聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第六章

新たな召喚者

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 レナルドと勇者候補たちを追って地下古墳から地上に出たジュスターは、そこで恐るべき光景を目にした。

「あれは…」
「あれは魔獣オルトロスね」

 説明してくれたのは背後から歩いてきたカラヴィアだった。

 彼らの目の前にいたのは、巨大な双頭の魔獣だった。
 大きな牙を持つドラゴンに似た肉食獣の頭が2つ、1つの体から生えている。
 4つの足からは鋭く大きな爪が剥き出しで伸びており、その体は、体毛の代わりに無数の蛇が生えていた。更に尻尾の先には大きな蛇が鎌首をもたげている。
 先日ラエイラに現れたヒュドラにも匹敵する大きさだが、目を見張るべきはその素早さだ。

 オルトロスは旧市街地の遺跡を踏み壊しながら、うろつくと、首都の方へと駆けて行く。
 オルトロスが駆けるたびに地震かと思う程の地響きが起こった。
 その魔獣の進む先には、開いたままの城門があるはずだ。

 古墳から地上へ出た勇者候補たちは、オルトロスに驚いていたが、すぐさまその後を追いかけて城門の方へと向かって行った。
 レナルドは彼らに先に行くように云い、その場に留まった。
 その彼を追ってジュスターが現れた。

「エウリノーム、もう逃がさん」
「フン、愚かな。私にスキルを奪われるために再びやってきたか」
「貴様を見つけるのに100年かかった。運命の紡ぐままに生きてきたが、ようやくたどり着けた」

 ジュスターの後ろから仮面の姿が追ってきた。

「ねえ、あんたなんで人間になってるのさ?」

 だがレナルドは答えなかった。

「思い通りにはいかなかったということだ」

 代わりに答えたのはジュスターだった。

「どういうこと?」
「黙れ」

 レナルドは宝玉を取り出してジュスターの前に掲げた。

「おまえの運命もここまでだ」
「負け惜しみを」
「…!」
「危ない!」

 カラヴィアは突然叫んだかと思うと、ジュスターの前に飛び出して、レナルドに背を向ける形で彼を庇った。
 急に視界を奪われたジュスターは混乱した。

「何をする!?」

 カラヴィアは仮面の顔を彼の額にくっつけて呟いた。

「つっ…!宝玉を見ちゃダメ!操られるわよ?」
「精神スキルか…!?どけ、私は耐性を持っている」
「あれは強力なヤツよ。生半可な耐性持ちじゃ対抗できないわ!ここは一旦引きましょ。精神防御じゃないとアレには対抗できないわ」

 ジュスターは、翼を出してカラヴィアの身体を抱えたまま、後方にジャンプした。
 すかさずレナルドは剣を突き出して、ジュスターに襲い掛かった。
 カラヴィアを抱えて両手がふさがっているジュスターは、反撃できないかと思われた。
 だが、ジュスターはトワからもらった<物理無効>スキルを持っていたので、レナルドの剣は宙で弾かれた。

「くそっ、防御系のスキルか。厄介な」
 
 そう云うと、レナルドは再び宝玉を掲げようとした。

「同じ手を食らうと思うな」

 ジュスターはレナルドに向けて氷魔法を放つと、彼の腕を宝玉ごと凍らせた。 
 レナルドは舌打ちしたかと思うと、次の瞬間姿が消えた。
 次にレナルドの姿が見えたのは、遠くに見える城門の傍で、都市の中に入っていくところだった。
 その直後に城門扉が降ろされ、シリウスラントへの入口は固く閉ざされてしまった。

「くっ、奴め…。別の宝玉スキルを使って逃げたか」
「…さすがにいろいろスキルを持ってるわねえ…」

 カラヴィアはジュスターに抱きついたまま云った。

「いい加減に離せ。奴を追う」
「無理だって~っつぅ…」

 ジュスターがカラヴィアを離そうと背中に手を回した時、濡れた感覚があった。
 その手を見ると、べったりと血がついていた。

「…怪我をしているのか」
「アッハ…さっきあんたを庇った時にさ、あいつに背中斬られたみたい…」
「余計な真似を」
「でも、あんたが飛んでくれたおかげでスキル取られなくてすんだわぁ…ラッキー…」
「あなたにこんなことをされるなんて不本意だ」
「そ~いう冷たいとこ、いいわねぇ…。でも、結構ヤバイみたい。う~背中が痛いようぅ…最後に魔王様にお会いしたかったなぁ…。でも…イケメンに看取られて死ぬのも悪くない…かな」
「まったく…」

