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科学施設の陰謀
訓練再び──そして新たなる悲劇。
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三人して事務所に戻ると、廊下のシャンデリアが不気味にゆらめいていた。あれほどの事件だったのだ──当然宿泊はパーになった。そもそもの目的であるスパイの排除も達成できたわけだし……
それに、俺は毒ガスで死にかけた。幸い後遺症はなかったが、思いだしただけで嘔吐しそうだ。研究所が潰れてしまうとしたら、これが一番の原因になるはずだ。
「さっさと家に帰りたい」
チャックが軽く伸びをし、ジェームズをにらんだ。
「分かっているだろう? まだ勤務時間だ。本当に子供じみているぞ」
ジェームズは笑みを浮かべて俯いた。
「と言っても今日は、急ぎの仕事がない。つまり──」
「訓練かよ」
俺がそう呟くと、ジェームズは満足げに頷き、細い人差し指をこちらに向けた。
「その通りだ。前回はあまりに差がつきすぎたからな、今日は二人まとめて相手してやるぞ」
とたんに俺は安堵し、ニヤリとした。
「それは傲慢にも程があるんじゃないか?」
「そいつは、どうだろうな。さあ来い、実力を見せつけるときだぞ」
二番目の鉄製ドアをくぐって、相変わらず異質に見えるジムに入った。部屋を両断するネットを全員でくぐり、靴を脱いだ。
「いつでもいいぞ」
ジェームズは相変わらず傲岸不遜な顔をして、両腕を広げ、挑発する。俺は素早く飛び掛かった。案の定避けられるが、体が倒れる寸前で回し蹴りを入れた。いくらかダメージが入ったらしく、ジェームズは膝をついた。すかさず、チャックが殴りにいく。
一発、二発──チャックは次々と打撃を与えるが、ジェームズは怯まない。大ダメージを与えようとしたのか、思い切り振りかぶったチャックに、ジェームズは拳を突き出す。
チャックはネットにぶつかって倒れこんだ。俺はとっくに立ち上がっていたが、有効な攻撃ができずにいた。ジェームズが手刀で上半身を狙う。腕を組んで防御するが、彼の腕にするりとかわされ、肋骨に手痛い一撃を食らわされた。そのまま連続で拳を叩きこまれ、後退していく。
チャックが復帰し、後ろからジェームズに体当たりするが、闘牛使いのごとくかわされる。彼は俺の上に倒れ込んできた。うめきながら彼を押しのけ、ジェームズに掴みかかった。体をひねらせ、彼を背負い投げる。しかし、ジェームズは上手いこと受け身をとった。今度はよろけた俺の足を取って浮かせ、全身を地面に叩きづける。
チャックが連続で拳を振るう。俺はその間に体勢を立て直し、加勢しようとしたが、ジェームズの派手な回し蹴りで、二人とも吹っ飛ばされた。
〈だめだ、この男は強すぎる──俺たちだって並の不良より遥かに強いはずなのに──〉
「息を合わせていくぞ……」
横たわりながら、チャックが囁いてきた──そうだな。二人なら不可能なんてない。心の中のロウソクが、何時ぶりかメラメラと燃え盛る。
「ああ、一緒にいくぞ!」
起き上がり、二人顔を見合わせ、見下すような表情のジェームズに怒涛の攻撃をしかける。交互にはたき、掴み、殴る。蹴る、叩く──ジェームズに反撃の隙を与えず、打撃を入れ込んでいく。
「うおぉぉぉッ──!」
二人して雄たけびを上げ、拳を重ねてジェームズの顔面にめり込ませた。彼は一言も発さず、地面に崩れ落ちた。
「まだやるか、うん?」
勢いづいた俺はジェームズを見下ろした。
「……いいや」
ジェームズはすっくと立ち上がった。
「もう、帰っていいぞ」
そう言って、彼は部屋から出ていった。
まだ朝だった。僕は中途半端に明るくなった路地を駆け、黒ずんだ三階建てのアパートにたどり着いた。不安と喜びが入り混じっていて、何とも言いがたい心情だ。錆びた階段を駆けると、ドン、ドドン、ドン、と一定の間隔で鈍い音が聞こえてきた。
いや、階段とその音は無関係だった。建物の中から聞こえる──うちの部屋だ!
全速力で階段を抜け、自宅のドアを叩きまくった。それにつれて、中から聞こえる音も強くなっていた。
首に下げた小さなカバンに手を突っ込み、しばらくまさぐった末、鍵を取り出した。ドアの穴に差し込み、カチャリという音と共に僕は部屋へ飛び込んだ。
──なんて惨劇だ! 部屋の家具は倒れ、窓は派手に割れて散っている。電灯も粉々だ。僕は息をのんでもう一つの部屋──弟の部屋に入った。
弟は、いない。代わりにいたのは、鎖で縛られ、もがいている兄のジェイク──
〈どういう、ことなんだ──!〉
まさか弟が、誘拐された?
