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第八章
無機質な神
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扉の向こうに足を踏み入れた私は、眩しいほどの光に包まれ、視力を奪われた。
光が収まってしばらくしても、真っ白の空間だけが広がっていて何も見えない。目は開いているのに、何も映らないという感覚は、視力を失ったのではないかと私を焦らせた。
目を凝らすと、うっすらと影のような物が見えた気がするけど、それも気のせいかもしれない。
両手で辺りを探りながら、私は隣にいるはずのイドラに話しかけた。
「イドラ…いる?」
だけどイドラの声は聞こえなかった。
<名前ヲ提示セヨ>
誰かの声が聞こえた。
やっぱりAIみたいな無機質な声だ。
「…タカドウ・トワ」
<不一致>
<再度提示願ウ>
「トワよ!トワ!」
<一致>
<発言ヲ許可スル>
フルネームだとダメとか、精度に問題のあるコンピュータみたいだ。
私はお決まりのセリフを云ってやった。
「ここはどこ?あなたは誰?」
<我々ハ魔界ノ主ニシテ魔族ヲ創リシ者。君タチハ神ト呼ブ>
キタキター!
出たよ神!
いよいよラスボスのお出ましか!?
さあさあ、どんなやつなの?
ワレワレハ…とか宇宙人っぽい謎の複数形。ちょっと古いタイプの神様なのかな?
私は目をこすって彼らの姿を見てやろうとがんばったけど、何も見えない。
ただ、白い空間があるだけだ。
「神だって名乗るんなら姿を見せなさいよ」
<不可。君ガ我々高次元ノ存在ヲ視覚認識スルコトハ不可能。君ニ届イテイル言葉モ、君ノ次元ニ合ワセテ合成変換シテイル>
高次元?
私のいる世界より上位の世界ってことかな?
まあ、神様なんだし、天界とかにいるって感じ?いや、ここは魔界か。
もしかして言葉が通じなくて翻訳機使ってる感じ?だからこんな機械的な声なのかな…。
スマホの音声認識機能に話しかけるみたいに、ちょっと丁寧に話した方がいいのかも。
「あなたは、イシュタムなの?」
<正解>
なんかクイズに答えた時の司会者みたい。違和感あるなあ…。
「じゃあ、あっちの世界にいるイシュタムは?」
<個体名いしゅたむ、ハ、我々ノ一部カラ独立シ自我ヲ得タ者>
「一部?独立…?もうちょっとわかりやすく説明して?」
<我々高次元生命ノ理ハ、君ノ脳デハ理解デキナイ>
「あーそうですか、すいませんねえ、頭が悪くて…」
<コノ次元ノ生物ノ限界デアリ、君ノ脳の問題デハナイ>
うっは、ボケたつもりなのにマジな答えキタ。
なんかジュスターっぽいな、この神様。
冗談が通じないタイプっぽいから、からかうのは止めた方がいいか。
「あー、じゃあ、私の頭にも理解できる言葉でお願いします」
<君ノ理解ノ範囲デ尤モ近シイ言葉ハ、一族、ダ>
「なるほど。一族ね…。神様だって名乗ってたのは本当だったのね。ずいぶん間抜けな神様って感じだけど」
<個体名いしゅたむ、ハ、能力ノ半分ヲ人間ニ分割シテイル>
「人間に分割?ああ、イシュタルのことね。人間のイシュタルが同居しているから本来の力を発揮できないってこと?」
<正解。ソノタメニ様々ナ不都合ガ発生シテイル。我々ハ、人間ニ影響ヲ与エルコトハ不可能>
「ふ~ん。よくわかんないけど、魔族の神様は人間が苦手ってことかな。…そうだ、イドラは?」
<役目ヲ終エテ排除シタ>
「ちょっと、排除ってどういうことよ?まさか…」
<在ルベキ処ヘ送還シタ>
「在るべき処って?」
<世界ノ、在ルベキ処ヘ>
それがどこか知りたいのに、何度聞いても神様は同じ言葉を繰り返すだけで、それ以上のことは答えてくれなかった。イドラはどこへ行ったっていうの?
