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第八話
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第八話
———まずい。
鎧軍団と激しい斬り合いを続ける中、頭の中に短い思考がよぎった。
剣を振るうたび全身の骨は悲鳴を上げ、地面を蹴る脚は立っている感覚すら無くなってきている。身体は鉛のように重く、自分でも分かるほどに動きが鈍くなっていた。
戦闘が始まってからどのくらい時間が経ったのかもう分からない。斬り伏せた鎧軍団の数は十人を超えた所で数えるのを止めた。
しかし、弱音を吐いたところで敵は止まってはくれない。
「———ふッッ!!」
迫り来る凶刃を全身を軋ませながら弾き飛ばし、一度距離を取る。
目の前にいる敵は五人。連携の取れた攻撃を絶え間なく浴びせてくる非常に統率の取れた厄介な相手である。また、個々の戦闘能力も高く一人になったからといって油断は出来ない敵であることをゼロは知っている。
「ッッ!!」
呼吸を整え直したゼロは、悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、再び攻撃を仕掛ける。
が、目に見えて動きの鈍った剣撃はあっさりと躱されてしまう。
踏み止まって斬り返す剣で連撃を重ねようと試みようもするが、運悪く足の疲労が限界に達したらしく、ずるり、と盛大に足を滑らせた。
「———」
頭の中が一瞬にして真っ白になり、何の抵抗もする事もなく、ゼロは無様に地面に倒れ込んだ。
その致命的な隙を鎧軍団が逃すわけがなく、一番ゼロの近場にいる者が地面を蹴り飛ばした。
「くっ」
地面に倒れ込んだ衝撃で我に帰ったゼロは、土で頬を汚しながらも、眦を吊り上げて顔を上げた。
そして、身体から一気に血の気が引いた。眼前に迫った鎧軍団の一人が大上段に構えた剣を何の躊躇もなくゼロの脳天に振り下ろしていた所だった。
「———あ」
防御も回避ももう間に合わない、と無意識に考えてしまったゼロは、ただ呆然と無防備に振り下ろされた剣を眺めることしかできなかった。
大気を切り裂いて脳天に迫る剣は何故かやけに遅く感じた。
(ああ、死ぬのね……)
迫り来る凶刃に死を予感する。さっきまで熱を帯びていた身体は嘘のように冷めきり、不思議と死が迫っている実感がなく、怖くなかった。
(そういえば、ナルガは大丈夫かしら?)
死の間際に数日前に会ったナルガのふと思い出した。
今になってナルガの事を思い出したのか分からないが、なぜか彼の姿は心の奥底に強く印象に残っていた。
(結構、冷たくしちゃったからね……)
いくら自分の事情に巻き込みたくはなかったとはいえ、かなりの冷たい態度でナルガを突き放したことを今になって後悔する。
剣は既に眼前まで迫っている。
(……ここで死ぬなんて、残念ね)
ゼロはぽつりと心の内で呟くと、ゆっくりと目を閉じた。
その瞬間、耳をつんざく音が響きわたった。
「…………え?」
何事かと、ゼロはおそるおそる目を開く。
そして、目の前に広がった光景に目を剥いた。
特徴的な白い外套に黒髪。後腰に帯びた片刃用の漆黒の鞘。
この印象的な格好を忘れるはずもない。この後ろ姿は———
「ナルガ!?」
ゼロは口から驚きの声を漏らした。
———まずい。
鎧軍団と激しい斬り合いを続ける中、頭の中に短い思考がよぎった。
剣を振るうたび全身の骨は悲鳴を上げ、地面を蹴る脚は立っている感覚すら無くなってきている。身体は鉛のように重く、自分でも分かるほどに動きが鈍くなっていた。
戦闘が始まってからどのくらい時間が経ったのかもう分からない。斬り伏せた鎧軍団の数は十人を超えた所で数えるのを止めた。
しかし、弱音を吐いたところで敵は止まってはくれない。
「———ふッッ!!」
迫り来る凶刃を全身を軋ませながら弾き飛ばし、一度距離を取る。
目の前にいる敵は五人。連携の取れた攻撃を絶え間なく浴びせてくる非常に統率の取れた厄介な相手である。また、個々の戦闘能力も高く一人になったからといって油断は出来ない敵であることをゼロは知っている。
「ッッ!!」
呼吸を整え直したゼロは、悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、再び攻撃を仕掛ける。
が、目に見えて動きの鈍った剣撃はあっさりと躱されてしまう。
踏み止まって斬り返す剣で連撃を重ねようと試みようもするが、運悪く足の疲労が限界に達したらしく、ずるり、と盛大に足を滑らせた。
「———」
頭の中が一瞬にして真っ白になり、何の抵抗もする事もなく、ゼロは無様に地面に倒れ込んだ。
その致命的な隙を鎧軍団が逃すわけがなく、一番ゼロの近場にいる者が地面を蹴り飛ばした。
「くっ」
地面に倒れ込んだ衝撃で我に帰ったゼロは、土で頬を汚しながらも、眦を吊り上げて顔を上げた。
そして、身体から一気に血の気が引いた。眼前に迫った鎧軍団の一人が大上段に構えた剣を何の躊躇もなくゼロの脳天に振り下ろしていた所だった。
「———あ」
防御も回避ももう間に合わない、と無意識に考えてしまったゼロは、ただ呆然と無防備に振り下ろされた剣を眺めることしかできなかった。
大気を切り裂いて脳天に迫る剣は何故かやけに遅く感じた。
(ああ、死ぬのね……)
迫り来る凶刃に死を予感する。さっきまで熱を帯びていた身体は嘘のように冷めきり、不思議と死が迫っている実感がなく、怖くなかった。
(そういえば、ナルガは大丈夫かしら?)
死の間際に数日前に会ったナルガのふと思い出した。
今になってナルガの事を思い出したのか分からないが、なぜか彼の姿は心の奥底に強く印象に残っていた。
(結構、冷たくしちゃったからね……)
いくら自分の事情に巻き込みたくはなかったとはいえ、かなりの冷たい態度でナルガを突き放したことを今になって後悔する。
剣は既に眼前まで迫っている。
(……ここで死ぬなんて、残念ね)
ゼロはぽつりと心の内で呟くと、ゆっくりと目を閉じた。
その瞬間、耳をつんざく音が響きわたった。
「…………え?」
何事かと、ゼロはおそるおそる目を開く。
そして、目の前に広がった光景に目を剥いた。
特徴的な白い外套に黒髪。後腰に帯びた片刃用の漆黒の鞘。
この印象的な格好を忘れるはずもない。この後ろ姿は———
「ナルガ!?」
ゼロは口から驚きの声を漏らした。
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