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第七章
最悪な再会
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グリンブル王国の高級温泉別荘地、ラエイラはすっかりその姿を変えていた。
カナンたち聖魔騎士団は魔獣討伐のためにラエイラにやってきて、イシュタムと共に戦った。
魔獣は無事に討伐されたものの、街中に溢れ出た魔獣エキドナの毒液は、触るだけで死に至るため、ラエイラのビーチから市街地の一部が全面立ち入り禁止になっており、いつもなら富裕層でにぎわうビーチも無人となっていた。
まず毒を中和せねばならないのだが、王国軍は聖魔騎士団のテスカに毒の中和液と解毒剤の製作を依頼し、それをグリンブル・アカデミーの錬金術科へ持ち込んで大量生産して街中を消毒しようという計画を立てた。
それでも広範囲にわたる毒の中和には軍総出でも相当の日数を要することになりそうだった。
魔獣を討伐してくれた聖魔騎士団とイシュタムには王から謝礼金が出ることになったが、イシュタム以外の騎士団メンバーはこれを辞退した。その代わり、魔獣を討伐したのは魔王配下の聖魔騎士団であることを広く知らしめて欲しいと願い出た。
魔獣を倒した後、イシュタムは倒れたイドラを連れて、王国が用意したグリンブルの魔族専用の超高級ホテルへと引きあげて行った。
聖魔騎士団は、魔獣討伐後の後始末にも協力することになった。
というのもラエイラの街中に猛毒が撒かれているので、毒耐性のない者は、立ち入ることすらできないのだ。
アカデミーの錬金術科へ解毒薬と消毒液を提供することになったテスカは、アカデミーの研究室でしばらく缶詰状態になった。大量生産された解毒剤の性能を確かめねばならなかったからだ。
その間、他のメンバーは治安維持機構本部へ行ったり、アザドー本部に顔を出したりして、状況把握に努めた。
数日後、カナンがテスカを迎えに行くと、彼は少々疲れた顔をしていた。
「テスカ、大活躍だったな」
「うん、大量に解毒薬を作ったからね。魔力を回復しながらだから結構時間かかっちゃった」
「あの強力な毒を消すなんて、まったくすごい。おまえがいなかったら相当苦戦する相手だった。よくやったな」
「エヘヘ」
カナンはテスカを労った。
副団長に褒めちぎられて、テスカはまんざらでもない様子だった。
「でもこれって、トワ様からもらった力なんだよ。僕がっていうより、やっぱりトワ様がすごいんだなって思うよ」
「ああ、そうだな。それを忘れてはならん。だが、実際にそれを使いこなすのはおまえの力だと思うぞ。もっと胸を張って良いんだ」
「ありがとう。そんな風に褒められたの、生まれて初めてだ」
カナンはテスカの髪がくしゃくしゃになるほど、頭を撫でた。
街の清掃が大方終わった頃、ユリウスから頼まれたもう一つの件を片付けるために、聖魔騎士団はシェルター奥の人魔研究所へと向かった。
その道すがら、彼らは魔獣討伐について語り合っていた。
「あの毒はヤバかったよね。テスカがいなかったら僕らの誰か、死人が出てたかもね」
ネーヴェが興奮して云うと、当のテスカは照れくさそうに頭を掻いていた。
「本当にな。あれなら伝説のテュポーンの毒さえも中和できるんじゃないか?」
「どうかな?神様ですら殺す毒なんて、想像もつかないよ」
クシテフォンの問いにテスカはそう云ったが、その顔は自信に満ちていた。
「それにしてもあのイシュタムという者、魔王様に匹敵する重力魔法の使い手だったな」
「えー?そうかな~?魔王様の方が断然魔力が上だよ。だって後半魔力カツカツだったよ?」
カナンの言葉にネーヴェが反論する。
「だいたい、神の名を名乗るなんて、恐れ多いというか怖いもの知らずというか」
「だが、あの見かけは伝説の通りではなかったか?」
ネーヴェの意見に、クシテフォンが冷静に答えた。
だがイシュタムについては誰も答えを持っていないので、ネーヴェは「そうだね」とあやふやに返事をして話を変えた。
「ユリウスが僕らに頼みごとをしてくるなんて珍しいよね」