「…あなたが神様というのなら、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いい?」
<許可>
「ここは、魔界なの?さっきの扉は何?」
<君ガ居タ空間ガ魔界。此処ハ我々ト接触スルタメノ次元空間。扉ハ君ヲ此処ヘ導クタメノ門>
「私をここへ導いた?何のために?」
<君ヲ隔離スルタメ>
「は?隔離って…まさか、私が魔界へ来たのって…偶然じゃないの?」
<君ヲ此処ヘ来ルヨウ仕向ケタノハ、個体名いしゅたむ>
「仕向けた…って、イシュタムが?」
<個体名いしゅたむ ハ、我々ノ計画ノ実行者ダ>
「…そんなはずないわ!だいたい計画って何よ?」
<人間ヲ排除スルコト>
「は?何それ…?」
<人間ト魔族ハ共生デキナイト判断。君ノ脳ニ直接いめーじヲ送ル>
その直後、どういう仕掛けなのか、私の脳内には様々な情報がもたらされた。
それは不思議な感覚だった。
頭の中にテレビの画面がそのまま入ったみたいな…。
映像を見せられているのとも少し違って、ダイレクトにイメージが伝わってくる。
魔族の魔法紋ってこんな感じなのかしら。確かにこの機能があれば、文字はいらないわ。
私の頭の中では、人間と魔族が争いを繰り広げた歴史が語られていた。
人間たちが魔族を虐げる場面がほとんどだった。
その中には、私も知っているセウレキアの闘技場の奴隷たちの姿もあった。
神様は自分が創り出した魔族が人間からひどい仕打ちを受けていたことを怒っているのかな。
「これは過去の記録?」
<過去、現在。我々ハ、スベテノ魔族ノ記録ヲ所持シテイル。君ノ情報モ、君ニ近イ魔族ノ記録カラ得テイル>
そっか、イシュタムは魔族の神様だもんね。
…待てよ…。最初に名乗った時、この神様が認知できなかったのって、もしかして私が、魔族の皆にはフルネームで認知されていないから?
私、魔族の目を通して、この神様に監視されてたってことなの?
それに、不思議だったのは、この映像の中には魔王の姿がなかったこと。
魔族の歴史を見せるなら、当然魔王がいるはずなのに…。
魔王の記録がないなんてこと、さすがにないよね?
でも、それより気になるのは。
「イシュタムが実行者ってどういうこと?彼はイドラを助けて欲しいって言って私を連れてきたのよ?さっきだって魔界の扉から離れろって注意してくれたし、彼が故意に私をここへ送り込むはずないわ」
<スベテ計画通リ。個体名てゅぽーんハ依リ代ヲ得タ>
まさか…。
イシュタムは最初からテュポーンを復活させるために、私にイドラを連れ出させた?魔界へ来させることまで計算ずくで?
でもあの天然なイシュタムが私を騙して、そんなことできるとは思えない…。
「あり得ない…!だってイシュタムは自分が魔獣を倒すって言ってたのよ?」
<個体名いしゅたむノ使命ハ、個体名てゅぽーんヲ、人間排除率90%以上達成後、始末スルコト>
「え…!それじゃ最初からテュポーン復活ありきだったってこと?でも彼はイドラを助けるためにテュポーンの復活を止めようとしてたわよ?」
<個体名いしゅたむノ言動ニハ関知シナイ>
「待て待て、責任逃れは許さないわよ。ちゃんと説明しなさいよ」
<個体名いしゅたむハ、現身ニ宿リ、コノ世界デ自我ヲ得タ。自我ヲ得タ個体ハ、我々トハ異ナル存在デアル>
「…自我を得ると別の存在になるの?つまりイシュタムはあんたたちとは別の存在ってこと?」
<正解。異ナル存在トナッタ個体ハ、我々ト意識ヲ共有シナイ。ソノ言動ニハ関知シナイ」
「それじゃ同じ神様でも、あんたの思い通りに動かないってこともあるのね?じゃあ、イシュタムがわざと私を連れて来たとは言えないんじゃないの?」
<我々ハ結果ヲ重視スル>
「…結果的にはそうなったからオッケーって言いたいのね」
<正解>
呆れた神様だ。
ご都合主義もいいところじゃない。
「じゃあさ、何のために一族をあっちの世界に送り込むわけ?自分の思い通りに動かないかもしれないのに?」
<我々ガ、コノ世界ノ事象ニ接スル唯一ノ方法ハ、現身ヲ生成シ、ソレニ宿ルコト>
「あー…なるほど。でもそうまでして人間を排除したいなんて執念深すぎ…」
<コノ世界デハ、現身ニ宿ルト自我ガ形成サレテシマウ>
