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第7話 ヨウの正体?

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 遠くでゆっくりと移動する光は航行する船の灯り、動かない光は街の建物や街灯の灯りだった。海から吹く夜風を顔に感じて、マリーンは心地よかった。

「ここにいたのか。」

 マリーンがふりむくと、ジーンとコナが立っていた。

「みつかっちゃったか。」

「支部長は夕食のあと考えごとをされる時、いつも屋上ですから。」

 マリーンはまた前を向いて胸壁に手をついた。3人は並んでしばらく街の光を見ていたが、ジーンが口火をきった。

「で、あいつはなんて?」

「私もとても興味があります。」

「それがね。」

 マリーンは頭をかかえてしまった。

「まったく、ただでさえ忙しいのに…。絶対にここだけの話だから。いい?」

 ジーンとコナは深くうなずいた。



 ジーンが部屋から出ていったあと、マリーンはヨウのとなりに座った。

「さあ、ぜんぶ話して。」

「なにから話せばいいのかなあ。」

 ヨウは頬に手を当てて考えこみ、真剣な顔つきになった。

「マリーンさんは、異世界の存在って信じる?」

「え? イセカイ?」

 唐突な単語にマリーンは意味がわからず、しばらく考えこんでしまった。

「それは…海の向こうの外国ってこと?」

「ちがうよ。わかんないかな、こことは全く別の世界。異なる世界ってこと。」

「はあ。」

 マリーンはヨウの顔をジロジロ見つめた。ヨウはすこし怒りモードになった。

「今、僕のことを『かわいそうなひと』って思ったでしょ?」

「と、とんでもない! どうぞ続けて。」

 ヨウは心外な顔をしてマリーンをにらんでいたが、話を再開した。

「ま、信じる信じないはまかせるよ。僕はこの世界とは異なる世界にある『日本』という国から来たんだ。」

「ニッポン?」

 マリーンは頭の中に世界地図を広げたが、そんな国名はまったく聞いたことがなかった。

「僕はね、日本の『北海道』っていう場所を守る防衛隊の隊員だったんだ。」

「ちょっと待って。ニホン? ニッポン? どっちなの?」

「どっちでもいいじゃないか。」

 頬を膨らませたヨウを、マリーンは疑わしげな目で見た。

「で、ホッカイド? がどうしたって?」

 ヨウはマリーンの疑いの目を気にしないことにして話を再開した。

「ある日、北から敵国が大軍で攻め込んできたんだ。あっという間に上陸されて、敵の戦車が押し寄せてきて…」

「敵国? あなたのいた国は戦争をしていたの?」

「一方的に攻め込んできたんだよ。」

「『戦車』って、戦象のこと?」

「もう、話の腰をおらないでくれる? とにかく、僕は勇敢にもヒトマル式対戦車砲をもって、たったひとりで敵の大戦車軍団に立ち向かったんだ。」

 ヨウは自分の話に酔いしれだしたのか、立ち上がって身振り手振りをいれはじめた。

「はあ…。」

 ヨウの話の半分も理解できないマリーンは、あとでナダ先生に頼んで良い病院を探してあげようと密かに心に決めた。

「無惨に破壊された旭川で僕は市街戦に身を投じたんだ。僕の目の前には敵の戦車が迫り、ふと見ると、逃げ遅れた子どもがすぐそばに! 僕がその子を助けようとして飛びだした時、戦車が僕を撃った…!」

「へえー、すごいね。それで?」

 ヨウは両腕をひろげて歌うように言った。

「すさまじい爆風と熱風が僕の身を包みこみ、僕は死んだのか? と思ったんだけど、気がつくと僕は知らない草原に倒れていた…。」

「ふう~ん。それで?」

 ヨウは今度は自分で自分の体をだくしぐさをした。

「僕は立ち上がり、あるき続けた…。そして水も食料も尽きたとき、ようやくこの街にたどり着いたんだ。あとは知ってるよね。」

 マリーンは目をパチパチさせると何からつっこもうかと考えたが、まずは直球を投げた。

「そうね。まず、異世界の人なのに、言葉が通じるのっておかしくない?」

「そんなの、僕はしらないよ。魔女とやらにでも聞けば?」

「聞ければね。あのね、あなたを疑うわけじゃないんだけど、何か異世界から来たって証拠はある?」

 ヨウはキッとマリーンをにらむと短めの黒髪をガリガリとかいた。

「これだよ。信じてないんだ。だから話すのはイヤだったんだ! まあいいや、これを見てよ。」

 ヨウは自分のバックパックから色々な物を出しはじめた。

「これは9ミリ拳銃、これは手りゅう弾。これはタブレットだよ。」

(もうとっくに見てるんだけど…。)

