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フラれたら異世界に飛ばされた
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「お前には本当に悪いと思ってる。頼む、別れてくれ!」
「今、なんて?」
故郷に戻っていた恋人に急に呼び出された平日の夜。
珍しく残業もなくて、今夜はお気に入りのお店で飲んで帰るかって思っていた所だった。
メッセージアプリからは今朝に帰宅したっていうメッセージを受け取っていたからお土産か何かを渡されるのだと思って、呼び出された先のカフェに私は向かったのだ。
するとどうだろう、そこには見知った顔の恋人とその恋人の隣には俯きがちの女性が一人。
これはよくありがちなアレだろうか、と嫌な予感しかしなくて、私はすぐに帰りたくなった。
だがしかし。そういう時ほど現実は残酷で相手に見つかるというありがちなパターンだ。
私は小さくため息を吐いて、ゆっくりと恋人が待つそのテーブルに着くやいなや、オーダーをする前に頭を下げられた。
そして、冒頭のセリフを吐かれたのだ。
隣には寄り添う女性。おそらくこの人が理由なのだろう。
「別れたい理由を聞く権利が私にはあると思うんだけど」
だいたい想像はついた。
想像はついたけれど、それを聞かないままいいですよ、なんて言えなかった。
「今年の盆休みに実家帰った時に、元カノのコイツと再会して……、それで……」
ありがちテンプレなパターンで私ははっきり言って白けている。そこで盛り上がって致した挙句、子供ができたとかそういう理由なんだろう。
なんとなくチラリと彼に寄り添っている彼女をみればオロオロとした態度を示すものの瞳の奥は笑っていて勝ち誇ったかのようだ。
「あなたは、私と婚約していて、結納も済ませていてそれでも別れたいってことでいいのね?」
「あ、ああ、お前には本当に申し訳ないって思うけど、でも……」
「そう。じゃあ私はあなたに対して相応の対応をさせていただくわ。婚約破棄に伴う慰謝料請求、結婚式場のキャンセル費用諸々、それからその隣にいる女性との浮気で婚約破棄なのだから。それとね、何も関係ないって思ってるあなたにも同様にさせてもらうからそのつもりでね。二、三日中に代理人を通して対応してもらうからそのつもりで」
元彼とその隣にいた女性は私のセリフに顔を青ざめさせていた。
当然だ、彼と私はすでに婚約しているし両家と顔合わせ、結納も済ませて式場だって予約していたのだ。男の一方的な都合で別れてほしいというのであれば、相応のことを望むのは当然の権利だ。
私は同僚の子や親友が泣きながら同じことになって破談になったのを間近で見ていたし、こういうことはよくある事だからと兄からも聞いていた。
浮気をして妊娠したというのは立派な不貞で、私は裏切られた。
この男との付き合いは決して短いものじゃなかったから、涙よりも憎しみが先に沸き起こったのが意外だった。憎しみは抱いても、彼に対しての想いはある。けれど、それよりも彼の裏切りは許せるものではなかった。
「な、なんでそんなひどいこと言えるんですか!? あなた、彼のこと愛しているんでしょ!?」
金を請求されるとは思っていなかったのだろう女がヒステリックに叫ぶ。
この時点で店にいた他の客たちの視線が私たちに集まるが、私は素知らぬ顔をするだけだ。
「どこが酷いのよ。酷いのはあなた達でしょ? 私と彼はすでに結納して、結婚式場の予約だってした結婚間近のカップルだった。それをあなたと彼がぶち壊したのよ? 婚約破棄された挙句、なんで私が原因じゃないのに式場のキャンセル諸々の費用を支払わなければならないの? 冗談じゃないわ。だから弁護士をこちらは雇うって言ってるのよ。あなたはその男との将来を夢見ているだけでいいかもしれないけれど、それはあなたの都合であって私の都合じゃないわ。押し付けないでくれる? 争いたければあなたも弁護士の一人でも雇えばいいじゃない」
彼氏だった男はもちろん好きだ。今でも。
でも、その感情と同時に裏切られたという気持ちはそれよりもずっと重くて醜くて酷いものだ。
泣いて喚いて縋るなんてことはできなかった。今の私には。
女と女の戦いで、男を奪われた女はいつだって惨めだ。
しかも別れの場に奪い取った女がいる戦場は残酷で、負けた女は醜態を晒すか、潔く立ち去るしかないのだ。
だから私は立ち去ることを選んだ。
ただし、相応のことを相手に求めることは忘れない。ただ奪われたままをよしとしてなんかやらない。そんなものはドラマの中で繰り広げられたハッピーエンドで、そうしてやる義理なんてない。
そして。