「そりゃ…そうでしょうね。自我のないまま生きてる人なんていないんじゃない?」
<我々ハ二律背反ニ陥ル。コノ世界デハ我々ノ想定外ノ事項ガ多発スル>
神様らしくない云い方だなあ。
まるで愚痴を云ってるみたいに聞こえる。
「でも思い通りに行かないんじゃ意味なくない?」
<実行者ニハ『使イ魔』ヲ使用スルコトデ対応スル>
「使い魔?」
<我々ノ意志ヲ伝達スル意識体ダ>
「え?じゃあイシュタムにも…?」
<否。『使イ魔』ハ、人間ニハ効力ガ無ク、強イ自我ヲ持ツ個体ニハ取リ込マレテシマウ可能性ガ有ル>
「あ…。イシュタムには人間のイシュタルがいるから、効かなかった?」
<正解>
「その云い方だと、魔族にも使い魔を放ってるわけ?」
それって怖い考え方だけど、今の話を聞くとありえなくもない。
私の近くにいた誰かが、神様の操り人形だったなんて考えたくもないんだけど。
<我々ハ、コノ世界ニ存在スル限リ、魔族デアッテモ直接接触スルコトハ不可能。魔族ニ『使イ魔』ヲ使用スルコトハ、前例ノ唯1人ヲ除イテ極メテ困難>
「前例が…あるの?」
<1人ノ魔族ニ、『使イ魔』ヲ寄生サセ、人間ヲ排除スル使命ヲ与エタ>
神様の云う前例とは、こういうことだった。
現身を創って神様が直接降臨しなくても、魔族を神様の実行者にできればこれほど楽なことはない。神様はその実験のために被験者を探していたそうだ。すると、ある時、1人の魔族の子供がイシュタムの神殿があるバベルの地に迷い込んだ。
バベルの地っていうのは、魔の森の中にあって、あっちの世界と魔界を繋ぐ魔界の扉がある唯一の場所だったらしい。
その魔族の子供が魔界の扉に触れた時、神様は『使い魔』を植え付けた。もちろん、その魔族本人はそんなことは知らない。
ところが『使い魔』を宿したその魔族は成長するに従い、元々『使い魔』が所持していた『能力奪取』という特殊なスキルを自分の能力として吸収してしまった。このスキルは『使い魔』が宿主を見限って神の元へ戻る際、自らの痕跡を残さぬようすべてのスキルを奪うために所持していたものだった。
更に驚いたことに、その魔族はそのスキルを『宝玉化』という形に変化させる能力を持っていた。
そのスキルのせいで、彼は『使い魔』からもたらされる人間の排除という使命そっちのけで、スキルコレクターという趣味に走るようになってしまったという。
そこまで聞いた私は驚きを隠せなかった。
「ちょっと待って…!それってエウリノームのことじゃない!?」
<正解。個体名えうりのーむノ実験ハ失敗。コノ世界ノ生活者ハ欲望ガ強スギル。操ルコトハ困難ト判断シ、経過観察トシタ>
驚いた…!
エウリノームって神様に操られてたってわけ?
相手を殺して能力を奪うスキルだなんて、初めて聞いた時はムチャクチャだと思ってたけど、まさか神様の『使い魔』のスキルを奪い取っていたなんて…。ある意味エウリノームってすごい魔族だったんだわ。
あの人、煩悩の塊って感じだったけど、それもそんなスキルを持ったせいだったんだ…。
だけど、なんとなく見えて来た。
この神様は、この世界で生きる魔族を思うがままに操れるわけじゃないってこと。
最初に生み出したのは神様かもしれないけど、魔族たちは自らものを考え、生活し、進化を続けている。
それはもう神様の手を離れていて、神様は自分が生み出した魔族の進化についていけてないのかもしれない。
子供はいつまでも親の庇護下にいるわけじゃない。いつか自立するものよ。
エウリノームが『宝玉化』なんて欲の塊みたいなスキルを生み出したのも、親である神様への反抗みたいなものなのかもしれない。
ある意味、エウリノームには感謝しなきゃいけないのかもね。彼が『使い魔』を吸収してくれたおかげで、他の魔族に被害が出なかったんだもの。
その後のエウリノームについては、私も魔王やジュスターから話を聞いて知っている。
そうしてレナルド・ベルマーという人間に転生して、私と出会ったんだ。
初めて会った時の彼の印象は、悪くなかった。
親切で、ハンサムで、感じのいい人だと好感を持ったくらいだ。
もし彼が、<能力奪取・宝玉化>なんてスキルを持っていなかったら、どうなっていたんだろう?
