96

ROKI

文字の大きさ
24 / 46
BLOOD WAY

5、美しい魔女

しおりを挟む
  その国随一と言われるほど、美しい女がいた。その女はとても力の強い魔女でもあった。名をイザベラといった。イザベラは王族に近い血筋の名族に仕えていた。家の厄を祓い、富をもたらすために貴族には屋敷に魔女を雇い入れる習わしがあったのだ。雇われた家に尽くすうちに、いつしかイザベラは若くして当主となった名族の長男と恋に落ちた。二人はとても仲睦まじく、それはそれは強く結ばれていた。然し、身内の些細な失敗から王族に睨まれ、その家は打撃を受けてしまった。何を思ったのか、家の者たちはその責をイザベラに押し付け始めた。家を守護しなかった役立たずの魔女であるとイザベラを誹り、無理矢理屋敷を追い出した。そして当主とイザベラの絆を引き裂くため、更に家の復権のため強引に王族の娘と当主の婚姻を結ばせてしまったのだった。イザベラは王族も見守る盛大で豪奢な結婚式で、結びの祝福のまじないをかける魔女として招かれた。明らかな嫌がらせであった。遠く手の届かない場所に担ぎ上げられて、見知らぬ女と誓いを交わし合う当主の姿を見つめながら、見せつけられながら、イザベラはそれでも多幸のまじないをかけた。
  イザベラがおかしくなったのはそれから半年程した頃だった。屋敷を追い出されてから郊外の森の奥の見すぼらしい小屋にイザベラは暮らしていた。それまでは盈々としていた筈が、すっかり落ちぶれて有らぬ姿へと成り果てていた。後にわかった事であったが、イザベラはその小屋でひとり、ひっそりと子を産み落としていた。そして誰も寄り付かぬ閉鎖的な環境で、子供を育てていた。その子供が六歳になった年、イザベラは街に現れた。以前の姿とは似ても似つかぬ老け込んだ魔女が、子供の手を引き覚束ない足取りで歩いていく。異様な光景に街の者たちは皆イザベラと子供を避けた。広場を抜けその先の大きな屋敷を目指してイザベラは進んでいく。いつの間にか子供の手を離し、イザベラは一人になっていた。そして屋敷に辿り着くと門の格子に手を掛けて、暫く中の様子をじっと見つめていた。屋敷の者が気付いてイザベラを門から引き剥がすのを何人かの民が見ていた。その後、どうやって入り込んだのか…イザベラは屋敷の中庭にある薔薇園にて、雷に打たれて亡くなった。イザベラの亡骸は跡形も無く粉砕してしまっており、たくさんの薔薇の中に散っていたそうだ。不思議な事に打ち砕かれ燃えたのはイザベラの身体だけで、薔薇には傷一つ付いていなかったという。その薔薇園こそ、かつて若い当主が心から愛した美しい魔女に愛の誓いとして贈ったものだった。イザベラが連れていた子供の行方は誰も知る事なく、霞のように消えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...