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朝焼けの街 (カハルサーレ)
32. 宿を探す
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≪フィオ、また私が歩いても大丈夫そう?≫
≪うん、そんなに気にしなくても大丈夫だよ~≫
路地裏でリュックをこっそり覗き込むと、つぶらな瞳がきゅるるんと輝いた。丸々としたお腹の上で、丸々とした林檎を大切そうに抱えている。なんだろう、この癒し系アイドルは。
ごめんね、と断ってリュックを背負いなおす。
≪ふぅ。後は宿屋? 高級な宿じゃないけど、女の子の一人旅でも安全そうなところってありそう?≫
カチューシャに相談する。軍資金の差し入れのおかげで、今夜は個室をゲットできるかもしれない。
≪広場に一軒あったわ。でも貴族や商家が利用しそうなのよね≫
≪それはちょっとなぁ……身分証は必要?≫
≪普通は宿帳に署名するだけじゃろ≫
≪名前だけ? 住所は?≫
≪………………≫
カチューシャとの会話に割って入ってきた爺様がそこで押し黙る。
≪もしかして宿屋は他人に予約とか手続きとかさせてたの?≫
≪いや、かつて諸国を巡っていたときはじゃな、普通に一人で……うむ、住所は適当に書いたり書かなかったりな気が……思うに、今の時代はというと……うーむ、手続き的なことは……≫
つまりこの国で“しがない教師”になってからは、秘書だか召使だかにやらせてたな。あるいは顔パスか?
大変当てにならない協議の結果、私の場合は異国の緑頭巾を示しつつ日本語でまくしたて、国内の住所がないことを察していただくことにした。お金さえ払えば仔細を問わない宿は、この国にもあるそうだ。
≪あ、そういえば一階は食堂だったけど、宿屋っぽい看板があったかしら≫
カチューシャの記憶を頼りに、大通りの外れにあるお店へ向かう。
宿屋の看板って、どこも四弁の丸い花の形にくり抜いてあるらしい。なんでも昔、隣国に有名な宿屋の亭主がおり、その人の屋号にあやかっているのだとか。
……戦争予定の相手国と、仲いいじゃん。
店の前では大きな酒樽をテーブルにして、明らかにガラの悪そうなおじさんたちが酔っ払っている。各ジョッキに青いストローが挿してあるのだけど、誰も使わず、豪快にあおってた。
勇気を振り絞って中に入ったら、無愛想な店主に「子どものくる場所じゃない」と摘み出された。「これ持って帰りな」と焼き栗を一袋頂いてしまう。
地球と同じ茶色の鬼皮を割ったら、例の四色の色してる栗が顔を出すって珍しいけどさ。赤・黄色・青・紫のどれが出てくるか、びっくり玉手箱で面白いけどさ。
欲しいのは個室とベッドだ。
最初に話していた広場の高級ホテルは、扉横に立つ守衛さんが優しそうだったからいけるかも、と思ったら丁重に追い払われた。
ホテルの前で待っているように言われ、辛抱強く待っていたのに。戻ってきた年輩の守衛さんが小粒なマフィンを四つもくれて、そしてにこやかに手を振ってくる。
やっぱり例の四色一つずつだな、うん。でも私が欲しいのはチガウ。
……なぜだろう、この街に泊まれる気がミジンコもしない。
肩を落としていたら、フィオがお手洗いを訴えはじめたので、大急ぎで外壁を目指す。
相変わらず施錠もしていない外壁の小さな扉をくぐって、周囲に人がいないことを確かめる。カチューシャのお墨つきをもらってからリュックを地面に置くと、フィオが慌てて飛び出した。
小さな緑竜が外壁の陰にうずくまるのを、私とカチューシャで囲ってなるべく隠す。この街は例外なのかもしれないけれど、理論上はどこかから人間がひょいと出てきたっておかしくない場所なのだ。
竜用の尿瓶って、売っては……ないよね。なんか代用できるものを対策しなきゃ。
そうして夕日に照らされながら元の森へと戻った。
今日も野宿である。でも警察にかち会わなかっただけマシだと思おう。
フィオのことを考えたら、自警団まで夜回りする街の路地裏ホームレス泊は無理だ。寝るときくらいはリュックの外で、伸び伸びさせてあげたいもの。
と呑気に思って、しばらく歩いて、日が完全に暮れて。
私は泣きたいのを我慢しながら、赤団栗を握りしめて焚き火を作ってた。スパルタ爺様からは、≪補助具に頼りすぎるな。もっと早い段階で手から離せ!≫とせっつかれ中。
悪巧み二人組としては、一昨日と昨夜、お世話になった古代の砦に引き返してほしかったみたい。私が欲張ってさらに北東へ進んだせいで、機嫌が悪いったら。
暗くなっても次の砦が見当たらず、四つ足の道の上で野宿決定だもんね。少しでも北へ進みたい。そう欲をかいた私が全面的に悪い。