私は彼がすべての元凶だって思っていたけど、彼も被害者だったんだと気が付いた。
そして、それを仕掛けたのは、魔族の神なのだ。
光が収まってしばらくしても、真っ白の空間だけが広がっていて何も見えない。目は開いているのに、何も映らないという感覚は、視力を失ったのではないかと私を焦らせた。
目を凝らすと、うっすらと影のような物が見えた気がするけど、それも気のせいかもしれない。
両手で辺りを探りながら、私は隣にいるはずのイドラに話しかけた。
「イドラ…いる?」
だけどイドラの声は聞こえなかった。
<名前ヲ提示セヨ>
誰かの声が聞こえた。
やっぱりAIみたいな無機質な声だ。
「…タカドウ・トワ」
<不一致>
<再度提示願ウ>
「トワよ!トワ!」
<一致>
<発言ヲ許可スル>
フルネームだとダメとか、精度に問題のあるコンピュータみたいだ。
私はお決まりのセリフを云ってやった。
「ここはどこ?あなたは誰?」
<我々ハ魔界ノ主ニシテ魔族ヲ創リシ者。君タチハ神ト呼ブ>
キタキター!
出たよ神!
いよいよラスボスのお出ましか!?
さあさあ、どんなやつなの?
ワレワレハ…とか宇宙人っぽい謎の複数形。ちょっと古いタイプの神様なのかな?
私は目をこすって彼らの姿を見てやろうとがんばったけど、何も見えない。
ただ、白い空間があるだけだ。
「神だって名乗るんなら姿を見せなさいよ」
<不可。君ガ我々高次元ノ存在ヲ視覚認識スルコトハ不可能。君ニ届イテイル言葉モ、君ノ次元ニ合ワセテ合成変換シテイル>
高次元?
私のいる世界より上位の世界ってことかな?
まあ、神様なんだし、天界とかにいるって感じ?いや、ここは魔界か。
もしかして言葉が通じなくて翻訳機使ってる感じ?だからこんな機械的な声なのかな…。
スマホの音声認識機能に話しかけるみたいに、ちょっと丁寧に話した方がいいのかも。
「あなたは、イシュタムなの?」
<正解>
なんかクイズに答えた時の司会者みたい。違和感あるなあ…。
「じゃあ、あっちの世界にいるイシュタムは?」
<個体名いしゅたむ、ハ、我々ノ一部カラ独立シ自我ヲ得タ者>
「一部?独立…?もうちょっとわかりやすく説明して?」
<我々高次元生命ノ理ハ、君ノ脳デハ理解デキナイ>
「あーそうですか、すいませんねえ、頭が悪くて…」
<コノ次元ノ生物ノ限界デアリ、君ノ脳の問題デハナイ>
うっは、ボケたつもりなのにマジな答えキタ。
なんかジュスターっぽいな、この神様。
冗談が通じないタイプっぽいから、からかうのは止めた方がいいか。
「あー、じゃあ、私の頭にも理解できる言葉でお願いします」
<君ノ理解ノ範囲デ尤モ近シイ言葉ハ、一族、ダ>
「なるほど。一族ね…。神様だって名乗ってたのは本当だったのね。ずいぶん間抜けな神様って感じだけど」
<個体名いしゅたむ、ハ、能力ノ半分ヲ人間ニ分割シテイル>
「人間に分割?ああ、イシュタルのことね。人間のイシュタルが同居しているから本来の力を発揮できないってこと?」
<正解。ソノタメニ様々ナ不都合ガ発生シテイル。我々ハ、人間ニ影響ヲ与エルコトハ不可能>
「ふ~ん。よくわかんないけど、魔族の神様は人間が苦手ってことかな。…そうだ、イドラは?」
<役目ヲ終エテ排除シタ>
「ちょっと、排除ってどういうことよ?まさか…」
<在ルベキ処ヘ送還シタ>
「在るべき処って?」
<世界ノ、在ルベキ処ヘ>
それがどこか知りたいのに、何度聞いても神様は同じ言葉を繰り返すだけで、それ以上のことは答えてくれなかった。イドラはどこへ行ったっていうの?
