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BLOOD WAY
5、美しい魔女
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その国随一と言われるほど、美しい女がいた。その女はとても力の強い魔女でもあった。名をイザベラといった。イザベラは王族に近い血筋の名族に仕えていた。家の厄を祓い、富をもたらすために貴族には屋敷に魔女を雇い入れる習わしがあったのだ。雇われた家に尽くすうちに、いつしかイザベラは若くして当主となった名族の長男と恋に落ちた。二人はとても仲睦まじく、それはそれは強く結ばれていた。然し、身内の些細な失敗から王族に睨まれ、その家は打撃を受けてしまった。何を思ったのか、家の者たちはその責をイザベラに押し付け始めた。家を守護しなかった役立たずの魔女であるとイザベラを誹り、無理矢理屋敷を追い出した。そして当主とイザベラの絆を引き裂くため、更に家の復権のため強引に王族の娘と当主の婚姻を結ばせてしまったのだった。イザベラは王族も見守る盛大で豪奢な結婚式で、結びの祝福のまじないをかける魔女として招かれた。明らかな嫌がらせであった。遠く手の届かない場所に担ぎ上げられて、見知らぬ女と誓いを交わし合う当主の姿を見つめながら、見せつけられながら、イザベラはそれでも多幸のまじないをかけた。
イザベラがおかしくなったのはそれから半年程した頃だった。屋敷を追い出されてから郊外の森の奥の見すぼらしい小屋にイザベラは暮らしていた。それまでは盈々としていた筈が、すっかり落ちぶれて有らぬ姿へと成り果てていた。後にわかった事であったが、イザベラはその小屋でひとり、ひっそりと子を産み落としていた。そして誰も寄り付かぬ閉鎖的な環境で、子供を育てていた。その子供が六歳になった年、イザベラは街に現れた。以前の姿とは似ても似つかぬ老け込んだ魔女が、子供の手を引き覚束ない足取りで歩いていく。異様な光景に街の者たちは皆イザベラと子供を避けた。広場を抜けその先の大きな屋敷を目指してイザベラは進んでいく。いつの間にか子供の手を離し、イザベラは一人になっていた。そして屋敷に辿り着くと門の格子に手を掛けて、暫く中の様子をじっと見つめていた。屋敷の者が気付いてイザベラを門から引き剥がすのを何人かの民が見ていた。その後、どうやって入り込んだのか…イザベラは屋敷の中庭にある薔薇園にて、雷に打たれて亡くなった。イザベラの亡骸は跡形も無く粉砕してしまっており、たくさんの薔薇の中に散っていたそうだ。不思議な事に打ち砕かれ燃えたのはイザベラの身体だけで、薔薇には傷一つ付いていなかったという。その薔薇園こそ、かつて若い当主が心から愛した美しい魔女に愛の誓いとして贈ったものだった。イザベラが連れていた子供の行方は誰も知る事なく、霞のように消えていた。
イザベラがおかしくなったのはそれから半年程した頃だった。屋敷を追い出されてから郊外の森の奥の見すぼらしい小屋にイザベラは暮らしていた。それまでは盈々としていた筈が、すっかり落ちぶれて有らぬ姿へと成り果てていた。後にわかった事であったが、イザベラはその小屋でひとり、ひっそりと子を産み落としていた。そして誰も寄り付かぬ閉鎖的な環境で、子供を育てていた。その子供が六歳になった年、イザベラは街に現れた。以前の姿とは似ても似つかぬ老け込んだ魔女が、子供の手を引き覚束ない足取りで歩いていく。異様な光景に街の者たちは皆イザベラと子供を避けた。広場を抜けその先の大きな屋敷を目指してイザベラは進んでいく。いつの間にか子供の手を離し、イザベラは一人になっていた。そして屋敷に辿り着くと門の格子に手を掛けて、暫く中の様子をじっと見つめていた。屋敷の者が気付いてイザベラを門から引き剥がすのを何人かの民が見ていた。その後、どうやって入り込んだのか…イザベラは屋敷の中庭にある薔薇園にて、雷に打たれて亡くなった。イザベラの亡骸は跡形も無く粉砕してしまっており、たくさんの薔薇の中に散っていたそうだ。不思議な事に打ち砕かれ燃えたのはイザベラの身体だけで、薔薇には傷一つ付いていなかったという。その薔薇園こそ、かつて若い当主が心から愛した美しい魔女に愛の誓いとして贈ったものだった。イザベラが連れていた子供の行方は誰も知る事なく、霞のように消えていた。
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