「この件については、あなたのご両親にもこちらからお話しさせていただくので、そのつもりでね」
茫然自失といった男に捨て台詞のように吐いて、私は足早にその店を出て行った。
好奇心の視線がいつまでも背中を追いかけていたのは気づいていたけれど、それを気にする余裕なんて私にはない。
店では気合いでこらえていた涙を家に着くまで零れないように耐えることが何よりも大事なのだ。
ちっぽけなプライドと意地でしか、現実を受け止められなかった。
「やっと終わった」
年末の馬鹿みたいに忙しい毎日を縫うようにして、婚約破棄における諸々の問題を片付けていた。
揉めるかと思ったけど、事情が事情だったことと彼の両親に気に入られていたからだと連絡を受けていた。一括払いの慰謝料は彼の実家からは支払われている。
もちろん忘れずに相手の女の家にもそれを持ち込んだ。
そちらは最初大いに相手の女が喚き散らしたが、結局は黙り込んでこちらの条件を飲んだ。
当たり前だ、どう喚こうとも婚約して結婚式を控えている男だと知っていて寝取ったのだから今更知りませんは話にならない。
元婚約者だった男が実家に帰省した理由だって、地元の友達に結婚報告を兼ねた報告と飲み会を開催するから帰省したのだ。
世間一般は私を酷い女だと言うかもしれないが、私だって世間からしてみれば見捨てられた女だ。
しかも結婚の約束までして、式の予定も入れた女の末路は人の噂になりやすい。
そのごたつきがようやく終わり、私は小さくため息を吐いてフラフラになりながら自宅へ帰ろうとしていた。
オフィス周りの街路樹はすでに落葉し、冬のイルミネーションが飾られて点灯していた。キラキラと美しい光は輝いていて、そういえばあの男とよく待ち合わせをしては一緒に歩いていたなと思うともう駄目だった。
「うぅ……!」
じわりと滲む涙。
零れそうになる涙を堪えて足早にその場所を離れる。周りは幸せそうなカップルたちばかりで、それが現実を容赦なく押し付けてくる。
すぐそばのタクシー乗り場からタクシーに乗り、自宅を告げる。一刻も早くこの場所からいなくなりたかった。
今泣いてはタクシーの運転手さんに迷惑をかける。幸いに何も聞いてこないタイプだったからか、自宅のあるマンションにはすぐに着いた。
けれど安心できる場所がある、ということは今まで堪えてきたものが簡単に崩れてしまうとういうことだ。嗚咽こそ殺していたけれど、エレベーターの中ではもうボロボロと溢れる涙が頬を濡らしていた。
「うわあああぁぁぁん!」
ドアを開けたら崩れ落ちた。そして堪えていた嗚咽とともに思い切り泣いた。
好きだった。
当然だ。
私は彼のことが好きだった。
出会いは高校時代で、彼は私の一つ年上の先輩だった。
憧れの先輩で、憧れは憧れだった。
初恋に似た想いを抱いてさえいたけれど、彼には同い年の彼女がいるということを知っていたからそこで私の初恋はあっけなく終わりを遂げたのだ。
そうして失恋の痛みを抱えて、少しだけいろいろな出会いと別れがあって一年がすぎた頃。
たまたま手伝いとして駆り出された文化祭。そこで彼と再会した。
一足先に大学生になった彼は、当時の私にとっては大人びていた。洗練されたファッションに屈託のない笑み。
諦めたはずの初恋は簡単に呼び起こされて熱病のように私の中を満たしていく。
本当に進みたかった進路を取りやめて、私は彼が行った難関大学へ受験することを決めた。
幸に成績は悪い方ではなかったから、受験はうまく行った。
友達も私が志望を変えたことの理由の一つを知っていたから受験が終わった時には、今度は彼に好かれたい女性になるために自分磨きを始めた。
それが成功したのは両親のお陰だと思う。
ただ一つをいうならば頭の出来は二人の兄ほど私はよくない。
勉強しなければいけないし、彼らは天才肌で難なくこなすタイプだった。
男と女とあって比べられることはなかったけれど、それでも周りの期待は正直なところあったし、私が本当にしたいことを選択するには、兄たち二人の進路がそれを許してくれる環境ではなかった。
もちろん、両親や兄は好きなことをすればいいと言ってくれていたけれど。
私の周囲の環境は恵まれている。
それを十分理解して私は彼のいる大学に入学を果たした。
その彼と付き合いだしたのは一回生が終わる頃だ。
同じサークルに入って接触する機会があり、彼がフリーだという話を聞き、彼の好きそうなファッションや話題を振ってそうして彼も私と話す機会が増えていき、クリスマスに初めて二人きりで出かけ、何度かデートをして付き合うことになった。
それから大学を卒業して、彼は一流商社へ入社して、私も幸いなことに大手企業へ就職できたのは幸いだ。
付き合いだして六年目の日にプロポーズを受け、七年目のクリスマスを前に私たちは破局した。
短い付き合いじゃない。長い方だ。それでもまだ二人ともに好きだったから、結婚するんじゃなかったの。どうして。
ぐるぐるとそればかりが頭を回って一晩中私は泣き続けた。
ペロペロと顔のあたりが濡れたものを這っている。そのことに眉をしかめながら私の意識は上昇した。うっすらと目を開けば、そこは見慣れた自宅のソファだ。
泣いて帰った昨日、休みだった今日は朝から家にあるもので料理してお酒をしこたま飲んできっと潰れたのだろう。
顔を舐めていた犯人は真っ白な毛並みの美しい白い猫。
「なんだあなた来てたの」
酒灼けと泣いた後の掠れた酷い声が出て、思わず自分でも驚いた。
けれどここには私と猫しかいない。にゃあ、と鳴いて身軽にジャンプした白猫は私の膝の上に乗って丸くなる。
この白猫は三年前にこのマンションのエントランスで怪我をしていたところを、私が見つけてしばらく世話をした猫だった。
「いつの間に来たのよ、もう」
気がつくと家の中にいる白猫。
真っ白な毛並みは撫でるととても気持ちが良くて、尻尾の先端だけ少し黒い。瞳の色は高貴な紫のように見えたと思えば深いワインカラーのような赤にも海のような青にも見えるときがある。
不思議な瞳をしたこの猫のことを、シエルと私は呼んでいた。
時計はすでに昼を指していた。どれだけ昨日飲んだのかはテーブル周りに転がっている瓶や缶をみたら察する。幸いにも二日酔いとは縁遠いお陰か、体は水分を欲する程度だ。
水分補給をすべく、膝の上のシエルを退かせてから瓶を片付けながら冷蔵庫の中のスポーツドリンクを飲み干した。
カーテンを開けると青空が広がっている。
たとえ私が泣いても酔っ払っても一日は始まる。
昨日は泣きながら飲んで、寝落ちしても、だ。
「明日からも、頑張ろう」
ただそう思った。
自然と出てきた言葉に私は小さく笑った。
あれだけ悲しくて、泣いて、報復だってした。
一人じゃ食べ切られない量の料理を無心で作って、それをつまみにしながらダラダラ一日中お酒を飲んで。
ぺしっと小さな音がして、振り返るとそこにはじぃっと私を見つめるシエルの目があった。
「もう大丈夫よ。あなたも心配してくれたから来てくれたの? 本当に不思議な猫ね」
形のいい頭を撫でると気持ち良さそうな顔をするシエル。不安だったり悲しかったり辛い時にはいつの間にかやってきた。時折、つがいなのか一緒に黒猫も来るけど、その不思議な猫にはいつだって助けられていると思う。
「買い物行ってくるから待っていてくれる? 夕ご飯くらい食べていったら?」
甘えた声で鳴き声をあげたシエルに、私は出かける準備をして近所のスーパーへ向かった。
水や米などの重いものは基本的にネットスーパーで注文しているから、必要なのは生鮮食品などだ。調味料類も一通り揃っている。必要なものを買ってスーパーを出る。
冬は夕暮れが早く、空は徐々に茜色に色を変えようとしていた。
「花蓮」
「なんで……」
マンションのエントランス前には、先日別れを告げた男が待っていた。
若干やつれたように見えるのは気のせいなのかなと思うけど、でも気にしたところでもう彼は私の恋人でも婚約者でもない。
「なあ、俺が悪かったんだ! だから、もう一度やり直そう。あいつとは遊びだったし、出来心なんだよ。子供が出来たっていうから、責任取ろうと思ったけど、でも俺が好きなのはやっぱりお前なんだよ」
ゆらりと私の方に向かってくる彼はどこか怖かった。
ずいぶん勝手なことを言っている、と冷静なもう一人の私が囁いていて、じりっと私は一歩後ろに下がった。
何か、怖いのだ。
「それなのに、お前の連絡先には繋がらねえし、会社行っても門前払いだし、お前の知り合いに聞いても誰も知らないって言うし!お前の兄貴たちだって頭下げてるのに無視しやがるし!!なあ、お前ならわかってくれるだろ、なあ」
なあ、といいながら彼の目は私を見ているようで見ていない。
彼が私と別れてからそれなりにいろいろあったことは兄を通して知っている。
優秀な兄は、その頭を生かして弁護士資格をとった現役の弁護士だ。他の弁護士が経営する事務所に勤務している弁護士の一人で、まだ経験こそ浅いが優秀なのだという。
今回の件で兄二人に可愛がられていた私は、この兄の怒りを目の当たりにしたから、きっと兄は彼と彼の家族に対して容赦しなかったのだと思う。
彼のご両親についても私を可愛がってくれていたから、非難は彼一人が受けたようなものなのかもしれない。
兄からは彼には近づくなとも言われている。だから連絡先も拒否とブロックをして消したし、共通の知り合いにも新しい連絡先は教えていない。私のごくごく限られた親友で今回の事を憤ってくれた数人だけには他言しないようにと口止めまでして教えている程度に留めてある。
「何を言っているの。あなたが自分で蒔いた種じゃない! 勝手なこと言わないでよ。いい加減にしてよ!」
やっと私だって前を向こうと決めたばかりだし、子供が出来ている以上そちらの問題だってある。
今更わかりました、元の鞘に戻りましょうなんて出来るはずがない。
私は結婚をそれなりに夢を見ていたし、彼のことが好きだったし、彼も私のことが好きだったと思っていた。
仕事だって、子供は授かりものだから、それまではお互いに働きながら旅行をしたり美味しいものを食べたりしよう、というようなことを話しながら結婚の話を進めてきたのに。
それを全部台無しにして、出来心なんてどうして許せるの。
それに出来心だなんていうなら、なんであの日私に別れなんて告げたの。無意識に唇を噛み締めて、私は彼を睨んだ。
確かに彼が好きだった。結婚もしたかった。
でも、こんな結末を迎えて、今更都合のいいことを言い出した彼がとても憎かった。
「なあ、話を聞いてくれよ」
叫んだ私の手首を強く掴んだ彼に、私は痛いと叫ぶ。力加減なしで掴まれたのは初めてだし、こんな扱いも初めてだった。ただ目の前の彼の目が怖くてたまらない。腕を引き寄せようとしても掴まれたまま。
「ここじゃ話なんて出来ないから、お前の家にあげてくれよ。なあいいだろ?」
勝手なことを言い出して、ぐいぐいと腕を掴んだままエントランスを潜ろうとする。
ここのマンションは住人が中からロックを開けるか、住人が持っているキーがなければその先には入れない。
「嫌だって言ってるでしょ。帰ってよ。あなたとはもうとっくに別れているし、婚約だって破棄されているのだからもう何の関係ないわ」
掴まれた腕が痛くて、いい加減私も堪忍袋の緒が切れそうだった。
「そこで何をしているのかな?」
手に持ったスーパーの袋を振り上げようとしたその時、箒を持った作業衣をきたおじさんが声をかけてきた。
このマンションの管理人さんだ。
きっと監視カメラの映像を見てきてくれたのかもしれない。誰かが来るとは思っていなかったのか、彼が手を話したその隙に私はエントランスのゲートを潜り抜けた。
ガラスドアの向こう側で舌打ちをしている彼と彼を怪しんだ管理人のおじさんを横目にエレベーターで自分の部屋に戻ると、ドアを厳重にロックして私は玄関に座り込んでしまった。
「……怖かった」
本音をいうならそれだ。
目がとにかく怖かった。初めて力加減も何もなく掴まれた手首は今もジンジンと鈍い痛みを訴えていて、もしあのまま管理人のおじさんがこなかったら、と思うと何をされたのかわかったものじゃない。
もしかしたら私が彼を変えてしまったのかもしれない、と思う。
でも、私に果たして非はあったのかと思うと彼が浮気して不貞行為をしてダメにしたのだ。
逆恨み、というやつなのかもしれない。
にゃーん、とトコトコ小さな音を立てて、帰ってきた私の様子がおかしいことに気づいたシエルがやってきた。
おすわりをして首をかしげる白猫に、おそらく強張った表情の私に何かあったのかと猫なりに感じたのかもしれない。しなやかな体を摺り寄せてくる白猫の体温がじんわりと温かった。
「さっき、ちょっと怖い思いをしただけだから大丈夫よ。彼はここには来られないから」
シエルの体に触れて柔らかな毛並みに徐々に詰めていた息を吐き出す。
同僚や親友たちに別れ話が失敗した時の面倒さを聞いていたけれど、聞くのと体験するのでは大違いだった。
少し落ち着いてシエルを抱き上げて部屋に上がる。
買った荷物をキッチンの冷蔵庫にしまって、だいぶ部屋の中が暗くなってきたことで結構な時間が経っていたことに気づいた。
「いけない、もうこんなに暗くなっちゃった。すぐにご飯の準備するから待っていて」
飼い猫ではないけれど、結構な頻度でやってくるシエルは定位置で丸くなっていた。
カーテンを閉めて部屋の明かりを灯してから夕飯の準備をしようとしたところで来訪を告げるチャイムが鳴った。
「嘘、なんで……」
ドアフォンのカメラの前には、少し前にエントランスで別れた男が立っていた。
背後はまだエントランスだったから、おそらく管理人さんがいなくなったタイミングでチャイムを押したのだろう。なんども連打して、インターフォンからいるのはわかってんだよ、と乱暴な声が聞こえてくる。
普通じゃない。
相手は私のことは見えていないはずなのに、カメラ越しに見る目が捉えているようにさえ思えてくる。
ドアフォンから後ずさり、後ろを見ていなかったせいでカーペットに躓いてしまった。
にゃー、という猫の鳴き声、それが私の覚えている最後のことだった。
次に目を開けた時は、見知らぬ場所、見知らぬベッドの中で私は目を覚ました。
「今、なんて?」
故郷に戻っていた恋人に急に呼び出された平日の夜。
珍しく残業もなくて、今夜はお気に入りのお店で飲んで帰るかって思っていた所だった。
メッセージアプリからは今朝に帰宅したっていうメッセージを受け取っていたからお土産か何かを渡されるのだと思って、呼び出された先のカフェに私は向かったのだ。
するとどうだろう、そこには見知った顔の恋人とその恋人の隣には俯きがちの女性が一人。
これはよくありがちなアレだろうか、と嫌な予感しかしなくて、私はすぐに帰りたくなった。
だがしかし。そういう時ほど現実は残酷で相手に見つかるというありがちなパターンだ。
私は小さくため息を吐いて、ゆっくりと恋人が待つそのテーブルに着くやいなや、オーダーをする前に頭を下げられた。
そして、冒頭のセリフを吐かれたのだ。
隣には寄り添う女性。おそらくこの人が理由なのだろう。
「別れたい理由を聞く権利が私にはあると思うんだけど」
だいたい想像はついた。
想像はついたけれど、それを聞かないままいいですよ、なんて言えなかった。
「今年の盆休みに実家帰った時に、元カノのコイツと再会して……、それで……」
ありがちテンプレなパターンで私ははっきり言って白けている。そこで盛り上がって致した挙句、子供ができたとかそういう理由なんだろう。
なんとなくチラリと彼に寄り添っている彼女をみればオロオロとした態度を示すものの瞳の奥は笑っていて勝ち誇ったかのようだ。
「あなたは、私と婚約していて、結納も済ませていてそれでも別れたいってことでいいのね?」
「あ、ああ、お前には本当に申し訳ないって思うけど、でも……」
「そう。じゃあ私はあなたに対して相応の対応をさせていただくわ。婚約破棄に伴う慰謝料請求、結婚式場のキャンセル費用諸々、それからその隣にいる女性との浮気で婚約破棄なのだから。それとね、何も関係ないって思ってるあなたにも同様にさせてもらうからそのつもりでね。二、三日中に代理人を通して対応してもらうからそのつもりで」
元彼とその隣にいた女性は私のセリフに顔を青ざめさせていた。
当然だ、彼と私はすでに婚約しているし両家と顔合わせ、結納も済ませて式場だって予約していたのだ。男の一方的な都合で別れてほしいというのであれば、相応のことを望むのは当然の権利だ。
私は同僚の子や親友が泣きながら同じことになって破談になったのを間近で見ていたし、こういうことはよくある事だからと兄からも聞いていた。
浮気をして妊娠したというのは立派な不貞で、私は裏切られた。
この男との付き合いは決して短いものじゃなかったから、涙よりも憎しみが先に沸き起こったのが意外だった。憎しみは抱いても、彼に対しての想いはある。けれど、それよりも彼の裏切りは許せるものではなかった。
「な、なんでそんなひどいこと言えるんですか!? あなた、彼のこと愛しているんでしょ!?」
金を請求されるとは思っていなかったのだろう女がヒステリックに叫ぶ。
この時点で店にいた他の客たちの視線が私たちに集まるが、私は素知らぬ顔をするだけだ。
「どこが酷いのよ。酷いのはあなた達でしょ? 私と彼はすでに結納して、結婚式場の予約だってした結婚間近のカップルだった。それをあなたと彼がぶち壊したのよ? 婚約破棄された挙句、なんで私が原因じゃないのに式場のキャンセル諸々の費用を支払わなければならないの? 冗談じゃないわ。だから弁護士をこちらは雇うって言ってるのよ。あなたはその男との将来を夢見ているだけでいいかもしれないけれど、それはあなたの都合であって私の都合じゃないわ。押し付けないでくれる? 争いたければあなたも弁護士の一人でも雇えばいいじゃない」
彼氏だった男はもちろん好きだ。今でも。
でも、その感情と同時に裏切られたという気持ちはそれよりもずっと重くて醜くて酷いものだ。
泣いて喚いて縋るなんてことはできなかった。今の私には。
女と女の戦いで、男を奪われた女はいつだって惨めだ。
しかも別れの場に奪い取った女がいる戦場は残酷で、負けた女は醜態を晒すか、潔く立ち去るしかないのだ。
だから私は立ち去ることを選んだ。
ただし、相応のことを相手に求めることは忘れない。ただ奪われたままをよしとしてなんかやらない。そんなものはドラマの中で繰り広げられたハッピーエンドで、そうしてやる義理なんてない。
そして。
「この件については、あなたのご両親にもこちらからお話しさせていただくので、そのつもりでね」
茫然自失といった男に捨て台詞のように吐いて、私は足早にその店を出て行った。