「確かにな」クシテフォンが同意した。
「悪い意味じゃないけどさ、前はちょっと距離を取ってたっていうか、遠慮してるとこがあった気がするんだよね」
「おまえは遠慮しなさすぎだけどな」
「ユリウスと比べるのはずるいよ~!」
カナンが茶化すように云うと、ネーヴェは頬を膨らませた。
するとそれまで黙っていたシトリーが口を開いた。
「ユリウスはああ見えて口より先に手が出るタイプだぞ」
それを聞いた他の皆は目をぱちくりとさせて「意外だ」と驚いた。
物静かで聞き上手なシトリーは、他人をよく観察しているようだ。
そこへクシテフォンが衝撃的な一言を放った。
「ユリウスといえば、ゴラクドールに潜入していた時、マサラが口説きに来ていたぞ」
「ええっ!?」
一同は驚きの声を上げた。
「思わぬ伏兵だな…」
カナンは皆の意見を代弁するかのように呟いた。
研究所の入口にはアザドーの魔族が数人いた。
その中にはグリスの姿もあった。
彼の説明によれば、内部にいた多くの不死者は数日を掛けてようやくすべて焼き払われたという。
その中にはこの研究所の所長も含まれていたのだが、誰もそのことを知らなかった。
「残念ながら、水槽の中にいた者は皆死んでいたよ」
グリスはそう云って、奥の研究室の床にずらりと並べられている遺体の方を見やった。
「そうか、残念だ。ユリウスからは、もし生きている者がいれば助けておいてくれと言われたんだが」
カナンは残念そうに云った。
自分たちが助かったように、誰かの命をつなげることもできたかもしれないと考えていたのだが、それは叶わなかったようだ。
床に寝かされている遺体を眺めていたネーヴェが叫んだ。
「ねえ、この人、まだ息があるよ」
床に寝かされている複数の遺体のうちの1つに、ネーヴェは注目していた。
皆がネーヴェの周囲に集まってきた。
グリスは、さっき見た時は死んでいたと云ったが、今は胸が上下していて確実に呼吸をしているのがわかる。
ネーヴェの後ろからクシテフォンが覗き込んだ。
「人間だな」
「ああ、人間用のポーションなら持って来てるよ」
グリスがそう云いながら、ポーションをその人間の口に流し込んだ。
「あれ…、この人見たことあるよね」
ネーヴェが呟くと、クシテフォンが頷いた。
「ああ、確か国境砦で見た勇者候補の1人に似ているな。名前は知らんが」
「あー、そうそう、それだ!間違いないよ。いつの間にかこんなところに送られて来てたんだね。気の毒に」
ポーションが効いたのか、しばらくすると、その人間は目を覚ました。
少し赤みがかった長髪と、整った顔立ちをしていた。
彼は目の前の魔族たちに驚いていたようだが、まだ傷が痛むらしく、起き上がることはできなかった。必死で自分の状況を認知しようとしているのか、忙しく瞬きをして周囲を見回していた。
「喉を斬られていて声が出せないみたいだね」
その人間の首には血の固まった後のドス黒い筋がくっきりと見えた。喉を斬られていたようだが傷口は塞がっていた。死んだ後に何かに利用するつもりで外側の傷だけを塞いでいたのだろう、とグリスは云った。
「この人は人魔同盟の病院施設に連れて帰って治療するよ。あそこには回復士もいるからな」
グリスはそう云って、その青年を担架に乗せて部下に研究所から運び出させた。
カナンたちは研究所の中を一回りしてみることにした。
ユリウスから、宝玉か魔法具の類が残っているかもしれないから、見つけたら回収しておいてほしいとも頼まれていたのだ。
アザドーの魔族たちが、研究所の中についた血や汚れなどを清掃していた。
この研究所をそのままアザドーがポータル・マシンの研究所として使用するのだそうだ。軟禁されていた家族を救出してもらったセキ教授は、家族と共にこの研究所に住んでマシン研究に携わることになっている。
そのため、奥にある巨大なポータル・マシンもそのまま置いておくとのことだった。
「ここって、僕らがいたあの施設と同じだよね。壊してもまたこうやって復活しちゃうんだな…」
ネーヴェがボヤいた。
「おかしな研究をする人間は後を絶たない。その都度見つけて潰すしかないな」
