前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第五章/異能力者

Episode123╱杉浦 愛ーー復讐心

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 あれから異能力者保護団体に帰宅し、暫し時間が過ぎたあと、私と愛ちゃんに召集がかけられた。

 涼しい夜風に吹かれながら、私は車の助手席に座った。
 運転手役の沙鳥と、そしてなにより復讐願望が強い愛ちゃんも車の後部座席に乗った。そのとなりには、なぜかありすまでもが付き添っている。

 いざというときのためらしいが、単なる一般市民に殺し屋ーー異能力犯罪死刑執行代理人も参加するだなんて、オーバースペックにもほどがある。
 美山鏡子の異能力により、まだ杉浦両親は未だに実家を出ていないことがわかったのである。

「本当に復讐するの? 実の両親なのに?」
「両親には子どもには選べませんし、子どもも親は選べませんよ。なかには子どもが両親を選ぶーーなんて都合の良い絵空事を言う輩や、証拠もなにもない戯れ言を口から吐き出す頭のおかしな方もいますが……ヘドが出ます」

 沙鳥はアクセルを踏み、公道に車を出して走らせた。

「沙鳥さー? 自分の境遇と重ねてない? 実の両親に売られて散々な目に遭った……だから同じ境遇の杉浦に対して思うところがある。違うかな?」

 ありすは沙鳥をおちょくる。
 まえにもこの問答あった気が……。

「……いまそれは関係ありません」

 目的地に向かって、ただひたすら公道を走っていく。

「うん! 私は両親、糞親どもに復讐をできたら、あとはもう、なにもいらないや……」

 愛ちゃんは楽しそうに、かつ、寂しそうに呟いて見せた。

「この世には、親の資格を持たないクズが沢山存在しています。愛さんは災難でしたね。ですが、もうすぐ復讐できますよーー」
「やったね! 覚えておけよ糞親ども。糞尿撒き散らせて命乞いをしたって許さない……私はぜーったいに許さないよ」
「そこまで覚悟がきまっているのでしたら、過剰な心配でしたか」では、と沙鳥は計画を話す。「ついたらまずは両親に鍵を開けてもらってください。そしたら閉じられないように靴でも挟んで、豊花さんと協力するように内部に侵入してくださいね」

 単なる一般市民ーーいや、強制的に近親相姦を父親からやられる日々。殴る蹴るが教育だと言い、愛ちゃんに体罰を与えストレスの捌け口にしている母親の暴力。ネチネチと口撃も食らっていたのだろう。
 そう考えると、殺すまでは行かなくとも、それ相応の罰は下すべきだと私も思う。

「作戦の総括です。まずは正面から愛さんがチャイムを鳴らし、見えない位置に豊花さんは待機。開いたら即効豊花さん、ありすさんと引き続き潜入。私は外部から指示を出します。相手は素人のなめ腐った男女の夫婦ーー」
「その夫婦が犯した罪をー、きょう、ようやく果たせるんだね! きゃはは!」

 愛ちゃんはどこまでも楽しそうにしている。

 ーーそんなに、そんなに実の両親を恨んでいるのだろうか?

 私には、殺すほどの恨みがあるとは思えない。
 ーーでも、父親は娘なのにも関わらず性的ないたずらを繰り返し、母親は殴る蹴るを躾として繰り返す。
 歪だ。
 歪んでいるんだ。
 愛ちゃんの家庭は……。

 そうこうしているうちに、杉浦と書かれた表札のある愛ちゃんの自宅の近場にある路肩に車は止まった。

「愛ちゃん、本当にやるの? 実母実父なんでしょ……少しくらい考えた方がーー」

 それを沙鳥はわざと遮る。

「私にも両親はいましたが、私を醜い男に売買されました。そこからは毎日のように凌辱ざんまい……これで両親を恨まずにはいられますか? 神は乗り越えられない壁は与えませんーーとキリストは言います。これまでの苦難こそが乗り越えるべき壁だとーー」沙鳥は一瞬真顔になる。「壁なら私は乗り越えるのではなくぶち壊して先に進みます」

