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第四章
魔族狩り
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アルネラ村を出る時、村の人が使わなくなった荷車を馬に繋げて、荷馬車を作ってくれた。
屋根こそ付いていないけど、人が乗れるように改造してくれたので、これまで徒歩だった旅が楽になった。
アルネラ村で過ごして以来、マルティスとゼフォンの関係は落ち着いている。
こうして私たちはペルケレ共和国めざして再び旅を始めた。
「ホントは途中のグリンブル王国とかに寄りたかったんだけどな」
「グリンブル王国?」
「人間と魔族が共存している国だよ」
「へえ…そんな国があるんなら行ってみたいわね」
「ま、そうしたいのはヤマヤマなんだがね。貧乏人には敷居が高い国なんだなこれが」
「通行料が高いの?」
「通行料どころか、入国するだけでバカ高い保証金を取るんだよ」
ゼフォンが馬を操って、私とマルティスは荷馬車の荷台に乗っていた。
マルティスはナイフで木を削って何かを作っていた。
「要するに金持ちとか金儲けをしたい奴がいく街なんだ」
「へえ~!さぞ立派な街なんでしょうね」
「高級住宅街やら商店街やらで賑わってるよ」
「そう言われると益々行ってみたくなるわね」
「ペルケレで儲けたらいくらでも連れてってやるよ」
マルティスはそう云って手元に集中している。
「…ねえ、さっきから作ってるの、それ弓?」
「ああ、これから何があるかわかんねえからな。護身用に」
「あんた戦えないんじゃなかったの?」
「後方支援だって言ったろ?」
「後方ってそういう意味だったんだ?」
「接近戦は向いてないってだけなんだよ」
前の御者席にいるゼフォンが会話に入ってきた。
「戦闘スキルは持っているのか?」
「弓のスキルだけな」
「スキルのレベルは?」
「上級だ」
「ほう…」
「向こうは最上級なんだけどな」
「向こう?」私が尋ねると、彼は云いづらそうに口を濁した。
「ああ、そういうことか」
ゼフォンはピンときたようだった。
「どういうこと?」
「マルティスには<エンゲージ>した相手がいるということだ」
「<エンゲージ>って?」
「ゼフォン、こいつ魔族の知識がほとんどゼロなんだ。あんまりいっぺんにいろいろ教えると頭がパンクするぞ」
「どういう意味よ!失礼ね!私そんなバカじゃないわよ」
「…<エンゲージ>というのは…、ああ、人間にはなんと言えばわかるんだ?」
ゼフォンは説明しようと言葉を探したけど、結局マルティスに投げた。
「そうだな~、人間でいえば結婚を約束した相手ってとこか」
「婚約ってことか…。え!?じゃあマルティスって婚約者がいるの?」
「そういうこと」
「へえ~意外」
「意外ってなんだよ。こうみえてモテるんだぞ」
「はいはい。で、それがスキルとどう関係するの?」
私の態度がぞんざいだったためか、マルティスはブツブツ文句を云いながらも答えてくれた。
「<エンゲージ>すると、その相手の持っている能力の一部が使用できるようになるんだ」
「えー!なにその設定!魔族ってすごい!」
「ま、生活スキルやら本人の適性とかもあるから使えるのはほんの一部だったりするがな。俺のパートナーは弓のスキルを持ってるんだよ」
「へえ…。ん?でもちょっと待って。そしたらスキル狙いでエンゲージする人もいるんじゃ?」
「ああ、そりゃいるよ」
「え~!それ、かなりガッカリなんだけど!」
「まあ、もしそうだったとしても、実際に<エンゲージ>したらそんな邪な気持ちはどっか行っちまうけどな」
