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「―――――っ、はあはあはあ……っ」
イオとアミッツがこの場から消失して、魔力圧も同時に消えたことで周囲を包んでいた緊張が一気に解きほぐされた。
アミッツは自分がいつの間にか、全身が冷たい汗に塗れていることに気づく。
「お、お二人とも……大丈夫ですか?」
「「は、はい……」」
まだ〝Dランク〟の彼女たちが、あのような膨大な魔力量をその身に受けたのだから当然疲弊してしまうだろう。もしあの魔力量に殺気が込められていたのなら、もっと酷いプレッシャーを受けていたはずだろうが。
「あ、あの……あの二人は一体どこへ?」
「というか、いきなり消えるって……」
二人が困惑するのも無理はない。何故なら……。
「今のは《空間移動呪文》……ですわ」
「じ、《空間移動呪文》って、《古代呪文》の一つじゃないですか!? 見たの初めてですよ!?」
そう、彼女たちが言うようにその呪文はおいそれと使える代物ではない。魔法の才のないものが手にできる呪文では決してないのだ。
(それをあの人は、苦も無く使用していましたね。それに何といってもあの魔力量……いえ、量よりもあの濃厚な質。どれだけ鍛えればあのような質になるのか……!)
明らかに今現在一線で活躍している勇者たちと遜色ないほどのものだった。
(そういえば、まったく気配も感じられませんでしたね)
このドーム状に入ってから、一応周りを警戒していたのだ。そして誰もいないと判断していたはずなのに……。
(なるほど。魔族との戦闘経験があると仰ってましたが、本当なのかもしれませんね)
恐らく魔力だけでなく、その身に秘めている強さも半端ではないだろう。今の自分ではとてもではないが勝てる相手ではない、と想像させるほどに。
人をからかい、飄々とした態度に誤魔化されてはいけないが、彼は間違いなく強者。
それも――。
(……勇者)
それが真実かどうか、裏を取ってみないと分からないが、あれほどの強さを秘めているのならば、それも不思議ではない。
しかしそんな彼がどうして才能の欠片も感じさせないアミッツを指導しているのか。
「……確か、あの黒髪の方はキャロディルーナさんの家庭教師と仰っていましたわよね?」
「あ、はい。私も聞きました」
「私もです」
これで聞き間違いではないことが確実になった。
「でもあの男の人、キャロディルーナさんに魔力の才能があるとか言ってましたけど、本当なんですかね」
「少なくても私は間違いだと思います、だってあるなら、《下級呪文》に躓くわけないですから」
彼女たちの言う通りだ。魔力の才があるのであれば、魔法だって自然と扱えるようになるはず。
しかし彼女が魔法を使う時にも観察したことがあるが、本当に微細な魔力量しか感じ取ることができなかった。あれではたとえ鍛え上げたとしても、《下級呪文》ですら使える数は限定されるはず。それほどまでに量が少ないのだ。
しかしあの強者は、アミッツに魔力の才があると豪語した。その才を見抜けないのは、アレリアが、彼女の表面しか見ていないからだ、と。
イグニースという優秀な家系に生まれて、洞察力や分析力も鍛えてきた。だからこそ、アミッツを正確に分析し、彼女に相応しい道を指し示そうと思ったのだ。
彼女の頑張りは素直に敬服するが、それが結果に伴っていないことに彼女は気づいていない。いや、気づいていて意固地になっている節があった。
それでは彼女の貴重な人生の時間がムダになってしまう。幸い彼女には勉学の才はある。だから学者や医者、もしくは研究者などになれば、その際は優位に発揮できると思ったのだ。
だからそう忠告するために、少々強引な手を打ってしまった。それもこれも彼女のためだと思ったからである。
「アミッツ・キャロディルーナ……」
「はい? 何か言いましたか、アレリア様?」
「いいえ。何でもありませんわ。さあ、帰りましょうか」
「「はい!」」
今起こった異常な事態もすぐに忘れたように、二人は笑いながら先へと歩いて行く。
アレリアは、最後にイオが言い残した言葉を思い出す。
『んじゃ、次の試験を楽しみにしてるこったな。ぜってー、驚くからよ』
彼ほどの人材がそこまで言うのならば……。
「では確かめさせてもらいましょう、約二カ月半後の〝勇者認定試験〟で――」
若干の期待を込めて、アレリアはドーム場を後にした。
イオとアミッツがこの場から消失して、魔力圧も同時に消えたことで周囲を包んでいた緊張が一気に解きほぐされた。
アミッツは自分がいつの間にか、全身が冷たい汗に塗れていることに気づく。
「お、お二人とも……大丈夫ですか?」
「「は、はい……」」
まだ〝Dランク〟の彼女たちが、あのような膨大な魔力量をその身に受けたのだから当然疲弊してしまうだろう。もしあの魔力量に殺気が込められていたのなら、もっと酷いプレッシャーを受けていたはずだろうが。
「あ、あの……あの二人は一体どこへ?」
「というか、いきなり消えるって……」
二人が困惑するのも無理はない。何故なら……。
「今のは《空間移動呪文》……ですわ」
「じ、《空間移動呪文》って、《古代呪文》の一つじゃないですか!? 見たの初めてですよ!?」
そう、彼女たちが言うようにその呪文はおいそれと使える代物ではない。魔法の才のないものが手にできる呪文では決してないのだ。
(それをあの人は、苦も無く使用していましたね。それに何といってもあの魔力量……いえ、量よりもあの濃厚な質。どれだけ鍛えればあのような質になるのか……!)
