鳥籠の姫は初恋の旦那様を誘惑する

はるみさ

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1. その気にさせてみせましょう⑶

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 「セレーノ様。いらっしゃいませ」

 「おう……」

 約束通り、一週間後にセレーノ様は夫婦の寝室に来てくれた。

 ガウンとかで来てくれるかと期待していたが、やはりそんなことはなかった。普通にしっかりと服を着ている。
 対する私は、風呂上がりに用意されていたやたら生地が薄い服……だけじゃ寒いので、ガウンをしっかり着込んでいる。

 セレーノ様が入って、私は退路を塞ぐように扉の前に立った。

 そして、鍵を……

 ガチャリ。

 すぐさま彼が振り返る。

 「おい、なんで閉めるんだよ?」

 「セレーノ様が逃げそうだからです」

 「逃げねぇよ。大体、逃げるとしても内側からなんだから鍵開けられるだろうが」

 「そうですけど……数秒は時間稼ぎができるかなって」

 苦し紛れにそう答えると、彼は笑った。

 「ははっ! 姫さんから逃げるのなんて簡単だよ。俺がどれだけ強いか知らないのか?
 俺を逃がしたくないなら、鎖でも用意しとかなきゃな」

 確かに彼の腕は、今まで見た誰よりも太い。
 扉なんて、鍵が開かなくても壊せば簡単に開けられそう。

 だから鎖が必要なのか……

 「わかりました。次回は鎖を用意します」

 「真面目な顔で言わないでくれ、本当に可笑しいな。
 最初に会った時から思ってたけど、姫さんって変な奴だ」

 「そう、ですか……やっぱり普通じゃないですか?」

 大した教育も受けていない姫だということが早々にばれてしまったかも。

 本当の淑女とはどういうものか、パーティに出たことがない私にはわからない。

 普通じゃないことも、教養がないことも分かっている。でも、セレーノ様にはがっかりされたくなかった。

 何を指摘されるのか怖くて、下を向く私。

 でも、降って来たのは、彼の穏やかな声だった。 

 「あぁ。俺を見ても怖がらないどころか、抱けなんて……ほんと変わってるよ。面白い」

 「面白い……?」

 予想外の評価に私が顔を上げると、彼は室内に置いてあるソファに移動した。

 ソファの自分の隣をポンポンと叩く彼。

 「……な、姫さんが嫌じゃなかったら、少し話さないか?
 こっちに嫁いできてから、忙しくてゆっくり話す機会なかっただろ?」

 思わぬお誘いについ涙腺が緩みそうになる。

 こっちに嫁いできて一週間。
 セレーノ様は辺境伯のお仕事で忙しく、寝室はもちろん一緒に食事をする時間も取れなかった。

 私が避けられているのかと思っていたけれど……本当に忙しかっただけなのね。

 私は嬉々として、彼の隣に座った。

 「はい! 話しましょう! 話したいです!
 セレーノ様のこと、たくさん聞かせてください!」

 前のめりで彼に近づくと、彼はやっぱり私との距離を取った。

 「い、いや……それよりも姫さんの話をしよう。

 なぁ、姫さんはこちらに嫁いできて数日間、どうだった? 困っていることはないか? この家は使用人が少ないから。専属の侍女がいなくて不便だろう。今、手配している最中ではあるんだが……」

 「専属、侍女……ですか? 特に必要だとは感じていないですが」

 「そうなのか? 帝国に住んでいる時は少なくとも四、五人はいただろう?」

 「いえ。基本的に部屋から出ることは禁じられていたので、私専属というのはいませんでした」

 「……部屋から出ることが禁じられてた?」

 しまった! 訝しげに彼が私の顔を見つめる。

 私が王家の厄介者だとバレれば、こんな嫁はいらないと帝国に突き返されてしまうかもしれない。

 「あのっ、その、身体が弱かったので、外に出れなかったのです」

 「あぁ、なるほど。確かに姫さんの身体が弱いという噂は聞いたことがあったな……
 そんなに弱いのか?」

 「い、いえ! 不思議なことにルーパス国に来てから身体の調子が良いのです」

 セレーノ様は顎に手を当て、不思議そうな顔をして考え込んでいる。

 「辺境はルーパス国の中でも寒暖差が大きいから来たばかりの奴は大体体調を崩すんだけどな……風土が身体に合ったのか?」

 「はい! なので、どうぞご心配なさらず!
 それに屋敷の方々が皆さん親切にしてくださいますので。本当に素敵な方ばかりで!」

 そう言った瞬間、セレーノ様の表情が優しく崩れた。

 「あぁ……この屋敷の者は、俺の家族のような存在でな……」

 そこからセレーノ様は屋敷の方々一人一人について、教えてくれた。

 みんなのことを話す彼の顔はとても優しくて……

 セレーノ様のお屋敷は、王弟の住居とは思えないほど、大きくもなく、使用人も少ない。

 執事長のビルさん、その奥様で侍女長のナリアさん。
 お二人のお子さんであるキースさんはセレーノ様付の執事で、他には数名の使用人がいるだけだった。

 一人で過ごして来た私には、急にたくさんの使用人に囲まれるよりずっと居心地が良かったが。

 「私もその一員に早くなりたいな……」

 ぽそっとそう呟けば、セレーノ様が驚いた顔で私を見る。
 しかし、戸惑った表情を見せるだけでセレーノ様は何も言わず、部屋には沈黙が広がった。

 やっぱり、まだ家族として認めてはもらえないのね……

 結構遠そうな道のりに小さな溜息をつく。

 それに気付いた彼は少し困ったように話し始めた。

 「あの、な……? 俺は、確かに王弟だが、ずっと王家で育ってきたわけじゃない。

 ほとんどの時間を騎士団で過ごしてきたし、仲間と一緒に平民の酒場にも遊びに行くような人間だ。俺を育ててくれたのは、この屋敷のみんなであり、騎士団で……俺は王家なんて柄じゃない。
 当然貴族たちは皆、そんな俺のことを王族として、認めていないだろうし、俺も普段は自分が王族だなんて思っていない。

 姫さんにとっては……そんな奴が夫だなんて嫌だろう? 大体帝国の姫君が妻だなんて俺には荷が重すぎるんだ。だったら、結婚は形だけにして――」

 「ふふっ、平民の酒場なんて楽しそうでいいですね」

 私がそう話を遮ると、彼ははぁ~と困ったように息を吐いた。

 「俺が話したいのはそこじゃなくて――」

 「関係ないです」

 「は?」

 セレーノ様は、また訳がわからないと言った顔をして、私を見つめている。

 「周りの人がなんて言おうと、関係ないんです。
 セレーノ様がどんな人かは他人に教えてもらわなくても、自分で知っていきます。

 それに……もう遅いですよ。形だけなんて無理です」

 セレーノ様の綺麗な橙の瞳をじっと見つめる。

 私の胸に燻るこの熱が、少しでもセレーノ様にも届くように。

 「私、セレーノ様のこと、もう好きになっちゃいました」




 
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