「…あなたが神様というのなら、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いい?」
<許可>
「ここは、魔界なの?さっきの扉は何?」
<君ガ居タ空間ガ魔界。此処ハ我々ト接触スルタメノ次元空間。扉ハ君ヲ此処ヘ導クタメノ門>
「私をここへ導いた?何のために?」
<君ヲ隔離スルタメ>
「は?隔離って…まさか、私が魔界へ来たのって…偶然じゃないの?」
<君ヲ此処ヘ来ルヨウ仕向ケタノハ、個体名いしゅたむ>
「仕向けた…って、イシュタムが?」
<個体名いしゅたむ ハ、我々ノ計画ノ実行者ダ>
「…そんなはずないわ!だいたい計画って何よ?」
<人間ヲ排除スルコト>
「は?何それ…?」
<人間ト魔族ハ共生デキナイト判断。君ノ脳ニ直接いめーじヲ送ル>
その直後、どういう仕掛けなのか、私の脳内には様々な情報がもたらされた。
それは不思議な感覚だった。
頭の中にテレビの画面がそのまま入ったみたいな…。
映像を見せられているのとも少し違って、ダイレクトにイメージが伝わってくる。
魔族の魔法紋ってこんな感じなのかしら。確かにこの機能があれば、文字はいらないわ。
私の頭の中では、人間と魔族が争いを繰り広げた歴史が語られていた。
人間たちが魔族を虐げる場面がほとんどだった。
その中には、私も知っているセウレキアの闘技場の奴隷たちの姿もあった。
神様は自分が創り出した魔族が人間からひどい仕打ちを受けていたことを怒っているのかな。
「これは過去の記録?」
<過去、現在。我々ハ、スベテノ魔族ノ記録ヲ所持シテイル。君ノ情報モ、君ニ近イ魔族ノ記録カラ得テイル>
そっか、イシュタムは魔族の神様だもんね。
…待てよ…。最初に名乗った時、この神様が認知できなかったのって、もしかして私が、魔族の皆にはフルネームで認知されていないから?
私、魔族の目を通して、この神様に監視されてたってことなの?
それに、不思議だったのは、この映像の中には魔王の姿がなかったこと。
魔族の歴史を見せるなら、当然魔王がいるはずなのに…。
魔王の記録がないなんてこと、さすがにないよね?
でも、それより気になるのは。
「イシュタムが実行者ってどういうこと?彼はイドラを助けて欲しいって言って私を連れてきたのよ?さっきだって魔界の扉から離れろって注意してくれたし、彼が故意に私をここへ送り込むはずないわ」
<スベテ計画通リ。個体名てゅぽーんハ依リ代ヲ得タ>
まさか…。
イシュタムは最初からテュポーンを復活させるために、私にイドラを連れ出させた?魔界へ来させることまで計算ずくで?
でもあの天然なイシュタムが私を騙して、そんなことできるとは思えない…。
「あり得ない…!だってイシュタムは自分が魔獣を倒すって言ってたのよ?」
<個体名いしゅたむノ使命ハ、個体名てゅぽーんヲ、人間排除率90%以上達成後、始末スルコト>
「え…!それじゃ最初からテュポーン復活ありきだったってこと?でも彼はイドラを助けるためにテュポーンの復活を止めようとしてたわよ?」
<個体名いしゅたむノ言動ニハ関知シナイ>
「待て待て、責任逃れは許さないわよ。ちゃんと説明しなさいよ」
<個体名いしゅたむハ、現身ニ宿リ、コノ世界デ自我ヲ得タ。自我ヲ得タ個体ハ、我々トハ異ナル存在デアル>
「…自我を得ると別の存在になるの?つまりイシュタムはあんたたちとは別の存在ってこと?」
<正解。異ナル存在トナッタ個体ハ、我々ト意識ヲ共有シナイ。ソノ言動ニハ関知シナイ」
「それじゃ同じ神様でも、あんたの思い通りに動かないってこともあるのね?じゃあ、イシュタムがわざと私を連れて来たとは言えないんじゃないの?」
<我々ハ結果ヲ重視スル>
「…結果的にはそうなったからオッケーって言いたいのね」
<正解>
呆れた神様だ。
ご都合主義もいいところじゃない。
「じゃあさ、何のために一族をあっちの世界に送り込むわけ?自分の思い通りに動かないかもしれないのに?」
<我々ガ、コノ世界ノ事象ニ接スル唯一ノ方法ハ、現身ヲ生成シ、ソレニ宿ルコト>
「あー…なるほど。でもそうまでして人間を排除したいなんて執念深すぎ…」
<コノ世界デハ、現身ニ宿ルト自我ガ形成サレテシマウ>
「そりゃ…そうでしょうね。自我のないまま生きてる人なんていないんじゃない?」