 沙鳥は冷ややかな視線を私に向けてくる。

「愛さん。自宅内には何人おりますか?」
「糞親二人だけの筈だよー。ああ、ワクワクするなぁ……手出しご無用です。私ひとりの力で、あいつらを後悔させるんだーー」

 愛ちゃんはふらっとした足取りで実家のチャイムを鳴らす。
 玄関は思ったより容易く開いた。

「ーー愛じゃない! か、帰ってこられたのね?」

 わちゃわちゃ挙動不審になりつつも、母親は返事する。

「でも、もううちの子ではないから、サッサッ、どこかでホームレスでもしてなさ……い?」

 直後、扉が閉まるまえに私とありすが中に押し入った。

「あ、あんたたち何なのよ!? 警察呼ぶわよ!」

 母親らしき人物は携帯を急いで取り出すが、ありすのナイフが一閃。スマホは壁にぶつかり地面に転がった。

「あ、あなたー! 不審者が三人も!」

 ……へえ。愛ちゃんも、実の娘も不審者扱いかよ?
 心がスーっと鎮静化していく。

「殺しても大丈夫?」
「うん、掃除屋さんに連絡しといたからね」

 母親がリビングに逃走しようとするが、途中足が微妙に浮き、地面にうつ伏せで倒れ伏す。
 愛ちゃんの異能力だろう。最初は爪楊枝しか操れなかったのに、今や重いテーブルや、人体の一部さえも浮遊させることができるようになっていた。

「やめ、謝るから! やめなさーー!?」

 愛ちゃんはテーブルを操り、痛い足がある場所を、母親に向かって勢いよく上空から落下させた。

「いたっい! あなた! あなたー!」

 愛ちゃんは異能力を用いず椅子を振り上げ、それ以上は上がらない、限界までの高さまで振り上げると、椅子の硬い硬い部分を、母に思い切り当たるように持ちかえ、全力全霊でーー今までの恨みをすべて詰め込んでいるかのような火事場のバカ力でーー勢いよく叩きつけた。

「がっ! かはっ! や、やめて……」

 過呼吸になりながらも、母親は懇願する。
 愛ちゃんをみるが、なにも心に響かないようで、真顔のまま、再び椅子を持ち上げ、テーブルを浮遊させ、ガラス瓶を複数個ふわふわと浮かせる。

「あや、謝るわよ! 謝ってるんだからやめなさべっ?!」

 椅子を数回降り下ろし母親に叩きつける。愛ちゃんの母は腹を抑えながら顔に青あざをつくっていく。

「まだだよー? まだまだやめないよー! だって、今まで私がやられたこと、何十倍にして返すんだからさぁあああ! あははははっ!」

 まずは浮遊していたガラス瓶が母親の周囲にぶつかり、破片が母親の頭上に飛び散った。
 パラパラチクチクと顔面から血を滴らせている。
 最後に大型のテーブルを逆さにし、押し潰すかのような勢いで母親に飛ばした。

「がぎっ!? がぁああああッ!!」

 歯が数本辺りに吹き飛び、血糊も辺りに飛び散り付着する。
 その真下に母親のいるテーブルの上に飛び乗り、ドシンドシンと音が鳴り響くほど、全体重をかけて懇切丁寧かつ全力で何度も何度も踏み潰していく。
「やめへ……やめ……へ……っ」
「おい! これはどういうことだ愛!」

 変態親父が現れた。来るのが遅すぎるだろう。

「母さん、大丈夫かーー歯がバラバラじゃないか! おまえみたいな糞娘、二度と顔を見せるな! 帰れ!」
「帰れって命令には従えないけど」父親が愛ちゃんに駆け寄る。「二度と顔は見られない世界に逝かせてあげるからー、安心してね?」

 父親は瓦礫を避けながら愛ちゃんに近寄る。しかし愛ちゃんの前に行った途端、足場が不自由になり天井まで張り付きにされた。
 邪魔者は消えた。と言いたげな愛ちゃんは、まだ実母になにかをするつもりだ。

「ーー不出来だ! ーーあんたなんて生まなきゃよかった! ーーどうしてこのクズに育ったのかしら! ーーバカなの!? ーーあーあ、消えればいいのに。……ーー母さんが私に対して言った暴言の数々、そのまま返してあげるねー! あひゃひゃひゃ!」

