35 / 98
35.説明
しおりを挟む次の日から、リンたちが工事現場に通うことになったのだが、その前に一度、風呂というものに入ってもらうことにした。
今あるタライ風呂だと、1人づつが限界なので、順番に入ってもらうことにした。
だがそこで、ちょっとした問題が出た。
「さ、用意ができたぞ。誰から入る?」
「ちょっと待ってください!」
俺が、用意しておいたタライにお湯を張り、4人の顔を見回すと、ポールが手を挙げた。
「どうした?」
「まさか、ここで裸になれって言うんですか?」
「ん?」
ああそうか、今までみんな、なんのためらいもなく裸になってタライ風呂に入っていたから、気にしていなかったが、普通はそういう反応になるのか。
そもそも他人の目の前で、裸になって水(この場合はお湯だけど)につかる習慣そのものが、無い可能性を失念していた。
地球だって、日本以外は大体そういう国が多かったものな。
じゃあ、今まで入ってくれた人たちって、どうなんだ?
・・・よくわからん。
「ごめんごめん、そうだよな。じゃあちょっと、目隠しでもドンクさんに作ってもらって・・・」
「別に俺は気にしないけどよ、だったら水着で入ればいいじゃん」
俺が、ドンクさんの方へ行こうとすると、ネイサンが頭の後ろで手を組みながら、気楽な調子で言ってきた。
「水着、あるのか?」
「当たり前じゃん!夏になったら川とか湖で泳がなきゃ、やってられないもん!」
キースがドヤ顔で言ってくる。
「そうですね、じゃあちょっと家に帰って水着をとってきますか?」
ポールが仲間に確認する。
「だな」
「了解!」
「・・ボクはいいや」
ネイサンとキースが同意する中、リンが俯いてポソリと言った。
「そうだね、リンは入らなくていいかもね」
それを聞いたポールが同意して、リンを見る。
ネイサンとキースも、うなずく。
「いいのか?」
「うん。ポールたちに感想を聞くから」
「まあ、リンくんが良いなら俺は構わないが・・」
「こっちが出来たら入るよ」
目の前の女湯の浴槽を指さす。
「そうか、分かった。絵を描く前に風呂の良さを味わって貰いたかったけど、しようがないな」
俺は、そんなリンの仕草に素直に納得して、うなずいた。
それから、一旦ポールたちが、自分たちの家に水着を取りに戻っている内に、俺はリンに富士山の絵の説明をしていく。
「これが山で、こっちが海。海の上には舟が浮かんでいる。舟はわかるか?」
「うん。この形は知らないけど、大体分かる」
「これが砂州で、松っていう木が生えている」
「ん~サスも、マツも知らないけど、何となく分かる」
「そうか、良かった」
リンは俺の描いたお手本を見ながら、ササっと羊皮紙にデッサン画を描いていく。
「さすがに、うまいな」
お手本よりも、数段うまいデッサン画を見て、俺は思わず呟く。
「あ、ありがとうございます」
すると、リンが頬を薄っすらと染めて、俯いた。
ん?
どうした?
あんまり褒められたことが、ないのかな?
「・・ウォホン。で、リンは雪って知ってるか?」
わざとらしく咳をして、聞いてみる。
「・・え?あ、ああ。もちろん!当たり前じゃ無いですか!冬になったら降るんだから」
やばっ、馬鹿なことを聞いた感じになってしまった。
「そ、そうだな。わりい・・で、その雪が山の頂上の方に、こう・・積もっている感じに描いて欲しいんだ」
「わかりました」
俺が誤魔化すように、説明するとリンはコクリと頷いた。
「ウヒャー!気持ちいい!!」
「俺、これ大好き!」
「これは良いですね、体がサッパリします」
戻ってきた3人(ネイサン、キース、ポール)は、順番にタライ風呂に入って、奇声をあげた。
終いには、狭いタライに3人で一緒に入って大騒ぎになった。
「「コルアー!お前ら、喧しいんじゃー!!」」
結果、ドンクさんとダンクさんに怒鳴られたけど。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
193
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる