聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第三章

ヒュドラ来襲

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 勇者候補たちがラエイラのホテルのビーチにいた時だった。
 突然地面が揺れた。

「何?地震?!」
「違います、これは…!」

 エリアナとアマンダが驚いてビーチのデッキチェアから飛び起きた。
 地震と違って、その振動は規則的だった。
 将とゾーイも異変を感じてやってきた。

「戻って武器を取りに行こう!」
「優星は?」
「まだ戻ってきてません」
「チッ、あいつ、こんな時に…」

 将たちは急いで着替え、武器を持ってホテルの外へ出た。

「うお!なんだあれ!」

 将の視線の先には、首が9つもある巨大な魔獣がいた。
 遠くからでもその大きさがわかる。
 その魔獣は、ラエイラの城門のすぐ近くまでやってきていた。

「あ、あれは…魔獣ヒュドラです!!」

 アマンダが叫んだ。
 振動の原因は、ヒュドラの巨体の歩みによるものだったのだ。
 ヒュドラは9つの蛇のような首を持ち、象のような巨体と6本の脚でその首を支えていた。
 巨大な魔獣は、ゆっくりとこちらへ向かってきていた。

「ね、あたしたちって休暇でここへ来たのよね?魔物退治じゃないわよね?」
「今はそんなこと言ってる場合か」

 9つの首を持つ魔獣ヒュドラは、それぞれの首から炎や毒液を吐いている。
 ヒュドラ出現の一報を受けて、ラエイラに駐留しているグリンブル王立軍が出動した。

 ラエイラ市内では、城門に取り付けられている緊急を告げる鐘が鳴り響いている。
 大司教公国の一行がいるホテルでは、悲鳴を上げて人々が逃げ惑っている。
 公国聖騎士団が彼らを誘導して地下のシェルターに避難させていた。

「安心してください!ここには我が国が召喚した勇者たちが来ています。彼らが必ずやあの魔獣を打ち倒してくれることでしょう!」

 レナルドが声を大にして叫んでいた。
 すると、彼らは落ち着きを取り戻し、整然と避難を始めた。
 さすがにお金持ちの街なだけあって、危機管理は徹底しているようだ。

 ラエイラ城門の近くで勇者候補たちはヒュドラを迎え撃とうとしていた。
 ヒュドラはその重みのため、歩みが遅い。
 エリアナは地の魔法で、ヒュドラの足元に地割れを起こした。
 ヒュドラはその大きな足を地割れに飲み込まれ、動きを止めた。

「うまいぞ!」

 将がそう云ってから、魔剣でヒュドラの首を落としていく。

「くそっ!こんな時に優星のヤツ、どこ行ったんだ」

 勇者候補らにグリンブル王立軍も合流した。
 グリンブル軍の弓部隊が一斉に矢を射かけ、重装部隊がヒュドラの胴体に突撃を繰り返した。
 だがその分厚い皮膚には傷ひとつ付けられない。

 勇者候補たちはヒュドラの首を次々と落としていったが、その首は1分とたたずに再生していく。

「なんて奴なの」

 あっというまに9つの首はすべて元通りになってしまった。

 勇者候補たちの前に重装兵のゾーイが盾を持って、ヒュドラの口から撃たれる火炎弾や毒液を防いでいた。
 アマンダはゾーイの後ろで魔力供給と王立軍の兵士たちの回復をしている。

