前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第五章/異能力者

Episode112╱日常?⑥

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(157.)
 少しでもコンディネーションを整えておいたほうが、いざというときに身が動く。そういう意見があり、模擬戦などをすることになった。
 皆でエレベーターに乗り十階まで昇っていく。高い階層に昇っていくと、そこには小さな体育館ほどの広さの部屋があった。隅にはランニングギアなどが設置されている。
 なぜ異能力者保護団体に、こんなフィットネスみたいな設備があるんだろう?

 さてと……誰に訓練をお願いしよう?
 ありすに頼もうかと自問自答しているうちに、既にありすは瑠衣と向かい合いっていた。互いに模造刀のナイフをそれぞれ握り、構えあっている。瑠衣は順手、ありすは普段どおり逆手に握っていた。

「私に、勝てる、かな?」
「ありゃりゃ、ちょっと見ないうちに増長しちゃってさー。いやになるよ」

 と言いながらも、そう口にするありすの表情は喜色に染まっていた。
 弟子の成長がうれしいのだろうか?

 ありすは瑠衣の相手をしており、刀子さんは出張に行ってしまった。
 これでは私だけハブられているような気分に苛まれる。
 刀子さんもいないとなると、残るは瑠璃くらい?
 正直、瑠璃から教わるような内容なんて、今さらないと思うけど。

 しかも瑠美さんには戦闘技術はなさそうだしーー!
 と思った側から、瑠美さんは瑠璃を連れていき、お互いのバッグに手を入れると特殊警棒を右手に持って横に振って伸ばし構えた。

 えー。尚更私は?
 ならば、ならば私はどうしろと!?
 余った静夜がこちらをジーっと傍観している。
 …………。
 いや、いやいやいや、たしかに殺されかけた相手だし、たしか職業も殺し屋だったはずだけど……ねえ?
 たしかに刀子さんには二人の弟子がいる。
 あの刀子さんが育てたのであろうから鍛練にはなるかもしれない。
 と私は普通の切れ味のナイフを静夜に渡した。

「俺かーー。先に忠告しておくが、あまりおまえの役には立てない。それでも構わないか?」
「は、はい」

 私は頷く。
 多少でもなんでも、鍛えておくに越したことはない。なにかしら役に立つはずだ。

「まずひとつ、認識の誤差があるから言っておこう」

 静夜はボールペンと、指だけで握れるくらい小さな懐中電灯を渡してきた。
 ほほう……これが普段から静夜が持ち歩いている物なのだろうか?

「おまえは俺を殺し屋だと勘違いしていないか?」
「え、でも殺し屋グループだと思っているんだけど……」
「違う。たしかに大義には殺し屋ともいえる。が、俺は正面からは滅多に戦わない、暗殺者だからな」

 静夜はベルトから細く脆いが切っ先が鋭い仕込みナイフを一本取り外した。次にポケットから細いナイフを二本取り出す。また、アンプルのような物を数個、地面に置いた。同時にナイフも地面に置く。

「使い方からいくか? それとも実践で身に叩き込むか?」

 使い方云々言われても、どれをどう扱うのかさっぱりわからない。
 でも……まずはありすと瑠衣がしたときみたいに、最初に軽く戦ってみて、それで道具の使い方を教えてもらったほうがいいかもしれない。
 油断ならない相手に遭遇した場合の実例としてーー相手はありすと同じ土俵で戦える殺し屋だ。

 ついに私は、部屋の隅で静夜と実践演習をはじめることになった。

「行くぞ。少し弱めてあるからおそらく大丈夫だ。もし本番なら危ないと思ったほうがいい」
「? 危ないのは当たりまえでは?」

 静夜はサッと少し近寄る。私は身構える。
 と、いきなり懐中電灯を抜き出し目に向けられ、あまりの明るさに目が見えなくなる。
 ヤバい!
 視界が戻り危険を自覚したときには、渡したナイフの刃背を首に軽く当てられていた。
 すぐに下がれとばかりに肩を軽く押される。
 背後に数歩退き、距離を取らされた。