<我々ハ二律背反ニ陥ル。コノ世界デハ我々ノ想定外ノ事項ガ多発スル>
神様らしくない云い方だなあ。
まるで愚痴を云ってるみたいに聞こえる。
「でも思い通りに行かないんじゃ意味なくない?」
<実行者ニハ『使イ魔』ヲ使用スルコトデ対応スル>
「使い魔?」
<我々ノ意志ヲ伝達スル意識体ダ>
「え?じゃあイシュタムにも…?」
<否。『使イ魔』ハ、人間ニハ効力ガ無ク、強イ自我ヲ持ツ個体ニハ取リ込マレテシマウ可能性ガ有ル>
「あ…。イシュタムには人間のイシュタルがいるから、効かなかった?」
<正解>
「その云い方だと、魔族にも使い魔を放ってるわけ?」
それって怖い考え方だけど、今の話を聞くとありえなくもない。
私の近くにいた誰かが、神様の操り人形だったなんて考えたくもないんだけど。
<我々ハ、コノ世界ニ存在スル限リ、魔族デアッテモ直接接触スルコトハ不可能。魔族ニ『使イ魔』ヲ使用スルコトハ、前例ノ唯1人ヲ除イテ極メテ困難>
「前例が…あるの?」
<1人ノ魔族ニ、『使イ魔』ヲ寄生サセ、人間ヲ排除スル使命ヲ与エタ>
神様の云う前例とは、こういうことだった。
現身を創って神様が直接降臨しなくても、魔族を神様の実行者にできればこれほど楽なことはない。神様はその実験のために被験者を探していたそうだ。すると、ある時、1人の魔族の子供がイシュタムの神殿があるバベルの地に迷い込んだ。
バベルの地っていうのは、魔の森の中にあって、あっちの世界と魔界を繋ぐ魔界の扉がある唯一の場所だったらしい。
その魔族の子供が魔界の扉に触れた時、神様は『使い魔』を植え付けた。もちろん、その魔族本人はそんなことは知らない。
ところが『使い魔』を宿したその魔族は成長するに従い、元々『使い魔』が所持していた『能力奪取』という特殊なスキルを自分の能力として吸収してしまった。このスキルは『使い魔』が宿主を見限って神の元へ戻る際、自らの痕跡を残さぬようすべてのスキルを奪うために所持していたものだった。
更に驚いたことに、その魔族はそのスキルを『宝玉化』という形に変化させる能力を持っていた。
そのスキルのせいで、彼は『使い魔』からもたらされる人間の排除という使命そっちのけで、スキルコレクターという趣味に走るようになってしまったという。
そこまで聞いた私は驚きを隠せなかった。
「ちょっと待って…!それってエウリノームのことじゃない!?」
<正解。個体名えうりのーむノ実験ハ失敗。コノ世界ノ生活者ハ欲望ガ強スギル。操ルコトハ困難ト判断シ、経過観察トシタ>
驚いた…!
エウリノームって神様に操られてたってわけ?
相手を殺して能力を奪うスキルだなんて、初めて聞いた時はムチャクチャだと思ってたけど、まさか神様の『使い魔』のスキルを奪い取っていたなんて…。ある意味エウリノームってすごい魔族だったんだわ。
あの人、煩悩の塊って感じだったけど、それもそんなスキルを持ったせいだったんだ…。
だけど、なんとなく見えて来た。
この神様は、この世界で生きる魔族を思うがままに操れるわけじゃないってこと。
最初に生み出したのは神様かもしれないけど、魔族たちは自らものを考え、生活し、進化を続けている。
それはもう神様の手を離れていて、神様は自分が生み出した魔族の進化についていけてないのかもしれない。
子供はいつまでも親の庇護下にいるわけじゃない。いつか自立するものよ。
エウリノームが『宝玉化』なんて欲の塊みたいなスキルを生み出したのも、親である神様への反抗みたいなものなのかもしれない。
ある意味、エウリノームには感謝しなきゃいけないのかもね。彼が『使い魔』を吸収してくれたおかげで、他の魔族に被害が出なかったんだもの。
その後のエウリノームについては、私も魔王やジュスターから話を聞いて知っている。
そうしてレナルド・ベルマーという人間に転生して、私と出会ったんだ。
初めて会った時の彼の印象は、悪くなかった。
親切で、ハンサムで、感じのいい人だと好感を持ったくらいだ。
もし彼が、<能力奪取・宝玉化>なんてスキルを持っていなかったら、どうなっていたんだろう?
私は彼がすべての元凶だって思っていたけど、彼も被害者だったんだと気が付いた。
そして、それを仕掛けたのは、魔族の神なのだ。
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