前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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最終章

Episode219╱暴力を操る者

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(228.)
 2月13日、土曜日。
 拠点での朝も、実家にいるときと変わらず顔洗いと歯磨きを済ませ、狭い部屋に戻る。
 と、沙鳥は急に「本日中にまつりの殺害を実行します」

「へ?」「はあ?」「どうするのさ?」
 
 沙鳥は返事をせずに、香織から教えてもらったまつりの連絡先に電話を入れた。

『もしもし? いきなりなにゃ? 宮田きゅんをくれて皆殺しにしていい気になったのかにゃ~』

 無意識なのか意識しているのか、スマホをスピーカーモードにして皆に内容が聴けるようにしている。

「一対一で話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」
『はあ? なにを聞く気にゃ? 敵同士じゃぞん』

 むかつく口調だが、これに関してはまつりのほうが正しい気がする。

「会いたい理由は、あなたがなぜアイツを殺したのか。その経緯について悔しくお話を訊きたいからです」
『 はぁ~怪しすぎにゃ!』
「もしも話し合いが上手く成立すれば、宮田さんを差し上げてもよろしいですよ?」

 は?
 宮田さんを渡す?
 今の状態でなにを考えているんだよ沙鳥!?

『……怪しいからこっちは護衛つけるけど、それでもいいなら会ってあげるにゃーん』
「深夜の人通りが少ない時間帯の大通りで話しましょう」
『わかったにゃ。ただし、変な真似をしたら死ぬまでボコボコにゃよ? 沙鳥だっけ? あんたは愛のある我が家で一番戦闘力のないカスって訊いてるから、逆らわないほうがよいぞぅ』
「もちろんです」
『あ、そうそう。愛のある我が家のメンバーをひとりでも連れてきたら即護衛役に撃ち殺させるから。流石の黒河でもこんな雑魚には当てられるっしょ』

 愛のある我が家を連れてくるな!?
 無理だ。沙鳥は貧弱の虚弱体質で有名なのに、ひとりで護衛とまつりを倒すなんて無理がありすぎる。

「それでは、指定地に深夜12時に集合でいいですか?」
『いいにゃ。私にとって神の弾丸が手に入るか、敵対組織を始末できるか、どっちに転んでもお得にゃからねん!』

 まつりは言い終えると、沙鳥はスマホを取り出し新たにどこかへ連絡をかけようとする。
 しかし、私はそれを制止した。

「沙鳥……宮田さんを渡すってどういうことなの!?」

 通話を切ったあとの沙鳥に、私は怒りから怒鳴ってしまった。
 沙鳥は怒鳴るのが鬱陶しいのかメールに変えて、誰かに連絡を入れ始めた。
 沙鳥はスマホを弄りながら口を開く。
 
「リーダーを殺害すれば、組織の統制がなくなるでしょう? まず狙うべきはリーダーだと私は考えました」

 え、殺害?
 でも沙鳥ひとりでどうやって……。

「それだったら私も護衛に行くわ」

 私も舞香に同調して手を挙げ志願する。

「うれしい申し出ですが、敵は警戒していますし、まつりからは愛のある我が家のメンバーを連れてきたら、私を即日殺害すると言っていました。ですから、お二人は家で滞在していてください。もしも相手に透視能力者などがいたら、あなた方が追跡しているのがばれて私が殺されます」

 って、そういえば宮田さんはどうなる?
 たしかに愛のある我が家に所属していないし、取引道具のような物だ。
 宮田さんを、完全に手放すつもりかよ!?

「ええ、まあ、そう思っておいてください」沙鳥は読心したのか、私に返答した。「愛のある我が家ではない宮田さんにはご足労願いますよ」
「……わかった。わかりました。やりますよ……どうせなにか考えているんでしょう」

 宮田さんは苛立ち混じりに声を上げた。
 だが、見てしまった。沙鳥が嗤っている姿を。
 小声で、「渡すわけがないでしょう?」と不気味に囁いていたのだった。

  




(229.)
その晩、深夜の時間帯になると同時に、宮田さんを連れて沙鳥は玄関から出ていってしまった。
 沙鳥はいったいなにを考えているんだ?
 どのような想像をしても、沙鳥が護衛とまつりを倒す姿がイメージできない。
 しかし、直観はなぜか大丈夫だと囁いている気がするのだ。