 これは……刀子さんやありすにやられる戦い方とは正反対じゃないか?
 いきなりライトを向けられるだなんて……インチキ臭い。
 でも、特徴的なアイテムを多用するスタイルは、もしかしたら私には向いている可能性もある。

 また光を放射されると察知し、ライトから目を大きく逸らす。渡されたライトをお返しとばかりに静夜に向けた。しかしライトには視線がなく、静夜は私の足を見ていた。
 その間に静夜は素早い動作でアイススピックを取り出す。すぐに私の首に捩じ込む位置に宛がった。
 くそ!
 意外と戦いにくい!


 次第に、不規則かつドキリとするほど気配が薄いことを除けば、なんとかなるような気がしてきた。
 ありすに比べれば楽勝かもしれない。

「そろそろ道具の説明をしよう。隅に置いた道具も持ってくる」

 静夜は道具をひとつひとつ並べはじめた。
 ベルトに隠してあるナイフーーは、うちの制服では無理そうだ。スカートの内側に仕舞っているスカート隠しナイフ(瑠衣強化用)があるから十分だろう。そもそもベルトのある女子高生の制服なんて、私は一校以外知らない。
 細長いアイスピックーーこれも不要だろう。そもそもこれだと心許ない。人体の弱点を熟知していなければ武器としては扱いにくいうえ、暗殺向きの武器だろう。私には必要ない。

 静夜はボールペンを取り出した。

「タクティカルペンはボールペンの先端が非常に堅牢にできている。だから窓ガラス程度なら叩き割れるし、相手の頭上を突いたりすれば、相当のダメージを負わせられる。とはいえ、おまえにはナイフがあるから不要だろう」

 静夜はライトを取り出し、真上に向けて点けた。
 強い光が天井を照らす。
 
「タクティカルライトーー直視したら下手した場合失明するレベルのフラッシュを相手の目に放射して動作を止めさせるのに使う。大抵はタクティカルペンと両方を持ち、タクティカルライトで相手の動作を止めたところにタクティカルペンで追い打ちをかける。護身具のように持ち歩いている奴も多い」

 次に静夜は薬の類いを並べ説明をはじめた。

「端から順に麻薬鎮静剤覚醒剤強壮剤ジアゼパム抗不安薬の注射剤だ。基本的に筋肉注射して使う。多少の痛みは伴うが、必要な場面に陥れば痛みで文句は言っていられない」

 こんな物まであるのか……。

 麻薬つまりはモルヒネは、辛い痛みを麻痺させるときに使う緊急用の麻薬らしい。
 強壮剤(メタンフェタミン)は頭が上手く働かないときや、戦う意識が弱まるときに使う緊急用の覚醒剤。内容液は私たちが密売している物と大差ないというが、乱用とは違う用途のため量は少ないという。
 抗不安薬(ジアゼパム)は緊張からの手の振るえや不安に対し、緊急用で使うのだとか。ん? この注射剤だけ身に覚えがあるな……。

 モルヒネという名の麻薬や強壮剤とは名ばかりの覚醒剤なんて持ち歩けるわけがない。たまたま職務質問を受けたら捕まってしまう(ナイフを持ち歩いている時点で強くは言えないが)。そもそも愛のある我が家に所属しているかぎり使うことは禁じられていると言ってもいいだろう。というか静夜も使うのだろうか?