「うーん?よくわかんないな。<エンゲージ>ってそんな特別なことなの?」
「なんつーか、これは口では言いにくいんだよ…」
マルティスはそう云いながらも、ちょっと嬉しそうな顔をした。
「ゼフォンも<エンゲージ>してるの?」
「いや。俺は物心ついた時にはもうこっちに来ていたから、そんな相手はいない。傭兵仲間から聞いて知っているだけだ」
「ゼフォンもモテそうなのに」
私の発言に、ゼフォンは「そんなことはない」と照れた様子で前を向いてしまった。
彼は意外と初心なのだ。
「<エンゲージ>って繁殖期のパートナーとするのよね?」
「まあ、普通そうだな。だが一部のモテモテ野郎の中には、繁殖期の相手とは別の相手と<エンゲージ>するって奴もいるよ」
「それって二股じゃないの?」
「時期が重なることはないから、二股ってわけじゃない。基本的に魔族は一度に複数とパートナーになることはないんだよ」
「へえ~!」
「つまり繁殖期にパートナーがいる場合は、他の相手と<エンゲージ>は成立しない。だから複数の相手と交際したい奴は繁殖期以外の時期に別の相手と<エンゲージ>するってことを繰り返したりする」
「え」
「繁殖期の度にパートナーを変える奴も多いんだ。普通だろ」
「…なんか、それ微妙。要するにとっかえひっかえってことでしょ?」
「まあ、魔族は長く生きる種族だからさ。いろいろあんだよ」
「だってさっき<エンゲージ>は特別って云ってたじゃん」
「まあな。おまえのいうことはわかるぜ。なんか不実な感じがするよな?そこいくと俺なんか同じ相手とずっと<エンゲージ>してっからな」
マルティスはニヤニヤして云う。
「その割に今までそんな相手がいたことすら話してくれなかったじゃない」
「いやほら、独り者にそういう話すんのは可哀想だろ?」
「可哀想って何よ!私にだって好きな人くらい…」
「いるのか?」
あれ?
なんかずっと、胸の中に誰かいたような気もするけど、改めて考えるとそんな人、いたっけ…?
「い、いるような、いないような?」
マルティスは笑って「だよな」とバカにしたように云った。
荷馬車はガタゴトと草原を走っていく。
すると突然、ゼフォンが馬車を止めた。
「魔族狩りだ」
「ええっ?」
ゼフォンの言葉に驚いて前を見ると、遠くに黒い騎馬の一団が見えた。
「どど、どうするの?私たちもヤバイんじゃ?」
「待て。奴ら、別の者を追っているようだ」
マルティスは冷静に云った。
よく見ると、騎馬団の前を走る人影が見えた。
「ラッキーだ!今のうちに逃げようぜ」
マルティスが叫んだ。
だけど、その言葉を裏切って、ゼフォンは馬車を真っ直ぐに騎馬団の方向へ進めた。
「おいおい!何やってんだ!」
「追われている者が魔族なら、助ける」
「おい!正気か?向こうは一個小隊だぞ?しかもありゃ黒色重騎兵隊だ。無理だって!」
「マルティス、私もゼフォンに賛成よ。あんたも弓が使えるんでしょ?手伝いなさいよ」
「おまえらマジかよ…!」
荷馬車はそのまま騎馬の一団の前に突っ込んで止まった。
騎馬に追われていた魔族はなんと女性だった。
騎馬の一団と戦ったのか、全身傷だらけだった。
突然現れた荷馬車に、騎馬隊は歩を止めた。
「なんだおまえらは!そいつの仲間か!?」
ゼフォンは馬車を降りて、彼らの前に立った。
その手には手製の槍が握られている。
マルティス同様、村で貰った道具で作って馬車に乗せていたものだった。
「ほう?上級魔族か。運がいい。我らは黒色重騎兵隊第1部隊旗下第3分隊『黒の目』だ。我らに対抗しようなどと愚かな者どもだが、その勇気は褒めてやる」