 しばらく時間が経過した頃、やはり心配になり、朱音のそばによった。

「ボクになにか用かい?」
「朱音……沙鳥が言っていた道にあるやや高く沙鳥を見渡せる位置にあるビルかマンションまで転移してくれない?」
「でも、沙鳥に止められているんだろう?」
「バレなければ問題ないわ。いざってときに、万が一があるかもしれないし」

 舞香も同じ気持ちだったらしく、朱音を説得した。

「わかったよ。じゃあ転移するから近寄って」
「うん」

 辺りの風景が歪み、身体に奇妙なゾワゾワ感が走り出す。
 気づくと再びルーナエアウラの部屋に到着し、再び転移をはじめた。

 私と朱音と舞香は、ちょうど大通りが見える小さなビルでありつつ、向こうからはこちらが見えにくい場所を探し出して待機することにした。


 ーー数分後。


 沙鳥は本当にひとりでやってきた。いや、正確には離れた位置に宮田さんがいるから二人と言ったほうが正しいかもしれない。
 対する逆方向の道からは、まつりの姿と護衛二人ーー歌月十夜と黒河 都が近場で護衛をするような配置になりながら歩いてきた。

「で、私はなにをしゃべればいいにゃん? 早くそっちの神の弾丸を連れていきたいんでにゃー。さっさとなにを説明すればいいのか言うんだにゃ」

 まつりが沙鳥を問いただす。

「どうしてあの男を殺したか……それを知りたいだけです」

 それを聞いたまつりの表情が、一気に厳しくなった気がした。

「犯された恨みだよ……あんなやつ死んで当然だ! だから異能力を手にしてボコボコにしてやった! ざまぁみろ! だいたいあんたは悔しくないの!? 何度も何度も犯されつづけ、なのに無駄にあいつになつきやがって! おまえのその態度も腹立たしかったんだよ! ……はぁ~。こんなところかにゃ?」

 まつりは理由を語り終えると、しゃべり方を元に戻した。

「ええ、たしかに私も悔しいです。私の一生奴隷にするつもりだった家畜が殺されて、腹が立たないほうがおかしくないですか?」

 沙鳥の感情も歪んでいる。
 やっぱり話し合いになんて意味がなかったんだ。

「話にならないにゃ。黒河、歌月。こいつを殺して神の弾丸を奪うにゃ! 残念だったにゃ~。愛のある我が家を連れてきたら、もしかしたら逃げられたかもしれないのに、本当に可哀想可哀想なのですぅ~」

「沙鳥が危ない! 朱音のちからで今すぐーー」
「待ちなさい。沙鳥を見て。焦りの動作もまったくしていない。なにか、策があるんじゃないかしら?」
「策って、こんな状況で起死回生の手なんてあるはずない!」

 突如、沙鳥は周囲に響き渡るくらい不気味に嗤う。嘲笑う。

「ええ、残念です。こんなの嗤わないではいられませんよ」沙鳥は更に嗤う。「最初から一人でくるわけないでしょう? おバカさん?」

 瞬間、歌月の片足をなにかが貫いた。スナイパーの狙撃が命中したのだ。
 歌月は痛みのあまり、血をどくどく流しながら思わず屈んでしまう。

「愛のある我が家は連れてこないって……嘘をついたにゃ!? 許せないにゃ!!」
「ええ、愛のある我が家は私一人しかいませんよ?」

 左右のやや近いほうのビルからいきなり銃声が響いた。
 それが黒河の肩を掠める。
 ビルの中から、拳銃を持った暴力団と思わしき男性たちが複数人現れたのだ。

「私が約束を破るわけないじゃないですか。この方たちは愛のある我が家ではありませんよ? わかりますよね? ふふっ」
「黒河! 全力で撃ち殺せ! 歌月、気力で立ち上がれ!」

