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35.説明

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次の日から、リンたちが工事現場に通うことになったのだが、その前に一度、風呂というものに入ってもらうことにした。

今あるタライ風呂だと、1人づつが限界なので、順番に入ってもらうことにした。

だがそこで、ちょっとした問題が出た。

「さ、用意ができたぞ。誰から入る?」

「ちょっと待ってください!」

俺が、用意しておいたタライにお湯を張り、4人の顔を見回すと、ポールが手を挙げた。

「どうした?」

「まさか、ここで裸になれって言うんですか?」

「ん?」

ああそうか、今までみんな、なんのためらいもなく裸になってタライ風呂に入っていたから、気にしていなかったが、普通はそういう反応になるのか。

そもそも他人の目の前で、裸になって水(この場合はお湯だけど)につかる習慣そのものが、無い可能性を失念していた。

地球だって、日本以外は大体そういう国が多かったものな。

じゃあ、今まで入ってくれた人たちって、どうなんだ?

・・・よくわからん。

「ごめんごめん、そうだよな。じゃあちょっと、目隠しでもドンクさんに作ってもらって・・・」

「別に俺は気にしないけどよ、だったら水着で入ればいいじゃん」

俺が、ドンクさんの方へ行こうとすると、ネイサンが頭の後ろで手を組みながら、気楽な調子で言ってきた。

「水着、あるのか?」

「当たり前じゃん!夏になったら川とか湖で泳がなきゃ、やってられないもん!」

キースがドヤ顔で言ってくる。

「そうですね、じゃあちょっと家に帰って水着をとってきますか?」

ポールが仲間に確認する。

「だな」

「了解!」

「・・ボクはいいや」

ネイサンとキースが同意する中、リンが俯いてポソリと言った。

「そうだね、リンは入らなくていいかもね」

それを聞いたポールが同意して、リンを見る。

ネイサンとキースも、うなずく。

「いいのか?」

「うん。ポールたちに感想を聞くから」

「まあ、リンくんが良いなら俺は構わないが・・」

「こっちが出来たら入るよ」

目の前の女湯の浴槽を指さす。

「そうか、分かった。絵を描く前に風呂の良さを味わって貰いたかったけど、しようがないな」

俺は、そんなリンの仕草に素直に納得して、うなずいた。


それから、一旦ポールたちが、自分たちの家に水着を取りに戻っている内に、俺はリンに富士山の絵の説明をしていく。

「これが山で、こっちが海。海の上には舟が浮かんでいる。舟はわかるか?」

「うん。この形は知らないけど、大体分かる」

「これが砂州で、松っていう木が生えている」

「ん~サスも、マツも知らないけど、何となく分かる」

「そうか、良かった」

リンは俺の描いたお手本を見ながら、ササっと羊皮紙にデッサン画を描いていく。

「さすがに、うまいな」

お手本よりも、数段うまいデッサン画を見て、俺は思わず呟く。

「あ、ありがとうございます」

すると、リンが頬を薄っすらと染めて、俯いた。

ん?

どうした?

あんまり褒められたことが、ないのかな?

「・・ウォホン。で、リンは雪って知ってるか?」

わざとらしく咳をして、聞いてみる。

「・・え?あ、ああ。もちろん!当たり前じゃ無いですか!冬になったら降るんだから」

やばっ、馬鹿なことを聞いた感じになってしまった。

「そ、そうだな。わりい・・で、その雪が山の頂上の方に、こう・・積もっている感じに描いて欲しいんだ」

「わかりました」

俺が誤魔化すように、説明するとリンはコクリと頷いた。


「ウヒャー!気持ちいい!!」

「俺、これ大好き!」

「これは良いですね、体がサッパリします」

戻ってきた3人(ネイサン、キース、ポール)は、順番にタライ風呂に入って、奇声をあげた。

終いには、狭いタライに3人で一緒に入って大騒ぎになった。

「「コルアー!お前ら、喧しいんじゃー!!」」

結果、ドンクさんとダンクさんに怒鳴られたけど。




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