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第五章/異能力者
Episode116╱月日は流れーー
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(162.)
あれから月日は流れ、もう12月3日、月曜日になっていた。
この期間、警戒しつづけていたものの、異能力者保護団体に突入してくる輩は一人たりとも存在しなかった。
ちなみに登下校でも、襲いかかってくる者は誰一人いない。釣りにはかからなかったことになる。
こうなってくると、年単位の争いも覚悟しなければならないんじゃないかとすら思う。
この期間内に起きた特筆すべき出来事はといえば、澄が関東一円から離れ、北海道支部を占拠していた異能力の世界を妥当し、異能力者保護団体を取り戻したことくらいだろう。
あとは刀子さんやルーナエアウラさんが各地方にお忍びで周り、相手を牽制してきたことか。
「瑠衣、朝だよ月曜日だよ。学校に行く支度は?」
私は顔を洗い歯を磨き、それでも起きない瑠衣を諦め、ありすや瑠璃、鏡子たちと朝食を摂ってから自室に戻ってきていた。
さすがにもうこの季節柄寒い……私は制服の上に羽織るパーカーを着用する。尚更萌え袖ーー指しか袖から出ていない格好にあざとさを感じてしまうが、かわいい模様で選ぶとこのサイズが最小だったのだから仕方ない。
「うー、あと、三十分……」
「遅刻するから!」
「瑠衣、みんなに迷惑かけないの!」
のっ、と掛け布団を取り上げ、無理やり瑠衣を引き上げ起こした。
「豊花もありすも瑠奈も私も準備できてるんだから、いい加減にちゃんとしなさい」
瑠璃も慣れてきたのだろう。
ありすをあいつと呼んだり、瑠奈をサイコレズと蔑称で呼んだりせず、きちんと名前で呼ぶようになっていた。
それはそうだろう。
もう一ヶ月以上、住み処を共にしているうえ、登下校は同じなのだから。
そう、同じ。最初こそ離れた位置から見守ってくれていた瑠奈は次第に飽きてきて、このメンバーに混ざり始めたのである。
最初こそ瑠璃は文句を言っていたが、途中で説得を諦めたらしい。
「うーん……」
瑠衣は面倒くさげにパジャマを脱ぎ始める。
……私は元は男なんだけど?
もはや私が着替えの室内にいることに対して、誰も異議を唱えない。
緑色のブラとパンツ姿になり、制服に着替え始める。
なるべく見ないように視線を横に移す。流石に好きなひとと見た目がほぼ同じ子の裸を見るのは気恥ずかしい。
着替え終えると、顔を洗いに洗面所に向かった。
私たちは教科書などを準備する。瑠璃は瑠衣の分まで準備している。ほとんどの教科書は学校に置き去りにしているため、持っていく物は弁当と少しのノートくらいしかないらしい。
ちなみに、なんとこの期間、私は瑠璃に弁当をつくってもらえている。なんたる行幸!
最初は嬉しさのあまり小躍りしたくらいだ。
厳密には瑠美さんがつくっているのを手伝っているだけらしいが、そんなこと些細な問題でしかない!
「ゆ……豊花さん……」
「ん?」
「…………いってらっしゃい……おきをつけて……」
「うん。毎日ありがとう、鏡子」
そう返すと、鏡子はうれしそうに頷いた。
このやり取りも何度目になるかわからない。
それほど、ここでの生活に慣れきっていた。
これに限らず、あらゆることに慣れてきてしまっていた。
だからーー急に起きた出来事に焦るのも無理はないといえるのかもしれない。
そうこうして、私たち五人ーー私、瑠璃、瑠衣、ありす、瑠奈ーーは異能力者保護団体を後にした。
(163.)
電車に乗って、学校の最寄り駅まで向かう。
最近、瑠奈は瑠衣に興味があるのか、妙に近寄って同性愛の知識を吹き込んでいる。それをよく思っていないのか、瑠璃はたびたび瑠奈から瑠衣を引き離し話題を変えるようにしていた。
なにを話しているんだろう?
「ああ……ディルドなんて邪道だと思うんだよ。貝合わせの素晴らしさを教授しようとしてたのに……」
「せんでいい! なんでこんなやつと名前が一文字被ってるのかな……」
瑠璃は、瑠奈の瑠が被っているのを気にしていたらしい。
たしかに、最初に会ったときはこれ以上瑠ファミリーを増やさないでくれとも思ったけれど……。
電車から降りて学校に向かう。
「あ、言い忘れたけど、きょうから私も瑠衣のクラスで授業受けるから」
なんですと!?