 勇者候補たちは何度もヒュドラの首を魔法や剣、スキルで切断した。
 だがヒュドラの首はすぐに再生してしまう。

「なあ、首の切断口を火で炙ってみたらどうだ?」
「それはナイスアイデアね!やってみるわ!」

 将の提案により、彼がヒュドラの首を切った後、エリアナは切り口に炎の魔法を放った。

「やったか!?」

 火で炙った切り口はしばらくは再生しなかった。
 だが、炎が収まると再び再生してしまった。

「ちょっと!ダメじゃん!」
「そううまくいかねーか…」
「ったく、キリがないわね!どうしたらいいのよ!」

 エリアナは切り口に向けて魔法を撃ち続けている。

「あいつの弱点はどこなんだ」将が焦りを見せる。
「…首じゃないなら胴体でしょうか」アマンダが告げる。

 将とエリアナは、ヒュドラの巨大な胴体に向けて攻撃を開始した。
 だがその攻撃はことごとく弾かれてしまう。

「あの胴体、物理防御バリアが張られているみたいだ。物理攻撃が効かない」

 将の言葉に焦りが見えた。

「魔法も通じないわよ!どうすりゃいいのよ?!」
「俺に怒鳴るなよ!」

 エリアナと将が言い争っている間に、ヒュドラが地割れの中で足踏みをし、再び地面が揺れた。
 その振動で地割れが広がり地面が大きく陥没していった。陥没した地面は斜面のようになって、ヒュドラはそこから這い上がり、再び歩き出した。
 エリアナは動きを止めようと再び地割れを起こそうとしたが、城門に近すぎるため断念した。
 城門の上には兵士たちがいて、門ごと地割れに巻き込まれる可能性があったからだ。

 ヒュドラはその巨大な脚で、周囲にいる兵士たちを踏み潰そうとした。
 その都度地震のような地響きが起こる。
 王立軍の兵士たちは地割れに巻き込まれないように下がり、遠巻きに包囲するしかなかった。

「ヤバイぞ、ラエイラに侵入されちまう!」

 将がそう叫んだとき、城門の上から人影が飛んだように見えた。
 そして勇者候補たちの脇を、複数の人影が走り抜けていった。

「えっ?何?」

 エリアナの見ている前で、その複数の人物たちはヒュドラに攻撃を始めた。
 彼らは、王立軍を下がらせ、ヒュドラを取り囲むように広がって、四方八方から魔法や武器で攻撃を開始した。
 ふいにヒュドラは歩みを止めた。
 銀髪の人物が、ヒュドラの6つの足を氷漬けにし、動けなくしたからだった。

 その人物にエリアナは見覚えがあった。

「あれは…!」

 それはエリアナの見覚えのある魔族たちだった。
 彼らは風の刃や、投擲武器を飛ばして、ヒュドラの首を次々と切断していく。
 城門の上からも魔法が飛んできて、ヒュドラの首を落とした。

「ああ、あんなことしたって無駄なのに…」

 エリアナが不安そうに見ていると、ヒュドラの首の切断面が、氷魔法によって凍らせられた。
 するとヒュドラの首は再生しなかった。

「氷魔法が有効なのか…!」将も驚きを禁じ得なかった。

 首を失い、動きを封じられたヒュドラは、巨大な尻尾を振り回して反撃する。
 黒い翼で舞い上がった魔族が、大きな鎌で尻尾を両断し、尻尾の断面に毒液を送り込んだ。
 体内に毒を送り込まれたヒュドラは悲鳴を上げ、もがき苦しんだ。
 頭と尻尾を失い、巨大な肉塊となったヒュドラの正面から、大柄の男が素手でパンチを何度も繰り出す。
 彼のパンチは、撃つたびにヒュドラの硬い皮膚にヒビを入れて行った。

 やがて皮膚の表面のヒビ割れは広がっていき、固い装甲のような皮膚が剥がれ落ちはじめた。
 徐々に、ヒュドラの体の中がむき出しになった。
 それを見て、王立軍は一斉に弓を射かけた。
 だがその体の中はぶよぶよのゼリー状の物質になっていて、その中で軍の放った矢は止まってしまう。
 魔族の撃ったパンチもそのゼリー状の物質に吸収されてしまい、腕を引き抜くと物質は元の形に復元してしまう。

「なによあれ…気持ち悪い」
「スライムみたいだな」
「もしかしたら魔法が効くかもしれませんね!」

 アマンダの言葉に、エリアナは杖を揮ってゼリー状の物質に強力な炎の魔法を放った。
 その一撃で、ゼリー状の物質が少しへこんだように見えた。
 すると、四方八方からゼリー状の物質に向けて次々に魔法が放たれた。
 ゼリー状の物質は魔法の連続攻撃を受けて徐々に縮んでいった。

 パンチを撃っていた魔族が、縮んだゼリー状の肉塊の中から、ヒュドラの核をつかみ出して、それを握りつぶした。
 すると、ヒュドラの体は霞のように消え去った。

「やったわ…!」

 エリアナは思わず感嘆の声をあげた。
 周囲にいた兵士たちもその手際の良さに驚きを隠せなかった。
 やがてそれは拍手と歓声に変わった。

 勇者候補たちは、ヒュドラのトドメを刺した人物たちの元へ駆けつけた。

「あんたたち、前線基地で会った魔族ね!」

 エリアナは大声で云い、その背後にいた銀髪の魔族を見つけた。

「やっと会えた…!」
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