弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

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第一章 諦めたくないから

その二 英霊の島

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 ――英霊の島
 
 そんな風に呼ばれる島がある。
一体何百年前なんだか分からないが、勇者と魔王が争ったとされる島。
神から力を授かり、当時人類を滅ぼしかけていた魔王を討伐した者、それが勇者だそうだ。
勇者の血筋は今も残ってるらしいが、当時の勇者よりも弱いものの、未だに神の力が残ってるらしい。

そして、まさに人知を超えた力を持つ魔王と、それを倒した勇者。
その二つの存在が争った場所は、滅茶苦茶な地形になり、魔力が色濃く残った。
魔王と勇者は、その島でお互いが限界を超えて力を使い、その結果その二人?の力は島に残ったのだとか。

つまり、神と魔王の力だ。
そんな力の残った島にいる魔獣は、現在俺がいるナイティア大陸含め、他の2つの大陸の中でも最高位の魔獣と同じ強さらしい。
ふざけてる。そんな風に思って当然だと思う。
大陸の中でも最高位?それこそ、レベル100に到達した人間が5人いても勝てないような相手だぞ。

まぁ・・・今から俺はそんな島に行くわけだが・・・
・・・・・・やっぱり自殺行為だよなぁ・・・
でも、それ以外に方法がない。
いや、あるのかもしれないが、分からない。

普通に考えれば死ぬが・・・その時はその時だな。
ルンは、もう俺がいなくても大丈夫だ。

俺が死んで悲しむような奴はいないだろうからな。
・・・自分で言ってて悲しくなってくるがな。
そもそも俺は、ルンと二人で暮らしていた。
それも秘境とまで行かなくとも、かなり山の奥に。
ずっと魔獣を狩ってその肉と山菜を食って生きてたからな・・・
街に行くのもたまにだけだった。





物思いにふけりながら、家を出てから五日。
馬車を乗り継ぎ、半分ぐらい走り、ついに辿り着いた。
英霊の島、その対岸に。
半分走ったのは、ちょっと・・・気分が高揚していたからだ。

ここからはどうやって渡るのか。
当然のように船はない。
そもそも「英霊の島に行きたい」なんて言えば自殺志願者かと思われる。


方法は・・・泳ぐだけ。
これは決して馬鹿にしているわけではない。
英霊の島の周囲の海には、魔獣がいない。
諸説はあるものの、詳しいことは分かっていないが。
距離自体もさほどでもなく、その距離を歩くなら、せいぜい30分もかからないだろう。
まぁ俺はこれでもレベル99だから、戦闘をしない人間なら3時間はかかるかもしれないが。


水に飛び込み、手足を動かし水をかく。
今の俺の荷物はかなり少ない。
食料もこれまでの道で尽き、防具などつけていない。
ぼろきれのような衣服とよく使う剣だけ。


そもそも食料を英霊の島に持っていくつもりはなかったし、防具など持って行っても生半可なものでは無意味なので、当然だが。
今の俺は他人から見れば完全な自殺志願者だろう。





泳ぎ始めてから20数分ほど経ち、英霊の島のその岸へと辿り着いた。


岸に上がった瞬間、理解した。
この島が、他の場所とはことを。
明らかに魔力が多い。
それも異質だ。
これは・・・確かに強い魔獣が育つことも納得できる。

その光景を一言で表すなら、壮大。
普通の地形ではなかった。
地面が抉られて出来たような谷。
天を衝くような大木。
そして今いる場所は雲一つないというのに、島の中心に渦巻く竜巻のような雲。
しかもとてつもない厚さで、その雲の下は暗く、遠目だが時々稲妻が奔っている。


 魔境、だな。
 

その人知の及ばない自然の光景を目にして、
圧倒されながらも歩き出そうとし―――その次の瞬間、全力で走り出した。


何も走りたくなったわけではない。
痺れるような悪寒を感じて半ば本能的に走り出しただけだった。
しかし、それが一歩遅れれば間違いなく、踏みつぶされていただろう。

つい先ほどまで俺がいた場所に佇んでいたのは、黒い竜だった。
大きさは人間に比べれば大きいものの、その大きさは他の竜、竜種の中でも大きい方ではないワイバーンと同じぐらい。ワイバーンは俺でもなんとか倒せる竜だった。


