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95.新しい契約
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「で、話というのは何でしょう?」
事務室に移動して、イワンさん達にソファーに座るように促すと、俺は冷たいお茶をテーブルの上に置きながら向かいのソファーに座って言った。
「ありがとうございます・・これも冷えているんですね」
イワンさんは、サモンさんと一緒に軽く頭を下げたのち、テーブルの上に置いたコップを触りそれに視線を落としながら呟いた。
「ええ、まだまだ気候も暖かいですから、お茶も冷えている方が美味しいと思いまして」
「なるほど。確かに美味しい!」
お茶を一口飲んでイワンさんがうなずく。
「ところで・・」
「ああ。すいません!こちらからお願いしておいて、ついこっちに気が取られてしまいました」
イワンさんが苦笑しながら、頭に手をやる。
「いえ。それで話というのは?」
「実は・・もう薄々お気づきかもしれませんが、こちらで出しているメニューのことなんですが・・・」
真剣な表情・・というか商人の顔に戻ったイワンさんが話し出した。
「メニューというとピザとパスタですか?」
「そうです!それとエールもです!!」
「ピザとパスタはともかく、エールはどこにでもあるものだと思いますけど?」
俺は疑問に思い、首を傾げる。
「確かに、ただのエールはどこにでもあります。でも、冷えたエールはここだけです!」
温度調節の魔道具は、お高いっていうから冷えたエールが一般的じゃないのは考えられるが、やろうと思えばできることだからな。
それこそお貴族様あたりなら、とっくにやっている気がするんだけど・・・
「でも、魔道具があればできるんですよね?貴族様とかなら・・」
「前にも言いましたけど、あの魔道具はお高いですし、交換用の魔石の値段も馬鹿にならないですから。それに、貴族様方は基本的にエールはそれほど嗜まれないんですよ」
「そうなんですか?じゃあ普段は何を飲まれるんですか?」
「そうですね。やっぱりワインですかね」
なるほど。
エールは労働者・・下々の飲み物、上流階級の飲み物はワインということか。
その下々の飲み物を、わざわざお高い魔道具を使って冷やして飲むなんて贅沢なことは、普通はとてもじゃないけどやらないと・・。
「分かりました。冷えたエールが一般的じゃないというのは理解しました」
「そうなんですよ。で、ここからがお願いなんですが・・マモルさん、領都に支店を出しませんか?」
「え?」
突然の申し出に、俺は固まった。
「支店というのは、『おやすみ処』のですか?」
「そうです!本当は銭湯の方もお願いしたいところなんですが、大量の水やお湯の問題とか色々と解決しなければいけないことが多いので、まずは『おやすみ処』の支店をということなんです!」
そんな簡単に言われてもなあ・・・ここだってようやく新装開店に漕ぎ着けたばかりだというのに、支店なんて・・・ましてや領都になんて!
「今はちょっと無理というか、考えられないという・・資金のこととかもありますし・・・」
「資金のことは問題ありません!全面的に協力させていただきますので」
「それはありがたいお話ですが、この村での基盤も確立できていないというか・・難しいですよ」
「そちらの方も協力は惜しみませんので、なんとか・・」
そうは言っても、元々は銭湯の付属施設の一つとして考えたところだからなあ・・。
その肝心の銭湯の方も、そもそも俺がいないと成り立たない仕組みだし、そうなるとこの村から長期間離れるような可能性も出てくる、領都への出店はちょっと今のところは考えられないかなあ。
「レシピだけの協賛とかならなんとか・・」
「それも一度は考えたのですが、今日来てみて考えが変わりました!ぜひ、『ふじの湯』商会さんと全面的な提携関係を結びたいのです。その一歩として、領都への支店の出店なんです」
「ですが、今のところ私がこの村を長期間離れるわけにはいかないのですよ」
「・・ああ。まあ、そうかもしれませんが・・・」
イワンさんも察したのか、乗り出していた身を引いて、ソファーに深く座り直した。
それでも、すがるような目線を俺に向けている。
「・・申し訳ありませんが、少し考えさせて頂いてもよろしいですか?」
俺は軽くため息をついて、そう言った。