「大勢で1人を追い詰めるのが騎士のやり方か」
ゼフォンは彼らを挑発し、こちらから注意を逸らしてくれていた。
私はその間に傷を負った女性魔族の元へ駆け寄った。
「大丈夫?」
「あ…あなた方は…?」
「ちょっと待ってね。今治してあげるから」
「え?」
私は彼女に向かって手をかざし、傷を回復させた。
自らの傷が全回復した彼女は、驚いた表情で何か云いたそうに私を見た。
「おい、あんた。戦えるんなら手を貸してくれよ」
荷馬車の上に立ったままマルティスが声を掛けた。
「…なんという…、感謝します」
女性魔族は私に礼を云って、腰に帯びた剣を抜いて、ゼフォンの隣に走り寄った。
「戦えるのか」
「無論。足手まといにはなりません。どのような奇跡かわかりませんが、全回復しましたから」
それを見ていた『黒の目』の騎士たちからは余裕の発言が飛び出した。
「ほう?瀕死の女がまだがんばるか」
「女の魔族は珍しい。高く売れるから殺すなよ」
「その前に人間の女とどう違うのか、試してみてもいいか?」
『黒の目』の騎士たちは下品な笑い方をした。
しかしその発言をした騎士はその直後、喉を矢で射抜かれて落馬してしまった。馬の蹄の付近で口から血を吐き、白目を向いて卒倒している。仲間が慌ててポーションを使った。
「下品な男は嫌われるぜ」
男を倒したのはマルティスの放った矢だった。
「おのれ!」
仲間を倒された『黒の目』たちは激高して騎馬で殺到しようとした。
マルティスは彼らに向けて弓の範囲攻撃スキルを撃った。
彼らが頭上から降り注ぐ弓矢に気を取られている隙に、ゼフォンは素早く前へ出て複数の馬の足を槍のスキルで薙ぎ払った。
すると、彼らの馬が将棋倒しのように連鎖して倒れていき、乗っていた『黒の目』の騎士たちは地面に放りだされた。
その間に女性魔族は詠唱をはじめていて、やがて彼女の頭上に緑色に光る輪が浮かんだ。
そして、彼女は叫んだ。
「<風のシルフィー>!奴らに風の刃を!」
それを見たマルティスは驚いて思わず叫んだ。
「すげー!精霊召喚かよ…!」
女性魔族の頭上に現れた光の輪の中に、小さな精霊のような姿が一瞬見えた気がした。
彼女が剣を振ると、その精霊が後方にいた『黒の目』の騎馬に向けて風の魔法を放った。
それは風の刃となって飛んで行き、馬の足や乗馬している騎士の腕を斬りつけた。次に目にもとまらぬ速さで女性魔族本人がジャンプして騎馬兵の頭上から攻撃を繰り出した。
『黒の目』らは重い鎧が徒となって、自分たちの頭上を飛び回る女性魔族の攻撃についていけず、防戦一方になってしまった。
「くそ!皆、馬は捨てろ!」
『黒の目』の隊長らしき兵が声を掛けると、生き残った者たちは整然と集合し、剣を抜いて彼の号令の元、ゼフォンと女性魔族に斬りかかった。
ゼフォンはそれらを槍で受け流しながら、
「俺の後ろへ下がれ」と彼女に声を掛けた。
前方で戦っていた女性魔族が、曲芸師のように空中で一回転し、ゼフォンの真後ろへ着地した。
彼女の頭上には精霊もついてきた。
「<雷迅光>!」
ゼフォンがスキルを放った。
すさまじい稲光を伴って『黒の目』の騎士たち全員の頭上に雷が落ち、重い鎧に落雷を受けた彼らは一瞬にして全員がその場に倒れた。
彼らの手足の先はピクピクと動いていたが、それは感電による痙攣だった。
「ゼフォン、すごーい!」
私は拍手をした。
「さすが雷光のゼフォンだな」
マルティスも感心した。
「あんたも、無事か?」
全滅した『黒の目』を前に茫然としていた女性魔族にマルティスが声を掛けると、彼女は「は、はい」と返事をした。