 ボールペンも単なるボールペンだと思っていたが、なにやら護身具らしい。先端の破壊力が凄まじい固さに作られているらしいが、ナイフがあるから必要性を感じられない。たしかに不要だ。

「これは」タクティカルライトをチカチカ点けたり消したりする。「もしも正面から戦う以外に手がなくなった際、一番利用している。手持ちの何度でも使える弱いフラッシュグレネードの代わりを努めてくれる。これだけは、戦うにしても逃げるにしても便利だから持っておいて損はしないだろう」

 静夜にそう告げられ、たしかに使いやすいと考え、手渡されたタクティカルペンを返し、タクティカルライトだけポケットに入れた。
 くれぐれも味方の目に向けないよう気を付けないといけない。

「無くしたら、一応通販でも買えるから買って補給すればいい。言ってくれれば同じサイズのを用意しよう。あと、不安感が強いならジアゼパム程度は持ち歩くのを奨める。俺はつかった試しがないが、強壮剤とモルヒネには数回助けてもらった。だがそれジアゼパムだけは使う機会がなかった」

 俺は不安とは無縁だからなーーと静夜は言い終えると、そのままジアゼパムを手渡してきた。
 私の場合、まだ実戦ではドキドキしてしまうし、強い不安にも苛まれる。もしかしたら使う機会が来るかもしれない。
 
 しかし……やはり、こうした道具をいろいろ持ち歩いているのを見ると、ありすとはまったく違う。
 そういえば、静夜はこれだと決まった武器を手にしていない。真っ直ぐ飛ぶように作られている投擲用ナイフや、薄い薄い玩具のようなナイフ、ぶつかり合いには絶対向かない暗殺用の細長いアイスピック数本、タクティカルペン、あとはその場にある物程度。
 やはり殺し屋は殺し屋でも、どちらかというと暗殺者寄りだ。

 もしかしたら自分には、静夜の戦い方が一番合っているのではないだろうか。とさえ一瞬考えた。戦闘には適していないと未だに思っている。

ーーだからその考えを改めろと……。ーー

 ユタカに言われなくても、徐々に自覚はしているよ……。でも本心では納得できていないんだ。

「一番恐ろしいのは正面からのぶつかり合いじゃない。真に恐ろしいのは背後からの奇襲と毒殺と遠距離からの狙撃だ」

 と静夜は言った。
 でも……やっぱり私は正面からの戦闘が多いから、暗殺向きではないのだろう。
 ありがたくタクティカルライトとジアゼパムだけはもらっておくけど。

「注射は筋肉注射か静脈内注射、どちらでもいい。ただし静注には向いていない。いざとなったら肩から少し下がった辺りを刺すんだ。角度は垂直に近い斜めでな」

 静夜は自身の肩の少し下辺り外側を指で突いて見せてくれた。

「う、うん……でも注射か……」

 自分で自分に注射するのは何か怖くて出来そうにない。

 静夜自身が最初に述べたように、たしかにあまり教わることはなさそうだ。

「暗殺に重要なのは気配をなるべく殺すことだーーこれに関しては才能に左右されやすい。刀子さんも、これに関しては一級品だと誉めてくれている」

 スッーーと静夜の気配が薄くなる。
 目の前にいるのに、目以外では相手を察知できない不気味な感覚に襲われる。この気配の消し方に関してだけは、刀子さんよりよほど上手い。

「……だからあのときは地味にショックを受けた。あの察知能力があれば、並大抵の危機に対して有効だろうな」

 あのときーーああ。静夜が瑠衣を暗殺しようとしたときのことか。
 たしかに、今思えば、異能力なくしてあれに気づけるわけがない。直前までまるで気にしていなかったのだから。

「そもそも暗殺する対象に知られた場合、基本的に作戦は失敗に終わる。逃走を基本としているのに、あのときは普段と異なる動き方をしてしまった。まあ、ありすが出てきたから逃げるのは難しいと感じた。仕方ないといえば仕方ないが」
「暗殺……普段どんな暗殺をしているんですか?」
「普段の暗殺……か」

 フッーーと一瞬だけ静夜は頬を緩めた。

「それを知っても、なんのためにもならないぞ?」
「いえ……なんとなく、興味本意で」

 気になるものは気になってしまう。そもそも静夜が活躍している場面なんて見たことがない。ありすと違って情報が少ないのだ。

「一番多いのは、自然や人波に紛れてターゲットに接近し、アイスピックで人体の急所を刺して即離脱するやり方だ。相手がこちらの存在を知らない場合にしか通用しないが……」
「人混みに……紛れる」