ありすはひらひらと瑠衣と同じ緑色のリボンタイを見せてくる。
変えていたのか……気づかなかった。
「学校側には裏で許可取ってるから、担任にも話は通してあるよー。テストとかは誤魔化してくれるってさ」
そういえばありすは中学校すら通っていなかったんだっけ?
なら小卒の知識……アホの子だ……。
「ねえ?」
と、背後からいきなり声をかけられた。
「なに?」
振り向くと、そこには栗落花の姿。
油断していたーー!
ここ最近、まったく攻めてくる姿勢が見られなかったから全員油断仕切っている。
ありすが真っ先に振り向きナイフを出すーーその姿を最後に、私の視界からありすどころか、瑠璃も瑠衣も瑠奈も姿を消した。
代わりに、どこかの公園のベンチに私は座っていた。
目の前には、左右の少し離れた位置に緑と赤、その真ん中に暗闇黒ーー神無月が佇んでいる。隣には栗落花が座っている。
「ふむ、慌てないでほしい。我々はきみと話がしたいだけなんだ」
神無月は焦る私を静めようと声をかけてくる。
しかし、焦らずには居られない。単機で敵陣に連れ去られたのだから……。
「きみたちのせいで、我々の同胞は半壊してしまったよ……まあ、私からすれば他のなにがし月とかに興味はないんだがね」
「話がしたい……とは?」
冷や汗が頬を伝う。
赤はピストルに構えた指をこちらに向け、緑は指を二本伸ばし斬撃の位相を移す構えをしている。つまり、脅されているのだ。
「きみの異能力は素晴らしい。異能力の世界を世に広めるためのリーダー格として、仲間になってはもらえないかね?」
「断る、と言ったら?」
「なぜ断る?」
「……なぜ?」
なぜ断る……?
そんな理由が必要なのだろうか?
「きみの仲間を処分しようとしたことは謝ろう。きみのお友だちに怪我を負わせたこともすまなかった。これで水に流してはくれないかな?」
「流せるわけないだろう! だいたい、お前たちの仲間になる理由なんてなにひとつない!」
「本当にそう思うかね?」
は?
こいつはなにが言いたいんだ?
「神無月……私にはおまえの言いたいことがわからない」
「ふむ……今のこの時勢、異能力者がどういう好奇な目に曝されているか知らぬきみではあるまい」
たしかに、異能力者のせいで大量道連れ投身自殺があったと大々的にニュースになった頃から、異能力者は世間から疎まれ、法律でも束縛されてきた。
しかし、そうしなければ世界が回らないからそう決まっただけではないか?
「臭いものに蓋、そう、臭いものとして我々は虐げられてきたのだよ。もしもここに強姦されようとしている異能力者がいたとしよう」
神無月は指を一本立てる。もう片手でも一本指を立て、右手の指に左手の指で襲いかかろうとする。
「彼女の異能力はーー例えば緑くんや赤くんのように、攻撃的なもの、さらにいえば致死性を秘めているものだとする。きみがこの異能力者の立場だとしたらどうするのが正解だと思うかね?」
「そ、そうなったらさすがに異能力を使って逃げる」
「そう。異能力者ならそうするのが普通だ。しかしね? もしそれで相手に重傷を負わせたり、重体になったり、最悪殺してしまったりするほどの異能力が発現してしまったら?」
「なにが言いたいのかよくわからない……」
神無月は少し目を見開く。
「悪いのは異能力者になるのだよ。今の法律では。好きなように強姦されるのが正しいかと言わんばかりのアホな法律だ。法律では異能力者保護団体従事証明書などを所持していない異能力者は、“なにがあっても、どういう事態に陥っても、異能力を使ってはならない”んだよ。おかしいと思わないかね?」
「……」
たしかに。この話をまとめるとこうなる。
致死性の高い異能力を持つ女性の異能力者が、男に武器かなにかで脅されて強姦してこようとする。
女性は異能力で相手を傷つけ逃れた場合、それは違法になるという。過剰防衛以外に避ける術がないのに、それを使ってはならない場合、大人しくレイプを受けいる以外は犯罪になってしまうのだ。
たしかに、たしかになにかがおかしい。
「今は強姦を例に出したが、もっと酷い前例がある。とある男子学生がいた。彼は人を殺すという凶悪な異能力を使わないように隠して生きてきたという。学校では毎日のようにいじめられ、それでもなお使わなかった。そんな彼が異能力を使う事件が起きた」神無月は誰かを想うような表情を浮かべた。「唯一の友人が助けに入ったとき、相手のいじめっ子がムカついたらしく、その守ってくれた友人を隠し持っていたナイフで刺そうとしたんだ。それを防ぐ為に異能力を使いいじめっ子を殺害してしまった。どうなったと思うかね?」
「そ……それは……」
だいたいが予想できる。
でも、それが正しいといえるのか?