ごめんなさい、は既に何回か言い尽くした。フィオは許してくれたけれど、一歩間違えたら生死に関わる。落ち込む暇があったら、せめてお腹を満たそう。これ以上、足手まといになっちゃ駄目だ。
酒場の焼き栗の残りを頬張る。切り込みが一つひとつしっかり入っていて助かった。
栗の種類が地球とは微妙に違うのかな、それとも煎り方が違うのかな。ちょっと引っ張ると鬼皮も渋皮もつるんと剥けてくれる。
今度は青い実が出てきた。もう冷えてしまったし、黄色以外はまだ抵抗あるけど、どれも芯まで鮮やかに濃い色で……栄養がある証拠に違いない、健康でヘルシーだ、きっと。
栗の後は、高級ホテルの小粒マフィン。コロコロした球体で、底の3分の1はアイシングで覆われていた。クリームの四色は流石に人工着色料かと思ったら、マフィンの頭部に水飴で貼りつけてある花びらと同じ植物の根や茎で色づけするとのこと。
≪砂糖系は普通、そういう色してるでしょ? 昔から≫
≪薬剤の色づけも同じ植物を使う。専用の材料が揃わなければ、魔法陣を描く際にも代用するぞ。どこにでもあるからのぉ≫
……カチューシャと爺様の解説についていけない。砂糖って白か茶色じゃないの。
抹茶や紫芋の粉を混ぜ込むようなものよね、うん、きっと自然でナチュラルだ、多分。
マフィンの中には林檎みたいな食感の果物の甘煮とハーブの刻んだ葉っぱが入っていて、やはり内側も四色のうちのどれか。
……可愛いが、御飯系が食べたい。
隣にちょこんと置いた爺様にも、食べ物のエネルギーを取り込めるのなら遠慮なく取り込んでね、と断っておく。
お墓にお供えする感覚? 幽霊なら、そういう方法で摂取するんじゃないかなと提案すると、爺様が興味深げに≪ふむ。検討してみよう≫と答えた。
じゃあ挑戦するのかと思いきや、霊の魔力とはなんぞや、そもそも霊の定義とはこれ如何に、とまたワケの解らないことをぶつぶつ探求しはじめたので放置決定。
生の果物はフィオ用だ。そのほうがお腹が膨れたとかで、リュックに隠れていたときのミニミニサイズのまま、赤林檎一個としつこく格闘している。
元のサイズでお腹いっぱい食べさせてあげたいなぁ。
背の高い樹々の合間に月が一つも見えないのは、空が曇っているからだ。夕方から雲が増えてきてるなとは思っていたけど……ここまで暗い夜空は落ち着かない。
アイス棒の余りを一本割って、炎にくべてみよう。頭部の印は青。しばらくジジジ、と変な音を立ててただけだったけど、急に炎全体が青くなった。距離標ならぬ、ちびピラミッドの壁面が妖しくゆらめく。今宵、唯一の風除けである。
≪うわぁ、きれ~い≫
フィオがはしゃいでくれる。寝床を整える頃には、地球でもよく見る焚き火の色に戻ったので、今度は別の一本を半分に割って投入した。
純粋な真紅に変わる。なるほどこういう色味なのね、とようやく納得がいく。青よりも持ちが悪かったけど、フィオがふたたび喜んでくれたので何よりだ。
本当は、こんな砂利道の上で寝るなんて、不安でしょうがない。しかも森の中だよ。底なしに怖いよ。でも意地でも笑顔を作ってみせる。だってフィオが知ったら、絶対に自分を責めちゃう。
地球の小石を四つ、結界代わりに並べた。爺様が『おまじない』とディスってくるのが、逆にありがたい。言い合ってたら、気がまぎれるもの。
小さい頃に暗闇を怖がっていたら、日本のおじいちゃんが教えてくれたんだよ。就寝前の儀式だよ、どんな時だって安心して眠れるって効果がちゃんとあるんだよ。石をペットにする人間だって実際にいるんだよ。
……カチューシャ、これ見よがしにドン引き顔しないで。素直に感心してるフィオも心配だけど。
「カピちゃん、もう寝るよ~」
白樺の枝に尻尾でぶら下がっていた小猿を日本語で呼び寄せる。両手で包むと毛皮がすべすべ、ビロードみたい。
それにしても風が多少出てきた。昨夜は途中から凪いでくれたのに。まだ湿った空気を運んできてはいないと思う。でも元々が乾燥した場所だったから、自分の感覚に自信を持てない。
朝になって大雨だったらどうしよう。針葉樹の下に逃げ込んでも、相当な濡れ鼠になりそうだ。
そこでやっと、今日市場で探すべきだったのは傘だと思い至る。今みたいにミニミニになったフィオくらいは、お腹側に抱きしめて守ってあげたい。
あとはキャンプ道具一式でしょ、それに防寒具。何もかもが全然、足らない。こんな大事なこと、なんで気がつかなかったんだろう。
現代地球じゃ断捨離やミニマリストが流行で、必要なものはその都度ネット注文すれば済む。全財産を背負って流浪の生活だなんて、想像の埒外だ。
やっぱり来た道を戻る? あと何日か、あの街に通うべき?