カナンがそう話していると、クシテフォンがある部屋の壁の前で立ったまま動こうとしていなかった。
「どうした?この壁に何かあるのか?」
彼らは知らなかったが、そこは人魔研究所所長のフルール・ラウエデスの部屋だった。
「この壁の向こうから音が聞こえる」
クシテフォンは壁を指さした。
獣人系魔族のカナンも耳はかなり良い方だが、その彼にも音は聞こえなかった。だがS級音楽家スキルを持つクシテフォンの耳が異常に良いことは騎士団の誰もが認めるところだ。
「隠し部屋とかあったりして」
ネーヴェがそう云って壁を触っていると、急に壁が上がり、「わわっ!」と叫んで壁の奥に現れた通路に転がり出た。壁はボタン式で昇降するドアになっていて、ネーヴェは知らずにそのボタンを押していたのだった。
「あは、正解だったみたい」
隠し通路の壁には棚が取り付けられていて、その上には魔族のものと思われる角の生えた頭蓋骨や、ケースに入った目玉や歯型の他、鞭やらローソクやらの小道具までもが置かれていた。その通路の向こうには隠し部屋があった。
鼻の利くシトリーは、「嫌な臭いがする」と云いながら部屋の中へ入って行った。
隠し部屋の中に入ると、頭蓋骨粉砕機や、内側に鋭い棘のついた鉄製の棺桶、ミニチュアのギロチン台などの各種拷問用具がまるで家具のように置かれていた。
「完全にイカれた趣味の部屋だね」とはネーヴェの感想だ。
「鎖の音だ」
クシテフォンは断言した。
音を頼りに彼が歩くと、壁に突き当たった。その壁は仕掛け扉になっており、その奥に更にもう一つ隠し部屋があった。鎖の音はそこから聞こえていた。
隠し部屋の扉には鍵が掛けられていたが、シトリーが鍵穴ごとぶち破って扉を開けた。
部屋の中央には大きなベッドが置いてあり、その脇には両手両足を鎖で拘束された魔族らしき女性が裸のまま壁にもたれかかって座っていた。俯いたままの彼女の全身は小刻みに痙攣し、その都度、彼女を拘束している鎖がこすれ合ってかすかに音を立てていたのだった。
カナンはその女性魔族を抱き起して、顔を見た。
彼は目を見開いて驚愕した。
ネーヴェも驚いて声を上げた。
「嘘だろ…!」
その場にいた全員が、彼女の顔を知っていた。
「ロア…!?」
テスカが彼女の名を呼んだ。
カナンたち聖魔騎士団は魔獣討伐のためにラエイラにやってきて、イシュタムと共に戦った。
魔獣は無事に討伐されたものの、街中に溢れ出た魔獣エキドナの毒液は、触るだけで死に至るため、ラエイラのビーチから市街地の一部が全面立ち入り禁止になっており、いつもなら富裕層でにぎわうビーチも無人となっていた。
まず毒を中和せねばならないのだが、王国軍は聖魔騎士団のテスカに毒の中和液と解毒剤の製作を依頼し、それをグリンブル・アカデミーの錬金術科へ持ち込んで大量生産して街中を消毒しようという計画を立てた。
それでも広範囲にわたる毒の中和には軍総出でも相当の日数を要することになりそうだった。
魔獣を討伐してくれた聖魔騎士団とイシュタムには王から謝礼金が出ることになったが、イシュタム以外の騎士団メンバーはこれを辞退した。その代わり、魔獣を討伐したのは魔王配下の聖魔騎士団であることを広く知らしめて欲しいと願い出た。
魔獣を倒した後、イシュタムは倒れたイドラを連れて、王国が用意したグリンブルの魔族専用の超高級ホテルへと引きあげて行った。
聖魔騎士団は、魔獣討伐後の後始末にも協力することになった。
というのもラエイラの街中に猛毒が撒かれているので、毒耐性のない者は、立ち入ることすらできないのだ。
アカデミーの錬金術科へ解毒薬と消毒液を提供することになったテスカは、アカデミーの研究室でしばらく缶詰状態になった。大量生産された解毒剤の性能を確かめねばならなかったからだ。
その間、他のメンバーは治安維持機構本部へ行ったり、アザドー本部に顔を出したりして、状況把握に努めた。
数日後、カナンがテスカを迎えに行くと、彼は少々疲れた顔をしていた。
「テスカ、大活躍だったな」
「うん、大量に解毒薬を作ったからね。魔力を回復しながらだから結構時間かかっちゃった」