「うわあ、すごいね! 何に使うの?」

「なんだかさ、さっきから微妙にバカにしてない?」

 マリーンはとんでもない、という風に首をふった。用途を聞きたいのは確かに本当だった。
 ヨウは格好をつけて拳銃を構えた。

「これはね、遠くの敵も倒せる武器なんだ。」

「へー。やってみせて。」

「あ、あぶないからまたにしよう。」

 ヨウは拳銃をすぐにしまいこんでしまった。

「そっちの『テリュウダン』は?」

 ヨウは慎重に手りゅう弾を手にとるとマリーンの目の前につきだした。

「これは、このピンを抜いて投げると爆発して敵をいっぺんにやっつけるのさ。」

「やってみて。」

「あぶないからまた今度ね。」

 マリーンはイラッとして、薄くて平べったいツルツルの板をヨウからひったくった。

「じゃ、これは何につかうの!」

 マリーンが板をさわると、知らない文字や数字があらわれた。

「な、なにこれ?」

「パスワードをいれないと使えないのさ。これには重要機密情報が入っているから見せられないね。」

「結局、何もないじゃない?」

「だから、信じる信じないはまかせるって言ったじゃん。」

 ヨウはあくびをしながら立ち上がるとドアに向かった。

「あ~あ、暇。おなかへったなあ。」

「ちょっと! 話はそれだけ?」

 部屋にひとり残されたマリーンは差し出した自分の手をじっと見つめるしかなかった。




「どう思う?」

「アホらしすぎて話にならないな。さっさとあんなやつ、魔女商会にひきわたそう。」

 ジーンはバッサリ切り捨てたが、コナはしきりに考えこんでいる風だった。

「コナ、どうしたの?」

「いえ…。実は…。」

 コナは迷いながら、ためらいがちに話しはじめた。

「今日、裏庭で射撃練習をしていた時、盗み聞きをするつもりはなかったのですが。」

「なんの話?」

「アワシマ氏と…ナダ先生が…木陰に行くのが見えまして…。」

「まさかおまえ、あとをつけたのか!?」

 いつも冷静なはずのコナは、顔を赤らめてうつむいてしまった。

「あ、あの、決してやましい気持ちではなく、その…純粋に、人間族の生態に興味があり観察を…。」

「わかったわかった、で、何を聞いたんだよ?」



「なぜ戻ってきたのですか? 旅の費用も渡したのに。」

 ボサボサ頭をかきむしったナダは白衣のポケットからフラスクを取りだすとゴクリとひと口飲んだ。
 ヨウはナダからフラスクをとりあげた。

「僕にも飲ませてよ。…あれ? なんだ、ただの水じゃん。」

「か、返してください! 雰囲気だけを楽しんでるんです。」

 ナダは慎重にフラスクをポケットにしまいこんだ。

「あんなお金、みんなで居酒屋で食べたらなくなっちゃったよ。」

「ワシの今の給料じゃ、あれが精一杯なんです。とにかく、早くこの街から出たほうがいい。あんたが魔女どもに見つかっちまったら何をされるかわからんですぞ。」

 ヨウはクスクス笑った。

「ナダ先生は僕じゃなくて自分の心配をしてるんでしょ。大丈夫、誰にも喋らないからさ。だから、またお金をかしてよ。」

「それって脅迫か!?」

「とにかく、僕は逃げないよ。旅なんてめんどくさいし、やだ。なんだかここにいた方がいろいろと面白そうだし。」

「な、なんということを。ん? 誰だ、そこにいるのは!」



「なんとか見つからずにその場を離れました。」

 コナが抜群の記憶力で再現した会話の内容を聞いて、ジーンが怒りだした。

「やはりあの医者、なにか知ってやがるな。問い詰めてやる!」

「ムダですね、しらを切るに決まっています。」

 マリーンは考えこんで首をかしげた。

「ナダ先生とヨウさんは知り合いだったってこと? そういえばナダ先生っていつからいるんだっけ?」

「結構な古株らしいですね。」

「コナはどう思う?」

 妖精族の団員は言葉を慎重に選びながら発言した。

「アワシマ氏の発言は支離滅裂のようですが、たしかに不思議な点もあります。」

「どこがだよ。」

「衣服と所持品です。あんな珍しい柄や素材は見たことがありません。特にその『たぶれっと』でしたか? 支部長のお話からすると未知の技術のように見えます。」

 ジーンはあきれた口調でコナに反論した。

「んなもん、妖精族の鍛冶屋とかに頼めばどうとでも作れるだろ。」

「かもしれません。ですが…半分嘘は全部嘘よりタチが悪いですね。」

 コナは意味深長につぶやくと少し考え、また言いにくそうに声をだした。

「アワシマ氏が軍人だと主張する点は、簡単に確認できる方法がありますが…。」

 マリーンが期待に満ちた目でコナにすがりついた。

「さすがコナ! どうするの!?」

「軍人でしたら厳しい訓練を受けて鍛えているはずです。体を見れば一目瞭然かと。たとえば、シャワー室ですとか。」

「それだ!」

 叫んだかと思うと走り去ったジーンのあとを、マリーンも慌てて追った。

「あ、あたしも!」
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