落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

文字の大きさ
21 / 50

19

しおりを挟む
 ――北地区・《キャロディルーナ孤児院》。

 地区の中でもまるで端に追いやられるようにしてひっそりと佇む教会。そこを孤児院として活用しているのだ。
 レンガ調の壁に囲まれており、その中央に年季を感じさせる教会の建物があり、そこがアミッツのが育った家である。

 小さな礼拝堂もあり、朝と夜は必ずそこに足を運んで祈りを捧げるのだ。
 孤児院の経営者であるマザーを筆頭に、子供たちが全部で十一人もいる。小さな保育園のような場所だ。

「――ただいまー」

 イオと一緒に帰って来たアミッツがそう口にする。
 同時に教会の周りで遊んでいた子供たちが一斉にイオたちに注目した。

「「「「アミねえちゃ~んっ!」」」」

 子供たちが一目散にアミッツに向かって駆け出す。アミッツも膝を折って、子供たちを迎え入れる。
 一人一人、子供たちの「おかえり」という言葉に対し、「ただいま」を返していく。
 そこへ外の騒ぎを聞きつけたのか、教会の扉が開き、そこから数人の子供と一人のシスターが姿を見せる。

「おやおや、帰って来てたんだね、アミッツ……ん?」

 シスターの視線がイオへと向き目を見開く。

「よぉ、マザー」
「……ま、まさかイオかい? イオ・カミツキ?」
「元気そうで何よりだな、マザー」
「まったく、来るんなら事前に連絡くらい入れな。何も用意してないよ!」
「別にいいって。たかりに来たわけじゃねえんだし」

 マザーは昔と同じシスター服姿で現れた。ただイオが学院に通っていた時と比べると、少しやつれているようにも見える。
 ここ数年、子供たちのために頑張ってきたのだろう。

「……? けど何でアンタがここにいるんだい? しかもアミッツと一緒に帰ってきたみたいだけど」
「あ、それはねマザー」

 どうやらアミッツはまだ家庭教師を雇ったことを話していなかったようだ。
 それからしばらくアミッツの説明に、その場の全員が耳を傾けていた。

「――――なるほど。あの悪ガキだったアンタが、まさか立派な勇者になって、その上アミッツの家庭教師をするとは。時代は流れてるってことだ」

 歳の頃は六十代近いマザー。それでも昔からこの柔和な笑みだけは、イオも好きだった。何だか安心させてくれる温かさを感じるからだ。 
 しわが目立ってきた顔立ちだが、まだまだグレーの瞳に宿る光は力強く、見ているだけで生きる力を貰えるかのよう。

「ねえねえ、アミねえちゃん。けてーきょーしってなに?」
「家庭教師ね、家庭教師。簡単に言ったら、ここでいろんなことを教えてくれる先生だよ」

 子供の純粋な問いにしっかりと答えるアミッツ。その姿が何とも微笑ましい。子供たちも「そっかぁ! すっごいな、けてーきょーし!」と微妙な発音で繰り返している。
 ここにいる子供たちはまだ四、五歳の子が多い。最年長が十四歳のアミッツで、次が十歳と四つも離れている。

「とにかく、あの悪ガキが帰ってきたんだ。今日は歓迎さね」
「いいってマザー。オレはただの家庭教師なんだしよぉ」
「反論は許さないよ。さあ、お前たち夕食の準備に取り掛かるよ!」
「「「「は~い!」」」」

 マザーの言葉に素直に子供たちも従う。

「はぁ、相変わらず強引なシスターだな。あれじゃ神もビックリだろうぜ」
「あはは、それ言えてる。何か逆に神様とかに説教とかしちゃいそうだし」

 アミッツも同様の意見のようだ。

「ほれ、何してんだい! アミッツも手伝いな!」
「あ、はーい! 先生、修業は夕食の後でいいですか?」
「おう。オレもご馳走になれるみてえだしな。何か手伝えることがあったらやるぞ?」
「ううん、いいって。先生の歓迎みたいだし、あ、でもそうだなぁ。せっかくだから、この子たちと遊んでやってくれる?」

 そう言って、アミッツが自分の後ろで興味深そうな視線をイオにぶつけていた二人の子供を見せてくる。

「ほ~ら、リリ、ロロ、遊んでもらったらどう?」

 背中を押されてイオの前に出てくる二人の子供。二人とも五歳くらいだ。しかも顔立ちも青色の髪型以外似通っていた。

「「…………遊んで……くれる?」」

 さらにハモってくる。

「もしかして双子……か?」
「うん。こっちのポニーテールの子はリリで、ツインテールの子はロロだよ」

 ジ~ッと上目遣いで見つめてくる双子らしき者たちをイオは見つめながら、

「……よし、ならオレがとっておきの遊びを教えてやろう」

 と言うと、双子の顔が同時に綻びコクコクと素早く頷く。
 それを見届けるとアミッツは教会の中へと入って行った。
 残されたイオは、とりあえず膝を折って同じ目線を保つ。

「いいかお前ら――――――――〝だるまさんがころんだ〟って知ってるか?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...