「う、う、嘘だぁぁッッ──!」
自身の叫び声が、辺りにこだまする。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます! 第三編「科学施設の陰謀」完結です! タイトルの割に科学施設のくだりなかったですよね……この先も乞うご期待! いいね・お気に入り登録、お願いします!
それに、俺は毒ガスで死にかけた。幸い後遺症はなかったが、思いだしただけで嘔吐しそうだ。研究所が潰れてしまうとしたら、これが一番の原因になるはずだ。
「さっさと家に帰りたい」
チャックが軽く伸びをし、ジェームズをにらんだ。
「分かっているだろう? まだ勤務時間だ。本当に子供じみているぞ」
ジェームズは笑みを浮かべて俯いた。
「と言っても今日は、急ぎの仕事がない。つまり──」
「訓練かよ」
俺がそう呟くと、ジェームズは満足げに頷き、細い人差し指をこちらに向けた。
「その通りだ。前回はあまりに差がつきすぎたからな、今日は二人まとめて相手してやるぞ」
とたんに俺は安堵し、ニヤリとした。
「それは傲慢にも程があるんじゃないか?」
「そいつは、どうだろうな。さあ来い、実力を見せつけるときだぞ」
二番目の鉄製ドアをくぐって、相変わらず異質に見えるジムに入った。部屋を両断するネットを全員でくぐり、靴を脱いだ。
「いつでもいいぞ」
ジェームズは相変わらず傲岸不遜な顔をして、両腕を広げ、挑発する。俺は素早く飛び掛かった。案の定避けられるが、体が倒れる寸前で回し蹴りを入れた。いくらかダメージが入ったらしく、ジェームズは膝をついた。すかさず、チャックが殴りにいく。
一発、二発──チャックは次々と打撃を与えるが、ジェームズは怯まない。大ダメージを与えようとしたのか、思い切り振りかぶったチャックに、ジェームズは拳を突き出す。
チャックはネットにぶつかって倒れこんだ。俺はとっくに立ち上がっていたが、有効な攻撃ができずにいた。ジェームズが手刀で上半身を狙う。腕を組んで防御するが、彼の腕にするりとかわされ、肋骨に手痛い一撃を食らわされた。そのまま連続で拳を叩きこまれ、後退していく。
チャックが復帰し、後ろからジェームズに体当たりするが、闘牛使いのごとくかわされる。彼は俺の上に倒れ込んできた。うめきながら彼を押しのけ、ジェームズに掴みかかった。体をひねらせ、彼を背負い投げる。しかし、ジェームズは上手いこと受け身をとった。今度はよろけた俺の足を取って浮かせ、全身を地面に叩きづける。
チャックが連続で拳を振るう。俺はその間に体勢を立て直し、加勢しようとしたが、ジェームズの派手な回し蹴りで、二人とも吹っ飛ばされた。
〈だめだ、この男は強すぎる──俺たちだって並の不良より遥かに強いはずなのに──〉
「息を合わせていくぞ……」
横たわりながら、チャックが囁いてきた──そうだな。二人なら不可能なんてない。心の中のロウソクが、何時ぶりかメラメラと燃え盛る。
「ああ、一緒にいくぞ!」
起き上がり、二人顔を見合わせ、見下すような表情のジェームズに怒涛の攻撃をしかける。交互にはたき、掴み、殴る。蹴る、叩く──ジェームズに反撃の隙を与えず、打撃を入れ込んでいく。
「うおぉぉぉッ──!」
二人して雄たけびを上げ、拳を重ねてジェームズの顔面にめり込ませた。彼は一言も発さず、地面に崩れ落ちた。
「まだやるか、うん?」
勢いづいた俺はジェームズを見下ろした。
「……いいや」
ジェームズはすっくと立ち上がった。
「もう、帰っていいぞ」
そう言って、彼は部屋から出ていった。
まだ朝だった。僕は中途半端に明るくなった路地を駆け、黒ずんだ三階建てのアパートにたどり着いた。不安と喜びが入り混じっていて、何とも言いがたい心情だ。錆びた階段を駆けると、ドン、ドドン、ドン、と一定の間隔で鈍い音が聞こえてきた。
いや、階段とその音は無関係だった。建物の中から聞こえる──うちの部屋だ!
全速力で階段を抜け、自宅のドアを叩きまくった。それにつれて、中から聞こえる音も強くなっていた。
首に下げた小さなカバンに手を突っ込み、しばらくまさぐった末、鍵を取り出した。ドアの穴に差し込み、カチャリという音と共に僕は部屋へ飛び込んだ。
──なんて惨劇だ! 部屋の家具は倒れ、窓は派手に割れて散っている。電灯も粉々だ。僕は息をのんでもう一つの部屋──弟の部屋に入った。
弟は、いない。代わりにいたのは、鎖で縛られ、もがいている兄のジェイク──
〈どういう、ことなんだ──!〉
まさか弟が、誘拐された?
「う、う、嘘だぁぁッッ──!」
自身の叫び声が、辺りにこだまする。
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます! 第三編「科学施設の陰謀」完結です! タイトルの割に科学施設のくだりなかったですよね……この先も乞うご期待! いいね・お気に入り登録、お願いします!
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