 激しい銃撃戦が始まる。
 
「負けないっすよ!」

 と、黒河は無限に銃弾が放てる銃を2本手に握る。
 たしかにエイムは悪いが、無限に撃てばいずれは当たる。黒河は危険度が低い沙鳥を後回しにして、組員に何とか当てようとひたすら連弾する。
 多少は組員の肩に当たったり、片足を擦ったりした様子だが、組員の放った弾丸が黒河が左手で握っていた拳銃に命中し、勢いで沙鳥の足下まで転がった。
 沙鳥は驚くでもなくそれを拾った。

 歌月がようやく痛みに耐えて立ち上がり、痛みを耐えなからも沙鳥の足下の位置に向かって空に円を描き、そのまま再び倒れる。
 その直後、スナイパーライフルが再度発砲されたらしく、歌月十夜の頭部に命中し力尽きた。ここからでもわかる。脳みそからドロリとした物体が出ているのが目視できるのだから……。歌月の顎から上が粉砕されており、もはや助かる見込みはない。

 沙鳥の真下に現れた赤い円のせいで、沙鳥はほとんど動けなくなってしまった。

 そんな傍ら、ついに銃撃戦を繰り広げていた黒河に弾丸が命中し、そこから続けざまに一発、二発、三発、四発ーー数えきれないほどの銃弾に当たる。
 黒河は全身から出血しながら倒れてしまった。あれでは三日月さんや煌季さんがいないと、もう長くは持たないだろう。いや、既に事切れていてもおかしくない。

 歌月と黒河が死んでしまったのを確認し、まつりは激昂する。
 沙鳥に向かうと、「おまえも全身血まみれになるまで殴り散らしてぶっ殺してやるよ! 地獄に墜ちろゲス野郎ぉオオ!」

 まつりはそのまま勢いをつけて沙鳥を殴り付ける。
 沙鳥は丸い円のせいか動けない。一発一発避けずにしばらく拳を体で受け止める。そのあいだもずっと、永遠と言えるくらいまつりを凝視している。

「まずいって! 早く助けに行こうよ!?」
「待ちなさいって。沙鳥を見なさい。まったく動揺していないし、まつりは我を忘れて遠距離攻撃が可能なのに近寄っている。錯乱しているのよ」

 次の拳が来る前に、沙鳥は拾った拳銃を、なぜかまつりに手渡した。
 拳銃を取り出したから撃たれると勝手に想像していたまつりは、呆気にとられながらもついつい拳銃を手に握ってしまう。

「拳じゃなくてこれで撃ち殺してってことか!? 狂ったやつめ! 死ねや!」
「口調、崩れていますよ? ふふっ」
「なにをーーえ?」

 まつりは渡された拳銃を、なぜか自身の意思でこめかみに近寄らせていく。そこには自分の意志すら関係なく、ただただ拳銃は頭部に近寄る。

「なにをしやがった!?」
「ふふふ、しばらく会話に付き合ってもらって、あなたの写真をよ~く拝見させてもらい、過去に愛のある我が家に来たときも、戦いが始まってからもずっとあなたを観察していました。そのおかげで私は助かります。あなたは、助かりませんけどね」

 まつりの頭に強く拳銃が食い込みはじめる。

「だ、だからなにをしたんだ!?」
「私の異能力は精神干渉系だと知っていますよね?」沙鳥は嗤う。「まえまえからできたけど条件が厳しくてできませんでした。でも、もう手はずは整ったのです。さて」沙鳥はまつりを睨む。「私の精神干渉系の力によって、意識を奪う。自害しろ。生きている価値のない能無しさん?」
「や、やめーー!?」
 
 まつりは思い切り拳銃で自身の頭に発砲した。
 まつりが既に息絶えているのかを沙鳥は確認するため、強めに蹴って確認する。
 地面の赤い円が時間切れでなくなり、自由に動けるようになっていた。

 沙鳥の周りにヤクザが集まり、沙鳥は皆ひとりひとり頭を下げて礼を述べている。

 ーー何はともあれ、私たちは不要だったのだ。

「あれも……沙鳥の異能力なの?」

 あれが沙鳥の本来の戦い方……自分一人では無理な策を成功させるために、仲間を集い確実に殺す。まさに、暴力を統べる者なのだと実感した。


 私は久しぶりに、少し、ほんの少しだけ、沙鳥にゾッとしたのであった。
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