聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

文字の大きさ
91 / 246
第五章

闘技場の奴隷たち

しおりを挟む
 コンチェイは一緒に来て欲しい、と私たちを闘技場の裏口に連れて行った。

「今から行くところは魔族の下級闘士の控室だ。ビックリするなよ」

 そう云いながら彼は闘技場の地下への入口の扉を鍵で開けて、階段を下りて行く。私たちもそれに続いた。

「ゼフォン、あんたは最初から強かったからここへは来たことないだろ」
「ああ。だが、下級闘士が酷い扱いを受けているのは知っている」

 コンチェイは頷いて、下級闘士について話してくれた。

 試合に出場した闘士には勝っても負けても試合ごとに日当が支払われる。
 下級ランクの闘士の日当は人間も魔族も同じで、1日の食費にも満たない程度だ。
 だから彼らは日当と勝利ボーナスを稼ぐために、ほぼ毎日闘技場に出る。
 特に魔族の下級闘士は悲惨だ。
 人間の闘士は、闘技場専属の回復士によってある程度の傷は回復してもらえる。
 だが回復手段のない魔族は自力で回復するか自分でポーションを用意するしかないため、戦いの中でダメージを負うと自分から負けを認める者が多い。魔族のポーションは高額で、下級闘士にはとても手が出せないからだ。
 人間の闘士たちはそれを知っていて、魔族をカモにしているのだ。
 それでも彼らは食うために戦うことを止めない。

 階段の突き当りの扉の前でコンチェイが止まり、「ここだ」と云いつつ扉を開けた。
 そこは、地下のため薄暗く、大部屋の中に粗末なベッドがいくつも置かれていてすべてのベッドに魔族が寝かされていた。窓には鉄格子がはまっていて、まるで大きな牢屋みたいだった。
 それに汗と血の混じったような、ひどい臭いがした。

「ここが控室…?」

 なんだろう、この感じ。
 これと同じような光景を、どこかで見た記憶がある。
 そこで、私は…何をしていたんだっけ…。

「こいつらは全員奴隷闘士だ。以前の戦いで負った傷が癒せずにただ死を待つだけの者もいる」
「…奴隷…?!」

 私は絶句した。
 イヴリスも思わず口を押えていた。

 人間と違ってポーションしか治療方法がない魔族は、自己回復スキルを持つ者以外は、時間をかけて自然治癒するしかない。
 元々体力の高い魔族は、そう簡単には死なないが、自然治癒にも限界はある。
 怪我が大きければ大きいほど、回復は遅いのだ。

「ここにいる魔族たちはほとんどが奴隷で、ここへ闘士として売られてきた。だから彼らは動けるようになればすぐに闘技場に出なければならず、怪我が治る暇すら与えられない。私にはどうすることもできず、ただ幾人もの魔族の死をここで見送ってきたんだ。死んだ奴隷はすぐに補充される。彼らの命の重さは賭け札1枚よりも軽いんだ」

 ベッドに寝ている者たちの中には、火の魔法で焼かれたのか、全身が焦げたまま、四肢が壊死している者もいた。痛みから呻き苦しんでいる。

「頼む、お嬢さん。マルティスの言うことが本当なら、こいつらを救ってやってくれないか」
「…わかったわ。やってみる」

 なぜか不思議と、できないという気がしなかった。
 こうすれば、ここにいる全員を回復させられると、自分の中の何かが教えてくれる気がした。
 私は、特にひどい症状の魔族を個別に癒した後、部屋で寝ている魔族たちを、広範囲回復魔法で癒した。

 ベッドでうなされていた魔族たちは、途端に元気になり、起き上がって体の具合を確かめだした。
 魔族たちは奇跡だと口々に云い、「治った治った!」と飛びあがって喜んだ。
 コンチェイをはじめ、ゼフォンとイヴリスも目を丸くしてその光景を見ていた。
 マルティスは押し黙ったまま見ていた。

 コンチェイは、そこにいる魔族たちに、

「こちらのお嬢さんが特別にポーションを分けてくださったんだ。お礼をいいなさい」

 と嘘の説明をしていた。
 彼らは皆涙を流して私に感謝した。

 でも、元気になった彼らは、また闘技場に行くのだ。
 奴隷の闘士の役目は、下級闘士の昇級試験の相手を務めたり、魔獣と戦わされたり、上級ランクの闘士の練習相手にされたりといろいろだ。中には新しい武器の試し斬りをしたいから斬らせろなんていう注文もあるという。
 寿命が長く体の強い魔族は、奴隷として重宝するということで、アトルヘイムの魔族狩りで捕らえられた魔族などが、ここへ良い値で売られてくるのだそうだ。
 元気になって喜ぶ彼らを見送る私の心境は複雑だ。

「ありがとうトワさん。感謝するよ。正直、マルティスから話を聞いていたけど、半信半疑だったんだ。でも、こんなに見事に回復させるなんて、この目で見たけどまだ信じられない。あんた本当にすごい人だね。まるで神様だ。ありがとう。本当にありがとう」

 コンチェイは私に何度も頭を下げて礼を云った。

「ねえ、私、定期的にここに来て、彼らを診てもいい?」
「本当かね?それは助かるよ」

 そこへマルティスが割り込んできた。

「おっと、もちろんタダとは言わないよな?こっちだって食ってかなきゃならないんだ」
「ちょっとマルティス!がめついわよ!」
「おまえは黙ってな。こっからは商売の話だ」

 コンチェイは少し考えて、答えた。

「それじゃあ今回の魔法具の他に、あんたらの装備を用意してやる。それでどうだ?」
「いいだろう」
「ごめんなさい、コンチェイさん。呼んでくれれば、私はいつでも来ますから」
「ああ、こいつには慣れてるから気にしなさんな。とびきりの魔法具を作ってあげるから、待ってな」

 このやり取りをゼフォンとイヴリスは無言で見ていた。
 彼らのマルティスを見る目には不信感が見て取れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...