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エピローグ/後日談
1.宴のあとで(1)
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宴のあとで
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結婚一周年のパーティーを開いた後の話
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「ぁ……」
背後から首筋に口づけられて、鼻から抜けるような甘い声が上がってしまう。
恥ずかしくて唇を噛みしめようとするけれど、今度は唇に指がそっと充てられてシアの拙い反抗は緩くとかされてしまった。
普段と違う、手袋の感触。背中と耳の後ろがチリチリとざわめく。
「声を、聴かせてくれ」
彼にこうして明確な意思をもって触れられるだけで、わたしの身体は甘く喘ぐ。
口では拒否しながらも、早く貫かれたい、最奥で果ててほしいと、そんな淫らなことを願いながら、じわりと身体の芯から乱れた涎をたらすのだ。
■
結婚して、今日で一年。
節目ともいえる今日は、エルナドとシア、ふたりにとっても感慨深い日だった。
王命による婚礼。式もなく、ただ淡々と家に迎えられたあの日から一年。
長いようで短かったこの一年を振り返り、シアは改めてエルナドと出会えてよかった、と強く思う。そして彼もそう思っていてくれればいいなと思うのだった。
先ほど終幕した、結婚一周年のパーティーは、本当に忙しかった。
黒の名家の間でのシアのお披露目も兼ねて開かれたそれは、館の内外に客を迎えた、華やかな盛り上がりを見せた。
このようなパーティーをせず内内にひっそりと祝いたいというエルナドとシアの思いは、やり手の執事・ヴィッセルと侍女長・ノルンによって完全に否定されてしまい、結局披露宴とも言うべき大々的規模で幕を閉じた。
そもそもが特殊な形の婚礼だったこともあり、シアは他の黒の名家の当主に挨拶すらしていない。「さすがに、ニグラード家としてお披露目はしておくべきです」とヴィッセルに主張されれば、エルナドもシアも黙らざるを得なかったのだ。
黒の三大名家のニグラード以外の残り二つ、商売のラック家と研究のアンテノール家。
どちらとの挨拶も無事に終わり、胸を撫でおろしたけれど、ぎゅうぎゅうに絞められたコルセットに華奢な身体には重すぎるパニエ、完全武装の華やかな黒のドレス姿でひたすら挨拶を重ねていたシアの体はすでにフラフラだった。
片づけを手伝うとは申し出たのだが、使用人一同に「奥様はお休みになってくださいませ」と言われ、自室に押し込まれるようにして今に至る。部屋にある大きなソファーに横になり目を閉じ、シアは動けずにいた。
正直、休ませてくれてありがたかった。
体力だけでなく、気疲れもある。
さすがに”ニグラードの女主人”となったシアに対して正面切って悪意をぶつけてくる相手はいないけれど、”白”であるシアにチクチクと刺すような言葉をぶつけてくる相手はもちろんいた。
胸の谷間をこれでもか!と強調した真っ赤な口紅の女性に「あらあら、お可愛らしい方ね。そう、まるで子供のような」と体型を揶揄されたり、黒い縁眼鏡のいかにも学者然した神経質そうな初老の男性に「おや、奧様は黒の常識もご存じない?」と知識をひけらかされたり。
シア本人はその妖精のような儚い見た目に反し、あまり物事を深く考えないのんきな性格なのでさらりと流したけれど、このような嫌味を吐かれるたびに自身の隣に立つエルナドが物凄い魔力をかもしだすので、そちらの方がひやひやして気が気ではなかった。
基本的にエルナドは穏やかだが、自分が関わると意外と短気で直情的になる。
いつもならノルンがドレスを優しく手際よく解いてくれるのだけれど、今日は侍女長としてパーティーの片づけに奔走している。
自分で解かなければならないのだが――おっくうでなかなか起き上がれない――もうこのまま寝てしまおうかしら――とそこで、人の気配を感じ、シアはぱちりと瞳を開けて目を見開いた。
「エル……? どうして?」
そこにはシアとおなじようにかっちりとした礼装に身を包み、こちらを静かに見下ろしているエルナドがいた。
いつもの装いともまた違う、黒の中に藍の意匠の入ったその礼装。ローブ然した服を着ていることが多いせいか、スラックスにジャケット姿のその衣服は新鮮で、シアの胸をときめかせる。
きっちりと締めている黒いタイに同じ色の手袋。いつも下ろしている長い黒髪は一つに高く結わえていて、いつもとちがう髪型もまた、シアの胸を熱くさせた。
誇張ではなく、夫は世界で一番、美しくて格好良い男だと思う。
「ヴィッセルとノルンに、ゆっくりしてこいと言われてな」
「さすが優秀な執事様と侍女長様ね」
「ノルンからはシアの着替えも手伝ってやってくれと言われている。おそらく、着替えがおっくうでソファーに寝転んでいるだろうからと」
「……。そう」
シアの頬が赤く染まる。
まさにその通り。優秀な侍女は、主のこのぐうたらな行動もお見通しなようだ。
自分のずぼらさを指摘されて赤くなるシアに、エルナドはかすかに笑った。
「じゃあ、お願いするわ」
ソファーから立ち上がり、エルナドに背中を向ける。
今日のドレスは背中がほとんど出ているデザインで、首の後ろと背中、そして腰のリボンをほどけばするりと脱げるようになっている。
