短編集

三日月

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梅酒

後編

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約束をした時はなんだかおかしくて、笑っていたが、僕達は本当に約束を果たそうとしていた。
だけど、ある日、僕達は大喧嘩をした。喧嘩した理由なんて全く覚えていない。大人ですら止めるのが大変なほどの喧嘩だった。
以来、僕達は口を聞かなくなった。
顔も合わせることも無くなり、次第に僕達は離れていった。
だけど、約束のことだけはずっと覚えていた。
中学生になっても、高校生になっても、大学生になっても、社会人になっても、新しい親友が出来ても、何があっても、一瞬でさえ忘れることは無かった。
別に意識してるわけじゃない、むしろ忘れたい記憶だった。
僕とあいつはもう、友達では無いのだから。

~~~

未だ雨音が聞こえる中で、買い物袋に手を伸ばし、そこから梅酒の入った紙パックを取り出した。
キャップをひねって開けて、ロックアイスの入ったコップに注いだ。
爽やかな匂いがした。
酒を飲むと何かを忘れられるとよく聞く。
この酒を飲んで、忘れたいのに忘れられない約束を忘れてしまおう。
そして、約束を忘れるために約束を破った。
初めて飲んだ酒の味は、とてもしょっぱかった。
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