 たしかにひとが密集していれば、殺人が起きても人波に紛れて逃走すれば、誰が刺したかわかりにくいだろう。判明してからでは時既に遅しだ。

「あとは、相手が暗殺しにくい場所に溶け込んでいたり、強い相手だったりする場合、味方を装うか友人になるフリをして、相手と親しくなることから始める。近づいてからの暗殺にもアイスピックは用いるが、一応、相手が俺より強いと判断して行動している」静夜は白い粉が入っているアトマイザーを取り出し見せてきた。「俺は毒殺にはカルフェンタニルを用いている。ヘロインの何万倍もの強さを有する麻薬だ。致死量2mgぽっちの強力な麻薬を、数十mg辺り飲料物などに混入させてやれば、死なないことはまずない。自覚したときには病院に駆け込む時間もないだろう」

 怖っ!
 なにそのファンタジー世界にありそうな麻薬……。
 薬も過ぎれば毒となるーーそれを体現しているような薬だ。

「一応、いざとなったら投擲して目潰しにも使える。目に入れば失明するのも無理はない」
「怖い道具持っているんですね」
「切り札のような存在だ。他の毒物ーー覚醒剤やヘロインだと、致死量混入すると味でバレやすい。フグ毒は速効性がない。覚醒剤の致死量が500mgと言えば、カルフェンタニルの致死量の少なさが分かりやすいだろう」

 たしかに、つい先日まで覚醒剤を1gずつ詰めていたから感覚で理解できる。あれの1000分の2の量が致死量って……下手に溢したりなんてしたら、そこに触れられなくなる。
 これは沙鳥に聞いた話だが、正確には測れないが水を1mlーー500mlペットボトルの500分の1の量入る注射器がある。その注射器いっぱいに詰めてだいたい1gと同じ量になるーー正確には0.8gーーらしい。
 それよりさらに細かな量になっていく。果たして目で見られる量なのだろうか?
 耳匙一杯程度で致死量と思えばわかりやすい。

「俺には教えられることはないと言うのは、本物のナイフで正面からおまえと戦うことになれば」静夜は私物を片付けていく。「勝ち残る可能性があるのはおまえのほうだからだ。俺には正面からぶつかり合う才能は無いに等しい。いざというときの為に武器も用意してあるが」ペラペラのナイフをベルトにはめた。「これで戦うという事態に陥れば、既に俺が負けることは必至だと言っても過言じゃない」

 だからか……ありすとの戦いで、ああもアッサリ手を引いたのは……。

「道具は持ったな?」
「あ、はい」
「ならそろそろ夕飯の時間だ。下に行こう」

 周りを見ると、皆も訓練を終えていた。
 瑠衣はありすに倒されて悔しがっている。

「瑠衣ってば、鋭いナイフなら私のナイフとっくに切れて私の敗けだって言ってるのに、普通のナイフ戦で私に勝ちたいとか言うんだよ? そりゃ無理だって」

 あら珍しい。

「うう……だって、ありす、本気で、やらないんだもん」

 本気で相手をしなかったのだろうか?
 それなら瑠衣が怒るのも納得できる。

「本気だってば。私の切り札はたしかに使わないでいるけど、あれは局所的にしか利用価値がない。それに、いくら本物のナイフじゃなくても、あれをしたら怪我させる恐れが高いんだもん。だから実演するのは無理だって」