「分かりました。明後日までは滞在しておりますので、よろしくお願いします」
二人が深々と頭を下げた。
事務室に移動して、イワンさん達にソファーに座るように促すと、俺は冷たいお茶をテーブルの上に置きながら向かいのソファーに座って言った。
「ありがとうございます・・これも冷えているんですね」
イワンさんは、サモンさんと一緒に軽く頭を下げたのち、テーブルの上に置いたコップを触りそれに視線を落としながら呟いた。
「ええ、まだまだ気候も暖かいですから、お茶も冷えている方が美味しいと思いまして」
「なるほど。確かに美味しい!」
お茶を一口飲んでイワンさんがうなずく。
「ところで・・」
「ああ。すいません!こちらからお願いしておいて、ついこっちに気が取られてしまいました」
イワンさんが苦笑しながら、頭に手をやる。
「いえ。それで話というのは?」
「実は・・もう薄々お気づきかもしれませんが、こちらで出しているメニューのことなんですが・・・」
真剣な表情・・というか商人の顔に戻ったイワンさんが話し出した。
「メニューというとピザとパスタですか?」
「そうです!それとエールもです!!」
「ピザとパスタはともかく、エールはどこにでもあるものだと思いますけど?」
俺は疑問に思い、首を傾げる。
「確かに、ただのエールはどこにでもあります。でも、冷えたエールはここだけです!」
温度調節の魔道具は、お高いっていうから冷えたエールが一般的じゃないのは考えられるが、やろうと思えばできることだからな。
それこそお貴族様あたりなら、とっくにやっている気がするんだけど・・・
「でも、魔道具があればできるんですよね?貴族様とかなら・・」
「前にも言いましたけど、あの魔道具はお高いですし、交換用の魔石の値段も馬鹿にならないですから。それに、貴族様方は基本的にエールはそれほど嗜まれないんですよ」
「そうなんですか?じゃあ普段は何を飲まれるんですか?」
「そうですね。やっぱりワインですかね」
なるほど。
エールは労働者・・下々の飲み物、上流階級の飲み物はワインということか。
その下々の飲み物を、わざわざお高い魔道具を使って冷やして飲むなんて贅沢なことは、普通はとてもじゃないけどやらないと・・。
「分かりました。冷えたエールが一般的じゃないというのは理解しました」
「そうなんですよ。で、ここからがお願いなんですが・・マモルさん、領都に支店を出しませんか?」
「え?」
突然の申し出に、俺は固まった。
「支店というのは、『おやすみ処』のですか?」
「そうです!本当は銭湯の方もお願いしたいところなんですが、大量の水やお湯の問題とか色々と解決しなければいけないことが多いので、まずは『おやすみ処』の支店をということなんです!」
そんな簡単に言われてもなあ・・・ここだってようやく新装開店に漕ぎ着けたばかりだというのに、支店なんて・・・ましてや領都になんて!
「今はちょっと無理というか、考えられないという・・資金のこととかもありますし・・・」
「資金のことは問題ありません!全面的に協力させていただきますので」
「それはありがたいお話ですが、この村での基盤も確立できていないというか・・難しいですよ」
「そちらの方も協力は惜しみませんので、なんとか・・」
そうは言っても、元々は銭湯の付属施設の一つとして考えたところだからなあ・・。
その肝心の銭湯の方も、そもそも俺がいないと成り立たない仕組みだし、そうなるとこの村から長期間離れるような可能性も出てくる、領都への出店はちょっと今のところは考えられないかなあ。
「レシピだけの協賛とかならなんとか・・」
「それも一度は考えたのですが、今日来てみて考えが変わりました!ぜひ、『ふじの湯』商会さんと全面的な提携関係を結びたいのです。その一歩として、領都への支店の出店なんです」
「ですが、今のところ私がこの村を長期間離れるわけにはいかないのですよ」
「・・ああ。まあ、そうかもしれませんが・・・」
イワンさんも察したのか、乗り出していた身を引いて、ソファーに深く座り直した。
それでも、すがるような目線を俺に向けている。
「・・申し訳ありませんが、少し考えさせて頂いてもよろしいですか?」
俺は軽くため息をついて、そう言った。
「分かりました。明後日までは滞在しておりますので、よろしくお願いします」
二人が深々と頭を下げた。
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