でも、市場も大通りの店舗も、それらしき商品は並んでいなかった。金物屋さんは修理がメインで、店先には薬缶やフライパン一つ置いてなかったし。テントだって売ってたとしても、生涯インドア一択だった私には設置の仕方もわからない。そもそも大きすぎて、爺様の魔法の収納袋には入らないのでは。
「キキッ」
――カピちゃんの声で我に返った。
悪いことばっかり考えてたら、悪いことを引き寄せちゃう。不安にまみれた思考はキャンセルだ。その前に青い馬の連峰まで辿り着けばいいんだもの。
フィオと私には、魔グマのミーシュカも、闇から守ってくれるおまじない石も、幸せを指し示してくれる水先案内人も、頼もしい女王様犬も、賢い爺様ペディアもいるじゃない。
魔王軍は最強。きっと平気の河童巻き。超絶簡単アップルパイだ。
****************
※「チベスナ」……チベットスナギツネの略です。
「簡単アップルパイ」……芽芽語。英語のeasy as pie(とっても簡単)から。林檎なのはリズム感と本人が好きだから、でしょうか。
≪うん、そんなに気にしなくても大丈夫だよ~≫
路地裏でリュックをこっそり覗き込むと、つぶらな瞳がきゅるるんと輝いた。丸々としたお腹の上で、丸々とした林檎を大切そうに抱えている。なんだろう、この癒し系アイドルは。
ごめんね、と断ってリュックを背負いなおす。
≪ふぅ。後は宿屋? 高級な宿じゃないけど、女の子の一人旅でも安全そうなところってありそう?≫
カチューシャに相談する。軍資金の差し入れのおかげで、今夜は個室をゲットできるかもしれない。
≪広場に一軒あったわ。でも貴族や商家が利用しそうなのよね≫
≪それはちょっとなぁ……身分証は必要?≫
≪普通は宿帳に署名するだけじゃろ≫
≪名前だけ? 住所は?≫
≪………………≫
カチューシャとの会話に割って入ってきた爺様がそこで押し黙る。
≪もしかして宿屋は他人に予約とか手続きとかさせてたの?≫
≪いや、かつて諸国を巡っていたときはじゃな、普通に一人で……うむ、住所は適当に書いたり書かなかったりな気が……思うに、今の時代はというと……うーむ、手続き的なことは……≫
つまりこの国で“しがない教師”になってからは、秘書だか召使だかにやらせてたな。あるいは顔パスか?
