聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第六章

玉座の包帯男

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 ルキウスに連れてこられた場所は、見慣れない部屋だった。
 私はルキウスに手を取られてマシンの台座を降りた。

「ここ、どこ?」
「ようこそ、我が王国へ」

 そう云うと、彼は私からネックレスを奪い取った。

「ちょっと、何するのよ!」
「ここでドラゴンを呼び出されると困るからね」
「だからって奪うなんて…」
「君はこれを身に着けていないとドラゴンを呼び出せないみたいだから、用心のために預からせてもらうよ」

 ここへ来てからなんだかルキウスの態度が変わった気がする。
 確かに私は、ネックレスを身に着けていないとカイザーを呼び出すことはできない。ネックレス越しに話をすることはあるけど、あまり離れているとそれも無理だ。だけど、魔王はネックレスを手にしていなくても、自分の魔力の届く範囲にあればいつでも呼び出せるようだった。
 そのことはあえて云わなかった。

 ルキウスに連れられて、私は部屋に案内された。

「ここでしばらく待っていて。何かあればその呼び鈴で呼んでね」

 そう云って、彼は私1人を部屋に置いて出て行った。
 ここがどこかも説明してもらえなかった。
 ルキウスの家なんだろうか?

 私は部屋を見渡した。
 部屋の中には窓はなく、壁は石壁で、天井は岩がむき出しになっていた。
 まるで洞窟の中みたい。
 自立型のランプがいくつかあって、暗い訳じゃないけど明るくもない。
 家具はベッドとテーブルと椅子だけ。
 テーブルの上には呼び鈴が立てて置いてある。
 ネックレスも持っていかれてしまったから、話し相手もいなくて寂しい。

 そういえば、この世界に召喚されたばかりの頃も、こんな感じだったな。
 あの頃は、いつかきっとすごい魔法が使えるようになるんだって信じてたっけ。
 そういや、あれからちょっとは成長してんのかな?
 私はふと思いついて、自分のスキルを確認してみた。
 目を閉じて、スキルを確認、と唱える。

「…あれ。なにこれ」

 回復魔法、蘇生魔法、言霊と、ここまでは今まで通りだった。
 その次には、見たことないスキルがあった。
 それは、<運命操作>というものだった。

「いつの間にこんなの増えてたの…?」

 運命操作って何だろう。
 そのままの意味なら、運命を操作するってことよね。
 自分の運命?それとも他人の?
 そんなこと、人間ができるの?怖いんだけど。
 運命を操作するって、要するに願い事が叶う、ってことかな?
 例えば試験に合格するとか、希望する就職先に内定もらえるとか、そういうことよね。
 あー、でもこっちの世界じゃ関係ないわ~。
 こっちの世界でしたいことって何かあるかなあ?

 待って…。
 たしかイシュタムが云ってた。
 私はこの世界に存在しちゃいけないって…。
 そもそも魔族に回復魔法がないのは、この世界のことわりだから、魔族を癒せる私はこの世界にいちゃいけないんだって。
 その私がもし運命操作なんてものを使ったら…もしかしてヤバイことになったりしない?
 というか、問題は、どうしてそんなヤバイスキルを私が持ってるのかってことだ。
 …でもちょっと試してみたい。
 そうだ、もっとずっと、ずーっとスケールの小さいことで試してみたらいいんじゃないかしら。人に迷惑が掛からないような。
 えーと、えーと、あ、そうだ。

「<運命操作>、お風呂に入らせて!」

 そう云った後、部屋の中はシーン、と静まり返った。

「あは…は、そうよね~、スケール小さすぎるわよね~。そもそも自分で何とかできるようなことだし」

 なんか、スキルに対してあまりにもしょーもないことを願ってしまった気がする。
 でもお風呂に入りたいのは本当なのよ。心身ともに疲れてるし。
 とりあえず、呼び鈴を鳴らしてみよう。運命を動かすには行動あるのみ、だよね。
 呼び鈴を鳴らすと、すぐにメイドらしき女性がやってきた。
 彼女にお風呂に入れるかと訊いたら、すぐにOKをくれたので驚いた。
 メイドに案内されて洞穴みたいな地下へどんどん下って行くと、そこにはなんと温泉が湧いていた。