 切り札……ああ、あの高速で滑るように突撃した技のことか。
 たしかにあれじゃ怪我させてしまう。

「やっぱり、ありす、格好良い。私の、王子様」
「はいはい」

 と言いながら、瑠衣はこっちに顔を向けた。

「豊花は、私のお姫様! ねえ、その変なひとから、変なこと、されなかった? 揉まれなかった?」

 いやいや……こんな場所で堂々と揉むなんてあり得ないだろう。それに静夜はロリコンではなさそうだし。

「ないない。静夜兄ぃは師匠一筋だから大丈夫でしょ」

 師匠……刀子さんのことか。
 え、でも年齢10歳は離れているんじゃ……。
 静夜をチラリと見てみる。
 真顔だから本当かどうかがわからない。

「余計な事を言わないでくれ。それに、俺なんかが刀子さんに相応しいとは思えない」
「意気地無しだよねー。早くコクればいいじゃん」
「……やかましい」

 おや、本気で刀子さんのことが好きみたいだ。
 こんな、なに考えているのかわからない人にも恋愛感情というものがあるのか……。
 刀子さんは殺し一筋みたいな仕事人だけど。

 恋愛感情……か。
 私は瑠璃に視線を向けた。
 瑠璃は悔しそうな顔をしている。
 瑠美さんにぼこぼこにされたのだろう。
 瑠璃には恋愛というものを理解してほしい。愛し合うということを……。

「勇ましいのはいいんだけどね~。瑠璃はまず、冷静に対象を見極めて対処する技術を身に付けてほしいわ~」
「……やっぱり戦う技術はまだなのかな? 先生……」

 先生呼びが復活してた。

「次は豊花くん辺りに頼んでみたら?」

 ええ?

「どうして?」
「豊花くんはナイフ戦メインじゃない。基本的にリーチが有利な特殊警棒で勝てないほうが難しいのだけど、豊花くんは異能力で普通のナイフ相手じゃないじゃない。だから戦えばいろいろ学べると思うわ」

 瑠璃は私に顔を向ける。

「ということだから、次回があればお願いしてもいい?」
「う、うん。べつにいいけど」

 好きな相手に模擬とはいえ武器を向けるのは気が引けるな~……。
 そう思いながら、私たちは食事をすることにした。





(158.)
「……瑠衣はなにをしているの?」

 7階にはみんなが使える洗面台というかキッチンが付属している。湯なら沸かし放題だし、まな板もあり、簡単な料理ならできそうな造りになっている。
 そこには、お湯を沸かせながら、赤い狐さんーーインスタントうどんーーと緑の狸さんーーインスタントそばーーを持ち出し両方とも蓋を開け、何故か大きな丼を持ち出して構えている瑠衣がいた。

「どうしてインスタントなのに丼なんて持ち出したの?」
「私の、好物」

 二つともお湯を入れると、丼を使わないまま時間をはかりはじめた。
 まさか……。

「まさかと思うけど、それ全部一人で食べるの?」
「ダメ? なら半分、豊花に、分けてあげる」
「え?」

 瑠衣は引き出しから丼をもうひとつ取り出した。
 いや、分けてくれるなら尚更丼なんて要らないような……。
 そう思いながらぼーっと眺めていたら、ついに瑠衣は両方の蓋を開けた。
 まずは赤い狐さんを、なぜか半分丼に投入。その丼に、今度は緑の狸さんを半分投入した。それを箸でぐるぐる混ぜ合わせている。
 ええ……。

「はい、豊花の、分」
「いやいやいやどうして混ぜちゃうの? どうせなら混ぜてないそっちのを、ああだからストップストップ! ……遅かったか」

 残りの丼にドバーっと中身を入れて混ぜ混ぜしてしまった。
 なんだこれ?
 うどんそばのごちゃ混ぜ丼?

「すぐ混ぜるんだから、仕方ないわね……」

 瑠璃はなにか料理を作ろうと考えているのか、冷蔵庫を漁っている。
 え……どうせ食べるなら瑠璃の手作り料理のほうを食べたい。
 なのに……。

「はい。豊花、癖になる味」
「……どーも」

 無理やり手渡されてしまった。
 なんだ、これは……なにかの罰ゲームか?

