前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第五章/異能力者

Episode089╱結弦と結愛の問題

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(125.)
 家に帰るまえに愛のある我が家に寄ることが日課になりつつある日、愛のある我が家の目の前に行くと、ひとりの冴えない青年がコンビニの前で屯していた。
 あれは……結弦さん?

「あの……結弦さんですよね? どうしたんですか?」

 ついつい声をかけてしまった。
 だって、今にも死にそうな、いまにも泣き出しそうな、悲壮感漂う表情を顔に浮かべていたのだから。

「きみはたしか……愛のある我が家の一員?」
「はあ、まあ、そうですが」

 そう答えた瞬間、彼は私の肩をガシッと掴んだ。

「僕が悪かった! 僕が悪かったから……許してくれ……」

 ついに、双葉結弦は路上にも構わず泣きじゃくりはじめてしまった。

「ちょっとちょっと……いきなり私にそんなこと言われても……」
「結愛を返してくれ! 僕には結愛がいないとダメなんだよ……邪険に扱ったのも謝るし、覚醒剤もやめるから! もう結愛がいない生活なんて耐えられない!」
「ちょっ、路上で覚醒剤なんて言わないでください! 仕方ないなぁ……」

 緊急事態だし、沙鳥も許してくれるだろう。
 私はコンビニで空欄を指定し、結弦と愛のある我が家アジトの中に入ることにした。
 そのまま沙鳥が普段いる部屋を開錠し、結弦を連れて入った。

「……豊花さん、誰が部外者を招き入れていいと言いました?」

 沙鳥は予想以上に怒っていた。
 そんななか、結弦は沙鳥に対しておもむろに土下座した。

「ぼ、僕には結愛がいなくちゃダメだったんだ! あれから覚醒剤をつかってもなにしても、結愛がいないと虚しくなるばかりだった! あともう一度、チャンスがほしい! 結愛と一緒に暮らさせてほしい!」

 結弦は泣きながら沙鳥に懇願する。
 まるで、子どものように涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら……。

「はぁ……なら条件がみっつあります」
「な、なんですか?」

 結弦はすぐさま聞き返す。

「その一、結愛さんが結弦と会ってもいいと答えること」
「……」

 不安なのだろう。

 どのような酷い言動をしたのかはわからないが、話によると、覚醒剤やりたさに結愛をないがしろにするかのような暴言も吐いていたらしい。
 普通なら嫌われ見捨てられてもおかしくないレベルに思える。
 結愛が未だに結弦を許せる気持ちが残っているのかが問題だ。

「その二、覚醒剤を断薬する為、この建物の三階で結愛さんと離れず生活し表には決して出歩かないこと。この生活を一ヶ月つづけてもらいます。結愛さんはその間、仕方ないので仕事は停止させることにします。できますよね?」
「それは……もちろんです」

 当たり前だろう。
 一ヶ月ですら甘い気がする。舞香さんは未だにやりたくなるほど依存性のある薬物なのだから。

「最後は、もし仮に覚醒剤を一度でもつかったら、もう死ぬまで、いや死んでも結愛さんとは二度と会わせません」沙鳥は一息つきつづけた。「この条件を守れますか?」
「……はい。僕には結愛が必要です。結愛がいなくちゃなにもできなかったんだ。なのに悪い友達に……いや売人に騙されて、取り返しのつかないことを……」

 結弦は本気で後悔しているように、奥歯を噛み締め涙を溢す。

「その勧めてきた売人について、詳しくお聞かせ願えますか?」
「はい……あいつのことはひとつも隠さず名前まで教えます」

 沙鳥は私のほうに顔を向けた。

「豊花さんはその一が可能かどうか、結愛さんのいる部屋に赴き、先ほど説明した契約で納得できるか、結弦さんと共に共同生活してもいいか。尋ねに行ってもらえますか?」
「うん、とりあえずわかった」

 これが一番の難所かもしれない。

 結弦さんに相当酷い罵声を浴びせられ、結愛さんは泣いていた。もしかしたら、金輪際顔もみたくないーーなんてレベルにまで憎悪が膨らんでいないとも限らないのだ。
 緊張しながら三階に上がり、結愛さんのいるらしき部屋の玄関を開いた。

 ーーあれ?
 ーー鍵が掛かっていない?

 いくらコンビニからしか入れないからって、不用心過ぎる気がするんだけど……。
 と、部屋の中からゴンッ、ゴンッ、となにかを叩きつけるような音が聴こえてきた。
 なんだなんだと部屋の中に侵入したら、結愛さんが部屋の壁に自ら頭を叩きつけていた。
 その瞳は虚ろだ。
 明らかに正常な精神状態ではない。

「会いたい……会いたいよぅ……会いたいよぅ……会いたい……会いたい……なんで……どうして……いやだよぅ……結弦を返してよぅ……」

 永遠と呟きながらゴツンゴツンと自傷を繰り返す結愛がそこにはいた。

「ちょっ、落ち着いて結愛さん!」
「だれ……結弦? なんだ違うひとか……」
「その結弦が会いに来ているから、私が話をしにきたんだよ」
「!?」

 結愛さんは自傷をやめると、目を見開きこちらを凝視した。

「結弦が……会いに? その結弦は、覚醒剤依存症者の結弦? 暴言ばかりの結弦? それとも、私の大好きな結弦?」
「それはこれからの行動次第、いまから現状を説明するから座って」