「マジか!温泉って!!」

 メイドいわく、ここは山林地帯を掘ったところで、掘っていくうちに温泉の源泉を掘り当てたのだそうだ。この温泉をろ過してここら一帯の飲み水にも使われているとか。
 まさか、天然の温泉に入れるなんて夢にも思わなかった。

 もしかして、これって<運命操作>の効果?
 …いやいや、スキル使ったから温泉湧いたわけじゃないし。使わなくてもきっと温泉には入れたんだよね。うーん、このスキルが正しく働いたのかどうなのか今一つわからん…!

「あー、魔王がいれば相談できるのにな…」

 温泉に浸かりながら、思わずそう愚痴った。彼ならきっとこのスキルのことも知ってるんじゃないかと思う。なにしろ不思議なことの塊みたいな人だし。
 
 温泉を堪能して部屋に戻った私を待っていたのはルキウスだった。
 彼の首には私から奪ったネックレスがぶら下がっている。

「君、すごいね…。知らない場所に来てお風呂に入りに行くなんて、どういう神経してるんだい?」

 と、少々呆れられてしまった。だってすることなかったし。

「まあ、ともかく一緒に来て」

 ルキウスに連れられて向かったところは、大きな鋼の扉に守られた大広間だった。
 ルキウスはそこを玉座の間と呼んだ。
 玉座の間ってことは王様のいる部屋だよね…。ゲームで死んじゃった時『死んでしまうとは何事だ』とか怒られて復活するところだ。
 で、例によって扉から玉座まで一直線にレッドカーペットが敷かれている。
 その上を歩いて玉座の前まで行くと、ルキウスに膝をつくように云われた。

「陛下、この娘が魔族を癒す能力を持つ娘です」

 ルキウスにそう紹介されて、数段上にある玉座を見上げてぎょっとした。
 そこには包帯男が座っていたからだ。
 顔は左目と口を除くすべてが包帯でぐるぐる巻きにされていた。よく見ると、首や手、服で隠れていないところからはすべて包帯が見えていた。ミイラ男か!?
 金色の髪の上には王冠が乗っていて、着ている服もツヤツヤしていて、一見して上等なものだとわかる。
 このミイラ男が王様?…ってここって国なの?どこの?
 そんなことを考えていた私を、ミイラの王様はぎょろりと片目で見た。

「…やはりおまえだったのか…」

 王様は私に手を伸ばした。
 恐怖のあまり私はその場で立ち上がって後ずさりした。

「陛下、落ち着いてください」

 そう云ったのはミイラ男の座る玉座の横に立っていた赤毛のスレンダーな美女だった。
 純白のドレスに身を包んだその女性は、切れ長の目を私に向けた。

「その方、名は?」
「トワって言います。タカドウ・トワ」
「トワ?…不思議と聞いたような名だな」

 赤毛の女性がそう云うと、ルキウスが発言した。

「我が国に伝わる伝説の聖女の名ですよ、カーラ様」
「…なるほど。これは偶然の一致か?まあ、いい。私はカーラベルデ・イシュキック。こちらにおわすのが新生オーウェン王国国王レオナルド二世陛下であらせられる」
「オーウェン王国?それって人魔大戦で滅んだんじゃ…?」
「確かに滅んだ。だが一部の者は密かに地下へ逃げ延びたのだ」

 カーラって人が話している間も、ミイラ王はじっと私を見ていて、ちょっと怖い。

「おまえは魔族か?」

 突然、カーラが質問してきた。

「いえ、人間です」
「人間が、なぜ魔族を癒せる?」
「…私にもわかりません…」
「その娘をここへ」

 ミイラ王がルキウスに命じると、彼は私の背中を押して玉座の真ん前に連れて行った。
 私は目の前の王が服の懐から宝玉を取り出したのを見た。

「え…」

 どうしてこの人が宝玉を持っているの?

「<鑑定>」

 彼はそう云った。
 これって、大司教の持ってた能力鑑定のやつじゃん!!

