前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第五章/異能力者

Episode120╱異能力者の塔③

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「プレイするかい?」と訊いてきた相手が、まさかの水無月本人だった……。
 どうしよう……いきなり刺し殺すか?
 でも直接攻撃されたわけじゃないから躊躇してしまう。

「……あなたは水無月ですよね?」
「……ご名答。ということは、きみは件の異能力者かな?」
「はい。だから馴れ合うつもりはありません」

 ふむ、と水無月は頷くと、ダンスゲームから降りた。

「私はね、少年であった神無月くんに惹かれたんだよ。あの純粋な疑問に答えたくなった」水無月は手首を鳴らすと、こちらの真正面に立った。「もうすっかりおっさんだが、大人ながら彼の理屈には同意以外の何者でもなかった」
「ちょっと失礼します……」私は携帯電話を取り出し、ありす宛にメールを素早く送る。「あなたは本当に異能力の世界の一員なんですか?」
「答えるまでもないだろう」

 その割には、敵対心をまだ見せていない。朗らかな笑みを浮かべているのだ。
 だが、腕を鳴らしたということはやる気満々だということだろう。

「愛ちゃん、下がってて」
「えー? なんでー?」
「ごめん。理由は後で説明する」

 愛ちゃんは渋々距離を取る。

「神無月くんはきみを味方に引き入れたいようだけど、味方にはなってくれないのかい? きみは恐ろしい異能力者のひとりだからね。気持ちはわかるよ」
「そんなの……いや、私はもう戦うと決めたんだ」

 恐ろしい異能力者?
 舞香やゆきのほうが恐ろしいと思うんだけど……。
 ナイフを取り出し構える。
 今までの相手ならどうにか勝てるはず……第一、水無月の異能力は精神の強制暴走。戦うのに向いているとは思えない。
 私は、昔殺したヤクザを相手にするように、決して油断せずにナイフを振るった。

「な!?」

 しかし、水無月はこちらの切り付けを意図も容易く避けてみせた。
 そのまま相手の拳が襲いかかる。
 まずい!
 直感で避ける位置を決める。顔面を下げ、肉体を後退させ腹部へのパンチをかすらせる。さらにバックステップで蹴り払いを避け……次が体に追い付かない!

「ぐっ!?」

 右腕を挙げ上段まわし蹴りを防ぐ。ビリビリと痛みが伝わり、思わず格闘ゲームの画面まで吹き飛ばされる。
 水無月は急いで向かってくる。すばやい!

「強い異能力を持つ奴は鍛えていないけれど、私は違うんだよ」

 相手の蹴りが穿たれるが、その瞬間、真横から飛んできたありすの攻撃。水無月はそれを避けるために蹴りをやめ背後に下がる。
 ありす……近くにいてよかった!

「杉井! ボーッとしない立て!」
「ふむ。代理人か」

 くいくい、と手を曲げると、すばやい動きでありすへ向かう。
 ありすは咄嗟にナイフを振るが、それを避け、また避け、拳を打ち込んだ。

「かはっ!?」

 それがありすにクリーンヒットする。
 水無月はありすの首を片手で握り挙げると、首締めをはじめる。

「ありす!」

 ダッシュで水無月に向かうが、水無月はありすを真横に勢いよくなげ、ありすはクレーンゲームにぶつかり、頭でガラスが割れてしまう。
 ありすがあんなに一瞬でやられるなんて!
 こいつはまだ異能力を使っていない。なのに、なんでここまで強いんだ!?
 私のナイフの連撃を軽々と避け、再び下がり水無月は体勢を立て直す。

「私は君たちの想像より鍛えているんだよ。易々と殺れると思わないでくれ。さて、そろそろ計画を始めよう」

 水無月は戦闘が始まっているのに、誰かに電話をかける。
 やらせない!
 勢いよく相手に飛び、ナイフの突きを放つ。

「もう手遅れだよ」
「なにをしたんだ!?」

 水無月はナイフを避けながら、愛ちゃんに近寄る。
 しまった!
 人質に取られる!
 そう思ったが、奴は片手で愛ちゃんの肩を掴むだけだ。

「あ、あー、あぁああああいやぁあああああああ!?」
「愛ちゃん!?」

 異能力だ。
 精神の強制暴走を使ったんだ!
 すると、愛ちゃんはピクリと止まったかと思うと、ゲームセンターの遊具が数個宙に浮いた。
 あんな重いものは操れなかったはず!
 寸刻ーーゲームセンターの遊具は辺りに吹き飛び回り滅茶苦茶に壊し始める。

「愛ちゃん、しっかりして!」

 それを避けながら愛ちゃんを説得する。

「ーー私に、こんな力が……あはは」愛ちゃんはニヤリと笑みを浮かべた。「これなら、あのくそ親どもをぶち殺せる! あはははは!」
「愛ちゃん……なにを言って?」
「真実だよ。異能力者は誰しも心に傷を負っている。それが表在かしただけさ」