明らかに今現在一線で活躍している勇者たちと遜色ないほどのものだった。
(そういえば、まったく気配も感じられませんでしたね)
このドーム状に入ってから、一応周りを警戒していたのだ。そして誰もいないと判断していたはずなのに……。
(なるほど。魔族との戦闘経験があると仰ってましたが、本当なのかもしれませんね)
恐らく魔力だけでなく、その身に秘めている強さも半端ではないだろう。今の自分ではとてもではないが勝てる相手ではない、と想像させるほどに。
人をからかい、飄々とした態度に誤魔化されてはいけないが、彼は間違いなく強者。
それも――。
(……勇者)
それが真実かどうか、裏を取ってみないと分からないが、あれほどの強さを秘めているのならば、それも不思議ではない。
しかしそんな彼がどうして才能の欠片も感じさせないアミッツを指導しているのか。
「……確か、あの黒髪の方はキャロディルーナさんの家庭教師と仰っていましたわよね?」
「あ、はい。私も聞きました」
「私もです」
これで聞き間違いではないことが確実になった。
「でもあの男の人、キャロディルーナさんに魔力の才能があるとか言ってましたけど、本当なんですかね」
「少なくても私は間違いだと思います、だってあるなら、《下級呪文》に躓くわけないですから」
彼女たちの言う通りだ。魔力の才があるのであれば、魔法だって自然と扱えるようになるはず。
しかし彼女が魔法を使う時にも観察したことがあるが、本当に微細な魔力量しか感じ取ることができなかった。あれではたとえ鍛え上げたとしても、《下級呪文》ですら使える数は限定されるはず。それほどまでに量が少ないのだ。
しかしあの強者は、アミッツに魔力の才があると豪語した。その才を見抜けないのは、アレリアが、彼女の表面しか見ていないからだ、と。
イグニースという優秀な家系に生まれて、洞察力や分析力も鍛えてきた。だからこそ、アミッツを正確に分析し、彼女に相応しい道を指し示そうと思ったのだ。
彼女の頑張りは素直に敬服するが、それが結果に伴っていないことに彼女は気づいていない。いや、気づいていて意固地になっている節があった。
それでは彼女の貴重な人生の時間がムダになってしまう。幸い彼女には勉学の才はある。だから学者や医者、もしくは研究者などになれば、その際は優位に発揮できると思ったのだ。
だからそう忠告するために、少々強引な手を打ってしまった。それもこれも彼女のためだと思ったからである。
「アミッツ・キャロディルーナ……」
「はい? 何か言いましたか、アレリア様?」
「いいえ。何でもありませんわ。さあ、帰りましょうか」
「「はい!」」
今起こった異常な事態もすぐに忘れたように、二人は笑いながら先へと歩いて行く。
アレリアは、最後にイオが言い残した言葉を思い出す。
『んじゃ、次の試験を楽しみにしてるこったな。ぜってー、驚くからよ』
彼ほどの人材がそこまで言うのならば……。
「では確かめさせてもらいましょう、約二カ月半後の〝勇者認定試験〟で――」
若干の期待を込めて、アレリアはドーム場を後にした。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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