「無論、異能力の不適切な乱用と過剰防衛で教育部併設異能力者研究所行きさ。どう思う?」
「どうって……」
「いじめっ子の親や周りは被害者面さ。ヘドが出るよ」神無月は眼鏡を外し布で擦る。「我々は虐げられているのだよ。異能力者がたまたま異能力を用いて犯罪から身を守れたとしても、その身を守る行為すら違法なんだ。このような世界、おかしいと、きみは考えないのかね?」
「……」
答え……られなかった。
異能力の世界の言い分も、わからなくはなかったから。
「国は異能力者を纏めて収容できる施設を海上につくる計画さえ立てている。我々みたいな犯罪を犯す異能力者も、平穏な暮らしをしている異能力者も、いっしょくたに纏めて放り込む施設を……まさに、臭いものに蓋だ」
「……収容できる施設……」
本当に、本当に異能力者というだけで、臭いもの扱いじゃないか!
「“異能力者の塔”計画は水面下で動いている。我々はそれも阻止しなければならない。そう、異能力者代表としての発言権を得るために」
「それでも……やり方が間違っている……」
いや、わからない。
そもそも正しいやり方なんて私には考えられないし、否定するだけの知識もない。
「いつでもきみを迎えよう。仲間になった暁には、それなりの席も保証するよ……それでは、また会おう」
栗落花がこちらを見てくる。
次の瞬間ーー。
私はいつの間にか瑠璃たちの居場所に戻ってきていた。
「栗落花ーー!」
現れた栗落花に対してありすがナイフで切りかかるが、すぐさま栗落花は姿を消した。
「豊花! なにかされなかった!?」
瑠璃は心配そうに顔を覗き込む。
「いいや、大丈夫……」
「なんか真っ青だけど?」
「いや、本当に平気だから。ただ話をしただけ」
栗落花は触らなくても転移できるのか……これなら舞香さんの完全廉価版とはいえないな。
それより……。
私は空を仰ぐ。
異能力の世界ーー今まではなにも考えず敵対者としてしか扱ってこなかったけど、相手の理念を知ってしまった。
神無月の言い分も理解できる。
だけど……それでも私は、私の周りを守るために戦わなくちゃいけないんだ。
あれから月日は流れ、もう12月3日、月曜日になっていた。
この期間、警戒しつづけていたものの、異能力者保護団体に突入してくる輩は一人たりとも存在しなかった。
ちなみに登下校でも、襲いかかってくる者は誰一人いない。釣りにはかからなかったことになる。
こうなってくると、年単位の争いも覚悟しなければならないんじゃないかとすら思う。
この期間内に起きた特筆すべき出来事はといえば、澄が関東一円から離れ、北海道支部を占拠していた異能力の世界を妥当し、異能力者保護団体を取り戻したことくらいだろう。
あとは刀子さんやルーナエアウラさんが各地方にお忍びで周り、相手を牽制してきたことか。
「瑠衣、朝だよ月曜日だよ。学校に行く支度は?」
私は顔を洗い歯を磨き、それでも起きない瑠衣を諦め、ありすや瑠璃、鏡子たちと朝食を摂ってから自室に戻ってきていた。
さすがにもうこの季節柄寒い……私は制服の上に羽織るパーカーを着用する。尚更萌え袖ーー指しか袖から出ていない格好にあざとさを感じてしまうが、かわいい模様で選ぶとこのサイズが最小だったのだから仕方ない。
「うー、あと、三十分……」
「遅刻するから!」
「瑠衣、みんなに迷惑かけないの!」
のっ、と掛け布団を取り上げ、無理やり瑠衣を引き上げ起こした。
「豊花もありすも瑠奈も私も準備できてるんだから、いい加減にちゃんとしなさい」
瑠璃も慣れてきたのだろう。
ありすをあいつと呼んだり、瑠奈をサイコレズと蔑称で呼んだりせず、きちんと名前で呼ぶようになっていた。
それはそうだろう。
もう一ヶ月以上、住み処を共にしているうえ、登下校は同じなのだから。
そう、同じ。最初こそ離れた位置から見守ってくれていた瑠奈は次第に飽きてきて、このメンバーに混ざり始めたのである。
最初こそ瑠璃は文句を言っていたが、途中で説得を諦めたらしい。
「うーん……」
瑠衣は面倒くさげにパジャマを脱ぎ始める。
……私は元は男なんだけど?