大変当てにならない協議の結果、私の場合は異国の緑頭巾を示しつつ日本語でまくしたて、国内の住所がないことを察していただくことにした。お金さえ払えば仔細を問わない宿は、この国にもあるそうだ。
≪あ、そういえば一階は食堂だったけど、宿屋っぽい看板があったかしら≫
カチューシャの記憶を頼りに、大通りの外れにあるお店へ向かう。
宿屋の看板って、どこも四弁の丸い花の形にくり抜いてあるらしい。なんでも昔、隣国に有名な宿屋の亭主がおり、その人の屋号にあやかっているのだとか。
……戦争予定の相手国と、仲いいじゃん。
店の前では大きな酒樽をテーブルにして、明らかにガラの悪そうなおじさんたちが酔っ払っている。各ジョッキに青いストローが挿してあるのだけど、誰も使わず、豪快にあおってた。
勇気を振り絞って中に入ったら、無愛想な店主に「子どものくる場所じゃない」と摘み出された。「これ持って帰りな」と焼き栗を一袋頂いてしまう。
地球と同じ茶色の鬼皮を割ったら、例の四色の色してる栗が顔を出すって珍しいけどさ。赤・黄色・青・紫のどれが出てくるか、びっくり玉手箱で面白いけどさ。
欲しいのは個室とベッドだ。
最初に話していた広場の高級ホテルは、扉横に立つ守衛さんが優しそうだったからいけるかも、と思ったら丁重に追い払われた。
ホテルの前で待っているように言われ、辛抱強く待っていたのに。戻ってきた年輩の守衛さんが小粒なマフィンを四つもくれて、そしてにこやかに手を振ってくる。
やっぱり例の四色一つずつだな、うん。でも私が欲しいのはチガウ。
……なぜだろう、この街に泊まれる気がミジンコもしない。
肩を落としていたら、フィオがお手洗いを訴えはじめたので、大急ぎで外壁を目指す。
相変わらず施錠もしていない外壁の小さな扉をくぐって、周囲に人がいないことを確かめる。カチューシャのお墨つきをもらってからリュックを地面に置くと、フィオが慌てて飛び出した。
小さな緑竜が外壁の陰にうずくまるのを、私とカチューシャで囲ってなるべく隠す。この街は例外なのかもしれないけれど、理論上はどこかから人間がひょいと出てきたっておかしくない場所なのだ。
竜用の尿瓶って、売っては……ないよね。なんか代用できるものを対策しなきゃ。
そうして夕日に照らされながら元の森へと戻った。
今日も野宿である。でも警察にかち会わなかっただけマシだと思おう。
フィオのことを考えたら、自警団まで夜回りする街の路地裏ホームレス泊は無理だ。寝るときくらいはリュックの外で、伸び伸びさせてあげたいもの。
と呑気に思って、しばらく歩いて、日が完全に暮れて。
私は泣きたいのを我慢しながら、赤団栗を握りしめて焚き火を作ってた。スパルタ爺様からは、≪補助具に頼りすぎるな。もっと早い段階で手から離せ!≫とせっつかれ中。
悪巧み二人組としては、一昨日と昨夜、お世話になった古代の砦に引き返してほしかったみたい。私が欲張ってさらに北東へ進んだせいで、機嫌が悪いったら。
暗くなっても次の砦が見当たらず、四つ足の道の上で野宿決定だもんね。少しでも北へ進みたい。そう欲をかいた私が全面的に悪い。
ごめんなさい、は既に何回か言い尽くした。フィオは許してくれたけれど、一歩間違えたら生死に関わる。落ち込む暇があったら、せめてお腹を満たそう。これ以上、足手まといになっちゃ駄目だ。
酒場の焼き栗の残りを頬張る。切り込みが一つひとつしっかり入っていて助かった。
栗の種類が地球とは微妙に違うのかな、それとも煎り方が違うのかな。ちょっと引っ張ると鬼皮も渋皮もつるんと剥けてくれる。
今度は青い実が出てきた。もう冷えてしまったし、黄色以外はまだ抵抗あるけど、どれも芯まで鮮やかに濃い色で……栄養がある証拠に違いない、健康でヘルシーだ、きっと。
栗の後は、高級ホテルの小粒マフィン。コロコロした球体で、底の3分の1はアイシングで覆われていた。クリームの四色は流石に人工着色料かと思ったら、マフィンの頭部に水飴で貼りつけてある花びらと同じ植物の根や茎で色づけするとのこと。
≪砂糖系は普通、そういう色してるでしょ? 昔から≫
≪薬剤の色づけも同じ植物を使う。専用の材料が揃わなければ、魔法陣を描く際にも代用するぞ。どこにでもあるからのぉ≫
……カチューシャと爺様の解説についていけない。砂糖って白か茶色じゃないの。
抹茶や紫芋の粉を混ぜ込むようなものよね、うん、きっと自然でナチュラルだ、多分。
マフィンの中には林檎みたいな食感の果物の甘煮とハーブの刻んだ葉っぱが入っていて、やはり内側も四色のうちのどれか。
……可愛いが、御飯系が食べたい。
隣にちょこんと置いた爺様にも、食べ物のエネルギーを取り込めるのなら遠慮なく取り込んでね、と断っておく。
