落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

文字の大きさ
19 / 50

17

しおりを挟む
「―――――っ、はあはあはあ……っ」

 イオとアミッツがこの場から消失して、魔力圧も同時に消えたことで周囲を包んでいた緊張が一気に解きほぐされた。
 アミッツは自分がいつの間にか、全身が冷たい汗に塗れていることに気づく。

「お、お二人とも……大丈夫ですか?」
「「は、はい……」」

 まだ〝Dランク〟の彼女たちが、あのような膨大な魔力量をその身に受けたのだから当然疲弊してしまうだろう。もしあの魔力量に殺気が込められていたのなら、もっと酷いプレッシャーを受けていたはずだろうが。

「あ、あの……あの二人は一体どこへ?」
「というか、いきなり消えるって……」

 二人が困惑するのも無理はない。何故なら……。

「今のは《空間移動呪文》……ですわ」
「じ、《空間移動呪文》って、《古代呪文》の一つじゃないですか!? 見たの初めてですよ!?」

 そう、彼女たちが言うようにその呪文はおいそれと使える代物ではない。魔法の才のないものが手にできる呪文では決してないのだ。

(それをあの人は、苦も無く使用していましたね。それに何といってもあの魔力量……いえ、量よりもあの濃厚な質。どれだけ鍛えればあのような質になるのか……!)

 明らかに今現在一線で活躍している勇者たちと遜色ないほどのものだった。

(そういえば、まったく気配も感じられませんでしたね)

 このドーム状に入ってから、一応周りを警戒していたのだ。そして誰もいないと判断していたはずなのに……。

(なるほど。魔族との戦闘経験があると仰ってましたが、本当なのかもしれませんね)

 恐らく魔力だけでなく、その身に秘めている強さも半端ではないだろう。今の自分ではとてもではないが勝てる相手ではない、と想像させるほどに。
 人をからかい、飄々とした態度に誤魔化されてはいけないが、彼は間違いなく強者。
それも――。

(……勇者)

 それが真実かどうか、裏を取ってみないと分からないが、あれほどの強さを秘めているのならば、それも不思議ではない。
 しかしそんな彼がどうして才能の欠片も感じさせないアミッツを指導しているのか。

「……確か、あの黒髪の方はキャロディルーナさんの家庭教師と仰っていましたわよね?」
「あ、はい。私も聞きました」
「私もです」

 これで聞き間違いではないことが確実になった。

「でもあの男の人、キャロディルーナさんに魔力の才能があるとか言ってましたけど、本当なんですかね」
「少なくても私は間違いだと思います、だってあるなら、《下級呪文》に躓くわけないですから」

 彼女たちの言う通りだ。魔力の才があるのであれば、魔法だって自然と扱えるようになるはず。
 しかし彼女が魔法を使う時にも観察したことがあるが、本当に微細な魔力量しか感じ取ることができなかった。あれではたとえ鍛え上げたとしても、《下級呪文》ですら使える数は限定されるはず。それほどまでに量が少ないのだ。

 しかしあの強者は、アミッツに魔力の才があると豪語した。その才を見抜けないのは、アレリアが、彼女の表面しか見ていないからだ、と。
 イグニースという優秀な家系に生まれて、洞察力や分析力も鍛えてきた。だからこそ、アミッツを正確に分析し、彼女に相応しい道を指し示そうと思ったのだ。

 彼女の頑張りは素直に敬服するが、それが結果に伴っていないことに彼女は気づいていない。いや、気づいていて意固地になっている節があった。
 それでは彼女の貴重な人生の時間がムダになってしまう。幸い彼女には勉学の才はある。だから学者や医者、もしくは研究者などになれば、その際は優位に発揮できると思ったのだ。

 だからそう忠告するために、少々強引な手を打ってしまった。それもこれも彼女のためだと思ったからである。

「アミッツ・キャロディルーナ……」
「はい? 何か言いましたか、アレリア様?」
「いいえ。何でもありませんわ。さあ、帰りましょうか」
「「はい!」」

 今起こった異常な事態もすぐに忘れたように、二人は笑いながら先へと歩いて行く。
 アレリアは、最後にイオが言い残した言葉を思い出す。

『んじゃ、次の試験を楽しみにしてるこったな。ぜってー、驚くからよ』

 彼ほどの人材がそこまで言うのならば……。

「では確かめさせてもらいましょう、約二カ月半後の〝勇者認定試験〟で――」

 若干の期待を込めて、アレリアはドーム場を後にした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...