 それを持って鏡子とありすの待つ自室に入る。

「どーして混ぜるんだろうねー。長年付き合ってきても、瑠衣には謎の部分が多すぎるよ」

 ありすはやれやれといった表情を顔に浮かべる。手元にある地獄超激辛やきそばというのを食べながら。いや、ありすのも大概だと思うけど。 
 鏡子は不気味な物を見たかのような表情をして待っていた。

「……それ……美味しいん……ですか…………?」
「私にもわからない」

 鏡子は既にカロリーメイトを食べている。
 先ほどなにがいいか訊いたのだが、インスタントラーメンを食べるよりも、こういう栄養食品? のような甘いもののほうが好きなようだ。
 瑠衣も入ってきて、部屋が手狭になる。

「はぁ……いただきます」

 そう言ってそばうどんを啜る。
 !?
 これは……!

「微妙……過ぎる……」

 なんとも言えない微妙さ!
 元が元だから不味くはないんだけど、美味くなるかといえばむしろ反対。だが食べられない不味さではなく、食べられはするんだけど混ぜた意味を尚更問いたくなるような……とにかく微妙な味だった。

「おいしい?」

 瑠衣は美味しそうにズルズル啜っている。
 本当に好きなようだ。
 うう……そんな目で見られたら答えづらいよう……。

「ま、まあ、うん。おいしいね」
「……そんなわけ……ありません……酷いです……豊花さんが可哀想……です…………」
「鏡子には、あげないもん」
「……要りません……」

 だからどうして二人は仲違いするの?

「杉井ー、食べてみる?」
「え?」

 ありすが地獄超激辛やきそばを一口だけ食べるかと渡してきた。
 うーん。辛いってどのくらい辛いんだろう?
 そもそもありすは間接キスとか気にしない口か。

「ちょっとだけ貰うよ」

 この微妙な気分をどうにかしたい。その一心で、少しだけ食べてみることにした。
 そもそもこの手の激辛物は食べた経験が一度もない。
 キムチさえ普段はあまり食べないのだ。
 10倍カレーとか激辛ラーメンとか、本当は苦手だけど……まあ、やきそばなら大丈夫だろう。
 興味本意も少しある。
 そして口にいれた。

「うん」啜り口に入れて噛み、飲み込んだ。「意外とーーぉおおぁあああ!?」

 喉と口内に唐辛子のパワフルなパワーが突如として充満した。
 辛い!
 いや痛い!
 痛すぎる!!
 もはや味じゃない!!!

「あー! みみみ水を! 水水水水水!」

 予め置いといたお茶を一気に飲み込んだ。
 しかしーー。

「痛みが取れない! はー、はー……」

 辛味が落ちないのだ。

「杉井ー、リアクション芸人みたいになってるよ? 大袈裟だよ」

 ありすは赤くなった唇を開けてそう言ってくる。
 きちんと見ればよかった。その唇の赤さは異常だと!
 普段から殺しあいをしている人間は刺激的な味が好みなのか!?

 私はキッチンに水を汲みに行き、まだいる瑠璃を横目に、その場で水をゴクゴクと飲み干した。
 ようやくマシになってきた……。
 額から出る汗の量が尋常じゃない。だらだら流れ止まることを知らない。
 これが毒殺か!
 なわけないが、こんな物が普通にコンビニで買えるなんて……。

「どうしたのよ?」

 瑠璃がキッチンで簡単なサラダを手に持ちながら訊いてきた。

「か、辛い……」
「食べる?」
「食べる……」

 シャリシャリとレタスやトマトを噛み締める。
 ああ……辛さで味がしない……酷いよぅ……。

 部屋に戻ると、すでにみんなは食べ終わっていた。
 残念なうどんそばを啜り始める。

「杉井ー」
「なに?」
「そういえば唐辛子の辛味成分だけを濃縮して結晶化したひとがいるんだって」
「どのくらい辛いんだ……」

 辛さで死ねるんじゃなかろうか?

「そのまま食べたら死ぬらしいよ」
「本当に死ぬんかい!」


 そんなこんなで、退屈ではない金曜日を過ごしたのであった。
 
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