もはや私が着替えの室内にいることに対して、誰も異議を唱えない。
緑色のブラとパンツ姿になり、制服に着替え始める。
なるべく見ないように視線を横に移す。流石に好きなひとと見た目がほぼ同じ子の裸を見るのは気恥ずかしい。
着替え終えると、顔を洗いに洗面所に向かった。
私たちは教科書などを準備する。瑠璃は瑠衣の分まで準備している。ほとんどの教科書は学校に置き去りにしているため、持っていく物は弁当と少しのノートくらいしかないらしい。
ちなみに、なんとこの期間、私は瑠璃に弁当をつくってもらえている。なんたる行幸!
最初は嬉しさのあまり小躍りしたくらいだ。
厳密には瑠美さんがつくっているのを手伝っているだけらしいが、そんなこと些細な問題でしかない!
「ゆ……豊花さん……」
「ん?」
「…………いってらっしゃい……おきをつけて……」
「うん。毎日ありがとう、鏡子」
そう返すと、鏡子はうれしそうに頷いた。
このやり取りも何度目になるかわからない。
それほど、ここでの生活に慣れきっていた。
これに限らず、あらゆることに慣れてきてしまっていた。
だからーー急に起きた出来事に焦るのも無理はないといえるのかもしれない。
そうこうして、私たち五人ーー私、瑠璃、瑠衣、ありす、瑠奈ーーは異能力者保護団体を後にした。
(163.)
電車に乗って、学校の最寄り駅まで向かう。
最近、瑠奈は瑠衣に興味があるのか、妙に近寄って同性愛の知識を吹き込んでいる。それをよく思っていないのか、瑠璃はたびたび瑠奈から瑠衣を引き離し話題を変えるようにしていた。
なにを話しているんだろう?
「ああ……ディルドなんて邪道だと思うんだよ。貝合わせの素晴らしさを教授しようとしてたのに……」
「せんでいい! なんでこんなやつと名前が一文字被ってるのかな……」
瑠璃は、瑠奈の瑠が被っているのを気にしていたらしい。
たしかに、最初に会ったときはこれ以上瑠ファミリーを増やさないでくれとも思ったけれど……。
電車から降りて学校に向かう。
「あ、言い忘れたけど、きょうから私も瑠衣のクラスで授業受けるから」
なんですと!?
ありすはひらひらと瑠衣と同じ緑色のリボンタイを見せてくる。
変えていたのか……気づかなかった。
「学校側には裏で許可取ってるから、担任にも話は通してあるよー。テストとかは誤魔化してくれるってさ」
そういえばありすは中学校すら通っていなかったんだっけ?
なら小卒の知識……アホの子だ……。
「ねえ?」
と、背後からいきなり声をかけられた。
「なに?」
振り向くと、そこには栗落花の姿。
油断していたーー!
ここ最近、まったく攻めてくる姿勢が見られなかったから全員油断仕切っている。
ありすが真っ先に振り向きナイフを出すーーその姿を最後に、私の視界からありすどころか、瑠璃も瑠衣も瑠奈も姿を消した。
代わりに、どこかの公園のベンチに私は座っていた。
目の前には、左右の少し離れた位置に緑と赤、その真ん中に暗闇黒ーー神無月が佇んでいる。隣には栗落花が座っている。
「ふむ、慌てないでほしい。我々はきみと話がしたいだけなんだ」
神無月は焦る私を静めようと声をかけてくる。
しかし、焦らずには居られない。単機で敵陣に連れ去られたのだから……。
「きみたちのせいで、我々の同胞は半壊してしまったよ……まあ、私からすれば他のなにがし月とかに興味はないんだがね」
「話がしたい……とは?」
冷や汗が頬を伝う。
赤はピストルに構えた指をこちらに向け、緑は指を二本伸ばし斬撃の位相を移す構えをしている。つまり、脅されているのだ。
「きみの異能力は素晴らしい。異能力の世界を世に広めるためのリーダー格として、仲間になってはもらえないかね?」
「断る、と言ったら?」
「なぜ断る?」
「……なぜ?」
なぜ断る……?
そんな理由が必要なのだろうか?
「きみの仲間を処分しようとしたことは謝ろう。きみのお友だちに怪我を負わせたこともすまなかった。これで水に流してはくれないかな?」
「流せるわけないだろう! だいたい、お前たちの仲間になる理由なんてなにひとつない!」
「本当にそう思うかね?」
は?
こいつはなにが言いたいんだ?
「神無月……私にはおまえの言いたいことがわからない」
「ふむ……今のこの時勢、異能力者がどういう好奇な目に曝されているか知らぬきみではあるまい」
たしかに、異能力者のせいで大量道連れ投身自殺があったと大々的にニュースになった頃から、異能力者は世間から疎まれ、法律でも束縛されてきた。
しかし、そうしなければ世界が回らないからそう決まっただけではないか?