「あの強力な毒を消すなんて、まったくすごい。おまえがいなかったら相当苦戦する相手だった。よくやったな」
「エヘヘ」
カナンはテスカを労った。
副団長に褒めちぎられて、テスカはまんざらでもない様子だった。
「でもこれって、トワ様からもらった力なんだよ。僕がっていうより、やっぱりトワ様がすごいんだなって思うよ」
「ああ、そうだな。それを忘れてはならん。だが、実際にそれを使いこなすのはおまえの力だと思うぞ。もっと胸を張って良いんだ」
「ありがとう。そんな風に褒められたの、生まれて初めてだ」
カナンはテスカの髪がくしゃくしゃになるほど、頭を撫でた。
街の清掃が大方終わった頃、ユリウスから頼まれたもう一つの件を片付けるために、聖魔騎士団はシェルター奥の人魔研究所へと向かった。
その道すがら、彼らは魔獣討伐について語り合っていた。
「あの毒はヤバかったよね。テスカがいなかったら僕らの誰か、死人が出てたかもね」
ネーヴェが興奮して云うと、当のテスカは照れくさそうに頭を掻いていた。
「本当にな。あれなら伝説のテュポーンの毒さえも中和できるんじゃないか?」
「どうかな?神様ですら殺す毒なんて、想像もつかないよ」
クシテフォンの問いにテスカはそう云ったが、その顔は自信に満ちていた。
「それにしてもあのイシュタムという者、魔王様に匹敵する重力魔法の使い手だったな」
「えー?そうかな~?魔王様の方が断然魔力が上だよ。だって後半魔力カツカツだったよ?」
カナンの言葉にネーヴェが反論する。
「だいたい、神の名を名乗るなんて、恐れ多いというか怖いもの知らずというか」
「だが、あの見かけは伝説の通りではなかったか?」
ネーヴェの意見に、クシテフォンが冷静に答えた。
だがイシュタムについては誰も答えを持っていないので、ネーヴェは「そうだね」とあやふやに返事をして話を変えた。
「ユリウスが僕らに頼みごとをしてくるなんて珍しいよね」
「確かにな」クシテフォンが同意した。
「悪い意味じゃないけどさ、前はちょっと距離を取ってたっていうか、遠慮してるとこがあった気がするんだよね」
「おまえは遠慮しなさすぎだけどな」
「ユリウスと比べるのはずるいよ~!」
カナンが茶化すように云うと、ネーヴェは頬を膨らませた。
するとそれまで黙っていたシトリーが口を開いた。
「ユリウスはああ見えて口より先に手が出るタイプだぞ」
それを聞いた他の皆は目をぱちくりとさせて「意外だ」と驚いた。
物静かで聞き上手なシトリーは、他人をよく観察しているようだ。
そこへクシテフォンが衝撃的な一言を放った。
「ユリウスといえば、ゴラクドールに潜入していた時、マサラが口説きに来ていたぞ」
「ええっ!?」
一同は驚きの声を上げた。
「思わぬ伏兵だな…」
カナンは皆の意見を代弁するかのように呟いた。
研究所の入口にはアザドーの魔族が数人いた。
その中にはグリスの姿もあった。
彼の説明によれば、内部にいた多くの不死者は数日を掛けてようやくすべて焼き払われたという。
その中にはこの研究所の所長も含まれていたのだが、誰もそのことを知らなかった。
「残念ながら、水槽の中にいた者は皆死んでいたよ」
グリスはそう云って、奥の研究室の床にずらりと並べられている遺体の方を見やった。
「そうか、残念だ。ユリウスからは、もし生きている者がいれば助けておいてくれと言われたんだが」
カナンは残念そうに云った。
自分たちが助かったように、誰かの命をつなげることもできたかもしれないと考えていたのだが、それは叶わなかったようだ。
床に寝かされている遺体を眺めていたネーヴェが叫んだ。
「ねえ、この人、まだ息があるよ」
床に寝かされている複数の遺体のうちの1つに、ネーヴェは注目していた。
皆がネーヴェの周囲に集まってきた。
グリスは、さっき見た時は死んでいたと云ったが、今は胸が上下していて確実に呼吸をしているのがわかる。
ネーヴェの後ろからクシテフォンが覗き込んだ。
「人間だな」
「ああ、人間用のポーションなら持って来てるよ」
グリスがそう云いながら、ポーションをその人間の口に流し込んだ。
「あれ…、この人見たことあるよね」