お墓にお供えする感覚? 幽霊なら、そういう方法で摂取するんじゃないかなと提案すると、爺様が興味深げに≪ふむ。検討してみよう≫と答えた。
じゃあ挑戦するのかと思いきや、霊の魔力とはなんぞや、そもそも霊の定義とはこれ如何に、とまたワケの解らないことをぶつぶつ探求しはじめたので放置決定。
生の果物はフィオ用だ。そのほうがお腹が膨れたとかで、リュックに隠れていたときのミニミニサイズのまま、赤林檎一個としつこく格闘している。
元のサイズでお腹いっぱい食べさせてあげたいなぁ。
背の高い樹々の合間に月が一つも見えないのは、空が曇っているからだ。夕方から雲が増えてきてるなとは思っていたけど……ここまで暗い夜空は落ち着かない。
アイス棒の余りを一本割って、炎にくべてみよう。頭部の印は青。しばらくジジジ、と変な音を立ててただけだったけど、急に炎全体が青くなった。距離標ならぬ、ちびピラミッドの壁面が妖しくゆらめく。今宵、唯一の風除けである。
≪うわぁ、きれ~い≫
フィオがはしゃいでくれる。寝床を整える頃には、地球でもよく見る焚き火の色に戻ったので、今度は別の一本を半分に割って投入した。
純粋な真紅に変わる。なるほどこういう色味なのね、とようやく納得がいく。青よりも持ちが悪かったけど、フィオがふたたび喜んでくれたので何よりだ。
本当は、こんな砂利道の上で寝るなんて、不安でしょうがない。しかも森の中だよ。底なしに怖いよ。でも意地でも笑顔を作ってみせる。だってフィオが知ったら、絶対に自分を責めちゃう。
地球の小石を四つ、結界代わりに並べた。爺様が『おまじない』とディスってくるのが、逆にありがたい。言い合ってたら、気がまぎれるもの。
小さい頃に暗闇を怖がっていたら、日本のおじいちゃんが教えてくれたんだよ。就寝前の儀式だよ、どんな時だって安心して眠れるって効果がちゃんとあるんだよ。石をペットにする人間だって実際にいるんだよ。
……カチューシャ、これ見よがしにドン引き顔しないで。素直に感心してるフィオも心配だけど。
「カピちゃん、もう寝るよ~」
白樺の枝に尻尾でぶら下がっていた小猿を日本語で呼び寄せる。両手で包むと毛皮がすべすべ、ビロードみたい。
それにしても風が多少出てきた。昨夜は途中から凪いでくれたのに。まだ湿った空気を運んできてはいないと思う。でも元々が乾燥した場所だったから、自分の感覚に自信を持てない。
朝になって大雨だったらどうしよう。針葉樹の下に逃げ込んでも、相当な濡れ鼠になりそうだ。
そこでやっと、今日市場で探すべきだったのは傘だと思い至る。今みたいにミニミニになったフィオくらいは、お腹側に抱きしめて守ってあげたい。
あとはキャンプ道具一式でしょ、それに防寒具。何もかもが全然、足らない。こんな大事なこと、なんで気がつかなかったんだろう。
現代地球じゃ断捨離やミニマリストが流行で、必要なものはその都度ネット注文すれば済む。全財産を背負って流浪の生活だなんて、想像の埒外だ。
やっぱり来た道を戻る? あと何日か、あの街に通うべき?
でも、市場も大通りの店舗も、それらしき商品は並んでいなかった。金物屋さんは修理がメインで、店先には薬缶やフライパン一つ置いてなかったし。テントだって売ってたとしても、生涯インドア一択だった私には設置の仕方もわからない。そもそも大きすぎて、爺様の魔法の収納袋には入らないのでは。
「キキッ」
――カピちゃんの声で我に返った。
悪いことばっかり考えてたら、悪いことを引き寄せちゃう。不安にまみれた思考はキャンセルだ。その前に青い馬の連峰まで辿り着けばいいんだもの。
フィオと私には、魔グマのミーシュカも、闇から守ってくれるおまじない石も、幸せを指し示してくれる水先案内人も、頼もしい女王様犬も、賢い爺様ペディアもいるじゃない。
魔王軍は最強。きっと平気の河童巻き。超絶簡単アップルパイだ。
****************
※「チベスナ」……チベットスナギツネの略です。
「簡単アップルパイ」……芽芽語。英語のeasy as pie(とっても簡単)から。林檎なのはリズム感と本人が好きだから、でしょうか。
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---------------------------------------------
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※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
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