しかし、圧倒的な存在感を放つその竜は、敵を前にしたような態度ではなかった。
 間違いなく、俺はアイツの障害になりえないだろう。
そう思えるだけの力の差を、見た瞬間に理解した。
――理解してしまった。
ワイバーンの力は、一撃で岩を粉砕出来るほど。
しかし、先ほど俺がいた場所は、それこそ黒竜と同じようなサイズのクレーターが出来ていた。


そして俺は、全力で逃げ出した。
近くに岩場を見つけ、そこに向けて走った。
魔法を駆使して、全力で全身を強化した。


それでも、足りなかった。
いや、岩場には辿り着くことは出来た。
けれど、それは黒竜がわざとそうしただけ。

俺が岩場に辿り着いた瞬間、黒竜の体が動いた。
そう俺が認識した後、黒竜が目の前へ移動するのを、俺は認識出来なかった。


「化け物め・・・」
「グルゥゥ・・・」


俺が諦めたと思ったのか、黒竜は鬱陶しがるような唸り声と共に、口を開いた。

黒竜は、人間程度ならば丸のみ出来るだろう口を開き、ゆっくりと俺へ迫る。
それでも俺の認識出来るギリギリだった。


恐怖から剣を手放した俺は、反射的に自分の使える最大の魔法のイメージを頭の中で構築していた。


「【獄炎の剣ヘルフレイムブレード】ぉぉぉぉおおおお!!!!」

魔法名と共に、竜の口へ手をかざす。
ほとんどゼロ距離で赤黒い色の炎で出来た剣が構築される。
これは特殊な炎で、水で消すことは出来ず、普通の炎よりも熱い。



「グルゥッ!?」

予想外の一撃に黒竜から短い悲鳴が漏れる。

 
 危なかった・・・あいつが油断してなければ間違いなく死んでたな。

黒竜の口から赤黒い炎が溢れる。
しかしそれは黒竜が自ら吐いた炎ではない。
確かに竜種は大抵自らの属性のブレスを吐くことが出来るが。


あの炎は、黒竜の口内へ突き刺した獄炎の剣が燃え広がったものだ。
獄炎の剣は突き刺した場所から炎が燃え広がる。炎は特殊な方法でしか消えず、剣があるうちは炎は溢れ続ける。
そして剣自体も剣に込められた魔力が尽きるのを待つか、これも特殊な方法で壊すしかない。
その代わり・・・剣を刺さなければならないし、魔力消費量も尋常ではない。


量にして、俺の魔力の7割。

つまり、もう一度使うことは出来ない。
俺は足元に落ちていた剣を掴み、未だ苦しんで動こうとしない竜へ走り出した。
敵とも認識していなかった相手にダメージを食らわされたことが余程意外だったらしい。


断言出来る。俺がどれだけ頑張っても、黒竜の鱗を貫くことは出来ない。
さっき獄炎の剣が刺さったのは、そこが口の中だったから。


「それなら―――ここだぁぁぁあっ!!!」
「――ッ!!グルルゥアァッ!?」

黒竜のへと剣を突き刺す。


「ここからならッ!脳に届くだろッ!!」
「グガアアアアアアッ!!!!!」

黒竜はのたうち回る。
俺の体は黒竜の圧倒的な力で振り回され、黒竜の手足や胴体のぶつかった地面が抉れ、割れ、砕けた。。


「グッ、ぁ..!!」

しかし、ここで剣を放せば、間違いなく俺は死ぬ。
魔法を使っての身体強化を利用し、剣を黒竜の頭へ押し込む。
獄炎の剣だけでは黒竜を殺すには足りない。

例え口の中が燃えていても、俺を殺すことくらいは容易い。
幸運にも巡ってきたこの機会を逃すわけにはいかなかった。


「いい加減ッ!くたばれえええええええ!!!!」
「グルゥゥゥゥァァ......グッ...グル....」

黒竜の俺よりもずっと大きい身体が崩れ落ちる。



「はっ、ハハッ・・・・ハ・・・・・・・」
黒竜が動かなくなるのを見届けた俺は、そのまま意識を手放した。

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