「おお…!」

 王は宝玉と私を何度も見比べた。

「素晴らしい!おまえを待ち望んでいたぞ!ハハハハ!!」

 彼はそう云って、私の腕を掴んだ。
 ミイラのくせに力が強い。

「おまえのスキルを寄越せ…!」

 彼は私の耳元で呟くように云った。
 スキルを寄越せって…?
 私はハッとして優星たちの話を思い出した。
 人を殺してスキルを奪う者がいるって。その人は…。

「あなた、レナルド?」

 私の言葉に、ミイラ王は怯んだ。
 その隙に、私は彼の手を振りほどいて玉座の前から逃げた。

「レオナルド様?どうしたのです?」

 ルキウスもカーラも突然の王の豹変ぶりに戸惑っていた。

「その者は聖魔の力を持つ者だ。拘束しろ」
「私のスキルが欲しいだけでしょ!この変態!」

 私のこの発言に、カーラは激高した。

「貴様、無礼にも程があるぞ!ルキウス、その娘を捕らえよ!」
「はっ!」

 ルキウスは私を逃がすまいと立ち塞がった。

「ルキウス、どうして私をここへ連れてきたの?」
「…王国のために、君を切り札として持っておくためだ」
「切り札?」
「僕たちはこれから大陸全土に宣戦布告し、王国を認めさせるための軍を上げる。君を手中にしておけば、魔王を操って他国を魔族に攻撃させることも可能だ。こんな楽なことはないだろう?」
「…何よそれ。私を騙したのね!」
「既に世界各国に現れた魔獣は、魔王が召喚させたということになってる」
「どういうこと?酷いじゃない…!」
「何が酷いんだ。魔族は100年前、僕らの国を破壊したんだぞ!これは復讐だ」
「また100年前みたいな戦争を起こそうとしてるの?」
「ああ、そうだ。100年前は僕らの国が生贄になったけど、今度は他国に犠牲になってもらう。焦土と化した領地を、今度は僕らの王国がいただくんだ」
「なんだかんだ言って、そっちが本音なんじゃない!人間同士の領地争いに魔王を巻き込まないで!」
「…君の発言はとても人間とは思えないね」

 そう云うルキウスの隣にカーラが歩み寄った。

「聖魔の力があるそうだが、おまえはどちらの味方だ?」
「…正しいと信じる方に決まってるじゃない」

 確かに、今まで魔族に囲まれてきたから、魔族寄りの考え方になっちゃったのかもしれないとは思う。
 だけど、今の話を聞いて、人間だからこの人たちが正しいなんて絶対思わない。

「その娘を捕らえろ」

 レナルドは動けないのか、玉座から命令を出していた。
 でも、どうしよう。ネックレスはルキウスの首にあるし、ここから逃げることなんかできるかな…?
 チラッと背後を見ると、鋼鉄製の頑丈そうな扉は閉められている。

「逃げ場はないよ。君にはおとなしく従ってもらう」

 その時だった。
 鋼鉄製の扉がバーン!と勢いよく開いた。
 それと共に、凍てつくような冷気と、突風が吹いた。

「な、何だ!?」

 ルキウスもカーラも凍えるような吹雪にさらされ、目も開けられない状態になっていた。
 私も思わず目を瞑っていたけど、なぜかふわりと誰かに抱きあげられた感覚があった。
 寒いどころか、温もりを感じた。
 目を開けると、そこには会いたかった人の顔があった。

「魔王…!?」
「我に黙って出かけるからこんなことになるのだぞ」
「ご、ごめんなさい…」

 私は魔王の両腕に抱きあげられていた。
 内心ではこんな漫画みたいな展開ってあるのかと思ってたんだけど。
 吹雪を起こしていたのは魔王の背後にいたジュスターで、開いた扉の向こうにも多くの兵士たちが氷漬けになっているのが見えた。その銀髪と冷たい美貌が相まって、氷の魔人という感じ。
 私は魔王に抱き上げられたまま、玉座の間を見渡した。
 ユリウスとウルクもそこにいて、ルキウスとカーラを相手にしていた。
 そしてジュスターは、まっすぐに玉座に向かい、包帯男と対峙していた。

「今度こそ、逃がさん」
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