 私は結愛さんに端的に説明した。

 結弦さんが結愛さんに会いたがっていること。覚醒剤より結愛さんのほうが大切だったと自覚したこと。また一緒に暮らしたいと願っていること。二度と覚醒剤はやらないから許しを願っていること。

 そして、そのためにこの部屋で一月、結愛さんと結弦さんが共同生活をして、結弦さんを外に出さないために結愛さんの仕事を一時ストップさせ、常に見張れるようにすること。

 もし仮に、再び覚醒剤を乱用したら、二度と二人は会えなくなると約束させたこと。
 これらをかいつまんで説明した。

「わかった。このとおりにすれば、私、結弦とまた会えるんだよね? もう二度と離ればなれにならなくて済むんだよね?」
「それは結弦さん次第かな……」

 覚醒剤の依存性がどれほどのものかは私にはわからないけど、この程度でやめられるなら、再犯率がああも高くなるとは思えない。

 ある種の賭けだ。

 結弦さんがどれほど結愛さんを愛しているのかどうか。真に愛していれば、覚醒剤など二度と使わず、結愛さんに尽くすことに生を見いだすだろう。
 逆に愛が偽物なら……言うことはなにもない。結弦さんという人間がどうしようもないクズだというだけだ。



 結愛さんを連れて二階に戻った。
 そこには、先ほどまでいなかったはずの瑠奈も室内に居り、沙鳥となにか相談していた。

「結愛!」
「結弦!」

 二人は何年会っていないんだというくらい大袈裟に抱き締めあった。

「ごめん、本当にごめん……世界で一番大切なひと、結愛に対して、僕は本当に酷いことをしてきた。謝って済む程度の問題じゃないけど、もう二度と薬物なんかには手を出さないよ……結愛に嫌われたらおしまいだもん」

 結弦さんはぼろぼろ涙を流しながら贖罪を口にする。

「もう二度とあんなこと言わない? 覚醒剤なんてやらない?」
「もちろん。あんなものやらないし、結愛に対して放った暴言も嘘っぱちだ。僕には結愛が必要で、結愛以外は要らない……」
「なら、許してあげる……覚醒剤のせいで大嫌いな結弦になっちゃったけど、覚醒剤をやめれば、まえみたいに、私が世界で唯一愛せるひとに戻ってくれるって信じてるもん」

 二人は抱き締めあいながら、互い互いに言葉を重ねる。
 瑠奈は鬱陶しそうに、『イチャイチャするなら別室でやれよ』とぼやいていた。なんて空気が読めないやつなんだ。

「とりあえず、お二方は結愛さんの部屋で一月暮らしてください。食事はこちらで準備しますし、不自由はしないはずです」
「うん。結弦、行こう」
「うん……これから、いや、これからもよろしく、結愛」

 二人は部屋から出ていった。

「まったく豊花さんは厄介事を運んでくるとくせいでもあるんでしょうか? 本来なら十日間放置して結愛さんを返す予定だったのがめちゃめちゃですよ」
「うっ……いや、だって周辺で頼み込まれちゃったらさ」

 今回ばかりは私のせいだと認めたくない。

「さて、瑠奈さん。押し売りする大学生の売人に目星がつきました」
「ああ、あいつか。初回時、自ら押し売りするなって言ってやったんだけど、聞いてなかったんだろうね」

 おそらく二人は、結弦さんに愛のある我が家産の覚醒剤だと宣伝しながら押し売りした売人について話し合っているのだろう。

「次回、卸売りの際に制裁をお願いします」
「処分する?」
「相手の態度ではやむなしです」

 ひえ~……末恐ろしい会話をなさっている。

「あ、豊花さん」
「?」
「注射器の密売は完全に郵送になりましたから、次回から少し違う仕事をしていただくことになりました」

 ええー!?
 いきなりそんなこと言われても……。

「そのまえに慰安旅行もあります。なるべく近場がいいので、候補としては、千葉、東京、静岡、山梨辺りがいいでしょう」

 犯罪組織に慰安旅行って、違和感以外ないんだけど……なにを慰安するんだか。

「はいはーい! わたし風の強い場所がいい!」
「……あなたは扇風機にでも当たっていなさい。さて、仕事に取りかかるとしますか。豊花さんは普段通り覚醒剤の仕分けをお願いします。瑠奈さんは売人への運搬。今回は遠いので空を飛んで構いませんよ」
「やったー!」

 瑠奈は喜んで、バッグを抱えるとベランダから上空へと羽ばたいていった。

 はぁ……僕も覚醒剤の仕分けをやるか。
 もう慣れてしまった。
 秤を使わなくても、だいたいの目安で1gがわかる程度には……。 
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