 水無月もゲーセンの遊具を避けたあと、佇みながら冷静にそう口にした。
 ゲーセンの外が何やら騒がしい。
 しかし、今は目の前のコイツを倒さなければならない。

「きみはーー本当に仲間になるつもりはないのかい?」
「今さらなにを!」
「きみが本気を出していたら私などとっくに殺られている。でも殺られていない。敵対心が弱い証拠さ。きみはまだ心のどこかで迷っている」

 本気を出していたら殺している?
 いや、本気は出しているつもりだ!
 しかし、しかし水無月が言うことにも引っ掛かりを覚える。

「おじさん、ありがとう。これで、私は本土に戻れば復讐できる」

 愛ちゃんは場違いにも水無月に礼を言う。

「愛ちゃん……さっきからなにを言ってるんだよ? 両親への復讐だとか……」
「私ねー? 本当は、お父さんからは性的ないたずらを受けて、お母さんからは暴力を振るわれて、どこかへ逃げたいと思っていたら、ここへ呼ばれたの。だから最初は嬉しかったけど、このちからを手にしてわかったんだ。私は復讐するべきだって」
「な……!?」

 明るかった愛ちゃんは、無理をしていた?
 そんな中、水無月が異能力霊体侵食率をファイナルステージにした。異能力の強化だ。だから復讐に走る……と?

「お嬢さん、もうすぐ船が来る。本来は食料品とかを運ぶ船だけど、おじさんの強化した異能力者がこれからジャックするのさ。それに乗り込めば帰れるよ」
「な!?」

 さっきから外が騒がしいと思っていたのは、それ!?

「わーい! 復讐復讐!」

 愛ちゃんは小躍りして喜ぶ。
 異能力者の塔に来て、そんな仕込みをしていたなんて……!
 でも、まずは水無月をどうにかしないと。

「……!」

 ありす!
 ありすが起き上がり、地面を滑空するように水無月に走り寄る。
 頭から血を流しながら、それでも耐えて攻撃をしている。
 水無月はそれを避けるが、ありすは半回転しながら飛び込み、水無月の反対側に華麗に着地すると、再び水無月に同じように突進。

「ほう……やるね」

 水無月はそれを避け、ありすに打撃を食らわせようとするが、ナイフを避けたあとではありすが離れていて拳が当たらない。
 でも……このままだといずれありすがやられてしまう!
 ありすがやられたら……瑠衣が悲しむ。
 やっぱり、こんなこと間違っている!

「う……ぁあぁあああ!?」

 脳裏に水無月と戦う映像が並行的に沢山流れた。
 そのなかには攻撃が当たったものもある。

 ーー私はそのとおりに近寄り、ありすのナイフ突きに合わせて水無月に駆け寄る。

「む」

 水無月にナイフを振るう。
 避けるが、これは脳裏に流れた映像どおり。
 再びありすが体を捻りながら水無月の背後に着地。再びナイフを構えながら滑空する。
 それに合わせて再びナイフを振り、直後突きを穿つ。

「ぐっ!」
「ようやくか……」

 ナイフが水無月の片腕を切り裂き、血が一気に出血する。
 そこにありすが滑空するかのように滑り込み、肩に突きを放つ。それが命中し、ありすは長距離バックステップをした。

「本気を出したようだね……きみのそれは直感でも予知でもない。本来のちからは数ある未来から望みの未来を選ぶことができる、恐ろしい異能力だ……」

 水無月は言い捨てると、ゲーセンから出て逃走を始める。

「ありす! 大丈夫?」

 私は頭から血をどくどく流すありすに駆け寄る。

「大丈夫じゃないよ……水無月を逃さないで。ここから逃げ出す異能力者は橘先輩と私でどうにかするから」
「……わかった。愛ちゃんをおねがい」

 私は一足遅れてゲーセンから飛び出した。
 なぜか脳裏には相手の逃げた場所が浮かんでいた。
 途中まで血痕を追い、なくなっても走りつづける。
 そして、男子トイレまでたどり着くと、迷わず中へと入った。

「やはり……無駄か」
「悪いけど、とっくの昔に人は殺してる。だから、もう迷わない」
 
 ここまで事件を大事にした張本人だ。
 さすがの私も容赦するつもりはない。
 まっすぐ水無月へと走り寄る。水無月は最初こそ構えるが、「無駄か」と呟き抵抗せずにナイフを心臓で受け止めた。

「……神無月くんに悪いけど、さきに逝かせてもらうよ……ごぼっ」

 水無月は血を吐き、その場でたおれた。
 ここまで、予知した未来どおり。

ーー豊花、この力はいったい……。ーー

 わからない。
 けど、未来予知ではなかった。
 水無月に攻撃を仕掛けようとしたとき、脳裏に一斉にたくさんの未来が映り、そのなかで、こうなる映像と同じ行動を取っただけだ。

 私は、息絶えた水無月を後にし、ありすの元へと走った。 
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