんだろうか。辛いことを知っているから、幸せの重みも分かるとは思わないか?

 ……レイ君。私はサーシャを愛している。
 あの子には心の底から笑っていてほしい。
 それが出来るのは…君の隣だ。

 やはり…サーシャに真実を話すべきだ。」

 レイは椅子から勢いよく立ち上がると、机を叩いた。

 「それは駄目ですっ!!
 …サーシャが子爵夫妻の実の子でないと知れば、どんなに傷付くか…。それに子爵夫人だって…。

 …お願いです。サーシャにはこれ以上なにも伝えないでください…!」

 部屋には重苦しい雰囲気が流れるだけだった。
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