【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

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エピローグ/後日談

42:お薬の量は守りましょう!②

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 時は、遡ること数日前。

「ねえ、ルー! 居るかしら?」

 ニグラード邸の薬草園の端にある薬草の研究所。
 シアの尋ね人は、この場所の責任者であるルーだった。
 美しい長い青髪を後ろでひとつの三つ編みにし、女性にしてはすらりとしたその長身にまとうは薬師の白衣。
 ニグラード家お抱えの、美貌の薬師・ルーは、今日も今日とて薬草を煎じ、魔力を通したフラスコを用いて研究を重ねていた。涼やかな鳶色の瞳は無表情だが、これは不機嫌なのではなく彼女の通常運転である。

「シア様、いかがされました?」
「あのね、夜にギンギンに起きて居られる、エッチな媚薬をわたしに作ってほしいの!」
 
 突然現れたと思えば。
とんでもないことを言うこのニグラード邸の女主人に対して、ルーは真顔のまま手を止め、美しいその瞳をぱちぱちと二回しばたたいた。

「……シア様。もう一度、おっしゃっていただけますか?」
「び、や、く! お薬の媚薬よ! 夜ギンギンに起きてられるエッチな媚薬を作って欲しいの!」
「ええ」
「じゃあ、えっと、どこをもう一度言えばいいの? 『媚薬』? 『ギンギン』?」
「もう一度お口に出されることで冷静になってくださるかと思ったのですが……。聞き間違いではないのですね」
「……? ええ、間違いなくエッチなお薬の媚薬よ! ね? 薬師なら、作れるでしょう?」 
「……」

 悪びれもせずそう言い、大きな紫水晶のような美しく輝く瞳でじっと自分を見上げてくる小柄なシアを、長身のルーは静かな瞳で見下ろした。
 この愛らしく可憐な女主人は、元々性的な知識に疎かったせいか、あまりにも大胆なことを恥ずかしいと思わずに告げてくる節がある。その一面は可愛らしくもあるのだが……こと、今日に限っては頭が痛い。
 何を言っているんですか、と言いたげなルーの鳶色の瞳は、雄弁に呆れを語っていた。

「作れますが……。そんなことをなさらなくても、坊っちゃんとシア様は、いつも媚薬飲んでいるような愛欲に満ちたドロドロな性交をなさってるでしょうに」
「あ、あいよく……? ドロドロ……?」
「はい。仲睦まじくて極めて結構なことです。薬などに頼らなくても問題はないでしょう?」

 相変わらず表情を微塵も変えず、ルーはそう言って薄く唇の端を上げる。
 さっきまでの赤裸々な発言は無自覚だったシアだが、改めてこうしてエルナドとの”行為”を第三者から追及されると、かぁっと頬が熱くなった。
 「そ、そんな言い方ってないわ!」と、そこはなんとか咳ばらいをして耐える。
 た、確かにそうかもしれないけれど。
 そして、それが全てルーがお見通しなことは恥ずかしいけれど!
 
 それはおいておいてちょうだい、と告げて、シアは現在の状況を説明した。 
 立て続けに出された王命に、エルナドが忙しくしていること。
 そして全く一緒に過ごせないことへの不満。
 ついでに、絶対王・ヴィンスフェルトへのとどまるところを知らない悪口。
 ルーはいつもの無表情のままだったが、時折頷いてはくれているからシアの話は聞いてくれているのだろう。
 最後に女は度胸だもの、我慢ばかりしてられないの! という決意で締めくくれば、ルーは本当に彼女にしては珍しく、眉根をかすかに寄せるとひとつため息をこぼして首を振った。

「……なるほど。シア様が正気でおかしい、ということは理解しました」
「おかしい? ひどいわ! ええと、でも……作れる? 作れない?」
「作れます――が、私がシア様に媚薬を作って差し上げたなどと、坊っちゃんにバレたら間違いなく怒られますので作りたくありません」
「じゃあ、ナイショにしておくから……ええと、町で買ってきたことにするのはどう?」
「それですと、ヴィッセルかノルンが、シア様の監督不行き届きで怒られますね」

 ルーの言葉にシアは優しい老執事のヴィッセルと、常に姉のように自分を世話してくれるノルンを思い浮かべてシアはぶんぶんと首を振った。

「そんなぁ……ヴィッセルやノルンが怒られるのは嫌だわ? そ、そうよ! 拾ったことにする、とか……?」
「苦しすぎる言い訳ですね。そもそもの話ですが、シア様は坊っちゃんに嘘がつけるのですか?」
「エ、エルに嘘くらいつけるわよ……、つ、つけるはずよ、たぶん……」

 そんなこんななやり取りの果てに、ハッキリ言って全く乗り気ではないルーに、拝みに拝み倒して媚薬を作ってもらったのだ。
   
「いいですか、シア様。お薬は用法と用量を守って正しくお使いくださいね?」 

 そう、ルーに念をおされたのに。わかっていたのに―――!!