「臭いものに蓋、そう、臭いものとして我々は虐げられてきたのだよ。もしもここに強姦されようとしている異能力者がいたとしよう」
神無月は指を一本立てる。もう片手でも一本指を立て、右手の指に左手の指で襲いかかろうとする。
「彼女の異能力はーー例えば緑くんや赤くんのように、攻撃的なもの、さらにいえば致死性を秘めているものだとする。きみがこの異能力者の立場だとしたらどうするのが正解だと思うかね?」
「そ、そうなったらさすがに異能力を使って逃げる」
「そう。異能力者ならそうするのが普通だ。しかしね? もしそれで相手に重傷を負わせたり、重体になったり、最悪殺してしまったりするほどの異能力が発現してしまったら?」
「なにが言いたいのかよくわからない……」
神無月は少し目を見開く。
「悪いのは異能力者になるのだよ。今の法律では。好きなように強姦されるのが正しいかと言わんばかりのアホな法律だ。法律では異能力者保護団体従事証明書などを所持していない異能力者は、“なにがあっても、どういう事態に陥っても、異能力を使ってはならない”んだよ。おかしいと思わないかね?」
「……」
たしかに。この話をまとめるとこうなる。
致死性の高い異能力を持つ女性の異能力者が、男に武器かなにかで脅されて強姦してこようとする。
女性は異能力で相手を傷つけ逃れた場合、それは違法になるという。過剰防衛以外に避ける術がないのに、それを使ってはならない場合、大人しくレイプを受けいる以外は犯罪になってしまうのだ。
たしかに、たしかになにかがおかしい。
「今は強姦を例に出したが、もっと酷い前例がある。とある男子学生がいた。彼は人を殺すという凶悪な異能力を使わないように隠して生きてきたという。学校では毎日のようにいじめられ、それでもなお使わなかった。そんな彼が異能力を使う事件が起きた」神無月は誰かを想うような表情を浮かべた。「唯一の友人が助けに入ったとき、相手のいじめっ子がムカついたらしく、その守ってくれた友人を隠し持っていたナイフで刺そうとしたんだ。それを防ぐ為に異能力を使いいじめっ子を殺害してしまった。どうなったと思うかね?」
「そ……それは……」
だいたいが予想できる。
でも、それが正しいといえるのか?
「無論、異能力の不適切な乱用と過剰防衛で教育部併設異能力者研究所行きさ。どう思う?」
「どうって……」
「いじめっ子の親や周りは被害者面さ。ヘドが出るよ」神無月は眼鏡を外し布で擦る。「我々は虐げられているのだよ。異能力者がたまたま異能力を用いて犯罪から身を守れたとしても、その身を守る行為すら違法なんだ。このような世界、おかしいと、きみは考えないのかね?」
「……」
答え……られなかった。
異能力の世界の言い分も、わからなくはなかったから。
「国は異能力者を纏めて収容できる施設を海上につくる計画さえ立てている。我々みたいな犯罪を犯す異能力者も、平穏な暮らしをしている異能力者も、いっしょくたに纏めて放り込む施設を……まさに、臭いものに蓋だ」
「……収容できる施設……」
本当に、本当に異能力者というだけで、臭いもの扱いじゃないか!
「“異能力者の塔”計画は水面下で動いている。我々はそれも阻止しなければならない。そう、異能力者代表としての発言権を得るために」
「それでも……やり方が間違っている……」
いや、わからない。
そもそも正しいやり方なんて私には考えられないし、否定するだけの知識もない。
「いつでもきみを迎えよう。仲間になった暁には、それなりの席も保証するよ……それでは、また会おう」
栗落花がこちらを見てくる。
次の瞬間ーー。
私はいつの間にか瑠璃たちの居場所に戻ってきていた。
「栗落花ーー!」
現れた栗落花に対してありすがナイフで切りかかるが、すぐさま栗落花は姿を消した。
「豊花! なにかされなかった!?」
瑠璃は心配そうに顔を覗き込む。
「いいや、大丈夫……」
「なんか真っ青だけど?」
「いや、本当に平気だから。ただ話をしただけ」
栗落花は触らなくても転移できるのか……これなら舞香さんの完全廉価版とはいえないな。
それより……。
私は空を仰ぐ。
異能力の世界ーー今まではなにも考えず敵対者としてしか扱ってこなかったけど、相手の理念を知ってしまった。
神無月の言い分も理解できる。
だけど……それでも私は、私の周りを守るために戦わなくちゃいけないんだ。
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