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90.商談〜水事情

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「では始めさせて頂きます」

パースさんの言葉で、イワン商会とのいよいよ商談が始まった。

「今回、提携案として上がっておいるのが、『ふじの湯商会」様と『ダンク&ドンク兄弟工房』様が登録なさっている、給水給湯システムについてですね」

パースさんが、ルシアちゃんが書類のページを開いて手渡した資料を確認しながら聞いてきた。

「ええ、銭湯でそれを拝見しまして、ぜひうちの商会で取り扱わせていただければと思いまして!」

イワンさんが身を乗り出して言ってくる。

「基本的なシステムは、この村の何軒かの商家にも設置されていますので、対応は可能と考えてよろしいのでしょうか?」

パースさんが、ダンクさん達を見て言った。

「待て待て、ワシらは作ってやるなどとは一言も言っていないぞ!?」

ドンクさんが、やや興奮気味に言った。

「まあまあ、ドンクさん。その商談を今しているところじゃないですか。それに、私がお願いすれば作ってくれると言っていたじゃありませんか?」

「ん?・・ま、まあ・・そういえば、そんなことも言ったかもしれんが・・・」

俺の言葉に、ドンクさんが座り直す。

「ところで、給水システムと言っても、実は一つ・・欠陥とは言いませんが、問題があるのですが・・」

「それは何でしょうか?」

俺がイワンさんの方を見てそう切り出すと、イワンさんも真剣な目で見返してきた。

「銭湯のお湯と水については、俺の魔法で貯水タンクに供給しているんです。そして、各商家に設置したものについては、水だけを各々井戸から汲んで溜めているのです。つまり、大々的に領都で設置したところで、その辺の問題がありまして・・・」

「なるほど。確かに、領都でも通常は各家がそれぞれ井戸から水を汲んで日々の暮らしに必要な水は賄っていますから、使用人を使える商家などや貴族ならともかく、一般家庭に普及させるのは難しいということですね」

「やはり、そうなんですね。領都でも井戸水が主体なんですね・・・」

この村も、近くに川があるのに、水路を引いたりしている様子が無かったんだよな・・。

それに、家庭排水も基本的に垂れ流しというか、自然浸透処理というかだし。

だから、そもそもこの世界に、上下水道の概念が無いのかなと思っていたんだ。

予想は当たっていたか・・。

「ええ。伯爵の居城には聖なる泉がありますので、その水を毎朝汲んで使っているのですが、その他は井戸水です」

「王都でも、やはり同じで?」

「そうですね。王宮も、背後のアイビス山から流れ落ちる聖なる滝から引き込んだ水を使っていますが、その他はやはり井戸水です」

ん?

引き込んでいる?

「え?王宮は滝から水をいるんですか?」

「そうです。ただ、その仕組みはよく分かっていなくて、いにしえの古代魔法王国の遺産だと言われています。聖なる滝から王宮までは、それなりに距離があるのですが、どこをどう繋っているのか王宮の中庭の池に噴水として現れるのです」

それって、普通に地下水路でない?

仕組みを分かっていないのに、引き込んでいるって何で分かったんだ?

「言い伝えでは、聖なる滝の水を聖竜のお力で引き込んでいると言われています」

そういうことですか・・。

「・・あ。で、話は戻りますけど、そういう制約がある中で、イワン商会さんでこのシステムを扱っても商売になるんでしょうか?」

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