【本編完結】渡り人の世話役ですが、業務内容に性欲処理は含まれますか?!

はるみさ

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本編

23.俺の番【sideレイ】

 結局、レイはその日の昼にセオと共に子爵邸を出た。
 見送りは子爵だけだった。

 少しサーシャの部屋のカーテンが揺れた気がしたが、サーシャの姿を見れば、ここを離れ難くなってしまうため、気付かないフリをした。

 最後まで子爵は止めてくれたが、レイの意思は固かった。これ以上、自分にサーシャを縛り付けるわけにはいかないと思った。

 水晶宮への帰路、セオが心配してくれた。しかし、「大丈夫」とはとても言えなかった。ものすごい喪失感に襲われ、気力が湧かない。

 レイは馬上で狼花を見つけた時のことを思い出していた。


   ◆ ◇ ◆


 サーシャが水晶宮を出て行った日の翌日、レイはセオの勧めで遠乗りをした。

 サーシャが乗馬をすることが出来なかったので、今まではやらなかったがレイは乗馬の心得があった。それを知ったセオが沈み込んでいるレイを励まそうと、遠乗りに誘ってくれたのだ。

 久しぶりに風を切って走るのは気持ちよくてレイの気持ちは少し上昇した。

 その時、ふと懐かしい香りがした。その香りを追いかけていくと、青い一輪の花があった。

 「狼花…懐かしい…。」

 レイが馬を降りて、その花に手を伸ばそうとした瞬間、セオが叫んだ。

 「触らないで下さいっ!!」

 セオが声を荒げるのを初めて聞いたレイは驚いて手を引っ込めた。

 「危なかった…。

 レイ様、こちらは忌み花と言います。花芯に猛毒があり、大変危険です。賢王を殺した花とされ、この国ではモチーフなどとして使うことも禁じられていて、国民から忌み嫌われている花です。悪魔の花という別名も付いています。」

 レイは信じられない話に驚愕を隠せない。

 「レイ様…?」

 そして、同時に思い出した。狼の番である人間に出る痣は、この狼花であったことを。

 「セオ……。
 も、もしこれを身体に描いたらどうなる?」

 「見つかったら罰せられるでしょう。」

 「…描いたのではなく、痣…などで現れた場合はどうなる…?」

 「私はそういった事例を聞いたことがないので何とも。

 まぁ、周囲にはいい顔はされないでしょうね。隠して生きていくしかないと思います。

 ただ、もしその痣が現れたのが若い女性であれば、確実に結婚は出来ないでしょう。ほんの小さい痣であれば、分かりませんが。」

 「そうか…。」

 レイはそっと狼花に手を伸ばす。

 「レイ様…!!」

 セオの制止も無視して、レイはそれを摘み取った。

 「セオ。この花は俺のいた世界では狼花という名前が付いている。そして、この花の花弁は、万能薬になるんだ。俺のいた世界では国を挙げて、この花を栽培し、万能薬に加工していた。そして、この花が感染症から国を救ったこともある。」

 「ま…まさか。」

 「本当なんだ。

 これをこの国の薬師に伝えて調べることが出来るかい?」

 「は、はい…!
 まずは、宰相に報告し、許可を取る必要がありますが、可能です。でも、この花は見つけ次第燃やすよう言われているので、見つけるのがかなり難しいかと…。」

 「大丈夫。俺に任せて。」

 そこから、レイは嗅覚を駆使して狼花を採取した。宰相のところへ行き、話をする。どういった病気に使われるのかと聞かれたので、万能薬なので幅広く様々な治療に使われることを説明し、国で流行った感染症から人々を救った話もした。

 それを聞いた宰相は、目の色を変えた。その感染症だと思われる病が国の北部で流行り始めていると言う。

 レイはそのまますぐに薬師のところへ連行され、知っていることを全て話した。薬師も興奮してその話を聞き、必ず万能薬を作るとレイに約束してくれた。

 そして、その日から数日間、レイとセオは朝から晩まで狼花採取に尽力することとなったのだった。

 その間、レイはずっとサーシャのことが気がかりだった。サーシャは確実に自分の番だから、必ず痣があるはずだと思った。

 レイを突き飛ばしたあの夜、サーシャが「見ないで」と言っていたこと、結婚できないと言っていた理由も痣のせいだと説明がついた。結婚や恋愛の話をした時にふと見せる悲しそうな顔は、自分の番の証である痣のせいだと思ったら、やり切れなかった。

 狼の獣人で、人間の番を持つ者は稀だ。実際、レイの無くなった両親も狼の獣人同士だった。狼花の痣が出ることは知っていたが、実際に目にしたことはなかった。そのため、狼花を実際に見るまではその存在を忘れていたくらいだ。

 レイはそんな自分を殴ってやりたかった。

 能天気に番であるサーシャに出会えたことにレイが浮かれていた一方で、サーシャは痣があることに苦しみ続けてきたんだと想像したら…それを償わなくてはと思った。

 レイは、痣を消した後は自分の下に縛り付けるのではなく、サーシャの思うままに生きてもらおうと決めた。サーシャの存在を知ってしまった今、それは自らの半身を失うように辛いが、それがサーシャを傷付けた償いだと思った。


   ◆ ◇ ◆


 子爵邸から戻ってきたレイはまるで抜け殻のようだった。薬師から万能薬の完成を聞いても、宰相に感謝されても、感動は薄かった。ただ狼花の汚名を濯ぐことが出来たのは嬉しかった。

 何をしていても考えるのは、サーシャのことばかりだった。

 サーシャは今なにをしているだろうか…
 笑っているだろうか、泣いていないだろうか…
 誰かと婚約の話は進んでいるのだろうか…
 もう二度と会えないのだろうか…

 そんなうわの空で毎日を無気力に過ごすレイを見て、セオもサラもリズも心配していた。

 そんな時、一通の手紙が届いた。

 差出人はサーシャの父であるトランディア子爵だった。

 レイは手紙を開いて、内容を確認し、目を見開く。

 「…っ!まさか…こんなに早く…。」

 その内容は、サーシャの婚約を知らせる手紙だった。

 覚悟していたはずなのに、サーシャが誰かの物になると思ったら、許せなかった。レイの掌がグシャッと手紙を握り潰す。

 (絶対に渡さない…
 サーシャは俺の番だ!)

 レイにもう理性は残っていなかった。
 残るのは番を求める、レイの本能だけだった。

 レイはこの世界で初めて獣化した。
 全身を青白い毛に覆われた銀色の瞳の狼だ。

 レイは大きく雄叫びを上げる。

 そして、その姿のまま窓から飛び出し、愛する番の下へ走り出したのだった。
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