 ジュスターは深くため息をついた。

「縁起でもないことを言わないでください。あなたを看取るなんて御免だ」

 ジュスターはカラヴィアを抱きかかえて地下古墳へと戻って行った。


 ・・・・・・・・・・・・・・


 一方、地下神殿では、イシュタルが優星たちの前に立って事情を説明していた。

「誰かが私の意識を取り込んでくれたおかげで、この体に入って来れたんだ」

 イシュタルの言葉を聞いても、優星はよく理解できていなかった。

「それって二重人格的なヤツ?」
「それとは少し違う。別人が1つの体にいるのだ。そのもう1人が、代われと言っている」
「もう1人って誰?」

 優星は首を傾げていると、イシュタルの口調が急に変わった。

「魔界から魔獣を召喚した術に交じって、このイシュタルという者が血と魂を捧げ、我をこの体に降ろしたのだ」
「え?別人格が出てきたの?」

 緊張感のない声で優星は云った。
 これを聞いていたイドラは、イシュタルの前に出てきて、まるで崇めるように跪いた。

「あなたは…イシュタム神か…?」
「イシュタルは魔獣を倒す者の召喚を願った」
「えーと、どういうことかな?誰か説明してくんない?」

 優星だけがイシュタルの話についていけない状態だった。

「魔獣と、魔獣を倒す者が同時に召喚されたってことじゃない?」

 可哀想な彼にウルクが説明した。

「僕が思うに、そのイシュタルって人、イドラの召喚術の最中に魔法陣の中で死んだんでしょ?その時にその思念が召喚術の中に混じっちゃったんじゃない?」
「イシュタルって、そんな力があったのか…」
「さっき言ってたじゃん。イシュタルって名前が、神様のパワーを取り込んでたって。名前とか言葉って力があるもんなんだよ」
「へえ…そんなの只の迷信だと思ってたよ。あれ?…ていうことは、この人は神様なの?」

 ウルクは返事をせず、背後を振り返った。
 ジュスターが仮面の人物を抱えて戻ってきたのだ。

「団長!どうしたんです?」

 彼は、カラヴィアが自分を庇ってレナルドに刺されたことを話した。

「悪いがこの人を<高速移動>でポータル・マシンまで運んでくれないか。グリンブルへ送ってもらえれば、マサラならポーションを持っているはずだ」
「いいですけど、結構傷は深いみたいですよ。ポーションで治るんでしょうか?というかそもそもこの人のせいでトワ様があんな目にあったのに、助ける必要あるんですか?」

 冷たく云うウルクに、ジュスターは首を振った。

「それは私も思わないでもない。だが私を庇って死なせたとあっては寝覚めが悪い。必要なら魔王様にお願いしてトワ様に来ていただこうと思う」
「わかりました。団長を助けてくれたことへの礼だって思うことにします」
「悪いな」

 ウルクがカラヴィアを連れて行こうとするも、カラヴィアはなぜかジュスターにしがみついたまま離れようとしない。

「ちょっと、この人、何なんです?」
「いやぁよぉ…ワタシを見捨てないでぇ…」
「…瀕死とは思えないほどの力だな…」
「団長、好かれてますね」

 ウルクが茶化すように云うとジュスターは困惑した。

「その者を助けられる者がいるのか?」

 ウルクとジュスターに向かってそう云ったのは角の魔族、イシュタルだった。

「ああ、いるとも」

 ジュスターの言葉に、優星が口を挟んだ。

「いや待てよ。その人魔族だよね?回復魔法とか効かないよね?」
「トワ様なら回復できる」
「だからそのトワサマって誰なんだよ」

 ジュスターはもう優星を相手にしなかった。
 こういう相手には、実際に現場を見せないと納得させられないことは、これまでの経験でわかっていたからだ。

「その者を連れてくればよいのか?」

 イシュタルは静かに云った。
 ジュスターとウルクは顔を見合わせた。

「…あれは誰なんだ?」
「神様みたいです」
「神…?」
「神様なら、なんとかしてくれるかもしれないですよ」
「…安直な意見だ」

 ジュスターはウルクの話を半信半疑で聞いたが、とりあえずイシュタルには答えた。

「ここからはかなり遠く離れた場所にいる方だ。すぐに連れてくることなどできるのか?」
「できる。誰か、その者を見知った者はいるか?その者の姿を思い浮かべることができるか?」
「無論だ」
「トワ様のことならもちろん」

 ジュスターとウルクは異口同音に云った。

「団長、ここは僕に任せてください」

 ウルクが申し出た。
 カラヴィアに強い力で掴まれているジュスターは、無言で頷いた。

「ではその者を強く思え。我がその者の傍にお前を運んでやる」
「…もしかして空間魔法を使えるの?」
「少し違う。我が追うのは人の思念だ」
「…よくわからないけど、トワ様の所に連れてってくれるってことだよね」
「そうだ。魔族が瀕死とあらば見捨てるわけにはいかぬ」
「じゃあお願いするよ」

 ウルクはイシュタルの傍に行った。
 彼はウルクの小柄な体を片腕に抱えた。

「ジュスター様、行ってきます。必ずトワ様を連れて戻ります」

 そうして角の魔族とウルクの姿は消えた。
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