好奇心の視線がいつまでも背中を追いかけていたのは気づいていたけれど、それを気にする余裕なんて私にはない。
店では気合いでこらえていた涙を家に着くまで零れないように耐えることが何よりも大事なのだ。
ちっぽけなプライドと意地でしか、現実を受け止められなかった。
「やっと終わった」
年末の馬鹿みたいに忙しい毎日を縫うようにして、婚約破棄における諸々の問題を片付けていた。
揉めるかと思ったけど、事情が事情だったことと彼の両親に気に入られていたからだと連絡を受けていた。一括払いの慰謝料は彼の実家からは支払われている。
もちろん忘れずに相手の女の家にもそれを持ち込んだ。
そちらは最初大いに相手の女が喚き散らしたが、結局は黙り込んでこちらの条件を飲んだ。
当たり前だ、どう喚こうとも婚約して結婚式を控えている男だと知っていて寝取ったのだから今更知りませんは話にならない。
元婚約者だった男が実家に帰省した理由だって、地元の友達に結婚報告を兼ねた報告と飲み会を開催するから帰省したのだ。
世間一般は私を酷い女だと言うかもしれないが、私だって世間からしてみれば見捨てられた女だ。
しかも結婚の約束までして、式の予定も入れた女の末路は人の噂になりやすい。
そのごたつきがようやく終わり、私は小さくため息を吐いてフラフラになりながら自宅へ帰ろうとしていた。
オフィス周りの街路樹はすでに落葉し、冬のイルミネーションが飾られて点灯していた。キラキラと美しい光は輝いていて、そういえばあの男とよく待ち合わせをしては一緒に歩いていたなと思うともう駄目だった。
「うぅ……!」
じわりと滲む涙。
零れそうになる涙を堪えて足早にその場所を離れる。周りは幸せそうなカップルたちばかりで、それが現実を容赦なく押し付けてくる。
すぐそばのタクシー乗り場からタクシーに乗り、自宅を告げる。一刻も早くこの場所からいなくなりたかった。
今泣いてはタクシーの運転手さんに迷惑をかける。幸いに何も聞いてこないタイプだったからか、自宅のあるマンションにはすぐに着いた。
けれど安心できる場所がある、ということは今まで堪えてきたものが簡単に崩れてしまうとういうことだ。嗚咽こそ殺していたけれど、エレベーターの中ではもうボロボロと溢れる涙が頬を濡らしていた。
「うわあああぁぁぁん!」
ドアを開けたら崩れ落ちた。そして堪えていた嗚咽とともに思い切り泣いた。
好きだった。
当然だ。
私は彼のことが好きだった。
出会いは高校時代で、彼は私の一つ年上の先輩だった。
憧れの先輩で、憧れは憧れだった。
初恋に似た想いを抱いてさえいたけれど、彼には同い年の彼女がいるということを知っていたからそこで私の初恋はあっけなく終わりを遂げたのだ。
そうして失恋の痛みを抱えて、少しだけいろいろな出会いと別れがあって一年がすぎた頃。
たまたま手伝いとして駆り出された文化祭。そこで彼と再会した。
一足先に大学生になった彼は、当時の私にとっては大人びていた。洗練されたファッションに屈託のない笑み。
諦めたはずの初恋は簡単に呼び起こされて熱病のように私の中を満たしていく。
本当に進みたかった進路を取りやめて、私は彼が行った難関大学へ受験することを決めた。
幸に成績は悪い方ではなかったから、受験はうまく行った。
友達も私が志望を変えたことの理由の一つを知っていたから受験が終わった時には、今度は彼に好かれたい女性になるために自分磨きを始めた。
それが成功したのは両親のお陰だと思う。
ただ一つをいうならば頭の出来は二人の兄ほど私はよくない。
勉強しなければいけないし、彼らは天才肌で難なくこなすタイプだった。
男と女とあって比べられることはなかったけれど、それでも周りの期待は正直なところあったし、私が本当にしたいことを選択するには、兄たち二人の進路がそれを許してくれる環境ではなかった。
もちろん、両親や兄は好きなことをすればいいと言ってくれていたけれど。
私の周囲の環境は恵まれている。
それを十分理解して私は彼のいる大学に入学を果たした。
その彼と付き合いだしたのは一回生が終わる頃だ。
同じサークルに入って接触する機会があり、彼がフリーだという話を聞き、彼の好きそうなファッションや話題を振ってそうして彼も私と話す機会が増えていき、クリスマスに初めて二人きりで出かけ、何度かデートをして付き合うことになった。
それから大学を卒業して、彼は一流商社へ入社して、私も幸いなことに大手企業へ就職できたのは幸いだ。
付き合いだして六年目の日にプロポーズを受け、七年目のクリスマスを前に私たちは破局した。
短い付き合いじゃない。長い方だ。それでもまだ二人ともに好きだったから、結婚するんじゃなかったの。どうして。