「奴らが目を覚ます前に逃げるぞ」
ゼフォンは馬車に乗り込んだ。
女性魔族は精霊を解除し、『黒の目』の騎馬を1頭拝借して、私たちの馬車と共にその場を離れた。
屋根こそ付いていないけど、人が乗れるように改造してくれたので、これまで徒歩だった旅が楽になった。
アルネラ村で過ごして以来、マルティスとゼフォンの関係は落ち着いている。
こうして私たちはペルケレ共和国めざして再び旅を始めた。
「ホントは途中のグリンブル王国とかに寄りたかったんだけどな」
「グリンブル王国?」
「人間と魔族が共存している国だよ」
「へえ…そんな国があるんなら行ってみたいわね」
「ま、そうしたいのはヤマヤマなんだがね。貧乏人には敷居が高い国なんだなこれが」
「通行料が高いの?」
「通行料どころか、入国するだけでバカ高い保証金を取るんだよ」
ゼフォンが馬を操って、私とマルティスは荷馬車の荷台に乗っていた。
マルティスはナイフで木を削って何かを作っていた。
「要するに金持ちとか金儲けをしたい奴がいく街なんだ」
「へえ~!さぞ立派な街なんでしょうね」
「高級住宅街やら商店街やらで賑わってるよ」
「そう言われると益々行ってみたくなるわね」
「ペルケレで儲けたらいくらでも連れてってやるよ」
マルティスはそう云って手元に集中している。
「…ねえ、さっきから作ってるの、それ弓?」
「ああ、これから何があるかわかんねえからな。護身用に」
「あんた戦えないんじゃなかったの?」
「後方支援だって言ったろ?」
「後方ってそういう意味だったんだ?」
「接近戦は向いてないってだけなんだよ」
前の御者席にいるゼフォンが会話に入ってきた。
「戦闘スキルは持っているのか?」
「弓のスキルだけな」
「スキルのレベルは?」
「上級だ」
「ほう…」
「向こうは最上級なんだけどな」
「向こう?」私が尋ねると、彼は云いづらそうに口を濁した。
「ああ、そういうことか」
ゼフォンはピンときたようだった。
「どういうこと?」
「マルティスには<エンゲージ>した相手がいるということだ」
「<エンゲージ>って?」
「ゼフォン、こいつ魔族の知識がほとんどゼロなんだ。あんまりいっぺんにいろいろ教えると頭がパンクするぞ」
「どういう意味よ!失礼ね!私そんなバカじゃないわよ」
「…<エンゲージ>というのは…、ああ、人間にはなんと言えばわかるんだ?」
ゼフォンは説明しようと言葉を探したけど、結局マルティスに投げた。
「そうだな~、人間でいえば結婚を約束した相手ってとこか」
「婚約ってことか…。え!?じゃあマルティスって婚約者がいるの?」
「そういうこと」
「へえ~意外」
「意外ってなんだよ。こうみえてモテるんだぞ」
「はいはい。で、それがスキルとどう関係するの?」
私の態度がぞんざいだったためか、マルティスはブツブツ文句を云いながらも答えてくれた。
「<エンゲージ>すると、その相手の持っている能力の一部が使用できるようになるんだ」
「えー!なにその設定!魔族ってすごい!」
「ま、生活スキルやら本人の適性とかもあるから使えるのはほんの一部だったりするがな。俺のパートナーは弓のスキルを持ってるんだよ」
「へえ…。ん?でもちょっと待って。そしたらスキル狙いでエンゲージする人もいるんじゃ?」
「ああ、そりゃいるよ」
「え~!それ、かなりガッカリなんだけど!」
「まあ、もしそうだったとしても、実際に<エンゲージ>したらそんな邪な気持ちはどっか行っちまうけどな」
「うーん?よくわかんないな。<エンゲージ>ってそんな特別なことなの?」
「なんつーか、これは口では言いにくいんだよ…」
