罪人は魔女の為に命を捨てる〜いつのまに転生した僕は魔女と共に世界の運命を潰します〜

影落ちかも鴨さん

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僕と幼馴染

僕は仮面商人と取引をした

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 村の外れにある広大な大森林の中には魔物が大量に湧き出る他にも一度入ったら二度と帰ってこれない『自然の迷宮』として近くの町や村には知れ渡っていた。
 誰しもが立ち入りない謎多き広い大森林の中で一人の少年ぼくと謎の人物が出会うことは何もなしに狙って出来るような芸当ではなかった。

「どうして此処にいるですか、仮面商人さん。」

 そう言って仮面商人と呼んだ人物から僕は視線を元に戻し、止めていた魔物の解体作業を続けた。
 「ここを教えたのは私だと言うのに……」と顔の仮面を手で押さえて阿呆らしくも何かしらを嘆きつつも次に発する頃には必ずしもいつものように陽気な声が聞こえる。

 僕と仮面商人は初対面ではない。最初に会ったのは僕の頭の傷が治り、母親に頼んで一緒に隣町の図書館にてこの世界のことを一人で調べていた時であった。

『少年君、君はこの世界の摂理を知っているかい。』

 そう聞こえて前を向くと黒マントを深々と被り不気味な仮面つける怪しい人物が前の席に音もなく座っていた。

『少年君はこの世界の理を知っているかい。』
『この世界の秩序を知っているかい。』
『この世界の偽りを知っているかい。』
『この世界の絶対とは何か知っているかい。』
『この世界の何を知っているかい。』

 何個もの問いがただ一人の僕だけに問われる。不思議と僕の周りには誰も居なく、不自然に仮面の人物と僕だけになっていた。僕はその全ての問いに「知らない。」と答えた。最近までに僕はこの世界に転生したのだから、何も知らない赤子同然である。僕は全知でも何でもないこの世界だと無知たるこの僕には答えなど知るはずもなかった。
 その問いの答えに仮面の奥に隠されている表情から歓喜な笑い声が聴こえて気がした。だが、笑い声が聴こえたのは気のせいではなく『ククククッ』と徐々に僕にもはっきりと聞こえるほどに大きくなっていった。
 すると黒マントの懐から出てくる古びた書物を見せるようにしてページを指先が鋭い手袋で見開きの状態にし僕に差し出した。

『少年君はそんな意味を持たない書物よりもこちらを読破した方がより有意義になるだろう。』

 仮面の人物が僕に見せたのは僕が知りたいこの世界の情報ではなく、魔物や"魔法"の構造や生態能力が詳細に記載された本であった。

『少年君の言い分も分かるが試しに読んでみるといい、その書物よりも少年君にとって価値のある書物であることは私が保証しよう。』

 そんな心の言葉を読んだかのような台詞に僕は仮面の人物に気味の悪さを感じた。何故この人物が僕に"魔法"を記載された本を差し出されたのか意味が分からなかった、僕はこれを意地でも読まないと思っていた。けれど何故だか惹かれるその本に反抗な意味が抗いつつも、今読んでいる本を閉じて"魔法"が記載される本を読み始めた。
 この世界には魔法という概念そのものがあるが魔法を使う者はそれほど居ない。人が魔法を使えればそれだけでこの世界の何よりにも勝る矛や盾と化す。けれどそれと同時に他人からには魔法だけで自分たちの生命を握る人ではなく人の皮を被った化け物に他ならなかった。魔法を使えれば怪物となり、人ではなくなる。僕はその一歩を踏み出そうとしていた。数ページが止まることもなく進む。止めようと頭の中では考えても指先は止まらず、次へ次へとページをめくる。ここには善人の考えは一切無いこれにあるのは幼少期に荒ぶる自分では抑えきれない好奇心であった。
 ものの数時間で開いた本を閉じる。全てを読んでしまった、全てを理解してしまった。頭の中には魔物の生態や能力のみならず、急所や弱点や解体の仕方までで刻み込んだ。魔法は初級の全ての構造を読み解き、機能や威力や性能を熟知した。
 もう後には戻らない、人という枠組みのセーフティーラインを僕は超えてしまった。やってしまったと後悔と可能性が増えたと前向きな考えが互いに半々だ。

『どうやら、少年君もお気に召したようだね。やはり読ませた甲斐があったようだ。』

 そう言って僕に渡した本を懐に戻して仮面の人物は席を立った。

『あの……』
『ああ、試したいのがあるならこの町から少し離れた場所に広大な森林でするのをオススメするよ。あそこには沢山の魔物まとがいるからね。』

 そう言って仮面の人物はこの場から立ち去った。
 その日以降から僕は仮面の人物に教えられた町外れの広大な森林にて魔物を狩りながら魔法の練習をし、練習終わりにまたもや音もなく自らを『仮面商人』として僕の前に現れては僕が狩った魔物の亡骸と彼が持っている情報と取引をする。そんな日々が今日も続いていた。


「ほおほお、これで次は何と交換をするのかな。」

 魔物の解体を終え、今までのを『収納魔法』から取り出した戦利品を仮面商人はじっくりと眺めながら交換する商品を僕に問う。
 いつもなら数分掛けて入手するモノを選ぶが今日はもう既に何にするか決めていた。

「これ全てと『無効魔法』を交換だ仮面商人。」

 僕がそう言うと仮面商人は僕が狩った魔物の鑑定していた手を止め、腹を抱え盛大に笑い出した。今までにないくらいに盛大にだ。

「いいだろう、いいだろう。その幼き脳に教えてやろう『無効魔法』を数分で使えるようにしよう。」

 そして今日も僕は仮面商人と取引する。僕はまた一歩、戻らぬ怪物の道へ進んでいった。
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