ぐるぐるとそればかりが頭を回って一晩中私は泣き続けた。
ペロペロと顔のあたりが濡れたものを這っている。そのことに眉をしかめながら私の意識は上昇した。うっすらと目を開けば、そこは見慣れた自宅のソファだ。
泣いて帰った昨日、休みだった今日は朝から家にあるもので料理してお酒をしこたま飲んできっと潰れたのだろう。
顔を舐めていた犯人は真っ白な毛並みの美しい白い猫。
「なんだあなた来てたの」
酒灼けと泣いた後の掠れた酷い声が出て、思わず自分でも驚いた。
けれどここには私と猫しかいない。にゃあ、と鳴いて身軽にジャンプした白猫は私の膝の上に乗って丸くなる。
この白猫は三年前にこのマンションのエントランスで怪我をしていたところを、私が見つけてしばらく世話をした猫だった。
「いつの間に来たのよ、もう」
気がつくと家の中にいる白猫。
真っ白な毛並みは撫でるととても気持ちが良くて、尻尾の先端だけ少し黒い。瞳の色は高貴な紫のように見えたと思えば深いワインカラーのような赤にも海のような青にも見えるときがある。
不思議な瞳をしたこの猫のことを、シエルと私は呼んでいた。
時計はすでに昼を指していた。どれだけ昨日飲んだのかはテーブル周りに転がっている瓶や缶をみたら察する。幸いにも二日酔いとは縁遠いお陰か、体は水分を欲する程度だ。
水分補給をすべく、膝の上のシエルを退かせてから瓶を片付けながら冷蔵庫の中のスポーツドリンクを飲み干した。
カーテンを開けると青空が広がっている。
たとえ私が泣いても酔っ払っても一日は始まる。
昨日は泣きながら飲んで、寝落ちしても、だ。
「明日からも、頑張ろう」
ただそう思った。
自然と出てきた言葉に私は小さく笑った。
あれだけ悲しくて、泣いて、報復だってした。
一人じゃ食べ切られない量の料理を無心で作って、それをつまみにしながらダラダラ一日中お酒を飲んで。
ぺしっと小さな音がして、振り返るとそこにはじぃっと私を見つめるシエルの目があった。
「もう大丈夫よ。あなたも心配してくれたから来てくれたの? 本当に不思議な猫ね」
形のいい頭を撫でると気持ち良さそうな顔をするシエル。不安だったり悲しかったり辛い時にはいつの間にかやってきた。時折、つがいなのか一緒に黒猫も来るけど、その不思議な猫にはいつだって助けられていると思う。
「買い物行ってくるから待っていてくれる? 夕ご飯くらい食べていったら?」
甘えた声で鳴き声をあげたシエルに、私は出かける準備をして近所のスーパーへ向かった。
水や米などの重いものは基本的にネットスーパーで注文しているから、必要なのは生鮮食品などだ。調味料類も一通り揃っている。必要なものを買ってスーパーを出る。
冬は夕暮れが早く、空は徐々に茜色に色を変えようとしていた。
「花蓮」
「なんで……」
マンションのエントランス前には、先日別れを告げた男が待っていた。
若干やつれたように見えるのは気のせいなのかなと思うけど、でも気にしたところでもう彼は私の恋人でも婚約者でもない。
「なあ、俺が悪かったんだ! だから、もう一度やり直そう。あいつとは遊びだったし、出来心なんだよ。子供が出来たっていうから、責任取ろうと思ったけど、でも俺が好きなのはやっぱりお前なんだよ」
ゆらりと私の方に向かってくる彼はどこか怖かった。
ずいぶん勝手なことを言っている、と冷静なもう一人の私が囁いていて、じりっと私は一歩後ろに下がった。
何か、怖いのだ。
「それなのに、お前の連絡先には繋がらねえし、会社行っても門前払いだし、お前の知り合いに聞いても誰も知らないって言うし!お前の兄貴たちだって頭下げてるのに無視しやがるし!!なあ、お前ならわかってくれるだろ、なあ」
なあ、といいながら彼の目は私を見ているようで見ていない。
彼が私と別れてからそれなりにいろいろあったことは兄を通して知っている。
優秀な兄は、その頭を生かして弁護士資格をとった現役の弁護士だ。他の弁護士が経営する事務所に勤務している弁護士の一人で、まだ経験こそ浅いが優秀なのだという。
今回の件で兄二人に可愛がられていた私は、この兄の怒りを目の当たりにしたから、きっと兄は彼と彼の家族に対して容赦しなかったのだと思う。
彼のご両親についても私を可愛がってくれていたから、非難は彼一人が受けたようなものなのかもしれない。
兄からは彼には近づくなとも言われている。だから連絡先も拒否とブロックをして消したし、共通の知り合いにも新しい連絡先は教えていない。私のごくごく限られた親友で今回の事を憤ってくれた数人だけには他言しないようにと口止めまでして教えている程度に留めてある。
「何を言っているの。あなたが自分で蒔いた種じゃない! 勝手なこと言わないでよ。いい加減にしてよ!」