 冷蔵庫が浮遊を始める。
 母親は壁際に這って逃げるがーーその逃げた位置に本日最大とも思われる投擲物で、冷蔵庫の頭を母親に強打させる。
 背後にあったガラスが割れ、バラバラ突き刺さり、母親はガラスまみれになってしまう。最後に、庭へと投げ出された。
 全身打撲、骨折、ガラスにより至るところからの出血が止まらない。

「お父さんは性欲魔神だったよね? なら私の趣味に付き合ってよ」

 テーブルの上に割れたガラス片や中途半端に割れ先端が鋭利になった刃物に使えるようになった道具を並べる。

「待て! 父さんが悪かった! やめてくーー」
「やーめない。きゃはは!」

 父親の浮遊を解くと、真上に向かって多数の鋭利なガラス瓶が並んでいるテーブルの真下に向かって、勢いよく落下させた。

「ごぼっ……ごぼっ……」

 父親はただひたすら吐血するだけになり、身動きひとつできない。

「ひぃいい! 警察! 警察に!」
「させないよーん!」

 ぼろぼろで歯が半分まで欠けてしまった母親が震える手に持つスマホを、投げて操ったビール瓶に当たりスマホは弾き飛んだ。液晶も使い物にならないほど傷まみれだ。

「そろそろ手を出すかなー?」

 あまりの光景に圧倒していたが、ありすはナイフを逆手に構え、滑空するかのような速度で母親へ覆い被さり、逆手ナイフの突きを数回放った。
 最初の数回は血を何度も刺すたびに吐いていたが、途中からは何の反応も得られなくなった。

「こっちも一応」

 父親の背後から急所に切りつけた。

「がうっ!?」
「やっぱり生きてたか」

 ありすは心臓を貫き、ついに両親ともども亡き者になったのである。

「……」

 さすがの愛ちゃんも、復讐心は満たされないのか、後悔の念があるのか、少し押し黙りーー。

「あは、あははははっ、私は、やったんだ! 人生災厄の屑どもを処分したんだー! あー、スッキリする。どう!? お母さん、お父さん!? 楽しいでしょ!? 娘にやってきたことの数々、私はそれをやり返してあげたんだよ!?」愛ちゃんは嘲笑していた。「おら、単なる肉塊になった気分はどーですかー!? 自分どおりにならなきゃ満足行かないでいろいろ押し付けてきて、失敗するたびにフルスイング食らわせてきた人たちの今の気分はどうですかー!? ああ、失敬。もう死んじゃったんだもんねー? 自分たちが面白おかしく暴力振って私を壊した因果応報、楽しめましたかー? あは、あはは、あっははははははは!!」

 愛ちゃんは狂ったように惨状で嗤いながら雄叫びをあげつづける。

「これで、愛さんの復讐はおしまいですね。ありすさんも豊花さんもお付き合い感謝します」
「いや……元々は私が連れてきた問題だし……」

 でも、愛ちゃんがここまで心に闇を抱えているとは思わなかった。
 いまだと、愛ちゃんに少し、ほんの少しだけ恐怖心を抱いてしまう。

「ここはもうすぐ掃除屋さんがくるから、早く離脱しよー」

 ありすに促され、気分るんるんの愛ちゃん、なにか懐かしい表情を浮かべている沙鳥、そして、壮絶な復讐を目の前で見ていた私、計四人は、車に乗り込みその場を後にした。

「これで、糞親からの呪縛が解き放たれる。やったー! 達成感が半端ない!」
 愛ちゃん……本当にそれでよかったの?

 どんなひとでも、愛ちゃんの産みの親には違いないのに……。

「豊花さん。それは私にも喧嘩を売っていますか?」
「え、あ、いや……」

 そういえば、沙鳥も両親を皆殺しにした経験のある人物だ。
 愛ちゃんの境遇に思うところもあったのだろう。



 こうして、愛ちゃんの壮絶かつ残虐的な復讐は無事果たされ、我々は帰路へと走り出した。

 愛ちゃんは愛のある我が家には所属させないと沙鳥は言っていた。
 
 なら、どのように、これから活動していくのだろう?



 そう疑問を胸に抱きながら、決して気分の良い体験ではない経験を思い返りつつ、私は車内で少しだけ仮眠を取るのであったーー。
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