 ***


 
 飲もうとスポイトを咥えた瞬間くしゃみをしてしまったのも自分。
 そして、その勢いでスポイト内のものを全て飲みこんでしまったのも、自分。
 もっとさかのぼるならば、媚薬を飲もうという決断をしたのも自分。
 さらに――そもそも、こうして媚薬を作って!とお願いしたのも自分なので、完全にシア自身の愚行が全て原因である。

 だからこの状態――いつもの夫婦の寝室にて、乱れた寝衣姿で、身体を熱くして文字通りのたうちまわっているのは、完全に自分がお馬鹿さんなせいである――と、シアは改めて理解していた。
 

(……わかってる、わ……。でも、ほかにいい方法が思いつかなかったんだもの……!)

 
 自分が愚かすぎて、シアは本当に悲しくなってきてしまった。
 媚薬って、もしかして精神面も不安定にさせるのかしら……とおもいながらなぜか涙がこぼれてくる。

 そもそも、だ。
 出会った瞬間に全裸になり「孕ませてください」とエルナドに抱きつき、ため息をつかれたあの時から、シアはエルナドに対して迷惑をかけ続けている。
 自覚はあるのだ。「よくわからないことに無防備に突っ込んでいかない」と何度言われたことか。
 
 だから最近は、自分なりにちゃんと考えてから行動するようにしている。そしてつい先日、エルナドに言われたのだ。「シアも、女主人らしい落ち着きがでてきたな」なんて。
 それなのに、その数日後。いきなり媚薬を大量摂取して寝室で汗水と涙を垂らして転げまわっていたら、さすがのエルナドもびっくり……ではなくがっかりするのではないだろうか。

(わたしに呆れて、本当にあきれ果てて――離縁、してしまうかも?)
 
 実際には、シアに文字通り溺れきっているエルナドがそんなことをするはずがないのだが――ぐるぐると回らない頭で考えるせいか、どうしても悲観的な方向に考えが行ってしまう。
 この大馬鹿なやらかしを、彼に悟られるわけにはいかない。
 忙しくしている夫に、余計な心労をかけたくなかった。いや、心労をかけたくないのならなぜこんなことをしたのか、という話ではあるのだけれど――。

「ううう、もう、いや、いや……いや、なの……」

 考え無しの行動をとる自分が、今さら自分で恨めしかった。
 自業自得でしかない、この身体。
 ぼうっと考えに沈んでいる間、ますますじくじくと内芯が燃えているように熱くなってきた。

「エル……、はぁ、あ、エル……っ……」

 媚薬のせいで熱い身体が、勝手に脳内に夫の幻覚を妄想させる。
 いつも優しく自分に触れてくるあの大きな手のひら。そして優しいまなざし――そのまま快楽に流されそうになるのを、首を振ってなんとか霧散させる。
 少しでも冷静さを保たなくては。どんどん意識が甘く溶けて行っている気がした。
 このままだと、執務室や研究室にいるであろうエルナドを文字通り襲いに行ってしまいそうだ。

(ダメよ、もう、ダメ、絶対、ダメ……)

 水を飲もうと身体を起こしたけれど、熱を持った身体は全く自由にならなかった。まるで重りを付けたようにぎこちなく、再びシアの身体は柔らかい寝台に沈んでしまった。
 全身に汗が滴り、胎奥が疼いている。具体的には、股座がヒクついてたまらない。
 ヒクヒクと勝手に痙攣するそこは、身をよじるだけですさまじい快楽をシアに与えてきた。
 ぼんやりとした視界が、さらにゆらゆらと揺れていく。かすかに太ももをよじり、ショーツがこすれるだけで、ん、と甘い息が漏れ、シアは怖くて瞳を閉じた。
 
 何事も”過ぎる”のはだめだわ、と震えながら思う。
 怖い。身体が、指先が、全く思い通りにならない。
 そして、勝手に蠢く自分の右指が、欲望のままに寝衣の間に入り込み、そっと秘部を布越しに触れた。

「ぁ……っ」

 かすかな喘ぎ声が喉奥から漏れる。
 すでにしっとりとこぼれる蜜に濡れているそこは、じんわりと布越しに沁みだしてちゅぷ、ちゅぷと水音を部屋に響かせた。さすがルーのお薬だわ……すごい効き目……などと感心している場合ではない。
 
 夫婦の寝室で夫の枕を抱き、下着を濡らして自慰に耽る。
 こんなの本当にただの痴女じゃない……! と誰に言い訳するでもなく頬を赤らめ、シアは寝台で身を縮めた。なんとか手を抑え込もうとするけれど――ハッと思いつく。

(そうだわ……! エルが来る前に、一度自分で達すれば、落ち着くんじゃないかしら!?)

 一度達したあとは、確かに妙に冷静になるような、気がする。
 名案だわ! とその時のシアは思った。

 結果的に、全く名案ではなかったのだけれど。



(続)

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