マルティスはそう云いながらも、ちょっと嬉しそうな顔をした。
「ゼフォンも<エンゲージ>してるの?」
「いや。俺は物心ついた時にはもうこっちに来ていたから、そんな相手はいない。傭兵仲間から聞いて知っているだけだ」
「ゼフォンもモテそうなのに」
私の発言に、ゼフォンは「そんなことはない」と照れた様子で前を向いてしまった。
彼は意外と初心なのだ。
「<エンゲージ>って繁殖期のパートナーとするのよね?」
「まあ、普通そうだな。だが一部のモテモテ野郎の中には、繁殖期の相手とは別の相手と<エンゲージ>するって奴もいるよ」
「それって二股じゃないの?」
「時期が重なることはないから、二股ってわけじゃない。基本的に魔族は一度に複数とパートナーになることはないんだよ」
「へえ~!」
「つまり繁殖期にパートナーがいる場合は、他の相手と<エンゲージ>は成立しない。だから複数の相手と交際したい奴は繁殖期以外の時期に別の相手と<エンゲージ>するってことを繰り返したりする」
「え」
「繁殖期の度にパートナーを変える奴も多いんだ。普通だろ」
「…なんか、それ微妙。要するにとっかえひっかえってことでしょ?」
「まあ、魔族は長く生きる種族だからさ。いろいろあんだよ」
「だってさっき<エンゲージ>は特別って云ってたじゃん」
「まあな。おまえのいうことはわかるぜ。なんか不実な感じがするよな?そこいくと俺なんか同じ相手とずっと<エンゲージ>してっからな」
マルティスはニヤニヤして云う。
「その割に今までそんな相手がいたことすら話してくれなかったじゃない」
「いやほら、独り者にそういう話すんのは可哀想だろ?」
「可哀想って何よ!私にだって好きな人くらい…」
「いるのか?」
あれ?
なんかずっと、胸の中に誰かいたような気もするけど、改めて考えるとそんな人、いたっけ…?
「い、いるような、いないような?」
マルティスは笑って「だよな」とバカにしたように云った。
荷馬車はガタゴトと草原を走っていく。
すると突然、ゼフォンが馬車を止めた。
「魔族狩りだ」
「ええっ?」
ゼフォンの言葉に驚いて前を見ると、遠くに黒い騎馬の一団が見えた。
「どど、どうするの?私たちもヤバイんじゃ?」
「待て。奴ら、別の者を追っているようだ」
マルティスは冷静に云った。
よく見ると、騎馬団の前を走る人影が見えた。
「ラッキーだ!今のうちに逃げようぜ」
マルティスが叫んだ。
だけど、その言葉を裏切って、ゼフォンは馬車を真っ直ぐに騎馬団の方向へ進めた。
「おいおい!何やってんだ!」
「追われている者が魔族なら、助ける」
「おい!正気か?向こうは一個小隊だぞ?しかもありゃ黒色重騎兵隊だ。無理だって!」
「マルティス、私もゼフォンに賛成よ。あんたも弓が使えるんでしょ?手伝いなさいよ」
「おまえらマジかよ…!」
荷馬車はそのまま騎馬の一団の前に突っ込んで止まった。
騎馬に追われていた魔族はなんと女性だった。
騎馬の一団と戦ったのか、全身傷だらけだった。
突然現れた荷馬車に、騎馬隊は歩を止めた。
「なんだおまえらは!そいつの仲間か!?」
ゼフォンは馬車を降りて、彼らの前に立った。
その手には手製の槍が握られている。
マルティス同様、村で貰った道具で作って馬車に乗せていたものだった。
「ほう?上級魔族か。運がいい。我らは黒色重騎兵隊第1部隊旗下第3分隊『黒の目』だ。我らに対抗しようなどと愚かな者どもだが、その勇気は褒めてやる」
「大勢で1人を追い詰めるのが騎士のやり方か」
ゼフォンは彼らを挑発し、こちらから注意を逸らしてくれていた。