やっと私だって前を向こうと決めたばかりだし、子供が出来ている以上そちらの問題だってある。
今更わかりました、元の鞘に戻りましょうなんて出来るはずがない。
私は結婚をそれなりに夢を見ていたし、彼のことが好きだったし、彼も私のことが好きだったと思っていた。
仕事だって、子供は授かりものだから、それまではお互いに働きながら旅行をしたり美味しいものを食べたりしよう、というようなことを話しながら結婚の話を進めてきたのに。
それを全部台無しにして、出来心なんてどうして許せるの。
それに出来心だなんていうなら、なんであの日私に別れなんて告げたの。無意識に唇を噛み締めて、私は彼を睨んだ。
確かに彼が好きだった。結婚もしたかった。
でも、こんな結末を迎えて、今更都合のいいことを言い出した彼がとても憎かった。
「なあ、話を聞いてくれよ」
叫んだ私の手首を強く掴んだ彼に、私は痛いと叫ぶ。力加減なしで掴まれたのは初めてだし、こんな扱いも初めてだった。ただ目の前の彼の目が怖くてたまらない。腕を引き寄せようとしても掴まれたまま。
「ここじゃ話なんて出来ないから、お前の家にあげてくれよ。なあいいだろ?」
勝手なことを言い出して、ぐいぐいと腕を掴んだままエントランスを潜ろうとする。
ここのマンションは住人が中からロックを開けるか、住人が持っているキーがなければその先には入れない。
「嫌だって言ってるでしょ。帰ってよ。あなたとはもうとっくに別れているし、婚約だって破棄されているのだからもう何の関係ないわ」
掴まれた腕が痛くて、いい加減私も堪忍袋の緒が切れそうだった。
「そこで何をしているのかな?」
手に持ったスーパーの袋を振り上げようとしたその時、箒を持った作業衣をきたおじさんが声をかけてきた。
このマンションの管理人さんだ。
きっと監視カメラの映像を見てきてくれたのかもしれない。誰かが来るとは思っていなかったのか、彼が手を話したその隙に私はエントランスのゲートを潜り抜けた。
ガラスドアの向こう側で舌打ちをしている彼と彼を怪しんだ管理人のおじさんを横目にエレベーターで自分の部屋に戻ると、ドアを厳重にロックして私は玄関に座り込んでしまった。
「……怖かった」
本音をいうならそれだ。
目がとにかく怖かった。初めて力加減も何もなく掴まれた手首は今もジンジンと鈍い痛みを訴えていて、もしあのまま管理人のおじさんがこなかったら、と思うと何をされたのかわかったものじゃない。
もしかしたら私が彼を変えてしまったのかもしれない、と思う。
でも、私に果たして非はあったのかと思うと彼が浮気して不貞行為をしてダメにしたのだ。
逆恨み、というやつなのかもしれない。
にゃーん、とトコトコ小さな音を立てて、帰ってきた私の様子がおかしいことに気づいたシエルがやってきた。
おすわりをして首をかしげる白猫に、おそらく強張った表情の私に何かあったのかと猫なりに感じたのかもしれない。しなやかな体を摺り寄せてくる白猫の体温がじんわりと温かった。
「さっき、ちょっと怖い思いをしただけだから大丈夫よ。彼はここには来られないから」
シエルの体に触れて柔らかな毛並みに徐々に詰めていた息を吐き出す。
同僚や親友たちに別れ話が失敗した時の面倒さを聞いていたけれど、聞くのと体験するのでは大違いだった。
少し落ち着いてシエルを抱き上げて部屋に上がる。
買った荷物をキッチンの冷蔵庫にしまって、だいぶ部屋の中が暗くなってきたことで結構な時間が経っていたことに気づいた。
「いけない、もうこんなに暗くなっちゃった。すぐにご飯の準備するから待っていて」
飼い猫ではないけれど、結構な頻度でやってくるシエルは定位置で丸くなっていた。
カーテンを閉めて部屋の明かりを灯してから夕飯の準備をしようとしたところで来訪を告げるチャイムが鳴った。
「嘘、なんで……」
ドアフォンのカメラの前には、少し前にエントランスで別れた男が立っていた。
背後はまだエントランスだったから、おそらく管理人さんがいなくなったタイミングでチャイムを押したのだろう。なんども連打して、インターフォンからいるのはわかってんだよ、と乱暴な声が聞こえてくる。
普通じゃない。
相手は私のことは見えていないはずなのに、カメラ越しに見る目が捉えているようにさえ思えてくる。
ドアフォンから後ずさり、後ろを見ていなかったせいでカーペットに躓いてしまった。
にゃー、という猫の鳴き声、それが私の覚えている最後のことだった。
次に目を開けた時は、見知らぬ場所、見知らぬベッドの中で私は目を覚ました。
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