薄紗のストールを羽織っていたからか、パーティー中は見えていなかったそこに、エルナドが一瞬息をのんだのが分かった。
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結婚一周年のパーティーを開いた後の話
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「ぁ……」
背後から首筋に口づけられて、鼻から抜けるような甘い声が上がってしまう。
恥ずかしくて唇を噛みしめようとするけれど、今度は唇に指がそっと充てられてシアの拙い反抗は緩くとかされてしまった。
普段と違う、手袋の感触。背中と耳の後ろがチリチリとざわめく。
「声を、聴かせてくれ」
彼にこうして明確な意思をもって触れられるだけで、わたしの身体は甘く喘ぐ。
口では拒否しながらも、早く貫かれたい、最奥で果ててほしいと、そんな淫らなことを願いながら、じわりと身体の芯から乱れた涎をたらすのだ。
■
結婚して、今日で一年。
節目ともいえる今日は、エルナドとシア、ふたりにとっても感慨深い日だった。
王命による婚礼。式もなく、ただ淡々と家に迎えられたあの日から一年。
長いようで短かったこの一年を振り返り、シアは改めてエルナドと出会えてよかった、と強く思う。そして彼もそう思っていてくれればいいなと思うのだった。
先ほど終幕した、結婚一周年のパーティーは、本当に忙しかった。
黒の名家の間でのシアのお披露目も兼ねて開かれたそれは、館の内外に客を迎えた、華やかな盛り上がりを見せた。
このようなパーティーをせず内内にひっそりと祝いたいというエルナドとシアの思いは、やり手の執事・ヴィッセルと侍女長・ノルンによって完全に否定されてしまい、結局披露宴とも言うべき大々的規模で幕を閉じた。
そもそもが特殊な形の婚礼だったこともあり、シアは他の黒の名家の当主に挨拶すらしていない。「さすがに、ニグラード家としてお披露目はしておくべきです」とヴィッセルに主張されれば、エルナドもシアも黙らざるを得なかったのだ。
黒の三大名家のニグラード以外の残り二つ、商売のラック家と研究のアンテノール家。
どちらとの挨拶も無事に終わり、胸を撫でおろしたけれど、ぎゅうぎゅうに絞められたコルセットに華奢な身体には重すぎるパニエ、完全武装の華やかな黒のドレス姿でひたすら挨拶を重ねていたシアの体はすでにフラフラだった。
片づけを手伝うとは申し出たのだが、使用人一同に「奥様はお休みになってくださいませ」と言われ、自室に押し込まれるようにして今に至る。部屋にある大きなソファーに横になり目を閉じ、シアは動けずにいた。
正直、休ませてくれてありがたかった。
体力だけでなく、気疲れもある。
さすがに”ニグラードの女主人”となったシアに対して正面切って悪意をぶつけてくる相手はいないけれど、”白”であるシアにチクチクと刺すような言葉をぶつけてくる相手はもちろんいた。
胸の谷間をこれでもか!と強調した真っ赤な口紅の女性に「あらあら、お可愛らしい方ね。そう、まるで子供のような」と体型を揶揄されたり、黒い縁眼鏡のいかにも学者然した神経質そうな初老の男性に「おや、奧様は黒の常識もご存じない?」と知識をひけらかされたり。
シア本人はその妖精のような儚い見た目に反し、あまり物事を深く考えないのんきな性格なのでさらりと流したけれど、このような嫌味を吐かれるたびに自身の隣に立つエルナドが物凄い魔力をかもしだすので、そちらの方がひやひやして気が気ではなかった。
基本的にエルナドは穏やかだが、自分が関わると意外と短気で直情的になる。
いつもならノルンがドレスを優しく手際よく解いてくれるのだけれど、今日は侍女長としてパーティーの片づけに奔走している。
自分で解かなければならないのだが――おっくうでなかなか起き上がれない――もうこのまま寝てしまおうかしら――とそこで、人の気配を感じ、シアはぱちりと瞳を開けて目を見開いた。
「エル……? どうして?」
そこにはシアとおなじようにかっちりとした礼装に身を包み、こちらを静かに見下ろしているエルナドがいた。
いつもの装いともまた違う、黒の中に藍の意匠の入ったその礼装。ローブ然した服を着ていることが多いせいか、スラックスにジャケット姿のその衣服は新鮮で、シアの胸をときめかせる。
きっちりと締めている黒いタイに同じ色の手袋。いつも下ろしている長い黒髪は一つに高く結わえていて、いつもとちがう髪型もまた、シアの胸を熱くさせた。
誇張ではなく、夫は世界で一番、美しくて格好良い男だと思う。
「ヴィッセルとノルンに、ゆっくりしてこいと言われてな」
「さすが優秀な執事様と侍女長様ね」
「ノルンからはシアの着替えも手伝ってやってくれと言われている。おそらく、着替えがおっくうでソファーに寝転んでいるだろうからと」
「……。そう」
シアの頬が赤く染まる。
まさにその通り。優秀な侍女は、主のこのぐうたらな行動もお見通しなようだ。
自分のずぼらさを指摘されて赤くなるシアに、エルナドはかすかに笑った。
「じゃあ、お願いするわ」
ソファーから立ち上がり、エルナドに背中を向ける。
今日のドレスは背中がほとんど出ているデザインで、首の後ろと背中、そして腰のリボンをほどけばするりと脱げるようになっている。
薄紗のストールを羽織っていたからか、パーティー中は見えていなかったそこに、エルナドが一瞬息をのんだのが分かった。
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