ネーヴェが呟くと、クシテフォンが頷いた。
「ああ、確か国境砦で見た勇者候補の1人に似ているな。名前は知らんが」
「あー、そうそう、それだ!間違いないよ。いつの間にかこんなところに送られて来てたんだね。気の毒に」
ポーションが効いたのか、しばらくすると、その人間は目を覚ました。
少し赤みがかった長髪と、整った顔立ちをしていた。
彼は目の前の魔族たちに驚いていたようだが、まだ傷が痛むらしく、起き上がることはできなかった。必死で自分の状況を認知しようとしているのか、忙しく瞬きをして周囲を見回していた。
「喉を斬られていて声が出せないみたいだね」
その人間の首には血の固まった後のドス黒い筋がくっきりと見えた。喉を斬られていたようだが傷口は塞がっていた。死んだ後に何かに利用するつもりで外側の傷だけを塞いでいたのだろう、とグリスは云った。
「この人は人魔同盟の病院施設に連れて帰って治療するよ。あそこには回復士もいるからな」
グリスはそう云って、その青年を担架に乗せて部下に研究所から運び出させた。
カナンたちは研究所の中を一回りしてみることにした。
ユリウスから、宝玉か魔法具の類が残っているかもしれないから、見つけたら回収しておいてほしいとも頼まれていたのだ。
アザドーの魔族たちが、研究所の中についた血や汚れなどを清掃していた。
この研究所をそのままアザドーがポータル・マシンの研究所として使用するのだそうだ。軟禁されていた家族を救出してもらったセキ教授は、家族と共にこの研究所に住んでマシン研究に携わることになっている。
そのため、奥にある巨大なポータル・マシンもそのまま置いておくとのことだった。
「ここって、僕らがいたあの施設と同じだよね。壊してもまたこうやって復活しちゃうんだな…」
ネーヴェがボヤいた。
「おかしな研究をする人間は後を絶たない。その都度見つけて潰すしかないな」
カナンがそう話していると、クシテフォンがある部屋の壁の前で立ったまま動こうとしていなかった。
「どうした?この壁に何かあるのか?」
彼らは知らなかったが、そこは人魔研究所所長のフルール・ラウエデスの部屋だった。
「この壁の向こうから音が聞こえる」
クシテフォンは壁を指さした。
獣人系魔族のカナンも耳はかなり良い方だが、その彼にも音は聞こえなかった。だがS級音楽家スキルを持つクシテフォンの耳が異常に良いことは騎士団の誰もが認めるところだ。
「隠し部屋とかあったりして」
ネーヴェがそう云って壁を触っていると、急に壁が上がり、「わわっ!」と叫んで壁の奥に現れた通路に転がり出た。壁はボタン式で昇降するドアになっていて、ネーヴェは知らずにそのボタンを押していたのだった。
「あは、正解だったみたい」
隠し通路の壁には棚が取り付けられていて、その上には魔族のものと思われる角の生えた頭蓋骨や、ケースに入った目玉や歯型の他、鞭やらローソクやらの小道具までもが置かれていた。その通路の向こうには隠し部屋があった。
鼻の利くシトリーは、「嫌な臭いがする」と云いながら部屋の中へ入って行った。
隠し部屋の中に入ると、頭蓋骨粉砕機や、内側に鋭い棘のついた鉄製の棺桶、ミニチュアのギロチン台などの各種拷問用具がまるで家具のように置かれていた。
「完全にイカれた趣味の部屋だね」とはネーヴェの感想だ。
「鎖の音だ」
クシテフォンは断言した。
音を頼りに彼が歩くと、壁に突き当たった。その壁は仕掛け扉になっており、その奥に更にもう一つ隠し部屋があった。鎖の音はそこから聞こえていた。
隠し部屋の扉には鍵が掛けられていたが、シトリーが鍵穴ごとぶち破って扉を開けた。
部屋の中央には大きなベッドが置いてあり、その脇には両手両足を鎖で拘束された魔族らしき女性が裸のまま壁にもたれかかって座っていた。俯いたままの彼女の全身は小刻みに痙攣し、その都度、彼女を拘束している鎖がこすれ合ってかすかに音を立てていたのだった。
カナンはその女性魔族を抱き起して、顔を見た。
彼は目を見開いて驚愕した。
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