96

ROKI

文字の大きさ
29 / 46
BLOOD WAY

10、否人

しおりを挟む
「嫌だ。離せ、否人(イネプト)め!」
否人イネプトとは、魔力や特殊な能力を持った者がそうでない者に対して使う差別用語だった。これまで共に過ごしてきて、マリシアの口からこの単語を聞いたのは初めてだ。確かにマリシアは、魔術師として類稀ない才能を持っている。母親の素質を強く引き継ぎ、巧みな魔術を使いこなす。旅をしながらもどこからともなく風に乗ってきた評判のおかげで、マリシアヘ直接、希少な術師としての純粋な仕事が舞い込んでくる事も少なくなかった。厄介な傷や病の治療、解呪、厄払い、時には人ならざるものの祓いをする事もあった。魔術師には一般の人間とは違う次元が見えており、それ故に独自の社会を持っている。普通手に終えないことへ介入し解決してしまう為、頼られる事の多い魔術師が非能力者と一線を引くようになるのは珍しくない。マリシアと同行し、実際に魔術師の仕事を手伝う上でそんな線引きも仕方の無いことなのだろうとケイウスは思った。特に他人との溝の深いマリシアは、どんな状況でも事務的で冷ややかに人々をあしらっていたため、ケイウスは初めの頃、マリシアも非能力者を見下しているのだとばかり思っていた。しかし、マリシアが差別的に他人を謗ることは一度も無かった。だと言うのに、今は口汚くケイウスを罵っている。
「早く消え去れ!否人イネプト!!穢らわしい!」
両腕を掴んで抵抗を阻み、荒々しいマリシアの唇に口付けをする。拒絶を押し開いて深くまで繋がろうとしても、マリシアは受け入れない。
「マリシア!吸え!!いいから、生気を吸え!」
「嫌だ、お前なんか、嫌いだ」
血の気が失せて青くなった顔の頬にも傷が刻まれた。結局マリシアは一つの傷も癒やすことなく気を失った。ケイウスは眠るマリシアの体の傷の手当をする。もう包帯が切れてしまった。来ていたローブは乾いた血液でカピカピになっている。一つ一つが深い傷ではなくとも、これだけ無数に負うとなると体へのダメージはとても大きいだろう。赤く汚れた部分を濡らした手ぬぐいで拭き取りながら、弱ったマリシアをケイウスは見守ることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...