私はその間に傷を負った女性魔族の元へ駆け寄った。
「大丈夫?」
「あ…あなた方は…?」
「ちょっと待ってね。今治してあげるから」
「え?」
私は彼女に向かって手をかざし、傷を回復させた。
自らの傷が全回復した彼女は、驚いた表情で何か云いたそうに私を見た。
「おい、あんた。戦えるんなら手を貸してくれよ」
荷馬車の上に立ったままマルティスが声を掛けた。
「…なんという…、感謝します」
女性魔族は私に礼を云って、腰に帯びた剣を抜いて、ゼフォンの隣に走り寄った。
「戦えるのか」
「無論。足手まといにはなりません。どのような奇跡かわかりませんが、全回復しましたから」
それを見ていた『黒の目』の騎士たちからは余裕の発言が飛び出した。
「ほう?瀕死の女がまだがんばるか」
「女の魔族は珍しい。高く売れるから殺すなよ」
「その前に人間の女とどう違うのか、試してみてもいいか?」
『黒の目』の騎士たちは下品な笑い方をした。
しかしその発言をした騎士はその直後、喉を矢で射抜かれて落馬してしまった。馬の蹄の付近で口から血を吐き、白目を向いて卒倒している。仲間が慌ててポーションを使った。
「下品な男は嫌われるぜ」
男を倒したのはマルティスの放った矢だった。
「おのれ!」
仲間を倒された『黒の目』たちは激高して騎馬で殺到しようとした。
マルティスは彼らに向けて弓の範囲攻撃スキルを撃った。
彼らが頭上から降り注ぐ弓矢に気を取られている隙に、ゼフォンは素早く前へ出て複数の馬の足を槍のスキルで薙ぎ払った。
すると、彼らの馬が将棋倒しのように連鎖して倒れていき、乗っていた『黒の目』の騎士たちは地面に放りだされた。
その間に女性魔族は詠唱をはじめていて、やがて彼女の頭上に緑色に光る輪が浮かんだ。
そして、彼女は叫んだ。
「<風のシルフィー>!奴らに風の刃を!」
それを見たマルティスは驚いて思わず叫んだ。
「すげー!精霊召喚かよ…!」
女性魔族の頭上に現れた光の輪の中に、小さな精霊のような姿が一瞬見えた気がした。
彼女が剣を振ると、その精霊が後方にいた『黒の目』の騎馬に向けて風の魔法を放った。
それは風の刃となって飛んで行き、馬の足や乗馬している騎士の腕を斬りつけた。次に目にもとまらぬ速さで女性魔族本人がジャンプして騎馬兵の頭上から攻撃を繰り出した。
『黒の目』らは重い鎧が徒となって、自分たちの頭上を飛び回る女性魔族の攻撃についていけず、防戦一方になってしまった。
「くそ!皆、馬は捨てろ!」
『黒の目』の隊長らしき兵が声を掛けると、生き残った者たちは整然と集合し、剣を抜いて彼の号令の元、ゼフォンと女性魔族に斬りかかった。
ゼフォンはそれらを槍で受け流しながら、
「俺の後ろへ下がれ」と彼女に声を掛けた。
前方で戦っていた女性魔族が、曲芸師のように空中で一回転し、ゼフォンの真後ろへ着地した。
彼女の頭上には精霊もついてきた。
「<雷迅光>!」
ゼフォンがスキルを放った。
すさまじい稲光を伴って『黒の目』の騎士たち全員の頭上に雷が落ち、重い鎧に落雷を受けた彼らは一瞬にして全員がその場に倒れた。
彼らの手足の先はピクピクと動いていたが、それは感電による痙攣だった。
「ゼフォン、すごーい!」
私は拍手をした。
「さすが雷光のゼフォンだな」
マルティスも感心した。
「あんたも、無事か?」
全滅した『黒の目』を前に茫然としていた女性魔族にマルティスが声を掛けると、彼女は「は、はい」と返事をした。
「奴らが目を覚ます前に逃げるぞ」
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